Vers la région nordique ou l’Europe du Nord!: le Danemark et la Suède

PART3

 



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アンデルセンのファンとかキェルケゴールの信者とか(そんな人いるのか?)にとっては冒涜とも思えるようなデンマークのショート・ステイを終えて、これからスウェーデンに向かいたいと思います。発車案内表示を見ると1136分発のSJ特急は6番線とのこと。前述したように、この駅はプラットホームが地平面にあり、コンコースは1つ上のフロアですので、乗車するには階段かエスカレータを下りていくことになります。シェンゲン協定がありますので往年の「国際列車」ほど身構えなくてもよいらしく、東京駅でいえば、上野東京ラインの電車が普通に発着するホームにちょっとだけ異質なスーパービュー踊り子の編成が入ってくるくらいのものだな。それでもなにぶん長距離の移動なので、ミネラルウォーターのペットくらい買っておいたほうがいいかもしれない。駅構内には飲み物食べ物あるいは土産物などよくあるタイプの売店がいくつも出ているのですが、驚くことにことごとくセブンイレブンです。市内を3時間散策しただけでも10軒くらいは出会ったし、コペンハーゲンというかデンマークというところはセブンイレブンに支配されているのではないかと思えるほど。東京の都心近くに住んでいる私の家の周りには、徒歩圏内だけで20軒を超えるコンビニがあり、東日本だけにセブンイレブンの割合は当然高いのだけれど、駅ナカにはほとんど見かけないですよね。京成電鉄が構内売店をファミリーマートに委託したのと似たようなことをデンマーク国鉄はやっているのかな?

お水はたくさん並んでいますが、表示がデンマーク語なので種類がわからん。そばにいた店員に、これはスティル・ウォーター(ガスなしの、日本では主流のミネラルウォーター)ですかと訊ねてから手にします。聞けば北欧で売られているお水は、ガス入りのほうが主流だそうで、それも文化なんでしょうね。ペットボトルをレジにもっていきかけたら、ワインが並ぶ棚が目に入りました。ああそうだ、ワインのボトルを1本買っていこう。これから移動するのにこのタイミングで重たいビンを購入しようと思ったのは、デンマーククローネの現金をほとんど使っていないので少し消費していこうというのと、これから行くスウェーデンは禁酒文化の国で、飲食店で飲むのはいいが町なかで酒類を購入するのは容易でない(国営酒店でしか売ってくれない)と聞いていたからです。ノルウェーも同じだそうで、ここデンマークはフリーなのだから違いが興味深いですね。同じ欧州でも、デンマークは本体にくっついており(ここシェラン島は微妙か)、スウェーデンやノルウェーはスカンディナヴィア半島という「対岸」だという違いがあります。まあ禁酒に関しては地理的なことよりも歴史的な要因がかんでいるようですが。


お昼前のコンコースには活気があふれる 構内売店はことごとくセブンイレブン!


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分くらい前に6番線ホームに降りていくと、けっこうな人の数です。近郊列車が出入りしている様子を眺めるのも楽しい。指定された6号車の停車位置を探して歩くと、ホームの先端近くで、どうやら先頭車両のようですね。これから私は、ストックホルム行きの特急でネースシェーまで行き、そこでローカル列車に乗り換えてイェンチェーピンをめざします。ネットで購入したチケットは込み込み481スウェーデンクローナ(SEK)。うち89 SEKDish of the Dayつまり「本日の料理」の代金で、PCの画面に「ぜひ車内でお召し上がりください」てなおすすめが出たので予約しておきました。機内食ならぬ車内食で、さほどの期待はないながら、お昼どきをまたいで走る便のため試してみてもいいかなと思ったのです。私のテキトーな欧州旅行もそれが普通になりすぎて自分でもそんなものだと思うようになりました。この段落の情報として、ネースシェー、イェンチェーピン、車内食と、事前のリサーチがまったくない話ばかりを並べております。正直に申しまして、私の知識は狭義の「西欧」に偏っており、北欧は空白地帯。行くことになって、あるいは現地に来て初めて「なるほど」ということが多いのです。

