Mon deuxième voyage à l’Allemagne

PART 4 カールスルーエ ―「国境」の向こうは鉄ちゃんの聖地―

PART 3 にもどる

 

平成22222日の2ならびの月曜日だけど、ここアルザスで平成は通じないでしょうね。当然報道もないからそういう日であることにも思いいたらず、パリに戻ってから「2ならびの日に入籍しました」という教え子のメールを開いて初めて気づいた!(いるま君おめでとう)

 ホテル 3 Rosesの朝ごはん
 

 

朝食(petit-déjeuner)は別建て€7.80720分ころ0階のレセプション横にある朝食コーナーにおもむくと、無人ながらビュッフェ式の料理がすでにセットされていました。こういうスタイルにはもう慣れました。パリの常宿はパンとコーヒーだけのコンチネンタルで、それでも€8と高いのですが(カフェで食べてもそんなもの)、ここのはハムやソーセージのたぐいこそ見当たらないものの、シリアルやボイルドエッグやフルーツポンチもついていました。フランスの朝食ではたいていついてくるPrésidentというバターが、酸味があってまた美味い。

早起きしたのには訳があります。この日は中央駅1049分発の列車で出発する予定だけど、その前にストラスブール市街の北東部にある欧州地区を見学してこようというプラン。早々にチェックアウトして荷物をレセプションに預け、昨日も利用した近くのガリア電停からトラムE系統に乗ります。今度は往復することがわかっているので€2.70のチケットを買い、刻印。月曜の朝ですから通勤客でけっこう込んでいます。こんなに人がいたのねと思うほど、道路にも男女がたくさんいました。トラムの電車は、共和国広場(Place de la République)をぐるりと回って進路を変え、郊外に向かって進みます。20分ほどで終点のロベルツォ・ボックラン(Robertsau-Boecklin)に着きました。いわゆる下り線なのに、通勤客らしき乗客がかなり乗っていたのにはびっくりします。終点は、都市郊外というよりも宅地化された農村といった風情ののどかな一隅。

 
トラムE系統の終点

 

終点の2つ手前の駅が欧州議会Parlement Européen)、1つ手前が人権Droits de l’Homme)で、何ともすごい駅名です。欧州議会は、欧州連合EU: European Union / Union européenne)の立法機関の一部をなすもので、加盟各国の国民が自国の議会とは無関係に直接投票で議員を選びます。議会内では国別でなく思想・政治傾向ごとに政党のようなものがつくられており、たとえば英国の労働党、フランスの社会党、ドイツの社会民主党といった中道左派の政党は欧州議会で社会民主進歩同盟(Progressive Alliance of Socialists and Democrats / Alliance progressiste des socialistes et démocrates / Progressive Allianz der Sozialisten und Demokraten)というグループを組んで活動します。立法機関の一部といったのは、この欧州議会がさしずめ下院に相当し、上院にあたる理事会(英語のCouncil、フランス語のConseilですが中立さを出すためかConsiliumとラテン語で呼ぶことになっている)が別にあるからです。私がEUに関心をもって調べはじめたころは、加盟各国の関係閣僚(教育政策なら教育相、農業政策なら農相)が集まって協議する理事会こそが立法機関で、欧州議会は賛助機関だというようなニュアンスでしたが、直接選挙による民意の反映というのはやはり重く、いまは世界最大の民主的議会とまで呼ばれるようになりました。こうなってくると、加盟各国の国益(というか政府益)というのは直接の民意によって薄められることが考えられ、近代の世界秩序では絶対視されていた国民国家の国家主権という概念すら相対化されえます。

他方、人権という強烈な駅名は、ここに欧州人権裁判所European Court of Human Rights / Cour européenne des droits de l’homme)があるため。人権擁護に関するかぎりにおいては加盟各国の終審裁判所の憲法判断すら覆せる強制力を有しているスーパー裁判所で、ふつう国際法といえば個人(国民)でなく国家が当事者になるのだけれど、ここでは個人も当事者になれます。これもまた、国家主権の根幹にかかわる設定といえますね。ところで、日本語では「人権」と漢字2字で表現するため、ジンケンなるものが何やら独特の響きとニュアンスをもつようですが、分解するなら人間の権利ということ。音読みことばというのは、その本質から遊離しがちなので注意が必要ですね。フランス語のdroits de l’hommeは「人間の諸権利」で、こちらのほうにリアリティを感じるのは私だけ? 人権宣言という漢字4字の語も、原語はLa Déclaration des droits de l’homme et du citoyen(人と市民の諸権利の宣言)とかなり長めなのよ。

