Mon deuxième voyage à l’Allemagne

PART 6 カールスルーエ ―乗り物以外の街歩きも楽しい―

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トラムの欧州広場駅をはさんで当夜のホテルの向かい側に、クラシックな石造りふうの建物があります。ドイツ連邦郵便(Deutsche Bundespost)と額に書いてあり、たしかに郵便局らしい一隅もありますけど、郵便局にしては人の流れが活発。欧州広場駅も実はEuropaplatz / Post Galerieとサブ駅名がついた駅名なのでした。ポスト・ギャラリーとは? 入ってみると、こはいかに、これも大好物のショッピングセンター! ドイツの郵便は10年以上前に民営化されており(小泉改革のときにその成否がしばしば報道されたのだ)、せっかく中心市街地にあるのだからと商業施設に開放したのではないかしら?

 ポスト・ギャラリー(手前はトラムの欧州広場駅)

 

 

入ってみれば、真ん中に吹き抜けがあって、地下に各種食堂やスナックコーナー、そして食品スーパーがあるというおなじみの構成。どういうわけか、西欧のショッピングセンターは、地下にスーパーが入っているところが多いんですねえ。中野のブロードウェイの地下に西友が入っているようなものか。地下ではなく、1階(日本でいう2階)に明るいカフェがあったから、ここでお茶、じゃなくてビール! 小ビン€2.30ときわめて安価で、カールスルーエ・ピルスナー(Karlsruher Pilsner)とラベルにありました。地ビールですかね。ピルスナーというのは「ピルゼンふう」という意味のビールの種類で、ピルゼンというのは今はチェコのプルゼニ。日本でふつう「ビール」といっているタイプがピルスナーなんですよ。鉄道作家・種村直樹さんの傑作『ユーラシア飲み継ぎ紀行』(徳間文庫)では、コニャック(フランス西部)でコニャックを飲んでへろへろになりながらシュトゥットガルトでもビールをあおり、プルゼニをめざすという痛快な旅程をたどっていて、うらやましいやらうらやましくないやら。

 宮殿と庭園

 

トラムに1駅乗ってまたマルクトプラッツに戻ります。カイザー通りから1ブロック北に入ると、宮殿(Schloß)とそれを取り巻く円形の庭園(Schloßgarten)、そして建物が環状に取り囲む一角でした。バーデン伯カール・フリードリヒ(何者?)の銅像が建っています。老若男女さまざまな人が散策を楽しんでいる。

 反対側から見ると・・・ 正面の建物の1筋向こうがカイザー通り

 

宮殿は州立博物館になっていますが、せっかくお天気だし、この手の博物館を見てもよくわからんので、スルー。庭園は宮殿の裏側のほうが広いことが地図でわかっているので、ゆっくり歩いて回り込みました。広々とした芝生はいかにも西欧の都市という感じです。よく見れば、ずいぶんと幅の狭いレールが芝生の真ん中を貫いており、地図にもトラムの路線図にも見える宮殿庭園鉄道(Schloßgartenbahn 変な日本語だけど直訳するとそうなる)なのでしょう。公園の中を走る子ども向けの「おもちゃの電車」かもしれない。冬場だからか、走っている雰囲気はみられませんでしたが。今回の欧州行きに際しては、「この冬の欧州は超寒いらしいよ」と方々で脅され、ネットで調べてみても例年になく気温が低いので、かなり身構えていましたが、パリもストラスブールもここカールスルーエもけっこう暖かく、「いつもの西欧の2月」くらいの感じです。それにしても冬場の陽射しは貴重で、公園に出て日光を浴びるという習慣があるのもわかります。いわゆる西洋芝は冬場も青々としてきれいですね。

 
 池の氷が解けかけているカモ

 

雰囲気から、横浜のこどもの国に迷い込んだような気分になって歩いていると、けっこう大きな池がありました。それにしても、街の真ん中なのにゆとりのある庭園だな。水面の半分以上が結氷しているのにびっくり。きっと、最近までは噂どおりに超寒かったのでしょう。氷の上、そして氷の張っていない水面に、カモちゃんたちがたくさんいて、泳いだり飛んだり楽しそうです(妹分みたいな研究者にカモちゃんと呼んでいる人がいるので、勝手に妙な感じがする!)。地元に住んでいるらしい若い日本人カップルがいて、男性のほうは本格的なカメラでカモちゃん撮影に没頭していたから、女性のほうに「氷が張っていますが、寒かったんですか」と訊ねてみました。「ええ、ものすごく寒くて全部凍ったんですけど、このところ暖かいのでかなり解けてきたんです」と。古賀の渡欧に合わせて気温を上げてくれた?

