ニーデック橋を渡ったところ、アーレ川の右岸斜面にあるのがベルン・クマ公園(Bärenpark Bern)。前述したようにクマはベルンの語源になったシンボル的動物です。入園料を取る本格的な動物公園ではなく、川原の一部を囲って数頭のクマを放牧しているだけという、非常にシンプルなもの。あとでガイドブックを読むと、以前は動物虐待に近いような劣悪な環境で飼われていたのを、2009年にこの場所に移したのだそうで、新しい施設なのですね。柵越しに斜面の上からのぞき込むようなかたちになりますが、クマちゃんたちは毛並みもよくて健康そう。ゴロゴロしているのではなく、大きな体をゆすりながらけっこうな速さで歩いているのがうれしい。クマ公園の横には民芸造りのような建物があり、英語でTourist Centerとありました。中はお土産屋さんとベルンの観光案内、そしてレストランで、無料のお手洗いをどうぞお使いくださいと歓迎しているのはすばらしいです。

クマ公園
ということで、ベルン旧市街(半島部分)をひとまず片道踏破したので、メインストリートを西に向かうトロリーバスでいったん引き上げよう。ニーデック橋のたもとで電車をつかまえ乗車。電車とはいっても線路がなくゴムタイヤで走りますので、乗り心地や車内の感じはバスそのものです。2時間くらいかけてゆっくりじっくりじわじわ歩いたところを、ものの5分くらいで走り抜けて、時計搭の手前までやってきました。今朝から、メインストリートとその北側にしか足を踏み入れていないので、今度は南側に行ってみようと思います。

ベルン市民の足、トロリーバス
時計搭の横を南に折れると、ここにもカジノがありました。その先は狭い路地に屋台が並んで生活雑貨などを売る一角。すこし西に進むと、連邦議会議事堂(Bundeshaus)のどっしりとした建物が目に入りました。スイス連邦の政体はユニークで、連邦議会の各党派から比例的に選ばれた連邦参事7名が「閣僚」となって行政権を執行するという議会統治制です。したがって基本的にはオール与党で責任を分有します。この「内閣」にあたる組織が連邦参事会(Bundesrat / Conseil fédéral suisse / Consiglio federale svizzero)。また国家元首たる大統領は7人の連邦参事が1年ごとの持ち回りで務めます。あくまでカントン主体の政治構造のため、連邦政府には特異な形態が導入され、世界大戦を乗り越えて今日にいたります。その昔、スイスでは4つの言語が話されていると聞いて、たとえば連邦議会では何語で討議するんだろうかと思ったものでした。どうやらドイツ語とフランス語のチャンポンのようです。議事堂の前はさほど広くない広場で、連邦広場(Bundesplatz)という名前。しばしば催し物などに使われるそうで、この日は青空マーケットが出て、大勢の市民で賑わっていました。
連邦議会議事堂と青空マーケット

トゥーン(独・伊Thun)/トゥーヌ(仏
Thoune)
スイス連邦
11時前になって、いったんベルンの町歩きを中断して、エクスカーションに出かけることにしました。行き先はトゥーン。普通の町を見ようとかいっているわりには観光都市なのですが、日本ではさほどメジャーともいえないので、まあいいんじゃないかな。ベルン駅を11時16分に発車するICに乗って、所要ちょうど30分の11時46分にトゥーン着。電車は例によってダブルデッカーで、緑ゆたかな住宅地を走り抜け、そのうち畑や放牧地の入り混じる農村部に入りました。またまた石丸謙二郎の声が聞こえてきそうだ。


ベルンの市街地をコの字を描くように取り巻くアーレ川の、ここは上流部分になります。トゥーン湖(Thunersee)という細長い湖からアーレ川が流れ出す位置に立地しているのがトゥーン市街。アーレ川自体はアルプスから出てブリエンツ湖(Brienzersee)に流れ込み、そのまますぐトゥーン湖に入ります。2つの湖のあいだにあるのが著名な観光都市のインターラーケン(Interlaken)です。アルプスの水がどんどん流れてくるわけだから、そりゃ水量豊富なわけだわな。国鉄駅はわりにしっかりしており、乗降客も多い。駅舎を背に駅前に出ると、すぐに船着場があるのはユニークな造りです。ぜひあとでトゥーン湖の遊覧船か何かに乗ってみよう。
トゥーン城(尖塔の建物)
ここもベルン・カントンの都市なのでクマちゃんの旗が風にはためいています。明らかに観光客と思われる人がたくさん歩いているのが観光都市ならでは(自分だってそうだよね)。橋とか川って絵になるので、団体さんなどは写真撮影に夢中になっています。湖から流れ出したアーレ川はすぐ2流に分かれ、そのあいだにある細長い中洲が商業地区になっている模様です。中洲と右岸の旧市街をむすぶジンネ橋(Sinnebrücke)まで進むと、正面に白亜のトゥーン城(Schloss Thun)が見えました。お城といってもカワイイもので、小領主のそれだったのでしょう。上流側、つまり湖のほうを見ると、屋根のついためずらしい水門が近くに見えたので、まずはそこへ行ってみましょうか。
水門
水門の上は木製の橋(屋根つき)になっていて、歩行者が渡れるようになっていました。黒光りした歯車が並んでいます。状況によって水量を調節する、現役の水門のようです。それにしてもすごい水量で、水門のそばに立つと「ごーっ」という音が絶えず聞こえて相当な迫力。動画で見たい方はちょっとだけこちらをどうぞ(正午の鐘の音も入っています)。右岸側のオーベレ・ハウプト通り(Obere
Hauptgasse)周辺が旧市街とのことです。リゾート地なので旧市街といってもクラシックで重厚な町並みというわけではなく、観光レストランの類もちらほら。おもしろいのは、3mほどの狭い車道を店舗の0階部分が抱き込み、歩道はその上を通っているという構造(下の写真を見てください)。歩行者はベランダ部分を歩いているような気分になります。もとより店の正面玄関は車道に面しているので、こちらを歩くこともできます。お天気がよいので散策するのも気持ちよく、同じような気分らしい中高年の人たちがけっこう歩いていますね。

