PART 1 海峡の町を歩いて乗って・・・

 

パリ都心の北西、オペラ座の裏手にあるサン・ラザール駅Gare Saint Lazare)は、225日、月曜朝の通勤時間帯を迎えようとしています。ヴェルサイユ観光の帰りに使ったことはありますが、ここから遠出するのは2001年春にジャンヌ・ダルク終焉の地ルアン(Rouen)に行ったとき以来だからもう干支一巡か。パリから鉄道で「外国」へ行こうとするとどうしても北駅、東駅、リヨン駅ということになってしまいます。サン・ラザールから出る長距離路線(Les Grandes Lignes)はノルマンディー方面のみ。今回はルアンを通り越してノルマンディー最北部、ラ・マンシュ海峡に面した港湾都市ル・アーヴルをめざします。753分発のインターシティ(Intercités3103便はオール2階建ての、でもかなりくたびれた車両で仕立てられていました。サン・ラザール、ノルマンディーともども今のところはTGVなど高速列車とは無縁。

 
 サン・ラザール駅からインターシティで出発


座席指定ではないので前寄りの2階に座ると、だいたい乗車率は3分の1くらいでした。この列車は途中ルアン・リヴ・ドロワット(Rouen- Rive droite)、イヴト(Yvetot)、ブロート・ブーズヴィル(Breaute Beuzevill)に停まり、終点ル・アーヴルまではほぼ2時間。東京から房総あたりの港町を訪ねて日帰りで出かけるような感覚だと思えばいいですね。

花の都パリもその市域はかなり狭く、ターミナルを出発して10分くらいするともう郊外に出ます。北駅やリヨン駅からTGVに乗るとたちまち「原っぱ」に出くわすのだけれど、この方面だと小さな林とか小さな街が順ぐりに現れて、車窓はけっこうおもしろい。カーヴが少ないためかぐんぐん加速していきました。パリといえばセーヌ川La Seine)ですが、そのセーヌ川は大げさなほどに蛇行を繰り返して北西に向かい、ノルマンディー平原を突っ切って流れます。その河口付近にできた古い港町がいまからめざすル・アーヴル。往時は舟に荷物や旅客を積んでセーヌを上り下りしたのでしょう。現在ではほぼ同一のルートを鉄道が走ります。こちらは蛇行せず直進するので、何度か川を渡り越す箇所があります。車窓をよく見ると河跡湖らしきものを発見できました。一人客ばかりのため車内は物音ひとつなく静かです。9時ころルアン着。リヴ・ドロワット(右岸)の駅名でわかるとおりここはセーヌ川の北岸、それもかなり河道から離れた場所に駅があり、川とのあいだが旧市街になっています。鉄道は高いところを通っているため町の様子がよくわかります。ルアンはこんなに大きな都市だったかなあ。ルアンから先はセーヌ川と離れ、イヴトを経由して進みますが、そのあたりは一面真っ白で、プラットホームには5センチ近い積雪がありました。大丈夫だろうかと案じるほどもなく、海に近づくと雪はなくなり、955分定刻にル・アーヴルに着きました。ナントカ駅という副題?みたいなのはなくて、単に「ル・アーヴル」駅。

  ル・アーヴル駅


六角形の国土をもつフランスは、そのうち左上、左、右下の辺が海岸だと思えばよく、それぞれに代表的な港湾都市があります。左すなわち大西洋岸にワインで有名なボルドー、右下すなわち地中海岸にマルセイユ、そして左上、ラ・マンシュ海峡La Manche)に面した港湾都市がル・アーヴルLe Havre)です。日本での知名度は3市の中で最も低いでしょうが、イングランドが目の前ですし、ベネルクスや北部ドイツ、バルト海方面との交易には不可欠の港ですし、何より内陸部にある首都パリの外港という重要な使命をもっていますので、誇りの面でも実質的にも実はいちばん大事な港湾ということになりそうです。マンガより世界地図を愛読する変な少年時代を送った私は、当然ながら欧州方面の地形や位置関係もおおよそ心得ていて、なるほどパリは内陸だからル・アーヴルが機能するんだなと直感的に思いました。都市の配置というのにはだいたい法則性みたいなのがあって、地図を見ていれば気づくことが多いのです(そうやって都市密度の濃い欧州の人たちがつくったのが系統地理学なんでしょうね)。いらい30年経ってようやく実際にやってきたというわけね。

