PART 2
左岸歩きの「基点」
サン・ミッシェル・ノートルダム

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地図を見れば一目瞭然、パリ市は東西(地図でいえば右左)を貫いて流れるセーヌ川によって二分されています。北(上)が右岸で南(下)が左岸Rive Gauche)。何が違うと説明しにくいのだけど、パリ初心者の観光客が行きそうなところは(エッフェル塔をのぞいて)たいてい右岸側にあるため、もしかすると左岸側には一歩も足を踏み入れていないという人だっているかもしれません。私は、いつも泊まっているところが左岸のカルチェ・ラタンであり、最初に研究出張(おー!)した折に世話になったのもその付近であったこと、右岸=商業、左岸=学芸という固定観念が何となくあったことなどから、もっぱら左岸専門です。左岸の観光スポットは直径1kmくらいの中に収まっているので意外に歩きやすいですよ。

その左岸歩きの基点となるのがサン・ミッシェルSaint Michel)地区。左岸とシテ島をつなぐサン・ミッシェル橋の付近で、写真でわかるようにノートルダム寺院がすぐ前(橋で1つ上流側)に見えます。近代になるまではノートルダムの門前を通るサン・ジャック通りが南北の幹線道路だったのですが、ナポレオン3世のパリ大改造などに伴ってサン・ミッシェル通り(Boulevard Saint Michel)に基軸が移りました。




こちらは逆にサン・ジャック通りから下流側のサン・ミッシェル橋を見たところです。

下左の写真で、建物の壁に見えるのがサン・ミッシェル噴水Fontaine Saint Michel)。小さな広場になっていて待ち合わせの定番です。サン・ミッシェルとは聖書に出てくる聖(大天使)ミカエルのフランス語読みですね。第二帝政期の1860年に造られました。パリ大改造に際して、そもそもここを左岸の基点にしようと考えられました。今日その役割を十分に果たしていると思います。

 

 

その地下にはRERRéseaux Express Régional 郊外に直通する高規格の地下鉄)B線およびC線のサン・ミッシェル・ノートルダム駅があります。メトロ4号線のサン・ミッシェル駅、10号線のクリュニー・ラ・ソルボンヌ駅がつながっていますがメトロ駅同士は乗り換え不能。私は、シャルル・ド・ゴール空港からB線でこの駅まで来て10号線に乗り継いで宿に向かうコースが定着しています。



 

サン・ミッシェル地区の特徴の1つは、やたらに本屋が多いこと。黄色いマークのジベール・ジュンヌ(Gibert Jeune)だけでも数店舗ありますし、新刊書店から古書店まで合わせると20軒かそれ以上ありそうです。文教地区の玄関口ですから、小中高大の教科書や参考書、専門書などをそろえるところが大半。教科書を古書店で買うというのがそもそも私たちの発想にないですけどね。観光ガイドブックやレシピ本などはフランス語を読めなくても写真でわかりますから、お土産にいかがですか?

 

 

もう1つの特徴はといえば、飲食店がやたらに多いこと。とくに噴水からサン・ミッシェル通りを渡ってノートルダム側に行くと、その一帯がレストラン密集地区になっています。で、朝早い時間帯をのぞけば終日にぎわっている。カジュアルばかりで高級な店はありませんが、いわゆる観光客向けのレストランなので当たり外れというか外れ外れがずいぶんございます。残念なことにあまりよい報告を聞きませんし、私も当たったためしがなくて、最近は入店を回避しつづけています。「ヤキソバ、チャーハン」などと日本語で呼ばわる中華料理屋が昔からあるな〜。ただ、東京にも最近目立ちはじめたケバブ屋さんが多いのはおもしろい。当地ではギリシア式サンドイッチ(sandwich grec)といいます。バゲットを割って肉を入れるフランスふうのもの、薄い皮を巻いてつくるピタなど数種あります。昼から10何ユーロも払って美味くないごはんを食べるよりは€5くらいのケバブをemporter(英語でto go お持ち帰りね)してノートルダムの前でかじるほうがよさそうかも。なお、この手のお店はイートインだと50セントくらい高くなります。

 



 

噴水の裏手に1ブロックだけ進むと、さらに小さな広場があります。そこがサン・アンドレ広場(Place Saint André 英語読みすればセント・アンドリュー)。こっちは観光客というより地元の人が多いところで、いくつかのレストランやカフェのほか、書店や持ち帰りサンドイッチ屋さんなどが密集しています。

写真で左ななめ奥に進む狭い道はサン・アンドレ・デ・ザール通り(Rue Saint André des Arts)。感じのいい小物屋さんや渋いカフェなどが並び、最近お気に入りの道です。そのまままっすぐ行くと10分くらいでサン・ジェルマン・デ・プレ教会の裏あたりに出ます。



 

で、その真下はこのようになっています。前述したメトロ4号線のサン・ミッシェル駅。都心部を南北に縦断する唯一の路線なので(RER-B線はのぞく)、使い勝手がよく、いつ乗っても込んでいます。アコーディオンなどの流しの乗車率が高く、ついでのことにスリの被害報告がいちばん多い。北駅→東駅→シャトレ→シテ島→サン・ミッシェル→サン・ジェルマン・デ・プレ→モンパルナスとつなぐわけだから東京でいえば銀座線的なものですね。サン・ミッシェルを基点たらしめる要因でもあります。



 

毎年のように紹介しているので「またか」と思われそうですが、その広場に面して2つのカフェ・ブラッスリーがあります。手前がル・クルー・ド・パリ、向こうがル・サン・アンドレ。とくに何が美味いと思ったこともないけれど、場所的なことと安心感で、朝食・昼食・休憩・夕食・パブタイムとほぼ常用しています。クルーのほうは写真に見えているガラス張りの部分に2席あり、そこが空いていれば指定席。カフェは、昼食どきでなければ好きなところに座ってかまいません。ここの生ビールはステラ・アルトワ。アンドレは夜になると飲み屋ふうになります。こっちの生はクローネンブール。ちなみにトイレがきれいなのはクルーのほうです(トイレの要領を心得ておくことはパリでは必須事項です)。この並びにチェーン・レストランのシェ・クレマン(Chez Clémant)もあります。方々にあるので安っぽく思えるかもしれませんが、観光ゾーンの下手なレストランよりも質実のある内容だと私は思いますけどね。



 

クルーの「指定席」で、娘たちと。何やら巨大な品を目の前にしていますが、ショコラ・ヴィエノワ(chocolat viennois)なるものです。メニューで見て、ヴィエノワというのはウィーンのという形容詞なので、ウィンナーコーヒーからの連想でホイップクリーム入りのココアかなと見当をつけたら、当たりでした。でもこの寸法とはね。どうやって飲むのかな?

 

PART 3へつづく

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