  欧州人権裁判所と「人権」駅

 こちら欧州議会

 

欧州連合において、ある意味では最も重要と考えられる欧州議会がなぜストラスブールに設置されているのか、もうおわかりでしょうか。欧州連合のルーツは欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)と欧州原子力共同体(EURATOM)にあり、重要資源の共同管理を通じて、もう国益による殺し合いはしたくないという西欧の人たちの思いを実現しようとしたわけですが、国益による殺し合いというのは何といってもフランスとドイツの対立に象徴されていたのですから、かつての係争地であるアルザスにこそ、その理想の場がふさわしいということになったのです。

付近は田園地帯のようなので、勘ぐれば、もとは都市郊外にもなっていなかったような地区に欧州諸機関を誘致したのではないかと思う。環境にも人にも優しいトラムは、博覧会のパビリオンみたいな欧州諸機関の建物にもよく映えます。昨日から気づいていたのですが、車内アナウンスが妙に凝っていて、きれいな、あるいは不思議なメロディをイントロに流すとか、調子のよさげなフレーズを叫ぶとかいろいろで、中には日本語で「つぎのえきは・・・」というのもあった。

 
ストラスブール中央駅 オッフェンブルクゆきの列車は、何とも貧相な構内外れのホームに・・・

 

朝の散歩ならぬトラム試乗は上々で、思い残すことなくストラスブールを引き揚げることができます。ホテルで荷物を引き取り、ノートルダム寺院あたりや旧市街を歩いて、昨日はことごとく閉まっていたお店が今日はちゃんと開いている(当たり前だ)のを確認しながら、駅へ。途中でかったるくなってトラムに乗ると、中央駅Gare Centrale)は地下にありました。路面電車が地下にもぐるというのは日本では聞かないが、西欧ではよくあり、LRTの中にはほぼ地下を走るのもあります。ベルギーのプレメトロがそうです。わが都電荒川線も、学習院下あたりから線路を曲げて高田馬場駅に地下で乗り入れればどんなにか便利になるのにね。

1049分発のオッフェンブルクOffenburg)ゆき87423列車は25番線とのことで、指示された方向に歩けば、駅全体を覆っている大屋根を外れ、鉄道職員の作業場みたいなタタキに出てしまいました。地方民鉄の途中駅みたいな貧相なホームに、なるほどオッフェンブルクゆき4両編成が停まっている。仏独国境をまたぐ「国際列車」が、あらゆる列車の中で最もちゃちな扱いを受けているわけですか。わはは。車体にはOretenau-S-Bahnとドイツ語の表記があるので、これはドイツ側の郊外列車なんですね。インテリアは、これまで西欧のあちこちで乗った郊外列車のそれとほとんど同じで、けっこう座り心地のよいクロスシートが配置されています。走り出してからの感じで、電車ではなく気動車(ディーゼルカー)だと気づきました。

 あらためて「ドイツ」に行こうかね

 

列車はストラスブールの市街地をぐるりと回る感じでゆっくり進む。ドイツの鉄道は右側通行、英国やフランスは日本と同じで左側通行ですが、アルザスに関しては歴史的な行きがかりから現在でもドイツ式になっています。きのう歩いたプチ・ラン付近まで順調でしたが、ライン川の手前あたりで停止し、そのまま5分くらい動かなくなりました。やがて反対側(左側)を列車が通過していきます。なるほど、ライン川を渡る鉄橋が単線になっていて、ここは信号場だったのか。またゆっくりと走り出し、いよいよライン川の鉄橋にさしかかりました。橋は欧州橋のすぐ下流側に架かっています。バスで渡り、徒歩で戻った欧州橋を見ながら、いま鉄道で3度目の渡河をしています。「国境」の様子を動画で見たい人はこちらをどうぞ。橋を渡り終えてすぐ、前日ホームに上がって観察したばかりのケール駅に停まります。その先のドイツ領内は、背丈の高い草が目立つ田園がつづきます。途中の小さな駅でポリスが2人乗ってきました。私がいたボックス席のすぐ後ろに座っていた20代くらいのあんちゃんが何やら厳しい調子のフランス語で尋問?されていました。公安検査かな?