お花のあふれるトゥーン市街 (左)水門付近のアーレ川 (右)一段上を通る歩道の下に店舗入口という、オーベレ・ハウプト通り
市役所
その先に何ともかわいい市役所(Rathaus)がありました。ガイドブックによれば16世紀の建物だそうです。その前の小さな広場には、どうやら朝市が出ていたようですがすでに終わり、撤収に入っていました。オーベレ・ハウプト通りの一筋南は2流に分かれたアーレ川の片割れが流れており、その河畔にはいくつかの飲食店がたくさんのテラス席を設けています。12時半なのでランチを取ろうというお客で大賑わい。土曜のお昼ですしね。多くは簡易食堂みたいな造りとメニューで、いかにも観光地といった風情ではあります。
こちらも何か食べておこう。けさ、また歯が痛んでどうなるかと思いましたが10分ほどで収まりました。何か食べた拍子に再発、というのが最悪なので、そうならないように祈るしかありません。やや本式のレストランとか中華料理のテラスなどもありましたが、ほとんど「あずまや」という感じの簡素な店を見つけて、丈の高いテーブルに着きました。Kaffeebar Mühleplatzというのが店名で、「カフェバー」らしいです。メニューを見るとありがちな軽食が並んでいたので、クロック・ムッシュ(Toast Croque Monsieur)CHF6.50を注文。お飲み物はというのでドラフト・ビアを頼んだら、20歳くらいのバイトさんふうのおねえさんが「地元のポピュラーなビールでよろしいですか?」と。もちろんいうまでもありません。ビールは銘柄不明ながらごくごく普通のラガーで、CHF3.50。飲み物が安い理由はいまだにわかりません。窓の外はアーレ川、さきほどのとは別の(1つ下流側の)水門が見えていて、ここでもかなりの音を立てて水が流れています。いい眺めを見ながら飲むビールは何とも美味。クロック・ムッシュは、おそらくつくり置きをオーヴンで焼いたものでしょうが、フォークが添えられず紙ナプキンに巻かれて出てきました。このままかぶりついてねということでしょう。ゆで卵と1片のトマト、なぜかホワイトアスパラが1本。クロック・ムッシュもごくごく普通の味がしましたよ。


トゥーン市の公式サイトで紹介されている都市の沿革を見てみました。12世紀半ば、アーレ川の渡河地点という要衝にツェーリング家が城を築いたのがトゥーンの起源です。バーゼル、フリブール/フライブルク、ベルンとここまで歩いてきた都市は、みなツェーリング家がその基礎を築いたのでしたね。その後、スイス東部から進出したキーブルク伯がこの都市を支配し、13世紀後半になると特許状を得て自治権を獲得したのですが、14世紀に入ると一族の争いが深刻化し、片方がベルンの加勢を頼んでついには町ごと身売りという結果を招きました。サイトによれば、15〜18世紀は「この地方のマーケット・センターへと発展」していったそうですが、だとすれば都市ベルンの強力な後背地としてその経済的なブースターの役割を果たしたのだということでしょう。
中洲の真ん中を走るベーリッツ通り(Bälliz)に行ってみると、こちらは少しだけ道幅の広い、垢抜けた商店街。いかにもの新市街です。H&Mとかマクドナルドはもうデフォルトでしょう。時間帯によるのか、自動車の乗り入れが規制されているので歩きやすい。気温は26〜7度くらいありそうですが、カラッとしていてさほど不快ではありません。商業で栄えたという歴史はなるほどよくわかりますが、ベルンとは明らかに異質な景観、雰囲気をもった町です。

トゥーンの新市街 ベーリッツ通り(上)とアーレ川
市街地だけを見ればかなり狭いので、いま歩いてきたところでだいたい主だったところはおしまい。軽く昼ごはんも食べたところなので、これから船に乗って湖上遊覧としゃれこもう。駅を降りてすぐに目の前に船着場があるのを見つけたのですが、その折に船の時刻表をチェックしておりました。12時40分、13時40分、15時40分と毎時40分発とのことです。ゆっくり歩いて13時40分に間に合いそうです。ここトゥーンは細長い湖の西端で、船はここから長径に沿って進み、シュピーツ(Spiez)、そしてインターラーケンに向かうようなので、40分くらいで着くらしい途中のシュピーツまでにしようかな。スイス・パスのパンフレットでは湖面の点線(この船の路線)も利用で切るとありますが、念のためチケット売り場の窓口にパスを提示し、これで乗ることができるかと英語で訊ねました。もちろんOK。繋留されている船体は隅田川の水上バスとさほど変わらない規模だけど、なかなかスマートですね。

駅前の船着場から船でシュピーツへ
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