 
入線するスウェーデン国鉄のX2000型特急車両  右はドイツ鉄道から乗り入れているICE


発車3分前くらいになってようやく列車が入ってきました。長距離専用の駅でないので余裕のない運用になってしまうのでしょう。それでもこの駅は、欧州の多くのターミナルとは違って行き止まりではなくスルー方式ですから、やりくりはしやすいはずです。やってきたSJご自慢の特急車両X2000は、顔立ちはJR九州の787系みたいで、ボディはシルバー一色、横から見ると湯たんぽみたいな感じがします。その昔、東急初のステンレスカーだった5200系とか営団日比谷線の3000系なども湯たんぽよばわりされていましたね。まあ本物の湯たんぽをもう40年くらい見ていないような気もするけど。高度成長期に日本で生まれた高速鉄道の文化は、1990年代以降にグローバル化し、欧州でも高速特急花盛りの時代を迎えました。鉄道マニアとしては大いに歓迎したい事態です。このX2000もそうした流れの中で登場し、首都ストックホルムと第2の都市イェーテボリ(Göteborg)などを結ぶ路線に投入されています。ただフランスのTGV、ドイツのICE、スペインのAVEなどとは異なり、高速専用線を走る区間がほとんどないため、大半は「在来線」上での運行となって、一定以上のスピードアップを果たせていません。

列車は定刻に発車しました。私は進行右手の窓側、固定座席が前向きなのはよいとしても窓枠が視界を覆うハメゴロシ寸前の席なのは残念です。欧州の車両はなぜこの窓と座席の一致を図らないのか毎度不思議。たくさんの線路が絡み合う中央駅構内のエリアを徐行しながら抜けました。すぐに車掌さんが現れて検札します。当方のミールサービスの文字に目を留めて、食事は何とかかんとかとスウェーデン語またはデンマーク語でいうのですが、もちろん理解不能です。そもそも「車内食」は出前のシートサービスなのか、食堂車に出向くスタイルなのか。英語でそのへんを訊ねると、「ファイブ、ファイブ」といいながら隣の車両を指さしました。あまり英語が得意ではないのでしょう。5号車に行きなさいという意味だと解しました。あとで行ってみよう。

 
(左)「国境」のエーレスンド海峡を渡る 向こう岸がスウェーデン  (右)車内の様子


やがて列車は地下線に入りました。おやと思ううち1145分にカストラップ空港着。12時間前に来たばかりだから当然見覚えのあるホームです。ただ、ここを経由してスウェーデンに行くのだというアタマがありませんでした。考えてみればスカンディナヴィア半島に最も近接するデンマーク領はアマー島なので、そこにある国際空港を経由するのは当然でした。しばらくトンネルを走行していると思ったら、突然車窓が明るくなり、鉄橋にさしかかりました。いま走っているのがエーレスンド・リンクØresund link 正式の固有名詞としてはこの英語を用いるがデンマーク語でØresundsforbindelsen スウェーデン語でÖresundsförbindelsenの呼称も用いられる)のうちの橋梁部分。上部を自動車道、下部を鉄道が使用する橋になっています。子どものころ地図を眺めながら、こんなに近いんだから橋でも架けてしまえばいいのにと思ったものですが、技術とか予算とか国民感情とかもろもろあるんですよおとなの世界には。でも、距離的にはシェラン島と同じデンマーク領のフュン島(Fyn)を隔てる大ベルト海峡よりも、国際海峡であるエーレスンド海峡のほうが狭いのだから、欧州統合後の流れとしては当然、架橋しましょうよということになったわけです。全体が橋なのではなく、デンマーク側の約4kmは海底トンネル、地上に上がったなと思ったところはこの工事のために埋め立てた人工島でこの部分が約4km、そして橋梁部分が7.8kmです。全長でいえば東京湾アクアラインとほぼ同じ。私が通勤で利用する東西線には、荒川中川橋梁という長い橋があるのですが、あれが1200mくらいですからね。8km近くも橋の上、というか海の上を列車で走るのも妙な気分ではあります。