 オッフェンブルク駅には中国企業のCM

 

1122分にオッフェンブルク着。この地名には記憶がなく、帰国後にネットで調べてみても「アルザス方面への乗換駅」くらいの情報しか出ていません。ホーム24線の、ちょっとした地方都市の駅という感じでした。いま一緒に降りた人たちはほとんど私と同じで、定刻1130分にオッフェンブルクを発車するICE276列車にホーム乗り換えのようです。西欧の鉄道は遅延が頻繁なせいか、ここまで見事な接続というのはあまり見ないですね。ICEInter City Expressとなぜか英語ですが、略称はイーツェーエー)はドイツ鉄道DBが誇る新幹線型高速鉄道で、ことごとくパリから放射状に路線網を伸ばしているフランスのTGVとは違って、主要都市間をちょいちょい虫食い式に高速規格の新線で結び、一部は在来線を改良して、とにかくもドイツ全土にネットワークを広げています。地方分権の国らしい広がりといえます。ドイツは第二次大戦後に東西国家に分裂しましたので、主要鉄道路線はどうしても南北方向に偏りがちで、高速新線にもその傾向がみられます。いま乗り込もうとしている276便は、スイスのバーゼル(Basel SBB)を1012分に出て、遠路はるばるベルリン東駅(Berlin Ostbahnhof)に1736分着という長距離便で、やはり3つか4つの高速新線をたどっていきます。でも、所要7時間といえば、のぞみが登場する前の新幹線で東京〜博多くらいだし、それでドイツを縦断(横断?)できるなら一度くらい乗ってみてもいいかな。

 
 オッフェンブルク駅でICEに乗車

 

アイボリーホワイトにオレンジ色の車体のICEが入線してきました。同じ流線型でも、TGVの先頭が三角形状にとんがっているのに対して、こちらは丸みを帯びた正方形といった感じで、愛嬌があります。ただ、顔も側面も窓ガラスもいくら何でも汚れすぎで、いい男が台無しよ!

ホームから車内をのぞき込めばすでにかなりの席が埋まっています。ドイツの鉄道では、指定席車と自由席車が分かれておらず、座席の上部に予約区間を表示してある席以外は自由に座れると聞いていましたが、これはダメっぽいぞ。どうにか乗り込んでも、デッキにまで立ち客がいます。たまたま乗り込んだ車両から隣に移ろうとしたら、そこは半分がレストラン、半分がバー(飲み物コーナー)といういわゆる食堂車。めざすカールスルーエまでは30分足らずの乗車だもの、ここで過ごしちゃってもいいやね。同じような発想の人たちが、何らかの飲み物を1つ頼んで居座っている様子でした。ソファは埋まっていたけど、立ち席の丸テーブルに1人ぶんくらいの隙間があったので、2人連れのビジネスマンらしき先客にあいさつして、おじゃま。ビールを頼んだらブレーメンのBECK’Sが来ました。€2.40と安く、これは20時までのハッピーアワー価格らしい。食堂車にまでハッピーアワーが設定されているとは。昨年、イタリア・フランス国境の町ヴェンティミリアで地中海を愛でながら飲んだやつですな。

 

 

実はここオッフェンブルクからしばらくが高速新線です。田園だったり、林の中を走ったり、川が見えたりと、このあたりの車窓はなかなか楽しい。昼が近づいたせいかバー車にも次々に人が入ってきて、先客と譲り合います。居合わせただけでたぶん知り合いではないだろうな、と思える人同士で、けっこう会話しています。60歳くらいの上品なマダムと、まぶたにピアスをつけ腕にはタトゥーを彫ったやんちゃそうな兄ちゃんが、まともそうな話をしているんだものね(ドイツ語わからんけど、そんな雰囲気)。「その新聞読み終わったらいいですか」みたいなやりとりをする人もありました。聞けば往年の日本の列車もそんな感じだったそうですが、旅から出会いが失われて久しい。

  カールスルーエHbf

 

さあ着いたぞカールスルーエKarlsruhe)。中央駅(Hauptbahnhof: Hbf)に降り立ってみれば、かなりの規模だし、人も大勢いて活気がありました。ドイツは2度目(昨日のあれはカウントしないことにして)で不慣れな点も多かろうと思い、さすがにガイドブックをバッグに入れてきたのですが、その社のやつにはこの街の情報は記載されていません。事前情報がゼロに近くても、都市であるなら街歩きには自信があります。学生時代から20代にかけては、日本の地方都市をテキトーに回るのが好きでよくやっていました。それとほとんど要領は同じです。仕方ないじゃんといわれるのを承知で申せば、最近の素人旅行者は事前情報とか有名観光地にこだわりすぎよ。フランスでいうと、判で押したようにパリに泊まって日帰りでモン・サン・ミッシェルに足を伸ばすパターンの何と多いこと。片道4時間以上もバスに揺られて日帰りで行くのがすごいと思うけど、肝心のモン・サン・ミッシェルがすごかったという報告をあまり聞かないのはなぜ?

