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2 ユニオン・スクエア トランプ・タワー


 ワシントン像

 

 

 
 
グリーン・マーケット


ユニオン・スクエアは、マンハッタンの「都心」の入口といったところに位置する公園で、もちろん何らの予備知識もありませんでしたが、緑あふれるいい感じのスペースでした。絵に描いたような大都会を想像していたけれども、マンハッタンは緑の配置が本当に上手で感心します。これがあるだけで人間の生活が確かにあることがわかるものね。公園の南側に、ニューヨーク湾のほうを向いたジョージ・ワシントンの騎馬像が置かれていました。君主制の歴史をもたない合衆国では「初代」の威光と権威は神話並みともいえます。そのわりに1ドルという最も少額の紙幣に肖像が載るというのは安っぽくないか? そこがアメリカか。


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時ちょっと前なので、食事している人たちもいます。ベンチのキャパがけっこうあるのがありがたい。私も、日陰になっているところを探して腰かけ、30分くらいただ座って足を休めました。ここに日陰ありと見たおばちゃんがやってきたので隣のスペースを提供。彼女も何をするわけでもなくぼーっとしています。年齢層は本当に多様で、さすがニューヨークやね。休憩中にガイドブックの地図をチェックしておきました。記事を読むと、この公園では週に4日、定例のグリーン・マーケットが開催されるとあり、きょう土曜はその日にあたります。気づきませんでしたが、座っていたベンチの背後のほうに市が立っていました。欧州でもしばしば見かける青空市で、野菜や果物、ハチミツや香辛料などの露店が並んで活況。トマト専門の店もありました。昼抜きのつもりでしたがちょっと電池切れになりそうだったので、すぐそばのプレタマンジェ(フランス風サンドイッチを主力商品とする英国のチェーン)でツナサンドのハーフを購入し歩き食い。東京にも数店舗あったけどなくなっちゃいましたね。パリのラファイエット0階にある店とシャルル・ド・ゴール空港内の店はしばしば利用していますが、ワシントン、ニューヨークともロンドンを上回りそうな頻度で店舗を見かけます。味はもちろん同じなのだけど、アメリカ東部はとにかく物価がめちゃくちゃに高く、ハーフのバゲットサンドが税込み$4を超えます(涙)。フルサイズだと$8超えだよ! 物価の高いパリでも、バゲットサンド1本で€5を超えることなんてまずないのに・・・。



五番街 エンパイア・ステート・ビルが見えてきた!

 
マディソン・スクエア・パーク周辺


エンパイア・ステート・ビル(六番街から見たところ 89日撮影)


休憩と水分とサンドイッチで多少のエネルギーをチャージできたので、マンハッタン縦走を再開。ユニオン・スクエア以北のブロードウェイは条里構造のタテ筋、○番街と呼ぶ道路群を30度くらいの角度で横切って北北西に向かいます。スクエアの北限が17丁目、ファスト・フードや衣料品店などが並ぶエリアを6ブロック進んで、23丁目でマンハッタンのメイン・ストリートのひとつ五番街5th Avenue)と斜めクロスします。Avenueは東から一番街、二番街・・・ でハドソン川沿いが十二番街なのですが、ゴバンガイという響きにはどうも特別なものがあります。あとで紹介しますが40丁目台の後半から50丁目台にかけてハイブランドが並ぶ世界屈指の高級ショッピング・アヴェニューで、シャンゼリゼや銀座通りに相当する(いやもっと格上の)道なのですね。それと、昭和世代はどうしてもペトロ&カプリシャスの名曲「五番街のマリーへ」(高橋真梨子がボーカルで歌っている)を思い出してしまうのです。あれって、なんで五番街なんだろう? NYじゃないの?

五番街とブロードウェイの交差点に面して、マディソン・スクエア・パークMadison Square Park)があります。MSGと同じようなネーミングですが、いずれも第4代大統領ジェームズ・マディソンを記念したもの。合衆国憲法の中心的な起草者で、近代政治とは何かというテーマで学ぶと必ず名前の挙がる人物です。


五番街の3334丁目にあるのがエンパイア・ステート・ビルEmpire State Building)。世界恐慌の真っただ中の1931年に完成した超高層ビルの草分けで、アンテナ部分を含めれば高さ443m、最上階は102階。WTCのところで記したように、私自身はこのビルの印象がさほどでもなく、キングコングがよじのぼるシーンが思い浮かぶ程度ですが、まあアメリカの繁栄を体現するような建物ではあります。マンハッタンに来ておいて摩天楼に登る気がまったくないのもツーリストとしてはどうかと思いますけれど、並ぶの嫌ですし、高いところも不得意なのです。実はまだスカイツリーにすら登っておりません(笑)。