  いい公園だね ランナーズもいるぞU子!

 

ぼちぼち日が落ちかけてきました。鉄道趣味に徹して訪れたカールスルーエではあるけれど、街並もいまほどの庭園もなかなかよくて、大いに満足です。西欧あちらこちらも長いことやっていますが、印象と記憶に強く残るのは、有名な大都市とか観光地ではなく、イチゲンの観光客が行かないような場所ですね。とかいいながら、「パリがいちばん」といっているのだから説得力はないか。

 黄昏のマルクトプラッツ

 

そのあとマルクトプラッツの南側、商業地というには静かな地区をぶらぶら歩き、街の景観を存分に満喫してカイザー通りに戻りました。街歩きではやっぱりデパート行かなきゃね。ドイツ各地に展開するカールシュタット(Karstadt)がありました。倒産したような話をちょっと前に聞いたのですが、どこかにもらわれたのかな? 西欧のデパートの多くは日本のターミナルデパートよりも一回り小さくて、紳士服・婦人服がそれぞれワンフロアずつというスケールもめずらしくありません。ここもそんな感じです。洋服はサイズの問題があるので回避して、カールスルーエ訪問記念にネクタイ2本買いました。楽しいねええ。

 
カールシュタットの紳士服フロアとキッチン用品フロア

 

歩き疲れたところで、でもまだ18時半。カールスルーエの街はけっこう広いですね。こうなれば魔法の24時間切符を駆使して(信用システムだから駆使している実感はないが)トラムに乗って夜の市内を眺めるか。マルクトプラッツから南にまっすぐ走るトラム5系統で中央駅に向かいます。駅方面の新市街はビジネス地区というところですかね。通勤時間帯なのでこのトラムは最初から立ち客もいる繁盛ぶりでした。美人のおねえさんに「隣に座っていいですか?」と訊かれたので、ヤー(イエス)とにっこり。座ってくださいな、いくらでも♪ あれですね、この街に数日泊まったなら、トラム全線制覇とかいいだしかねないようにも思う。私、パリを回るときでもメトロよりバスに乗るほうが好きなのだけど、何といっても景色が見えるかどうかの違いによります。トラムの場合、景色の見え方はバスと同じ目線で、しかもレールを走行する音が響くのだから、たまらんねえええ。私がそこそこの年齢になったころには、もう東京の都電(荒川線をのぞく)も西鉄福岡市内線もすっかりなくなっていました(京都市電には廃止直前に少しだけ乗りました)。ある年齢以上の人が「路面電車が好き」という場合、昔日の街の景観と重ね合わせて思うノスタルジーという傾向があるかもしれませんけど、私の世代だとそういうことでもない。純粋に好きなんだろうね。いわゆる鉄道線の列車もいいが、トラムは目線が低く、街の景観に自分が入り込むようなよさがあるようにも思います。きわめて幸運なことに、講師を務めた大学の所在地の関係で、ある時期には都電荒川線で、別のある時期には東急世田谷線でトラム通勤できました♪♪

6時間半ぶりに舞い戻ったカールスルーエHbfは、多くの乗降客でにぎわっていました。トラムが郊外鉄道に乗り入れるとはいえ、ここでDBに乗り換えて家に帰る通勤客も多いことでしょう。外国の鉄道に乗ろうとすると、都市間連絡の特急・急行か、市内を走るメトロないしトラムといったところに集中してしまい、郊外鉄道に乗るチャンスがどうしてもなくなります。やむをえないことではあるが、いずれそういう日をつくってみよう。

 カールスルーエHbfのコンコース

  カフェテリアで夕食!

 

さて、鉄道趣味に縁もゆかりもないという人でも、これから西欧を旅しようという場合には、各都市の中央駅は何かと便利なので拠点にするといいですよ。銀行やATMはだいたい構内かすぐそばにあるし、気楽な駅カフェもあるし、けっこう本格的な売店もあるのでコンビニのないあちらではこまごましたものを揃えるのにも重宝します。そしてトイレね。トイレ有料というのは、慣れるまでは抵抗を感じるかもしれませんが、まあそんなものだし、あちこち探し回るくらいなら確実に存在する駅をめざそう。この駅の料金は男女とも€0.50(ドイツはだいたいそうらしいです。パリだと女性と男性個室は高い)で、10セント、20セント、50セントのコインが使え、50セントぶんを投入すると鉄製バーでできている回転ドアが動くというしくみ。駅によってはカウンターが設けられて係員が料金を徴収するところもありますし、トークンを購入して投入する方式もある。こういうのも経験、勉強ですので、試してみませんとね。

