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2 サン・ジェルマン・デ・プレ→シャトレ

 


(上)ボナパルト通り (下)ヴェリブとマカロン
 

 ボザール


サン・ジェルマン・デ・プレの交差点からレンヌ通りをまっすぐ南に1.2kmくらい進めば、かつて芸術家たちがたむろしたモンパルナス地区。見栄えの問題で何かと評判がよくないモンパルナス・タワー(59階建て)が中心にそびえます。レンヌ通り、モンパルナスともになかなか楽しい地区ですから機会があればお出かけください。

さて今回は教会の裏手を北へ伸びるボナパルト通りRue Bonaparte)を歩きます。名の由来はいうまでもなくナポレオン1世。モンパルナスと右岸とを結ぶバス95系統が気合で走り抜けます(パリの路線バスは狭い道路とか鋭角の交差点などをものともせず連接車で突き進みます)。お、さっそくなラデュレ(Ladurée)の支店がありますね。本店はマドレーヌ教会ちかくのロワイヤル通りですがパリじゅう、いや日本を含め世界中にショップがあり、マカロンの元祖として大人気。個人的にはマカロンって何がしたいのか思想が見えないお菓子だと思うのですが・・・ ヴェリブVélib’)は公営レンタサイクルで、交通・環境対策のための社会政策として推進されています。自転車(vélo)で自由(libéral)になろうよというフランス人らしいネーミング。2007年からなので歴史は浅いのに、いまや市内いたるところにステーションがあり、多くの市民が利用しています。料金はきわめて安く、1日チケット€1.70を買えば最小限それだけで利用できます。30分以内に別のステーションに戻せば無料!(1時間オーバーしてもプラス€2 決済はクレジットカードのみ)。 ただし、自転車はれっきとした「車両」ですので交通法規を厳守してください。日本でのように歩道を走ったり信号無視や斜め横断をしたりすると罰金とられますし、右側通行なので習熟するまでに時間がかかるかもしれません。

ボナパルト通りでひときわ目を引くのは国立高等美術学校École nationale supérieure des beaux-arts)。美術を表す「ボザール」だけでこの学校の通称になります。あまたの芸術家を輩出した名門。

 

 


もう1つ、ボナパルト通りの見どころは骨董品のお店が並んでいること。アンティーク好きという人は見逃せませんね。路肩が狭く、前述のように路線バスもがんがん走りますので、ウインドウをのぞき込む際にはくれぐれもご用心ください。

いま歩いてきた、サン・ミッシェル〜サン・ジェルマン・デ・プレ〜ボナパルト通りに囲まれた区画には、他にもフランス学士院(Insttut de France)、17世紀に開店した元祖カフェのプロコープ(le Procope)、個性的なレストランやプチ・ホテルもたくさんありますので、右岸では味わえないパリらしさを感じに行きませんか?



左岸から見たセーヌ川(La Seine) (上)カルーゼル橋とルーヴル (下)ポン・デ・ザール




道幅の狭いボナパルト通りを歩き終わると、目の前に、うわっ

セーヌ川!!

何もあほブログみたいにしなくてもいいか(汗)。私自身、朝の散歩でボナパルト通りを抜けてここに来たとき、うわっ、というのが第一印象でした。

どっしりした石橋はカルーゼル橋Pont du Carrousel)。渡った向こう側に見える長大な建築物はかのルーヴル美術館Musée du Louvre)です。ルーヴルは建物それ自体が歴史遺産として見るべき価値をもちますし、いうまでもなくモナ・リザやミロのヴィーナスやドラクロワの作品など超教科書級の展示物のオンパレードですので、パリにいらしたらぜひ見学してください――っていわなくても初めての方はだいたい見ますよね。ちなみに近代美術(主に19世紀)の有名作品を収蔵するオルセー美術館Musée d’Orsay)はカルーゼル橋から左岸側を1ブロック進んだところ、ルーヴルと川をはさんではす向かいの場所にあります。

カルーゼル橋の1つ上流側にあるのが歩行者専用のポン・デ・ザールPont des Arts)。その名も「芸術橋」です。直線と曲線を組み合わせた鉄の橋に木製の歩道が載せられて、独特の美しさがあります。セーヌの眺めはパリに欠かせませんが、この橋がなければ画竜点睛を欠くと思えるほど、橋自体も、そこから見える景観もすばらしい。ここから見えるシテ島の姿も実にパリらしくていい。

 

 


(上)右岸側から見た芸術橋とフランス学士院 (下)上流側のポン・ヌフを望む




と、パリの話をするときにはたいてい申してきたのですが、このところポン・デ・ザールにはけしからん事態が起こっています。誰がはじめたものか、カップル(フランスだからアベックかね)たちが手すりの金網部分に南京錠をかけて愛を誓うというのだ! 湘南平じゃあるまいし、世界的なスポットでずいぶんと陳腐な行為をするものだ、というかそんなチープな行為をはやらせるものだ!