六番街(手前)とブロードウェイ(直進)の交差点

 
 
六番街(下2枚は89日撮影)


いよいよマンハッタンの中心部、ミッドタウンMidtown)に入っていきます。ここに宿泊しており、前日は夕方にチェックインしたあとで地図をもたないまま一周してみました。ブロードウェイと六番街の交差するあたりには小さなコリアン・タウンがあり、ここも明らかに韓国系の顔立ちの人たちが大勢集まっていました。


この界隈は東京でいえばたぶん新宿で、きょうここまで見てきたようなアメリカらしさは引っ込み、それこそ東京でもソウルでもどこでも見られるような大都市中心部の景観になります。長いこと欧州各都市を歩いていますけれど、ロンドンの中心部にややその傾向はあるが、それ以外のところではそうした無国籍性というのをあまり感じないんですよねえ。いや、それこそがアメリカ化ということなのかもしれません。GlobalizationすなわちAmericanizationなのだという見解はわりと普通ですしね。

欧州各都市にあるスターバックスの画像を何十枚も見せて、グローバル化ってこういうことだぞというのが私の近年の鉄板ネタなのですが(拙編著『教師のための現代社会論』、教育出版、2014年、pp.94-99に文字化しています)、外国に行くことに身構えていたがこれなら大丈夫そうだという反応が必ずあります。「これなら」という部分に若干の寂しさを思いつつ、でも、そういっている私自身が、だからこそまったく身構えずに空を飛び海を越えているような気もする。そして、香港の銅鑼灣(Causeway Bay)にしてもソウルの明洞(명동)にしても、そこ自体は無国籍でありグローバルだけれど、すぐそばにコテコテの民族的なエレメンツがしっかり存在します。ここマンハッタンもたぶんそうなのでしょう。




ペン・ステーション&マディソン・スクエア・ガーデン(89日撮影)
私が中学生だったころの男子はみんな「マジソンバッグ」をもっていたけど、あれって・・・

 

 
 
(上)アムトラックのペン・ステーション(89日撮影)
(下)NJトランジットのペン・ステーション(812日撮影)


エンパイア・ステート・ビルをはさむ東西の道路、33丁目と34丁目は、六番街とブロードウェイの交差点を経て、7番街のマディソン・スクエア・ガーデンMadison Square Garden :MSG)正面に行きあたります。MSGといえばアメリカ興行界の殿堂ともいえる場所で、シアターとアリーナ、いずれも大きな収容人数を誇ります。リトル・イタリーのところでサンマルチノの名を出しましたが、プロレス・ファンだった私にとってはWWWF(のちWWF、しかし世界自然保護基金に訴えられてWWEと改称)の興行地の印象が最も強い。1980年代までは、ジャイアント馬場の全日本プロレスがアメリカの主流であるNWAと提携していたのに対し、アントニオ猪木の新日本プロレスがWWFと組んでいたため、MSGシリーズとかMSGタッグ・リーグと銘打つ興行が日本でもおこなわれました。1990年代に入るころからWWF/WWEはショー化の傾向を強め、肉体をぶつけ合うソープ・オペラ(通俗的な連続テレビドラマ)そのものになっていったため、日本の従来からのファンの多くは注目しなくなっていきます。ただ、いかにもアメリカ的なショー文化ですので、BSやネットで新たな人気を得てはいました。WWEのボス、ビンス・マクマホンの「貴様はクビだ!」(You’re fired)という決めゼリフをパクったのは誰あろうドナルド・トランプで、2007年にマクマホンとリングで対決したのには驚きましたが、トランプと「プロレス」との親和性の高さは現在にも通じていますね。

新宿といったけれど繁華街の真ん中に駅がポンと現れる感じは大阪ミナミのなんば駅に近いかも。MSGは鉄道の一大拠点ペンシルヴェニア駅Pennsylvania Station)と同居しています。通称ペン・ステーション。私は前日の午後に、ワシントンのユニオン駅からアムトラック(Amtrak 全米で長距離列車を運行する公営企業体)の特急列車に乗り、このペン・ステーションに着きました。また明後日にはニュージャージー州にあるニューアーク・リバティ国際空港(Newark Liberty International Airport)から帰国便に乗るため、NJトランジット(New Jersey Transit NJ州の地域交通を担当する公営企業)の列車を利用することにしています。アメリカの鉄道はいわゆる上下分離(インフラ管理と運行会社が別)がおこなわれており、この駅とその線路は両社のほかロングアイランド鉄道(Long Island Rail Road)が共有。ただしホームやチケット売り場などのスペースは分離されています。田園風景を走る列車に乗ってきて、ニューアークあたりで都市的な景観にはなるがゆとりがまだあり、ハドソン川の手前で地下トンネルに入りペン・ステーションで地上に出ると、信じられないくらいの大都会!という前日のプロセスはわれながら完璧でした。NY初心者としてはそういう「おのぼりさん」感を設定したほうがわくわくします。空からでなく陸路でニューヨークというのは、日本人にはあまりないパターンかもしれません(入国地はワシントン・ダレス国際空港)。