若干の心配が2つありました。1つは寒さ。今冬のパリは降雪こそないもののめっちゃ寒くて、常宿のレセプションを仕切っているスペイン生まれのアマヴェル嬢が「何でなの! 今年は寒くて寒くて寒くて寒くてかなわないわ!」てなことを昨日も大声でいっていました。もともとオーバーな表現をする女性ではあるのですが寒い(froid)っていう形容詞を5回ないし8回くらい使っていたと思う(2年前の311日にはビックリマークが8つもついた心配のメールを送ってきてくれました。多謝)。たしかに気温は0度とか1度。年が明けてからの東京も寒いけどそれほどに冷え込むことはほとんどありません。この2ヵ月前のクリスマスシーズンにドイツを周遊した際には、どうせ寒いだろうと思ってダウンもこもこの通称「満州コート」を着用していきました。しかし今般はあえて通常仕様。というのは、この2日後にポルトガルのリジュボーア(リスボン)に移動することにしており、そちらは15度くらいあるようだから、いくら何でもダウンもこもこでは暑くて耐えられまいと思ったのです。ところが2日前の土曜夜、夕食に出かけた際にマフラーを紛失してしまいました。ユニクロで買った小型の安物だから惜しくはないのだけど、風よけがないとまずい。しかも翌日は日曜でたいていのお店がクローズ。あちゃーと思いかけ、あ、そうだ、シャンゼリゼに行けば観光客相手のショップが日曜でもがめつく?商売しているに違いないと気づいて、行ってみたら案の定オールウェルカム状態でした。マフラー嫌いで日ごろ着用しませんし、シャンゼリゼも苦手でめったに行かないのに、こういうこともあるのね。西欧に行ったことがある人ならご存じと思いますが、繁華街、ときには地下鉄構内なんかにも小規模の店舗を構えるタイ・ラック(Tie Rack)という英国のチェーンがあります。ネクタイ、スカーフ、ショールなどの「長くて色のついた布」をたくさんぶら下げて販売しており、布を買う用事なんてそんなに頻繁にあんのかなあといつも素通りしていましたが、いやいやありがたい。シャンゼリゼのお店で、けっこうセンスのいいブルーのマフラーを見つけ、€14.95で無事ゲット。美人の店員さんが「いますぐお使いになるのですか。よかったです、このお品は€5引きになったばかりでお徳なんですよ」とか何とか。シャンゼリゼが不発ならル・アーヴルで現地調達もやむをえないかと踏んでいたのだけど、いまから見るように、ここにはさほどの店舗はなく昼前には見つけられなかったに違いありません。シャンゼリゼの悪口をいうのは(来年まで)やめておこう。


ル・アーヴル駅正面 男性形の定冠詞leは前置詞deと縮約されるのでGare de + le Havre Gare du Havre(ガール・デュ・アーヴル)と変形します
母音のはずのha-de l’Ha-と縮約されない理由についてはお調べください(笑)


もう1つの心配というのは、この都市についての事前情報がほとんどなく、地図すらもっていないということ。いわゆる観光地ではないので常識的に共有されている情報がほとんどありませんし、拙宅に1冊だけある6年前くらいの「フランス」というガイドブックに1ページだけ記述があるのだけど略地図がないという具合。グーグルマップをたぐれば、国鉄の駅が都心の東端にあり、そこから海辺まで東西一直線に大通りがあって、だいたいの道路がこれと平行または直交しているため、行けば何とかなるかなと思いました。このへんが旧市街、こういう雰囲気だと商業地・・・といったカンはわれながらよくはたらきます。町歩きセンサーの精度に期待することにするか。ネットの観光情報、とくに日本語のやつを事前に読むのはどうも気乗りしません。

 ストラスブール通り


東西の大通りというのがストラスブール通りBoulevard de Strasbourg)。ひとまずこれを西へ、海岸めざして歩くとしよう。小雨というか霧雨の感じで傘を差すほどではありません。ストラスブール通りにはトラム(路面電車)が走っています。LRTLight Rail Trangit)型トラムが都市再開発の中心として注目されつつある西欧で、このところ行った先々で「つい最近できたばかりのトラム」に出会ってきました。あとで調べるとル・アーヴルのトラムは201212121212分開業と、できたてほやほやらしい。半日滞在なのでどこかで利用することになるでしょうが、まずは町の寸法を体感するためもう少し徒歩で。それにしてもストラスブール通りはキレイすぎて変な感じだなあ。道路がやけにまっすぐなのと、西欧の旧市街にありがちな建物がひしめき合う感じがありません。トラムの路盤には西洋芝が敷かれて冬場の景観を彩ってくれます。