 トラムだ!

 

かまぼこ型のかなり高い天井が印象的なコンコースを抜けて駅前に出れば、そこにはDBと平行に3面のプラットフォームがあり、黄色い車体のトラムがどんどんやってきていました。思わずぞくぞくします。鉄道マニアが、思いがけずちんちん電車に出会って喜んでいるのではなく、まさにこのトラムこそ、カールスルーエをめざした唯一の理由なのです!

とはいえまずは宿の手配。駅前広場を横切ったところにツーリストインフォメーションの看板が見えました。こういうインフォメは、ところによっては、駅内または駅横のものは小規模であまり役に立たず、旧市街とか市内中心部の広場あたりに「本物」があります。前日のストラスブールがそうでしたよね。旅行者にとっては街の玄関である駅のほうを整備してもらいたいもの。カールスルーエも、もしかすると目抜きに大きなインフォメがあるのかもしれないが、駅前のやつがそれなりに機能していそうで安心しました。ガイドブックに記事がないので、街の基本構造すら事前に知らないのだから! デスクに座っていた50歳くらいの女性職員に、カールスルーエに初めて来ましたが今夜の宿を手配したいという旨を英語で伝えました。通常はここで、どの地区がよいか、料金の見込みは、設備はなどという希望を述べるのですけれども、彼女はそうした質問をする前に「ご旅行ならシティ・ホテルがよいと思います。1€65とお手ごろですし、市内の中心にあるので動きやすいですよ。シティ・ホテルはベストだと思いますよ」と、えらく確信的におっしゃいます。聞いてみると、シティ・ホテルというのは一般名詞でなく固有名詞らしい。日本ではビジネスホテルに対して上等なホテルをシティ・ホテルというんだけどね。彼女はカールスルーエの観光マップを広げ、ホテルの位置をマークして、「トラムの2番か6番に乗ってオイロパプラッツEuropaplatz 欧州広場)で降りてください。映画館などの入っているビルがそばにあり、そこにホテル専用のエレベータがすぐ見つかることでしょう」と。この調子だと、訪ねてくる観光客をことごとくシティ・ホテルとやらに送り込んでいるな?(笑) それにしても、このインフォメというか女性職員さんは非常に親切で、先ほどの地図をくれただけでなく、こちらが垂涎の品である折りたたみ式のトラム全線マップ、さらには市当局が刊行しているらしいカールスルーエの概要を示した立派なパンフレットまでくれました。「全部無料です。このパンフには英語もあるので大丈夫でしょう」とかね。インフォメでホテルを予約すると手数料をいくらか取るのが普通ですが、「いまなら絶対に空室がありますから、直接いらしたほうがいいですよ」とまでいうのです。というわけで、このインフォメには1ユーロの貢献もなし。ダンケシェーン。

この商業ビルの0階に、こんな入口があるのだ

 
    

 

駅前電停のホーム上に自動券売機がありました。少し難しくて地元のおじさんに要領を訊ねたりしたものの、無事にCitysolo 3 Wabenなる切符を€4.80で購入。券売機の英語表示で24 hours ticketと出たので、いわゆる一日乗車券のことですね。しかもすばらしいことに、有効期間は日付いっぱいではなく24時間(24 Stunden)で、カールスルーエを発つであろう明日の午前中まで使えるぞ! ドイツがらみの記事で、ちょいちょいドイツ語の原語表記を交ぜていますが、英語などと似た語感でもなければほとんどまったく意味はわからないし、格変化がどうのといわれてもさっぱりわからん。もっともらしい解説は、帰国後に独和辞典で調べて付しているものです(文系の人は英仏独の辞典くらい揃えておきなさい)。Wabenという語を引くと蜂の巣Wabe)と出て、これじゃないんじゃないのと思いましたが、例のトラム全線マップの解説を眺めると、カールスルーエを中心とした地図が六角形のゾーンの組み合わせ、つまり蜂の巣型に仕切られていて、大都市近郊にみられるような同心円型ではないユニークなゾーン制運賃であることがわかりました。3 Wabenというのはカールスルーエ市内に相当する3つのゾーンに乗れるということです。現地では、そこまで理解できなかったものの、路線図で色トーンをかけられている「市内」のみ有効だということはわかりました。無論それで十分。