コンコースに面していくつか飲食店があります。サンドイッチ屋さん、マクドナルドもある。いちばん広いスペースは、テーブルを並べた周囲にいくつかのカウンターがあって、好きな店から料理を取り寄せるという準カフェテリアスタイルのようです。福岡空港の食堂を思い出すねえ。その一隅に、しかし他とはアクリル板で仕切られている軽食コーナーがあり、持ち帰りのホットドッグ屋さんを兼ねている様子。56人も入ればいっぱいになる共用テーブルとスツールが置かれていて、カウンターの向こうではおじさんが2種類のソーセージを焼いていました。何だか美味そうだからこれを夕食にしちゃおうか。英語で話しかけてみてもおじさんはドイツ語なので、これ1つ、いやそっちじゃなくてこっち、みたいな指先トーク。メニューにはいろいろな料理らしきものが書かれているのだけど、まったく意味不明なので仕方ないですね。今後ドイツ語の基礎を学ぶつもりがあるかといえばほとんどなく、その時間があるならフランス語をもっとしゃべれるようになりたい。ともあれ、2種類の大きなソーセージのうち白いほうに、じゃがいもの何やらを付け合わせ、パンを1つつけて€5.20。ビールは隣のカウンターから取り寄せるのでしょうが、何だか面倒になったのと、あとでホテルでどうせ飲むのだしというのでやめておきました。付け合わせは、日本の洋風居酒屋に必ず置いてある「ジャーマンポテト」そのものですな。どう考えてもそれって英語だし、当地では何と呼ぶのかな? おじさんは、ポテトに何ちゃらソースをかけるか?と仕草を交えて訊いてきたので、ヤーといったら、さらさらした茶色いソースをかけ回してくれました。何だか知らんがこれも美味。夕食どきなのでお客が次々に入ってきます。そのほとんどが持ち帰り。同じように指先トークで注文している日本人の若い女性は、楽器を担いでいたので、演奏旅行か何かでしょうか(留学中ならドイツ語できそうですし)。カウンターの向こうからおじさんが「美味い?」みたいな顔でこちらを見たから、親指を立ててにっこりしておいた。

 スーパーでお買い物

 

腹もふくれたのでホテルに戻って休もう。今日は朝からストラスブールの欧州地区の見物、仏独国境越え、ICE初体験、そしてトラム試乗と乗り物づくしの忙しい1日でした。大いに満足。西欧あちらこちらを愛読してくださっている方は、あれ今回はあまり飲む話が出てこないねと心配or安心しておられるかもしれません。そう、さいきん弱くなってきたのを自覚していて、無茶飲みを控えているんです。酒量をコントロールできるおとなになろう、というのが2010年の目標。40を超えて立てる目標でもないか(汗)。帰りにそのへんの酒場で引っかけてもいいとは思うものの、1杯では済まなくなるだろうから、しばしばするように、スーパーでビールを買って部屋で飲むことにしました。外国のスーパーで棚を見て回るのも楽しいですよ。

トラム6系統を途中で捨ててしばらく道沿いに歩くと、大きなスーパーがありました。いつもしているように、ひとまずぐるっと店内を一周し、どんなものを売っているか、めずらしいものはないかなど観察します。それからいよいよビールですが、しまった、肝心のことを忘れていた! 環境先進国ドイツでは、缶飲料というのをまともに買えないんだった! 広い棚のどこを見ても、ビールや清涼飲料水の缶は見当たりません。よろずビンかペットボトルです。法律で缶を葬ったというのではなく、ビンの倍以上のデポジット(返せば戻る部分)を上乗せして売るしくみにしたため、スーパーなどの小売業者が回収の手間やコストを惜しんでビンばかりにしたというのが真相だけど、ともかくも実際に売り場を見てみるとびっくりです。日本でも、清涼飲料水については「缶コーヒー」以外はペットボトルへの移行が進んでいますが(私が大学生のころまでは缶が圧倒的に主流でした)、ケースに入ったビン入りを宅配してもらうのが普通だったビールは、流通の変容や自動車の普及に伴って逆に缶への移行が進み、ビンはほとんど飲食店で見るだけになっています。缶ビールおよび缶コーヒーを日々服用?している私は、環境に優しくない先生のようです。まあ仕方ないのでボトルを1本カゴに入れましたが、せっかく飛行機に乗せた栓抜きをパリの荷物の中に残してきてしまったのを思い出しました。しまった! 栓抜きくらいあるだろうと探しても、あるのは缶切りや万能ナイフみたいな複合的な道具についているやつだけ。2年前にロンドンでビンを購入した際には、栓抜きに近い形状の道具を買って代用したのだけど、さすが金属加工の本場ドイツ、何とも重々しいものばかりです・・・。やむなく栓抜きのついた水平缶切りを購入。水平缶切りってわかりますかね。缶の縁の下側をすぱっとやって切り口のぎざぎざを残さないタイプのやつで、一時期普及しそうだったのですが、いつのまにか缶詰そのものがプルタブのついた缶切り不要のものに代わってしまっていました。ある飲食店の主人が、「最近のバイトは缶切りの使い方も知らないんだから」と嘆くのを聞いたことがあります。それはそうで、拙宅には缶切りあるし、もちろん使えるけど、もう10年以上使っていないと思うもの。ごっつい水平缶切りは、たぶんもう使うことはないでしょうけれど、記念にもって帰って台所に置いておこう。