  市役所前からトラムに乗車


警察署、裁判所などを見ながら1km以上歩きましたが、まだ中心商業地(le Centre de Ville)らしきところには出ていません。センターを外して官庁街ばかりたどっているのかもしれない。ときどき横道にそれてみても、オシャレなカフェなんかはあるものの町としてパッとしません。そのうち大きな広場に出ました。Hôtel de Villeとあるので市役所だな。この広場はほぼ正方形で、車道は周辺に配され、中心部はトラムと歩道と噴水広場だけ。千葉・茨城方面の新しい都市の市役所前なんかがこんなふうに整備されるよね。案内板にOffice de Tourisme(ツーリスト・インフォメーション)とあるので見てみると、ここから16分とのこと。ずいぶん刻んだ数字で、たぶん正味20分くらいなんだろうなあ。駅構内の市街地図でインフォメーションを探したときには見つけられず、もしかするとあまりに海際なので見落としたのかもしれません。インフォメを早めに訪ねてシティマップを手に入れようと考えたのです。ずいぶんと遠いところにインフォメを設けたもので、ポイント下がりました。いま立っている市役所付近が駅から海岸までの中間らしく、それなら方針を切り替えてここからトラムを利用することにしましょう。

 トラムのチケット


市役所前電停に自動券売機がありました。新しいところはこういうのがありますよね。ワン・デイ・チケット(Titre Journée)を€3.70で購入。とかくコインとクレジットカードしか受け付けませんというパターンが多いフランスの券売機ですが、紙幣OKというのは新しさゆえか。€5紙幣を差し込んで、上の写真のような名刺大のカードを入手しました。ボール紙程度の厚みだけど磁気情報内蔵らしく、乗るたびにタッチしてくださいと、各都市で見たのと同じ案内が書かれています。この町のトラム自体が新しいのだから地元の人向けにも解説が要るよね。とはいえトラムはバスと同じ経営でLiaLes Lignes de l’AGGLO)の総称がついており、チケットは共用です。AGGLOとは何ぞやというと、ル・アーヴル都市圏公共事業体(Communauté de l’agglomération havraise)で、いま公式サイトで確認すると水道、エネルギー、公衆衛生などを総括的にやっている模様。日本の地方自治も、妙な市町村大合併だけでなく業務を三セク化した上で統合する手を考えるほうがいいのにな〜。ほどなく国鉄駅のほうからやってきた電車をつかまえると、すーっという滑り出しで実に気持ちのいい乗り心地です。ランスでやっぱりできたてのトラムに乗ったときにも思ったのですが、ここのも電停間がちょっと遠すぎるんですよね(地図はこちら)。そもそもトラムのよさは、地下鉄に比べて段差が少ないのと電停間が近くて全体にバリアフリーであることにあるのだから、もう少し近づけたほうがいいと思う。ともかく市役所前から2駅で終点のラ・プラージュla Plage 海岸)に着きました。

 ラ・プラージュ電停


ここは駅名どおりの海岸で、真冬なので人の気配はほとんどありませんが全体にリゾートっぽさが感じられます。何はともあれ波打ち際まで行ってみると、ぽつぽつ散歩する人とすれ違いました。砂浜ではなくジャリ浜で、海水浴場ではないのかな。ル・アーヴルの港湾地区はこの南側、セーヌ川河口へと回り込んだ方面に展開しています。小雨まじりの悪天で、空もグレーなら海水もグレーで、眺める景色がモノトーン。ラ・マンシュ海峡という地名は耳慣れないかもしれないけれど、対岸の英国ではThe English Channelまたは単にThe Channelと称し、日本ではそれを訳してイギリス海峡と呼んでいます。ドーヴァー海峡はその一部ね。ラテン語系統の言語ではMancheと呼称します。

  冬のラ・マンシュ海峡を眺めて


フランスにはもう十数回も入国していますが、だいたいパリで過ごしていますので、この国の海を見る機会はほとんどありません。地中海以外は初めてです。冬の海もなかなかいいものだなあ。ただどうにも寒いので、海岸ぺたにあるらしいインフォメで地図をもらって転戦しよう。と思ったら、インフォメは閉まっており、毎週月曜は14時オープンとのこと。観光案内所が日曜に開かないのもけしからんが、月曜に逆半ドンってどういうことだ? 文句をいっても仕方ないので、町歩きをしてからどこかで昼食をとり、そのあとここに来ればいいなとスケジュールを立てなおしました。帰りの列車が1703分で、パリからの時間距離と町の規模からすればやや多すぎる持ち時間を確保していますから、行きつ戻りつでも問題ありません。