このエーレスンド・リンクはミレニアムの2000年に開通しました。相当な巨大プロジェクトであったわけです。学生からしばしば受ける質問は「国境ってどんなふうになっているのですか」。それはところによっていろいろだけど、欧州に関しては「県境」と何ら変わるものではありません。普通に列車に乗っていて、橋を渡ったら、そこが別の国です。あまりに短いデンマーク滞在を終えて、私はいまスウェーデン王国にやってきました。1209分にマルメ(Malmö)着。カストラップ空港と同じような地下駅らしい。おそらく、従来はスウェーデン国鉄の南端駅として地上の行き止まりホームが中心だったのが、エーレスンド・リンクの完成で直通列車が地下にもぐったのではないかと思われます。近鉄の大阪上本町駅みたいな構造ね。コペンハーゲンの「対岸」であるマルメにも関心があったので、ここに1泊くらいしようかなと思わぬでもなかったのですが、滞在時間を刈り取られたため列車でスルーするだけになりました。マルメでかなりの乗車があり、ほぼ座席が埋まります。私の隣には大学生ふうの若いお嬢さん。考えてみれば、南北に細長い国土の端っこ、本州でいえば下関の位置にあるのだから、基本的にはストックホルム〜マルメ間(およびストックホルム〜イェーテボリ間)が鉄道の大幹線にあたるわけです。海峡に橋が架かってデンマークにつながってから十数年しか経っていませんので、やはり基本的な動きは旧来の区間にあるといえるでしょう。ただ、マルメをはじめとするスコーネ(Skåne)地方の人にとってみれば、空港の利便性というのがものすごく高まったことは間違いありません。マルメは造船業を中心とした典型的な19世紀型工業都市であったため、20世紀後半にはかなり衰微していたのですが、リンク開通で息を吹き返し、コペンハーゲンとの連動でITや教育に力を入れた都市再生を図っています。

 
 
ビストロ車でお昼ごはん


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24分にルンド(Lund)着。ずいぶんオールドスタイルな跨線橋があるし、車窓から見るかぎり地方都市そのものという雰囲気ですが、ここは著名な大学都市でもあります。隣席のお嬢さんがお弁当?を取り出しそうな様子だったので、先に通してもらって、5号車に食事しにいこう。もとより往年の「食堂車」が連結されているのではなく、それこそセブンイレブンの食料品コーナーをそのままはめ込んだような売店に、若干のイートインスペースがあるだけです。知るかぎりフランスやドイツではBar(バー)と名づけていますけれど、この車はBistro。フランスのビストロってそれこそ意味が違うと思うのだけど、いいのか。レジ横に立っていた若い女性乗務員(これがまた超美人)に、切符に書き込まれたそれらしい文字(Dågens varmrått håmtas i bistron / Dryck ingår)を示すと、「お名前は」とお訊ね。古賀ですと名乗れば、ホテルの朝食の要領で手許のリストとつき合わせて当方の名を確認していました。食事は何種類かあるようだけど、「こちらのお肉料理がお勧めです。いかがですか」と、ビーフの煮込みみたいな料理の皿を示します。んじゃそれで。おねえさんはプラスティックの「弁当」をレンジにかけて温めました。事前予約のセットだと、冷たいドリンクと、温かいコーヒーまたは紅茶がつくそうです。スウェーデンのライトビールがあるそうなのでそれを頼みました。国営酒店以外ではアルコールを買えないスウェーデンにあって、ライトビールは例外だと聞いていました。「ここで召し上がりますか? お持ち帰り(to go)?」 ――ここで。そのあとおねえさんは、レジに備えつけられたバスガイドさんみたいなマイクを手にすると、そこから全車両にスウェーデン語と英語で放送をはじめます。「ビストロ・カーでは冷たいお飲み物、○○や△△などをご用意して、皆様のお越しをお待ちしております」みたいな内容。日本の新幹線から食堂車が消えて久しく、昨今は売店まで消えて車内販売オンリーになってしまいました。車販も好きだけど、座席とは違う場所に出向いて飲み食いするゆとりも本来はほしいよなあ。私が子どものころは、山陽新幹線が博多に到達する前で、東京〜九州間は飛行機でなければブルートレインと相場が決まっており、食堂車に連れていってもらうのが何より楽しみでした。新幹線にも食堂車は必須で、国鉄最後の名車といえる東海道・山陽100系では2階建て部分の2階に食堂車がついていました。最後に利用した日付まで憶えています。1988228日。前日まで大学入試のため東京に滞在していて、ひかりに乗って(のぞみはまだなかった。大学合格への望みは大いにあった 笑)福岡に帰るとき、カツカレー食べたんだよね。縁起を担いだのではなく、高校生の予算で食べられそうなのがそれくらいだったということです。

