Visiter et voir les villes suisses

 

PART7

 

PART6 にもどる

パスを見せて船に乗り込み、何となく上階に座ったら、チケットを改めに来た船員さんに「ここはファースト・クラスですよ」と注意されてしまいました。数十分の乗船に1等とか2等があるとは思いもよらず、表示を見落としていたようで面目ない。あらためて下の階のデッキに座ると、なるほど2等は長いすが置かれてお客もけっこう乗っています。だいたいは中高年のグループ旅行ですが家族連れも何組かいるようですね。デッキとつながっている屋根の下は喫茶&売店スペースのようです。欧州の旅で船を利用する機会はそう多くなく、セーヌ川のクルーズもいつ乗ったか記憶にないほどだし、名高いライン下りもしたことがありません。ちょうど1年前にオーストリアのウィーンからスロヴァキアのブラチスラヴァまで、ドナウ川を下って、首都→首都の船旅(でも1時間ちょっと)という変わった経験をしたところでした。あれも観光色の強い路線でしたが、いま利用しているトゥーン湖の船はもう誰が見ても観光船。

 
シャダウ城では結婚式がおこなわれていました!


トゥーン駅前に船着場があるというよりは、利便性を図るため駅前まで水路を引っ張ってきたというところです。そのアプローチを抜けて、いよいよ湖面に出てきました。すぐ右手にシャダウ城(Schloss Schadau)が見えます。いまはレストランだそうで、結婚式の最中でした。「スイスの湖畔のお城でハッピーウェディング」とか何とかCMあるのかな?

 
 


お天気がよいので湖面がきらきらしてまぶしい。それはいいのだけど、湖の南岸に沿って進むのだとばかり思っていたら、どうやら反対の北岸に向かっているようです。シュピーツは南岸なので、路線図をよく確認せずに失敗したかなと思う。このまま時計回りに進むのならシュピーツはいちばん最後になってしまいますからね。ま、それならそれで、急ぐではなし、何にでも乗れちゃうスイス・パスをもっていることでもあるしで、インターラーケンまで行ってしまえばいいわけです。こういう旅行では何かのご縁で導かれることってありますからね。そのうち、ヒュニバッハ(Hünibach)、ヒトラーフィンゲン(Hitlerfingen)、オーバーホーフェン・アム・トゥナーゼー(Oberhofen am Thunersee)と北岸の船着場に立てつづけに入りました。それぞれ「村」規模のようだけど、宿泊施設やレストランなどがあるらしく、そのつど思った以上の船客が入れ替わります。

3人くらい隣の中年男は、ずいぶん齢の離れた奥さんまたは彼女と始終愛をささやき合っており、どうでもいいけど目障りじゃ(笑)。「いい景色のところに連れていってあげるよ」とか何とかいったんじゃないのかねえ。向かいの4人掛け席には4人家族がいて、小学生くらいのお姉ちゃんはカメラ、弟はアイスに夢中。途中から乗ってきた70代ないし80代のおばあさんたちは、足腰の弱っている人もいて大丈夫かねと心配しかけましたが、再会がうれしくて仕方ないという様子でにこにこ。小学校の同窓会とかそんな感じだなあ。

 


北岸のグンテン(Gunten)という船着場を出ると、船は湖の中心線に向かって進みはじめました。なるほど、ここから湖を横断して対岸のシュピーツに行くわけだ。エアホッケーではあるまいし、両岸を行ったり来たりしながら進むとは思ってもいなかったので、納得というかびっくり。湖が細長いのと、それこそ先を急ぐわけでもない観光船だという設定を考えれば、まあそういうこともあるでしょうね。振り返ると、グンテンの船着場の「裏山」は、別荘地なのか、緑に囲まれた三角屋根のロッジが上のほうまでかなり建てられています。湖の真ん中まで進んでくると、前後左右が深い青色で、何ともいえない景色。湖上の観光船というのは、子どものころはしょっちゅうどこかで乗っていたものの、おとなになってからはほとんど記憶にありません。20年くらい前に芦ノ湖の遊覧船に乗ったのが最後じゃなかったかな。

