Aimez-vous la Méditerranée?

PART 7- 極小都市国家 モナコ

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ヴェンティミリアから所要25分、1248分にモナコ・モンテカルロ駅Monaco Monte-Carlo)に到着しました。車内アナウンスがフランス語に変わってうんぬんと申しましたが、この20分ちょっとのあいだに、電車はイタリアからフランスを通って、また別の独立国家であるモナコ公国Principauté de Monaco)にやってきたわけです。地図で確認すると、トンネル内のモンテカルロ駅のあたりがちょうどフランスとモナコの国境のようなので、ホームに降り立った段階で本当に「入国」したのかはっきりしませんが、いいや。

 
モナコ・モンテカルロ駅

 

ガイドブックを見てもさしたる記述がないけれど、見どころは駅の北側に位置しカジノなどのあるモンテカルロ地区と、南側の大公宮方面に分かれるとのことでした。ホームの表示を見ると手荷物預かりは北口のようなので、階段を上ってコンコースに出ます。ホームもコンコースも、銀座のギャラリーのような感じで上品。セレブな国という先入観にアジャストします。ところが、コンコースの表示では「手荷物」らしき部分に紙を張ってつぶしてあり、インフォメで「荷物を預ける場所はないですか」と訊ねたら「廃止されましたよ」と。旅行者が宿泊もせず途中下車でふらふらする国じゃないのかもしれないが、困るよね。すこし重たいけど、肩に担いでいこう。鉄道乗り歩きなのに大きなスーツケースを転がして街を転戦したらしいU子よりはずっとマシのはずです(記述の各所で教え子と張り合っているのがわれながら可笑)。

 
駅の階段を上ると、いきなりこんな景観!

 

トンネル内のホームからワンフロア上がったところにコンコースがあり、そこからエスカレータで3フロアぶんくらい上がると、ようやく地上に出ました。駅前広場はなく、目の前をバス通りが横切っていて、田園都市線の駅みたいな感じです。バスは€ 1均一で非常にお値打ちですが、まずは街の感覚をつかむため徒歩にしましょう。そのバス通り、シャルロット公女通り(Boulevard de la Princesse Charlotte)を北東に進むと、かなりきつめの傾斜になっていて(進行左側が坂上)、その前後が高級住宅地の装いです。高級マンションとか会員制の何ちゃらみたいなものも目立ちます。さすが。7分ほどで右折、目の前に見えてきました。

 
 高級住宅地を抜け、グラン・カジノへ

 

グラン・カジノGrand Casino)、申すまでもなく、モナコを独立国家たらしめる財源のひとつである社交場です。所得税ゼロですからねえ。表参道というかアプローチは、噴水と緑に包まれた静かでいい公園になっていて、OLさんふうの人たちや老夫婦なども散歩しています。金持ちの嫌味な感じはしないねえ(だから先入観だってば)。昼間は一見さんでも入館料を払えばふらっと入れるそうですけど、くたびれたジャケットに旅行カバンでは入りたくないから、スルー。建物を見られればよいので。

 
(左)グラン・カジノ (右)カジノに隣接するホテル・ド・パリ(Hôtel de Paris) 予備知識はないものの、見るからに超高級ホテル

 カジノ裏の国際会議場付近から見た地中海

 

振り返ると、ジェノヴァ以上に山が海に迫っていて、急斜面にマンションが林立している、ちょっと異様な光景です。使える土地は使おうということでしょうが、同じ発想でも段々畑とか棚田と違って、都市機能にしてしまおうというのがびっくりですね。神戸の北野あたりが似た傾向ですが、三宮付近まで降りてくると傾斜が緩くなり、海までかなりあります。モナコは、本当に海に向かってストーンと落ち込んでいる感じ。

街のサイズは思ったよりも小さかったので歩いて回れそうだけれど、荷物もあるので、カジノの近くから南の地区に向かって€ 1のバスに乗りました。大公宮の付近に行ければよかったのですが、バスのルートと停留所の名称と地図上の位置取りをつかまえられないうちに、バスは海に突き出した半島(この上に宮殿がある)のトンネルをくぐって反対側の商業地区に出てしまいました。大した広さでないので、それはそれでおもしろい。

 モナコの商業地区で、「われわれの雇用を守れ」とデモ行進

 

バスを降りてすぐのところに大きなカルフールのショッピングセンターがあり、老若男女が多数いてにぎやか。お手洗いを借りておきました。駅もそうだったけど、モナコのトイレは無料が原則なのかな? とても清潔に整えられているし、感心。センターのすぐ裏がやはり斜面になっているので、建物の階段やエスカレータを上ると、そのまま坂の上に出られるような構造です。目の前に大公宮の堅牢な「山」が見えていて、うわっと思わないでもないが、モナコ最大の見どころだしぜひ登っておこう。

 ショッピングセンターから見上げた大公宮


登るぞ!