オッフェンブルクに着いたあたりから雨が降っていて、傘がないとツラいです。もともと濡れても大丈夫な人だったのに、メガネをかけるようになってから雨に弱くなりました。トラム車内での切符のチェックはなく、自動券売機を車内にも据えつけてあるだけで、一種の信用システムです。走り出してみると、歩けるかなと思ったホテルまでの距離もかなりありました。6系統の電車は、やがて東西を走るカイザー通りKaiserstraße)に突き当たり、左折したところで停車。ここが欧州広場駅で、なるほど、かなりくたびれた商業ビルの0階にCITY HOTELのサインとエレベータの入り口がすぐ見つかりました。3階(日本式に数えれば4階)がレセプションで、反対側のドアが開きます。長身でハンサムな50歳くらいの男性がいて、「今夜の部屋をお願いしたいのですが」と英語で申し出ると、「はい、ございます。シングルルーム朝食つき1€65でいかがですか」とスマートな対応。ノースモーキングを指定して鍵を受け取ります。キーホルダーに2つの鍵がついていて、1つはさっきのエレベータの鍵。レセプションに預けずチェックアウトまで携帯するタイプ、22時を過ぎるとこれで開けるとのことで、西欧の都市では何度か経験しました。

 今宵のお部屋

 

部屋は簡素、というかかなり幅の狭い感じで、古いビルにどうにかホテルをつくってみたよというやつではないかね。あとで調べてみればシティ・ホテルというのはドイツ各地にあるフランチャイズのようですが、ドイツの事情には疎くてそういう知識はありませんでした。目抜きに面した市街地のど真ん中で朝食つき€65ならばこの程度で不満はありませんけど、安ホテルであることには違いなく、インフォメの女性がやたらに力説するほどのことかいなとも思う。

まだ13時前です。これから市内見学・・・じゃなくてトラムの乗り試しをするわけですが、その前に中心市街地で昼ごはんを食べておかないとね。ホテルのある欧州広場から東のカイザー通りは一般車両の進入が禁止されています。通れるのは、歩行者とトラムだけ。ストラスブールのところで少し触れたように、インナー・シティ問題への対策として交通政策を見直そうとする場合、マイカーと公共交通機関の棲み分けをどうするかというのが最も難しいところなのです。カールスルーエは、都市の規模がさほどでもないということもあるでしょうが、目抜きから一般車を締め出すという大胆な手に出ました。博品館のあたりから和光まで銀座通りに電車だけを走らせることを想像してください。距離感はだいたいそんなところです。平日の昼間だけれど商業地らしいにぎわいがあって活気を感じます。そこに、黄色い車体のトラムが1分おきくらいに行き交っています。トラムの路線は郊外へ放射状に延びていて、だいたいの系統はこのカイザー通りを経由するので、「こっちに来て買い物をしなさい」と強力に誘導されているようなもんですね。

 

市街の本当のど真ん中、マルクトプラッツMarktplatz)付近まで来ると、デパートや商業ビル、各種のブティック、飲食店などが軒を連ねていました。そういえば、電車に乗ることばかり考えて食べ物のことを忘れていたので、この街では何を食べたものかね。ふと見ると、NORDSEE(北海)という名のカフェテリアがありました。このあと訪ねたドイツの各都市に必ず出店していたので、全国チェーンの有名店なのでしょう。まあ軽食屋のたぐいですね。シーフード主体のチェーンらしく、ガラスケースの中には焼いたり揚げたりした魚介類と、付け合わせ各種が収まっている。白身魚のムニエルらしき一品と、付け合わせにミックスベジタブル、パンとコーラで€9.70。メインのムニエルは€5.95で、レシートにSeelachsとあったから後日調べればタラの一種だった模様です。メインの魚も付け合わせも、量はあるし味もかなり美味しく、これでこの価格ならフランスの昼飯よりもいいかもしれません。平日だからかシーフードゆえか、周囲は中高年ばかりだったけど、店の雰囲気は大学の学食みたいだったし。

 
 コーラ、というのがわれながらヒヨった感じではある

 

カールスルーエのトラムのすごいところは、前述した目抜きの独占だけではありません。何しろ、これぞLRTと、先進各国の自治体関係者ががこぞって注目したというカールスルーエ・モデルなのであります。毎号購読している『鉄道ジャーナル』でここのレポートを読んで(20039月号)、こりゃすごいと感嘆し、いま念願の初体験。というわけで、次のPART 5はひたすら鉄道マニアックな記事になりますので、興味のない方は直接PART 6へどうぞ(笑)。

 


PART 5 へつづく

 

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