 
Moxy NYC Times Square ある意味潔いかも (室内は89日撮影)


今回の宿はMSG&ペン・ステーションから徒歩5分ほどのところです。14時を回りましたので、いったん部屋に戻って休憩しようかな。と、思ったら、この時間なのにハウス・キーピングが未着手でした。連泊客の客室をどのタイミングでクリーニングするかはホテルの方針と当日の状況によるのですが、海外ではたまにこのように間の悪いことがあります。このホテルは異例のことに(あるいはニューヨークでは普通?)チェックインが16時からとなっていますので、14時は余裕という設定だったのかもしれない。休憩といっても長居できそうにないので、小一時間にしておきましょう。

このMoxy NYC Times Squareは、数週間前に予約サイト経由で3泊朝食つき$480(+消費税14.75%+滞在税1泊あたり$3.50)で押さえました。ニューヨークのホテルはとにかく高値だと聞いていたのでそれなりに覚悟してはいたのですが、チェックしてみるとたしかに相場が欧州では見たことのないレベル。込み込みで1泊あたり2万円弱にもなりますが、まあびびるようなキャリアでも所得水準でもないので、このへんはそうなのだと思うことにします。香港も相場が高くて、昨秋に訪れたときにやはり2万円弱でした。レセプションまわりはホテルというより娯楽施設のエントランスのような雰囲気で、イケてる感じのおねえさんがカッコよく案内してくれました。カードキーをスキャンさせないと館内エレベータが動かないというのはこのごろ普通になりかけていますけれど、ここのは階まで指定して初めて箱が来るというしくみ。箱の中にはボタンがなく、外で指定した階に直行します。妙にハイセンスなレセプションとシステムではありますが、客室はずいぶん狭く、若者が借りる安アパートの一室のような設定。もとより一通りの設備は整っていますし、機能的にはまずまずなのですけれど、小さな洗面台がトイレ側ではなく客室内にあるというのは独房的でなんだかな〜。デスクがないのも困ります。

ま、ただ、場所は最高にいいですし、いつもと違った感じで過ごすのもNYっぽくていいなと思いなおしました。夜、フローリングの地べたに座ってバドワイザーやカリフォルニア・ワインを飲んでいると、学生時代の寮生活に戻った気分であんがい楽しかった。


 
七番街

 


タイムズ・スクエア 左の道路がブロードウェイ、右が七番街(南側を望む)

 
タイムズ・スクエア付近


別にせっつかれているわけではないが、いずれそうなるのは確かなので、15時前に再起動しました。夏時間で20時過ぎまで明るいのはわかっているのだけど、ワシントンでもニューヨークでも歩きどおしなので消耗しすぎるわけにもゆかず、きょうはあと23時間かな。MSG&ペン・ステーションとホテルが面しているのが七番街。歩道に人があふれるさまは新宿と同じですが、両側の建物が非常に高い壁のようになって空を覆うのがマンハッタン中心部らしくていいな。香港もそうなのですが、あちらは色や形があまりに不均質で、そこが香港らしいところ。

ホテルは36丁目ですが、七番街を北に5ブロック進んだ42丁目から47丁目にかけて、例のブロードウェイが七番街と斜め交差する箇所があります。斜め交差は路肩部分を含めると広小路のようになりますので、それが単純な条里構造にうるおいと変化をもたらしています。この交差点がタイムズ・スクエアTimes Square)。わいわいという群衆の声とキラキラ、ギラギラしたネオンに彩られた空間は、いうなれば世界でもっとも著名な交差点です。ロンドンのピカディリー・サーカス、東京の銀座4丁目と比べられていましたが、このごろは渋谷駅前のスクランブル交差点のほうが対比先としてよさそうですね。