 
(左)湖の奥はインターラーケン  (右)シュピーツ船着場


シュピーツ(独・仏・伊Spiez
  スイス連邦                                


14
25分ころシュピーツの船着場(Spiez Shiffstation)に接岸。シュピーツについて何らの予備知識もなく、わずかに「地球の歩き方」に数行の記事があるだけだけど、アプローチの記述をのぞけば「駅を出ると、そこは町一番の展望台・・・湖までは徒歩約15分。帰りは上り坂になるので遊覧船でインターラーケンに戻るといい」(『スイス』、p.102)というのがほとんどすべての情報です。何でここに降りようと思ったのかなと振り返ってみると、きのうバーゼルからベルンまで利用したミラノ行きの列車の経由地に、トゥーンと並んでこの町の名があり、どこなんだろうと地図で探して初めて知ったのでした。もともと名物とか名所というのにさほど執着しないので、何もないならないでネタにすればいいさ。それにしても、私は「遊覧船」で来てしまったため、ガイドブックのおすすめとは逆に上り坂オンリーの行程になります。

 

シュピーツの船着場から直線の上り(ゼー通り)を進む


船着場の周辺を見渡すと、小さなホテルとかペンションがいくらかあり、湖畔の別荘地にちょっとした商業施設があるあたり、という印象。往年の富士五湖なんてこんな感じだったような気もするけど、もう20年以上行っていないので当てにはなりません。それで思い出したのは、9年半前の20052月に初めてスイスを訪れた際に、友人夫婦に案内してもらってジュネーヴ郊外の小さなリゾート地コペ(Coppet)に立ち寄ったことでした。レマン湖(Lac Léman)のほとり、ジュネーヴからローザンヌに向かう途中にある「村」みたいなところで、あまり人にも出会わず、のんびり散歩したのでした。欧州でリゾート的なところを訪れる機会は少なくないのですが、日本のそれがどうしても「騒がしい景色」になってしまうのに対して、こちらはだいたい静か。どちらが好みかは人によることでしょう。今回スイスのど真ん中を横切るわけだし、乗り放題のパスまでもっているのにジュネーヴに寄らないのはどうかと思ったものの、同じルートを往復して戻ってくるのは気が進まず、一度行ったことでもあり、断念しました。ジュネーヴとなればそこで1日は必要でしょうからね。長年の妹分みたいな友人に黙って通過するのも何なので、パリから不義理を詫びるメールを打っておきました。欧州各地をしょっちゅううろうろしているので、そのうちまた寄るよ。

 レマン湖畔で(20052月)


船着場から鉄道の駅までは路線バスがあって、船の到着に接続するダイヤが設定されています。私と一緒に降りた中には、バスに乗り込んだ人たちもありました。また各地でよく見る列車型の観光バスも待機していました。スイス・パスがあればあるいは乗れるのでしょうが、そんな気はさらさらなく、ここから駅までゆっくり歩いて(登って)いこうと思います。ガイドブックで「15分」としているのに標識では25min.とあり、上りだからでしょうかね。初めての町を散策するには最適の時間ではないですか。

いくらかのお客を乗せた路線バスが行ってしまうと、周囲にはほとんど誰もいなくなりました。見たところバスが去っていった道路が上りの一本道のようで、地図はないですが迷うことはないでしょう。「駅はこっち」という標識もあります。ゼー通り(Seestrasse)という名の勾配をゆっくり歩きはじめました。ゼー(See)というのは「海」ですが湖も指します。「みずうみ通り」という、ずいぶんストレートな名前の道ですね。ペンションのほか、テニスコート、一軒家レストランなどそれらしい施設が点在。ブドウ畑があるのは欧州ならではでしょうか。本格的なサイクリングの人にぱらぱら出会います。上りも、下りの人も。当方を追い越して力強くペダルを踏む男性と目が合ったので、お互いにハロー。

 
ゼー通りをひたすら登る  景色がいちいちキレイでやんの!