おねえさんがチンした弁当箱を運んできてくれました。パエリアとビーフシチューですね。機内食でも、この種のお米と肉の組み合わせがよくみられます。何にも期待していなかったけど、それなりに美味しい。少なくとも機内食なんかよりはずっと美味しい。気圧の関係とか保存の問題やらいろいろあるのは承知していますが、機内食ってどうしてあんなにまずいのかね。ビストロ・カーにはぱらぱらとお客があり、大半は飲み物やサンドイッチを購入して席に戻っていきます。デンマーククローネでも買い物できるらしく、その場合にはレジで変換する操作がある様子でした。オーストラリアから来たという若い女性は、私の目の前で美人乗務員さんと5分くらい立ち話。何だったかの音楽関係のフェスがあるのでそれに参加するのだといっています。スウェーデン語ではなく英語を話すお客がけっこう目立つ。そのうち女性車掌も現れ、イートインスペースにいた私を含む数人の切符を検札していきました。指定券なしで乗る客がいないかどうかチェックしているのでしょう。さすがスカンディナヴィア半島で、針葉樹林と深い青色をたたえた湖沼が車窓に連続します。いい景色を眺めながら飲み食いするなんて最高ですな。

 
ネースシェー到着


小一時間くらいビストロにいて、席に戻りました。ルンドのあとは、ヘスレホルム(Håssleholm)、エルムフルト(Ålmhult)、アルヴェスタ(Alvesta)と停まっていきます。どことも田舎の駅っぽくて、気分としてはJR北海道の特急で函館〜札幌間を往っている感じになってきました。アルヴェスタ到着時には「カルマル方面はお乗り換え」とのアナウンスがあります。いま走行中の線路はスウェーデンの細長い国土のちょうど真ん中、背骨あたりを通っており、カルマル同盟のカルマルはそこからバルト海側に90度折れて進んだ先にあります。1408分、ネースシェー(Nässjö)に到着しました。デッキで下車待機していた中東系の兄さんがEチケットを見せて何やら質問してきますが、残念ながらその質問も、書かれている情報も理解できません。英語でお詫び。先ほどビストロに検札に来た女性車掌が彼と何やらしゃべってからホームの係員に引き継いでいたので、乗り継ぎのトラブルとか乗り過ごしとかそういうことだったのかな?

ネースシェーは乗り継ぎの関係で立ち寄っただけで、町の情報はまったくありません。これから乗るローカル列車が1446分発なので町を歩く余裕はありませんね。駅舎は非常に小さく、跨線橋に登っていくエスカレータの周囲に、申し訳程度のベンチが配置され、売店とカフェが1軒ずつ。お手洗いを使おうと思ったら5 SEK硬貨専用とのことです。スウェーデンの通貨は成田で両替した100 SEK紙幣4枚と50 SEK紙幣2枚があるだけなので、カフェに入ってエスプレッソを頼み、5 SEKを混ぜてくださいとお願いしました。しかしエスプレッソは出てきたものの、「いつもあるのに、今にかぎって5 SEKがないの。ごめんなさい。お手洗いですよね。すみませんが前の売店で頼んでみて」と店のおねえさん。いま行かなければならないほど緊迫した感じではないものの、お手洗いは行けるときに行きましょうというのが海外旅行の鉄則なので、売店でお水のペットボトルを購入してめでたく?5 SEKを入手しました。これまで欧州各地に出かけていて買い物には慣れたものですが、欧州通ならではの弱点というものがあります。なまじユーロという統一通貨があるため、非ユーロ圏に入ると相場感がわからなくなり、そもそもどんな紙幣・硬貨があるのかというところで悩んでしまいます。数日の滞在ならなおさらですよね。私は外貨用の財布を3つもっていて、1つがユーロ用、もう1つが英国のスターリング・ポンド用で、残る1つは「それ以外」。昨夏はスイスに出かけましたのでスイスフランを入れておりました。ユーロ用と色違いで、「地球の歩き方」特製のチェーンつきのやつです。これがなかなかすぐれもので、紙幣と硬貨の場所が2つずつあるため、2系統の通貨を同時に持ち歩くことができます。したがってデンマークからそのままやってきたスウェーデンで、財布を交換する必要はありません。