海岸ぺたの道路標識にCentre Villeと方向表示があったので、たぶんこっちを歩けば中心商業地に出るかなと思い、ストラスブール通りの一筋北側のG.ブラーク通り(Rue G.Braque)を歩いてみることにしました。バス路線もある道路ながら、1ブロックに1軒お店があるかないかという程度でパッとせず、むしろ住宅街の感じです。あとで調べてみると、この街区はかろうじて戦災を免れたところらしい。いま歩いている通りから北は緩斜面になっていて、丘の上の住宅地も見上げるかぎりは古そうです。

 
(左)サン・ヴァンサン教会(Église Saint Vincent de Paul)   (右)ブラーク通り


何だかんだで、さっきトラムをつかまえた市役所前に舞い戻りました。このあと午後の散歩の成果も合わせて考察しますと、この町は市役所前を座標ゼロと考えて歩くのがやはり正解のようです。センターにふさわしい広場の造りですものね。ただ予想以上に町が広いのでこのペースのままだと疲労してしまいそう。カフェで小休止とも思いましたが、よさげなお店も見当たりません。そのうち雨足も強くなってきて、このままだと傘を開かないといけない状況です。よっしゃ、一日乗車券を買ったことだし、トラムの終点を往復してこよう。

 市役所前広場の噴水  博多・筥崎宮の「玉せせり」を思い出しました


市役所前の電停から、海岸行きと逆方向をめざします。できたてほやほやのル・アーヴルのトラムは2系統。ラ・プラージュからプラス・ジュネ(Place Jenner)までは同じ線路を走り、A線はそこから北西に進んでグラン・アモー(Grand Hameau)へ、B線は東へ折れてプレ・フルーリ(Pré Fleuri)が終点です。つまりY字になっているということね。別にどっちでもよいので早く来たほうをと待っていたらB線が来ました。開業2ヵ月ながらトラムは市民生活に溶け込んでいるらしく、座席がほぼ埋まるほどの乗車率でした。港町なので、というか西欧では当然のことに、さまざまな人種・民族の人が乗り合わせています。パン屋で買ってきたバゲットを手にした高齢のおっちゃんが何人かいます。これもフランスではおなじみの光景。「外に出たついでにパン買ってきてね」と奥さんに頼まれるのでしょうか。電車の中で知り合いに遭遇しておしゃべり、というシーンもこの往復で3組くらい見ました。

国鉄駅の電停名はなぜだか複数形のGares。何でだろ? Garesを過ぎた先は私にとって初めての地区になります。駅前からつづく広い道にはお店などもぱらぱら見えますがあまり流行っている感じはありません。電車が勾配を上りはじめたぞと思ったら、たちまちトンネルに突っ込みました。ここだけは道路と別の、電車専用のトンネルになっています。神戸や横浜を思い出してもらえばわかるように、ここも昔からの良港に共通する地形として、平野部分が狭く、斜面がストンと海に落ち込んでいます。市街地を拡張しようとすれば「山」の向こう側ということになるのでしょう。トンネルを抜けた先にプラス・ジュネ電停があり、ここでA線と分かれて右(東)に折れました。この先もけっこうきつい斜面で、連接のトラムはずいずいと登っていきます。多摩地区や横浜市北部の団地ゾーンをめぐると、丘陵の尾根みたいなところに2車線の道路があって路線バスががんばって登っていくというシーンによく出会います。まったくもってそんな感じです。バスよりもキャパの大きな電車が走るようになり、通勤や通学は格段に便利になったことでしょうね。

 
(左)プレ・フルーリ電停  (右)途中駅で


電車は途中で北に折れ、正五角形の4辺を回るように迂回します。複線の線路を確保できる道路がなかったか、勾配の関係か、沿線の施設の関係でしょうか。その間にもアップダウンがあり、一戸建て中心の新興住宅街のようなところから大型高層団地へと景観が変わりました。本当に田園都市線とか小田急線の沿線を見ているみたいね。市役所前から20分ほどで終点のプレ・フルーリに着きました。団地の真ん中の空き地みたいなところで、ここまで乗りとおすお客がけっこう多かったのでびっくり。何があるわけでもないのですぐ海岸行きの便で戻りますが、こちらもかなりのお客を乗せて走り出しました。ヒマつぶしではあるけれども、町の景観の推移を愉しむという意味では非常におもしろく、なかなか有意義でした。私、町なかの路線バスに乗るのわりに好きなんですよね。進路が事前に明らかな鉄道と違って、系統図では予想できないような凸凹とか狭い道とか変な曲線とかを進むのは、実にわくわくします(同好の士はけっこういるらしく、動画サイトには数多くの名迷路線の前面展望がアップされています。で、そういうのをまた見て楽しんだりします 笑)。それと同種のおもしろさってことですね。