15
分くらい登ったところで左右の緑が切れ、建物が込んできました。このあたりがシュピーツの中心のようです。トゥーン湖がかなり深い谷底にあるのに対し、鉄道は高めのところを走っています。その駅の周辺(標高でいえばちょっと下)に町ができています。村といったらいいすぎでしょうが、市街地というほどのものでもありません。レストランが数軒と、何でも屋さんが1軒あるのが見えます。いつも町なか専門で、ごちゃごちゃしたところばかり歩いているので、たまにはヴィレッジというのもいいんじゃないですか。

 
(左)このあたりがシュピーツの中心?  (右)そこからさらに急勾配を登ると駅がある(写真の手前)


9
年前のコペの話ではないですけど、ちょっと前まで私の渡欧は真冬の2月だけと決まっており、仕方なかったとはいえ欧州のいい季節を外していたんだよなあと、いまさらながらに思います。夏の欧州は総天然色ですもんね。そもそも真冬ならばこのあたりにやってこようなんて考えなかったに違いありません。今回はパリから入ってバーゼルに移動し、ミラノから東京に戻るというオープンジョー(バーゼル→ミラノを自力で移動し、入口と出口がズレるタイプの往復チケット)ですが、サーチャージなど込み込みで約20万円です(スターアライアンス/ANA)。経済的に厳しかったころは航空券だけで20万円なんてまず手が出ませんでした(冬場は半額以下になることが多い)。ちゃんと仕事をさせていただき、数度の旅行もできるようになって、恵まれた環境に感謝ですね。

 
(左)湖畔で見かけた列車型観光バスが駅に着いた  (右)海抜628mのシュピーツ駅前 インターラーケンまで徒歩4時間10分(端数が気になる 笑)


駅前展望台からの眺め 湖に突き出している人工物がシュピーツの船着場


さきほどの「町の中心」を通るのが「国道」にあたるオーバーラント通り(Oberlandstrasse)。この一帯、インターラーケン方面にかけてはベルナー・オーバーラントBerner Oberland)といい、直訳すれば「ベルン高地」です。オーバーラント通りはこの地方を貫通する幹線道路。鉄道の線路もだいたい並行しています。この付近では鉄道のほうが高いところを走っているわけですね。ガイドブックが勧めるように、駅前にたどり着いたらそこに展望台(というかただの広場)が設けられていました。細長いトゥーン湖ゆえ全景を見晴らすことはできませんが、いま登ってきた道筋や対岸の村の様子なども手に取るように望めて、絶景。――絶景を眺めてうっとりするなんてガラにもないのだけど、まあいいじゃん(笑)。

てなことで、シュピーツ滞在まだ30分、ビタ1フランも落としていませんが、景色を食べて満足したので、ベルンに戻ろう。前にも述べたようにスイス国鉄は列車頻度の高さと定時運転に定評があり、時刻表をもっていなくても問題ありません。駅の小さなコンコースで発車時刻を見たら、ベルン行きのICが出発したばかりで、次は1522分発のICEとのこと。20分くらいゆとりができたので、もう一度展望台に行って展望。そのあとお手洗いを借りてからホームに行ったら、ホームからの眺めもまた絶景でした。やるなシュピーツ。

 
絶景のホームからICEに乗ってベルンへ


定刻にICEInterCity Express)がやってきました。これまでドイツ国内でさんざん利用してきた「ドイツの新幹線」ですが、フランスの新幹線TGVともどもスイス国内に入ると「ただの特急」になります。したがって、スイス・パスがあればIC代わりに使えるということ。アイボリーホワイトの車体に赤い帯を巻いたおなじみの車両は、やっぱりICなんかとは格が違う感じです。この列車はベルン、バーゼルと私がたどってきた経路を走り、ライン川に沿って北上、マンハイムを経由してフランクフルトが終点です。フランクフルトにはこれまで3度訪れて泊まっているほか、空港は乗り継ぎの足場として使ったこともあります。今回も帰路はフランクフルト乗り換え。列車で同市に接近する(あるいは離れる)際に市街地の全体が見えるのだけど、高層ビルなどもあって絵に描いたような大都会です。いま、のんびりした湖畔の小さな駅にいて、そのまま乗れば欧州の経済首都まで行ってしまうのか。わかってはいるけど、すごいな〜。

乗り込んだ車内はがらがらで、2人が乗っているだけ。コンパートメントはあるものの山側だったので回避し、進行方向右の湖側に席を取りました。しばらくトゥーン湖岸を走るのだから、今度は違った角度から眺めておかないともったいないですよね。このあたりは「在来線」区間ながらなかなかの走りっぷりで、ベルン着は1552分。

 
(左)ICEの車窓からトゥーン湖を望む(トゥーン付近) (右)ICE2等の車内

 

PART8 につづく

 

この作品(文と写真)の著作権は 古賀 毅 に帰属します。