ネースシェー駅のお手洗い 個室ごとに硬貨投入口があり、中で施錠すると赤ランプに変わる


ネースシェーから今日の目的地イェンチェーピンまでは30分ちょっと。ホームに行ってみると、往時の湘南型みたいな2つ目の、ややくたびれた電車が停まっていました。2両編成です。乗客は1両に10人前後かな。ネースシェー駅構内を抜けると、列車は左にカーブして森林の中を走ります。ときどき畑や牧草地が現れます。イェンチェーピンという本線筋から少し外れたところをたまたま選んだ関係で、このようなローカル列車に乗ることができてよかったです。途中にいくつか駅があり、どうやら無人駅のようで、乗ってきたお客は車内にある券売機で切符を購入するか、スマホにデータを取り込むかしていました。JRのローカル列車もワンマン化されて、運転台の横にバスみたいな運賃箱を備えるものが多くなりましたね。

 
(左)ネースシェー駅からローカル列車に乗り込む  (右)車内の様子


ずっと森の中を走っている気でいたら、いつの間にか右手に広い湖が広がっています。ヴェッテルン湖Vättern)ですね。無数の湖沼があるスウェーデンでも面積第2位の、南北に細長い湖です。いま見えているのはその南端部。イェンチェーピンのホテルをネットで探しているとき、このあたりの位置関係をグーグルマップでずいぶんと見たので、いま走っているところがだいたいわかります。そろそろイェンチェーピンの町にさしかかりました。予約したホテルは、駅から東側、つまり鉄道で来た方向に戻った線路沿いにあったはずで、そちらを見るとホテル名をはっきりと読み取れました。これなら迷うことなく歩いていけます。1519分、列車の終点であり本日の目的地であるイェンチェーピンJönköping)に到着。ホームは1面しかなく(実はそうでないことが後刻の観察でわかります)、田舎の駅という風情なのですが、ガラス張りの駅舎がずいぶんと立派。それよりも何よりも、線路の先はすぐヴェッテルン湖で、ホームからは広い湖をじかに見通すことができます。うわ〜、これはなかなか見事だ。

 
 これぞ「湖畔の駅 イェンチェーピン


そもそもなぜこのイェンチェーピンに来たのかというと、(1)コペンハーゲン〜ストックホルム間のどこかで1泊、(2)できればガイドブックに載っていないところがいいな、(3)景色がよかったら最高だな、という条件で地図帳(愛読書である『最新基本地図』、帝国書院、2013年版)を眺めるうち、この湖畔の地名を見つけたのでした。考えてみたら往年の地図少年も、名前を知っているスウェーデンの都市となるとストックホルム、イェーテボリ、マルメくらいで、地方都市についてはほとんど知りません。北欧に関する外形的な知識がすっかすかなのです。いつものBooking.comで検索してみたらけっこうな数のホテルも出てくるので、それなりに大きな都市ではあるのでしょう(人口約8万人)。「地球の歩き方」に項目がなく、日本語版ウィキペディアも必要最小限の記述しかないので私にとっては好都合です。といって、何かを期待しているのでもなく、いつものように町歩きして何か見つけたらラッキーと考えているわけね。

駅はバスターミナルを併設していて、ホームから段差なしで歩けばすぐに路線ごとに設けられたバス乗り場に行けるようになっています。なかなか見事な造りです。コペンハーゲンで買ったフルボトルのワインに加えて、ネースシェーでは水を買い足していますので、リュックがかなり重たくなっている。北欧とは申せ、日の出ている時間帯は暑いですね。駅から歩いて8分くらい、先ほど走ってきた線路沿い(したがって当然湖のほとり)にヴォックス・ホテルVox Hotel)が見えました。

 
 ヴォックス・ホテル とにかく部屋数を増やしたい一心のレイアウト・・・


入ったところは食堂とラウンジで、そのレジを兼ねたような感じでレセプションがありました。若い女性従業員に予約した旨を伝えると、タッチパネルを操作してエントリーするようにと。空のカードにキー情報を入力する作業もこちらでするというわけです。朝食の会場、キーの使い方、Wi-fiのコードなどについてひとわたりのレクチャーが済んだあと、「お部屋は0階です。そちらのエレベータか階段をお使いください」と。え? ここが0階ではないのか。指図に従ってエレベータに乗れば、なるほどレセプションは1階で、ワンフロア下に0階がある。外観はそういう構造には見えなかったんだけどなと思いつつ0階に降りると、そこは天井も低い、完全なる地下1階でした。部屋に通ってみれば、何とびっくり窓のない部屋、本物の地下室じゃん。もちろん広いベッドとテレビ、清潔な水まわりが揃っていて、設備的には問題ないのだけど、窓なしの地下室って信じられんな。ラブホテルじゃあるまいし、日本だと法令違反になるんじゃないのかな。1泊朝食つき695 SEKは高いのか安いのか。ま、夜寝るだけなので何か具体的に困ることがあるわけではありません。息苦しくなったら1階のラウンジで酒でも飲もうかな。