ラ・プラージュの1つ手前(市役所の次)、サン・ロック(Saint Roch)で下車。海岸に戻るつもりなのですが、アプローチを変えてみました。とはいっても電車道から一筋裏に回って、さきほどのG.ブラーク通りを逆に進むだけです。13時ちかくになっていますが相変わらず人の気配はあまりありません。海岸に出たところに数軒の飲食店があるのをさっき確認していました。場所がら観光レストランのたぐいではありますが、メニューを見たところまずまずなので、そのうちの一軒に入ってみました。

 
 


店内には何組かの先客があり、食事中にも多少の入れ替わりがありましたがツーリストふうはなく、地元のおばちゃんグループとか商用?みたいな人ばかり。一人客だと空いていても変な壁際の席に押し込むフランス飲食店業界の悪習を心配していたら、どこでもお好きなテーブルをお選びくださいというので、海岸の見える窓際に陣取りました。前菜・主菜・デザートがセットになったムニュ(menu)は€19.80ながら、€13.50のフォルミュル(formule)が用意されています。フォルミュルというのはふつう前菜+主菜または主菜+デザートという組み合わせで、昼だけ提供というところが多いですね。気楽なひとりごはんにはフォルミュルがありがたく、最近はしばしば世話になっている。どうしようかなと思ったものの、何を血迷ったかカフェ・グルマン(café gourmand)のフォルミュル€14.90をチョイス。パリのカフェあたりでも昨今よく見かけるのですが、3種類くらいの小さなデザートにカフェ(フランスでカフェといえばエスプレッソ)がついてきます。ごっついクレープとか大盛りのアイスなんか食後に食べられたものではないので(しかもフランスのやつはかなり甘い!)、ちょこちょこデザートでコーヒー代も込みならいいかなと一瞬思ってしまったのです。メインディッシュは、せっかく海際にいるのだから魚がいいな。となると厚切りサーモンもしくはエイヒレ(aile de raie)の選択になります。サーモンではおもしろくないからエイにするか。食材としてのraieはレストランガイドなどでしばしば見かけるものの食したことはありません。ソースはノアゼット(クルミ)またはクリームからお選びくださいというので、ノルマンディーらしくクリームをチョイス。付け合わせはフリット(フライドポテト)、アリコット・ヴェール(煮たくらかしたインゲン)、グリーンサラダとよくある選択肢で、サラダを頼みました。飲み物はグラスのミュスカデ(Muscadet ロワール川下流地方の代表的な白ワイン)、€3.40

エイヒレといっても、日本の居酒屋で出てくるカワキモノしか想像できんものなあ。運ばれてきた料理は、三味線のバチのような正三角形で、ムニエルのようです。ナイフを入れてみると、軸というのか骨というのかエイヒレの硬い部分の周囲にしっかりした白身が乗っています。これはなかなか美味しい。半透明の軸というのか骨というのかの部分は、ぽりぽりと食べられ、鶏の軟骨よりもずっとやわらかく、でも歯ごたえがあっておもしろい食感ですね。この前々夜にパリでスズキ(bar)の尾頭つきを食しており、肉食のはずの古賀がやたらにシーフード(&白ワイン)づいているのですが、たまたま。さて食後のグルマンは予想以上に本格的なプレートで、アップルパイ、クレム・ブリュレ、マカロン、濃厚なイチゴのアイスにホイップ、ベリーのムースに輪切りのキウイと、「スイーツは入るところが別なの(ハート)」とか抜かしやがる女性にはうれしく、当方にはちょっとしんどいボリュームでした。こうなったら意地でも完食してやれ! 「入るところは別」論者に申し上げておきますと、入るところは別だけど奥のほうでつながっていますからね。

 

*この旅行当時の為替相場はだいたい1ユーロ=121円くらいでした

PART 2へつづく

この作品(文と写真)の著作権は 古賀 毅 に帰属します。