 

大公宮Palais du Princier)は、宮殿というけど中世の城塞(château fort)そのものですね。石組みの城壁や、そこに開けられた矢はざま、曲がり角ごとに侵入者を迎撃できるような構えなど、興味深いものです。山肌にとりついた急坂を登るのは、秋に訪れた京都の石清水八幡宮に似た感じかもしれません。外国人観光客の姿が目立ちます。

  モナコ大公宮
 衛兵の交代

 

坂を登りきったところに石畳の広場があって、穏やかな色の宮殿が建っています。14時で、定時の衛兵交代式がまさにはじまるところでした。この交代式は、2年前の旅行で、やはり小国であるルクセンブルク大公国の大公宮で目にしています。ルクセンブルクでは1人番でしたが、モナコは2人。広場がゆったりとられているぶん、モナコのほうがそれっぽく見えました。ただいずれも、宮殿の前に目立ったガードはなく(数門の大砲が据えられていますが、これは歴史的な飾り?)、君主の邸宅というわりには余裕が感じられます。観光客がすぐ近くに行けてしまうのでね。広場には土産物屋が数軒あり、大公さまグッズでもあるのかなとのぞいたら、F1グランプリとサッカー関係が大半で、かなり世俗的。

 
(左)大公宮から見た地中海 (右)大公宮へのアプローチから見たモナコ港 四角い港湾の対岸の先端がカジノ付近です

 本日の第1カフェ

 

直近の電車はモンテカルロ駅1520分発なのでまだ1時間ちかくあり、坂を下りたところの広場に面したカフェのテラスで、宮殿を見上げながら赤ワインを。いま述べたように、2年前の旅行でルクセンブルクに行き、その帰路にブリュッセルのベルギー王宮を見ましたし、1年前はロンドンでバッキンガム宮殿を訪れています。フランスの隣国シリーズを継続するなら、残る大物はスペインということになるけれど、そこも含めて、フランス共和国の周辺には立憲君主国が多いですね。中でも、フランスの海岸の一部だけを切り取って「独立国」としているモナコ公国は、歴史的な経緯を間違えたら吉里吉里国(井上ひさしの喜劇小説のネタ)のようなパロディになってしまう規模。失礼を申しましたが、設定とサイズはそんなものです。2時間で主要なところを一回りできる範囲が「国」であるというのは、バチカンも含めて、国家というもののありかたの多様性を感じずにはいられません。

もちろん、ルクセンブルクやアンドラ、サンマリノ、リヒテンシュタインといった国家と同じように、モナコもまた中世以来の封建諸領の系譜を引くものの1つです。近代流の領域国家、国民国家の形成に取り残されながらも、さまざまな経緯から独立が保障されたのでした。ただしモナコは長く主権国家としては怪しい位置づけにありました。国家主権の根幹であるはずの外交・軍事をフランスが担当することを条約で認めていたうえ、大公(Prince)の血統が絶えた際にはフランス共和国に吸収合併される運命になっていたのです。ハリウッドの名女優だったグレース・ケリーは先代の大公レーニエ3世(Rainier III de Monaco)に見初められて公妃となり、子女をもうけましたので、モナコの独立にかなり貢献した人でもあります(若い読者にはなじみのない話かもしれないけど、「ケリーバッグ」は知っているでしょ?)。近代国家とナショナリズムの問題を研究しはじめた私にとって、現代のモナコの微妙な位置づけは非常に興味を惹かれることで、よその国ながら気になっていましたが、2002年にフランスと新条約が締結されて血統断絶条項が廃止され、2005年にレーニエ大公が亡くなったときも、グレース妃が生んだ長男アルベール2世(Albert II de Monaco)が順当に即位しています。ただし、この現大公は独身で公位継承権をもつ子どもがなく、さきざきどうなるか国民は早くも気をもんでいるとか。君主国はどことも苦労しますよね。

 


PART 8 へつづく

 

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