ともかくも荷物を置いて、上着を脱いで半袖の夏スタイルに着替えてから表に出ました。16時に近づいていますが、欧州の夏は日没が遅いので、小さな町であればだいたい見ることができると踏んでいます。ガイドブックに載っていないということは手許にイェンチェーピンの地図もありません。ツーリスト・インフォメーションはあるはずだからマップを入手したいところです。ただ、テキトーに歩いてどうにかなる規模の町のような気もします。

 
イェンチェーピン市内 (左)オストラ・ストーリ通り  (右)ハムン運河付近


ヴェッテルン湖畔にへばりつくように鉄道の線路があり、並行して道路があって、そこにホテルが面しています。まずは湖畔とは反対側、町なかとおぼしき方向に歩きましょう。湖岸と並行するオストラ・ストーリ通り(Östra Storg)というのが商店の立ち並ぶにぎやかな道であることはすぐにわかりました。H&Mやマクドナルドなど欧州各地でしょっちゅうお目にかかるチェーン店もあります。Östraはドイツ語やフランス語、何なら英語からの連想で東かなと思います。東ストルグ通りかな? この付近は全体にイマドキ感というか、強い生活のにおいがしない、田園都市線の沿線みたいな雰囲気(といっても田園都市沿線もずいぶん手垢がついてきてまともになった気はする)。まっすぐ西に歩くと、水路に行き当たりました。ハムンカナレン(Hamnkanalen)とあり、後段はcanalでしょうからハムン運河でしょうか。さっき列車が駅に着く直前に見えたところでした。運河の周囲をちょっとした広場として整備しており、子どもが水浴びできそうな噴水などもあって居心地がよさそうです。普通はこういうところに観光案内所があるんじゃないかと思うのに、ホテルと飲食店ばかりでそれらしいものがない。――と思ったら、おなじみのiマークとともにインフォメーションの所在を知らせる方向板がありました。ただ、それより先にムンク湖(Munksjön)の湖岸をめざそう。この付近の地形はなかなか興味深く、広大なヴェッテルン湖とわずかな幅の陸地をはさんで2つの小さな湖、ムンク湖とロック(Rock)湖が並んでいます。おそらくは砂礫などが堆積して、もともとヴェッテルン湖の奥まった湾だったところを分断したのでしょう。ホテルやオストラ・ストーリ通りのあるところは堆積によって生まれた地面に違いありません。

ムンク湖のほうはこじんまりして、池でもおかしくないくらいの寸法。周囲に新しい感じのビルが建ち込んでいるためか、町なかの貯水池みたいな印象です。湖岸に遊歩道が整備され、いくつかの飲食店がテラス席を並べています。最近よく見るシーサイドないしレイクサイドの開発例と同じだな。観光地っぽいのが嫌だとか都市的なのが苦手だというのではなく、この種のものはある程度の歳月を経て手垢がついたころに真価が現れると思っているのね。

 
ムンク湖と湖岸の遊歩道

 やる気のなさそうな?観光案内所

湖岸から大きなiマークが見えたので、それらしい方向に歩いてみましたが、近づくとどの建物なのかわかりにくい。ようやく小さな入口を見つけてみれば、ごく普通のテナントビルです。そのまま進んだところ、反対側の出口近くにツーリスト・インフォメーション(表記はTourist Center)がありました。こんな奥まったところに案内所をつくり、しかも建物の入口にそれらしい表示を出していないというのでは、おもてなし指数がぐんと下がってしまいますよ。しかも、たまたまかもしれないけどカウンターは無人で、しーんとしています。もとより地図をもらいたいだけなのでその用事を果たせるなら私はどうでもいいですけどね。シティ・マップは無料のものがたくさんラックに挿してあったので1部もらいました。地図のほうはなかなかしっかりした、まともなものでした。

 

PART4につづく


この作品(文と写真)の著作権は 古賀 毅 に帰属します。