 2008年の芸術橋


とかいうのはパリ好き外国人の余計なお世話なんですかね。

ポン・デ・ザールはもともとナポレオンの命で架橋したものでしたが、のちに腐食が進み、1979年には舟が衝突して崩落しました。現在の橋は1980年代に再架橋されたものです。京都・鴨川の先斗町あたりにこれを模した橋を架けるという話がかつてありましたが、撤回されました。そりゃそうで、鴨川には鴨川、セーヌにはセーヌにふさわしい絵というのがあるのであり、そこを無視しては芸術橋などと名乗れません(こういう件では私ずいぶん保守的・権威的になるんですね 笑)。


芸術橋から見たシテ島(中央)とパリ最古の橋、ポン・ヌフ(Pont Neuf

 


(上)サン・ジェルマン・ロクセロワ教会 (下)リヴォリ通り(西から東を見る)




さて、ポン・デ・ザールを渡って右岸側にやってきました。パリジャンは左岸で頭を使い、右岸でお金を使うといいます。今となってはそういう表現はどうかと思うものの、左右のトーンの違いというのは確実にあります。パリに定着?した経緯からして私は左岸派ですので、右岸に来るとアウェー。てこともないか。

ポン・デ・ザールとポン・ヌフのあいだあたりを北に折れると、すぐサン・ジェルマン・ロクセロワ教会Église Saint Germain l’Auxerrois)。あらためて正面から見るのは、もしかすると初めてかもしれません。1572824日未明、この教会の夜明けの鐘が鳴り響きます。これを合図にギーズ公アンリの差し回した者たちが有力政治家のガスパール・ド・コリニーを暗殺、遺体を焼却しました。コリニーはアンリの「父の仇」でしたが、このころフランスではユグノー(カルヴァン派)とカトリックの対立が宮廷内外で深刻化しており、コリニーはユグノー、アンリはカトリック側を代表する人物だったのです。両派の融和を図るべく、ユグノーのシンボル的存在だったナヴァル王アンリ(のちフランス・ブルボン朝初代のアンリ4世)と摂政カトリーヌ・ド・メディシスの娘との結婚を祝うため、有力者たちがパリ中心部に集まっているところをねらった凶行でした。カトリック派はユグノー側の人たちをパリの各地で襲撃し、暴行を加え、惨殺しました。世にいうサン・バルテルミの虐殺事件です。歴史的にみればフランスにおいて絶対王政、近代国家が確立される直前の惨劇ということになります。

教会の北側を東西に走るのがリヴォリ通りRue de Rivoli)。ルーヴルと繁華街シャトレ、マレ、下町バスティーユを結ぶ道で、この付近には思いつくかぎりのファストファッションやカジュアル・ブランドが並び、原宿的なポジションかもしれません。ここもなぜだか日本のガイドブックにはあまり出てこないのだけど、ありがちな「日本の若者」にとってはなかなか魅力的な通りだと思いますよ。

 




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時ちかくになり、ランチするならちょうどよい時間帯。リヴォリ通りを少し北に入ると、シャトレChâtelet)の中心部。路地みたいな狭い道が込み入っていて、そこに各種の飲食店、どっちかといえばチャラい系のショップなどがひしめいています。そのあたりを抜けた先にはかつての中央卸売市場(les Halles)跡地を再開発した
大型ショッピングセンター、フォーラム・デ・アルForum des Halle)もあります。フォーラムにはフナックの大型書店が入居していてマストなのですが、そちらの用事は土曜日に済ませました。なお、RER(高速郊外鉄道網)の3路線、メトロの5路線が乗り入れるシャトレ駅はパリの交通における最難所。東京の地下鉄と違って改札外乗り換えがなく、逆にいえば意地でも通路をつなげる思想のため、はてしなく長い通路を歩かされたり、曲がったり、登ったり降りたり、まあ大変。一日乗車券をもっているのならいったん表に出て地上を歩いたほうが早いです。

 

 




シャトレで昼ごはんとなると、サンドイッチかファストフードかカフェテリアか、とにかくチープなものですね。飲食店も似たようなもので、渋谷のど真ん中で何でもいいから食事しよう、みたいな感じね。フランス・アメリカ風ブラッスリーと謎の看板を出している、でも普通の若者向けレストランがあったので入ろう。店名はAu Diable。日替わり(Plat du jour)の黒板メニューは仔羊のブロシェットにフライドポテト、サラダ(Brochette d’agneau, frites, salade)で€12。日本の感覚だと高いように思えるでしょうが、西欧では「店内に着席して食事する」となると€10を超えるのが普通になり、パリの真ん中はとくにそう。いちいち相場を比較して計算しているとまともにメシも食えなくなります。ブロシェットというのは串焼きのこと。フランスにはトルコとかアラブ、マグレブなどの料理店も多く、串焼きはおなじみです(カジュアルな自称「日本料理店」だと焼き鳥は必ずあります。あれって日本では食事と分離された居酒屋のつまみなんですが)。とにかく肉を食おう。パリのカジュアル・レストランでは「水道水(carafe d’eau)ください」といっても当たり前のように出してもらえますが(西欧の「普通」ではないのでご注意)、せっかくだから?ビール頼もう。フランスで最もポピュラーなアルザスのブランド、クローネンブール(Kronenbourg)のドゥミ(25センチリットル)を。通称「クロ」なので、Un demi Kro, s’il vous plaît.OKです。

料理の味はまあ普通。私はガラスの張り出した部分(夏場は開放してテラス席になる)だったのですが、奥のほうはパブ仕様で、お手洗いにブルーの照明なんていかにも若者向けの飲み屋ですな。

 

3へつづく

 

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