 今宵のビール(と、問題のコンセント)

 

これで心置きなくゆっくり休めるので、ビールを飲みながらトーマス・クックの時刻表をめくって、明日どこへ行こうかゆっくり考えよう・・・と思ったまではよかったが、ホテルの部屋に戻ってびっくり。いつものようにデジカメのバッテリーを充電器にセットし、プラグにアダプタを取りつけてコンセントにはめようとしたら、入らない!! 電気の通る金属導体の形状はコンセント側と一致しているのに、はかまの部分がつっかえているのです。日本のコンセントはほぼ平面ですがこちらのは埋め込み式で、はかまがその穴に入らなくては導体部分も進まないではないか! これは、シティ・ホテルの設備がちゃちくてダメなのかと思い、レセプションに充電器とアダプタをもっていき、どうにか接続できませんかねと訊いてみました。この時間帯を担当していた中年女性は、「ああ、ごめんなさい、電気のことって私わからないのよね」などと非常に頼りないことをおっしゃる。アダプタを見せると、これなら大丈夫のはずよといって、手近なコンセントに差し込もうとしましたが、やっぱり同じことでした。いったいどういうことだ?

コンセントの方式でいえば、フランスとドイツは同じタイプのはずです。だから完全に油断していました。成田を発つ前日に荷物をつくっていたとき、いつもキャリーバッグに入れていたアダプタが見当たらず、「ありゃなくしたかな? 成田で買わなきゃ」と思ったのですが、翌朝妙なところで見つかりほっとしたところでした。しかも、知識が怪しくなって、ドイツはフランスと同じだったよなと成田のお店でチェックすらしています。ここでアダプタを買いなおしたほうがいいかなと、なぜか思ったものの、やっぱりあれでいいやと、どうでもいいような自問をしたのをはっきり憶えています。あれは何かの予兆だったか? 持参のアダプタは、たしか78年くらい前に買ったもので、もっぱらフランス専用ではあったのですが、3年前のルクセンブルク、昨年のイタリアでも滞りなく使った記憶があります(2年前の英国は別タイプであることを事前に知っていましたが、1泊だからとパリでフル充電してしのぎました)。ドイツで通用しなかった理由はすぐにわかりましたが、それはこのあとどこかの回で説明することにしましょう。デジカメといってもさほど電気を食うわけではなく、パリまでの残り日程は丸2日だから大丈夫でしょう、というのは楽観的な話。私、海外に出るとデジカメをメモ代わりに使っていて、目に入るものをことごとく撮っているのです。燃料が切れてくると、カメラは節約モードになり、ズームやストロボなどが思うに任せなくなる。あす23日はもつでしょうけど、24日もだぶん大丈夫、という甘い見通しでは、せっかくのドイツが残念なことになりかねません。――で、いろいろ考えてみたね。最も手近なフランス領に戻ってみるかとか。カールスルーエの電器店にアダプタくらいあるだろうけど、10時の開店を待ってうろうろしていたら、それから次の都市に移動するのだからかなりロスだなとか。よし、移動した先の都市でアダプタを買おう、それなら、絶対に大きな電器店があるに違いない大都市に行こうと決めました。ライン川流域の地味な町を歩こうという当初の腹づもりを吹っ飛ばして、23日はフランクフルトに直行するぞ!

といった思案を30分くらいして、シャワー浴びて、五輪中継を見ながらビール。海外ビールの銘柄なんて知らないからテキトーに買ってきたのだけど、ラベルをよく見ればKRUŠOVICEと見慣れない文字&綴りで、チェコ共和国産と書いてありました。ありゃりゃ、ドイツではなかったか。チェコにはピルゼン(プルゼニ)があり、バドワイザーの本当のルーツもあるので(例のあれはアメリカ産ですが、名称はチェコ由来でそういう銘柄が実在し、例のあれは欧州ではBudweiserを名乗れません)、別にいいですけどね。1€0.75だから90円ちょっと、「第3のビール」みたいなニセモノなんて比較にならんほど安いじゃないですか!

 


PART 7 へつづく

 

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