ホコ天になっているわけでもなく、もとより道路交通量も大変多いのだけど、歩道部分が広いので路上パフォーマンスなども見られます。スターバックスにアップルストアなど、イカニモなグローバル・チェーンがいい位置を占めています。かつてはニューヨーク、そしてアメリカの治安の悪さを象徴するような場所だったのですが、1990年代にルドルフ・ジュリアーニが刑事司法出身のキャリアを引っ提げてニューヨーク市長に就任すると、マフィアとの全面対決やメディアを挙げてのキャンペーンなどを大々的に展開して状況を大幅に好転させました。いまもスリなどに注意とはいうものの小さな子ども連れでも普通に出かけられるようになっているのは非常によかったと思います。彼の在職中は、検挙率を上げるためにマイノリティの抑圧を繰り返したことや民主的でない強引な手法に対する批判を多く目にしました。物事はそのようにいろいろな面を含むということです。

 


 
ロックフェラー・センターとコムキャスト・ビル

 

 

 
 
五番街に集まるハイブランド (上左)カルティエ、ヴェルサーチェ (上右)フェラガモ
(下左)ドルチェ&ガッバーナ、オメガ (下右)ティファニー本店


私たちが通常「ブロードウェイ」というときには、「本場のミュージカル公演」のメタファーになります。ここまで目印にしてきたように、固有名詞としてのブロードウェイはマンハッタンの南北を貫通する長い道路のことですが、タイムズ・スクエア付近に劇場が集まり、商業演劇のメジャー・リーグの舞台となっていることからそうした用法が世界に広まりました。芸能の世界でも、人々はニューヨークをめざすわけです。すごい求心力だな。

七番街をもう少しだけ歩いて、50丁目を東に進むと、ロックフェラー・センターRockefeller Center)があります。大富豪ロックフェラー家が第二次大戦前に手がけた複合商業・ビジネス施設群。中心部分が方形のくぼみのようになっていて、テントつきのカフェになっています。冬場はスケートリンクになるらしい。ここに置かれるクリスマス・ツリーはよくテレビに映りますね。バブルのころ三菱地所がセンターを買収して全米の反発を食らったのもなつかしい。


五番街にあるセント・パトリック大聖堂


ロックフェラー・センターで最も高い建物はコムキャスト・ビル(Comcast Building 旧名のGEビルの呼称が知られる)で、高さ260m。トップ・オブ・ザ・ロックと呼ぶ展望台も人気があります。

センターが面している五番街に出ます。このあたりから北側一帯がハイブランドの並ぶゾーン。ZARAのようなファスト・ファッションも混じっているのがいまどきなのだけど、やっぱり壮観です。ハイブランドには一生用事がなさそうで、とくにうらやましくも悔しくもありませんが、ブルガリの香水を愛用しているあたり何かのこだわりが残っている? 著名なブランドの中でも57丁目の角に面したティファニーTiffany & Co.)はここが本拠ですので、外側だけ(笑)ちゃんと見ておきましょう。映画の中でオードリー・ヘプバーンが朝食をとった(というわけではないけど)のはここのことです。このほど即位された新しい陛下が独身のころ、お妃の条件を問われて、「ティファニーであれやこれや買うような方」はダメとおっしゃったのはとても印象的でした。あのお立場で具体的な社名を挙げてよいのかなと思ったものの、ティファニーの価値は相当高く見ておられるということですよね。



 
トランプ・タワー(黒いビル) 星条旗がいい感じで映っている?

 

 
タワー前で反トランプを訴える団体を遮るように、支持者たちが大声を上げる


ティファニーの1軒隣がトランプ・タワーTrump Tower)。低層階にはグッチなどのブランドも入る商業施設が入り、上のほうはオフィスと、超高級マンションになっています。イースト川沿いのトランプ・ワールド・タワーともども著名人の住まいになっていることでも有名。いうまでもなくドナルド・トランプの所有物件で、彼とその一家の私邸もここにあります。彼のキャラから想像していたほどにはこってりしていなくて、控えめな造りでした。

民主党・共和党のどちらがいいとかいうレベルではなく、トランプのような人物を選んでしまったところに、アメリカも底が抜けたなという感想をもちました。まあ2010年代は欧州でもアジアでも、民主主義とか近代の常識的な枠組を平然と逸脱する流れがありましたよね。大衆の支持が拠りどころではあるが、支持しない層だってかなりあるわけで、それらと向き合って対話し調整するというのが従来の民主主義だったはずですけれど、トランプはじめ世界の暴走機関車たちは、内向きの論理をひたすら(臆面もなく)語り、支持しない側には罵声を浴びせ、公然と貶めます。困ったことに、それを支持する一般人までが反対派を罵倒し、貶める。ツイッターなどの装置がそれを増幅しています。2020年代の世界は、どうなるのでしょうか。


合衆国大統領官邸ホワイトハウス(ワシントンD.C. 89日撮影)





PART3へつづく

 

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