Les deux villes principaux en Irelande: Dublin et Belfast

 

PART4

 

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227日(木)も、朝食開始の8時半に合わせてゆっくり起床。欧州へは電子機器をもってこないで、基本的にはIT生活をやめリフレッシュするのを旨としていましたが、当方の立場もそれなりに責任が発生するところになってきましたのでそういうわけにもまいらず、今回ついにiPad miniを持参してしまいました。きょうびの老若男女がアホみたいに小さな画面をいじりたおす心境というか感覚が少しだけわかる気がします。日曜夕に東京に戻ったら月曜朝から教職関係の指導が待っており、それに関するお仕事の発注が隊長から入っていました。「確か現在フランスでしたでしょうか? メール確認の時間が限られると思います。直前のご回答でも結構です」とお気遣いいただいたものの、わずか30分後にソッコーで返信。ダブリンにいますと書いたら、「それではビール?をお楽しみください」と。お見通しのとおり、きょう最初の行き先がそれなんですよね。日本時間は夕方、マイナス9時間のこちらはこれから1日の活動がはじまるところです。


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回目の朝食では、ベーコンに替えてソーセージ、スクランブルに替えてフライドエッグにしてみました。係のおばさんの動きは前日よりも悪化していて、20分ちかく待たされます。明朝はコノリー駅を935分の列車で出発することにしており、8時半から朝食をとって急げば間に合うかなと思っていたのだけど、こりゃダメそうです。料金に込みの朝食を放棄するのももったいないが、惜しむほど美味しいものでもありません。目玉焼きはターンオーバー(両面焼き)。これなら自分で焼いたほうが美味そうだ。


朝のタルボット通り オコンネル通りのThe Spireなるモニュメントは高さ121m かつてあったネルソン提督像に代えて2002年に設置された

  アビー・シアター


お目当てのギネス・ストアハウスGuiness Storehouse)は市街地のかなり西のほうになるので、きょうはトラムで行きましょう。前夜と同じような感じで下アビー通りを歩いて、その名もアビー・ストリート電停から乗車することにします。電停のすこし手前に、私も名前くらいは知っているアビー・シアター(Abby Theatre)があります。1904年創立の国立の劇場で、演劇方面に関心のある人なら垂涎の場所だと思いますが、残念ながら私はスルー。人文系こそ大事なんだよと力説しているわりに、メインカルチュアに弱いのです(汗)。

ダブリンのトラムはルアスLuas)という名で呼ばれます。アイルランド語で「スピード」の意味だそうで、スピードならぬSPEED狂だった古賀とは相性がよさそうだな。ダブリンはかなりの大都市なのに市内交通は長くバスに限定されていました。福岡市みたいなものですね。欧州各地では1990年代以降にトラム・ルネサンスという展開がみられ、これまで路面電車の文化がなかった都市にも路線が新設されはじめました。高齢化や環境問題への意識の高まりと、LRTLight Rail Transit 軽量軌道交通)という車両の普及が背景にあります。この西欧あちらこちらでもけっこう頻繁に紹介しているほど当たり前の事象みたいです。ここダブリンでは2004年に開業されたそうなので、やはりかなり新しい。欧州のLRTでよく見る長い編成(5両の連接構造)で、お昼前なのにかなりの乗車率ですから、市民のあいだにも定着している模様です。ホームに自動券売機があり、ゾーン1のリターン・チケット(往復券)を€3で購入しました。片道だと€1.60

 
アビー・ストリート電停


「アイルランドとロシアに性的少数者の権利を」ということなのですが、ソチ五輪で問題になったロシアの同性愛差別法がらみでしょうか


ルアス西行きはすーっという感じで静かに走り出し、加速しました。旧来の路面電車のがったんがったんという揺れもタマランのですが、LRT独特の走りもまた心地よいです。そういえば去年のいまごろはポルトガルのリジュボーアで旧式の路面電車に乗りまくっていたな。と、車内に掲げてある路線図を見て気づきました。目的地が市街地の外れなのでゾーン1に決まっているよと、深く考えないまま切符を買ったけど、ギネス最寄のジェームズズ(James’s)からはゾーン2じゃん。たいていは切符拝見という行為があるわけではないので見逃してもらえそうですが、40年のキャリアを誇る?鉄ちゃんとしては、交通運賃は絶対にインチキしないという矜持があります。1つ手前のヒューストン(Heuston アイルランド鉄道のターミナルの1つ)でもいいですが、地図を見ると、もう1つ手前のミュージアム(Museum)で下りて歩けばよさそう。

 
ミュージアム電停から、リフィ川越しにギネスの工場が見える


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分も乗らずに着いたミュージアム電停は、その名のとおり国立装飾美術・歴史博物館(National Museum of Ireland Decrative Arts and History)の前でした。当方は装飾美術や歴史にも関心があるのですが、それよりビールのほうが(笑)。リフィ川を渡って坂道を登ります。坂上に、ギネスの工場や関連施設がかなりの面積を有しているようで、遠くからでもよく見えます。ギネスのマークをつけたトラックが何台も出入りしていました。

ミュージアム電停からのルートはいわば勝手口なので、見るからに工場地帯(1社だけど)というエリアを1人で歩くというようなことになっています。あちこちにギネスの、あの太いフォントが書き込まれていて気分が高まってきますね。ここセント・ジェームズズ・ゲート醸造所St.James’s Gate Brewery)こそがギネス発祥の地であり、いまも最大の生産拠点です。アイルランドといえばギネスでしょと私などはまず思うのですが、日本ではアイリッシュ・パブや特殊な飲み屋さんにでも行かないと飲めないし、そもそも日本人にとっての「ビール」がピルスナーに限定されているので関心がないという人のほうが多いことでしょう(Pilsnerは現チェコ共和国のプルゼニ発祥のスタイルで、スーパードライも一番搾りもプレミアムモルツもわが黒ラベルもみんなピルスナー)。ギネスはグラスへ注ぐのにちょっとした技術(クリーミーな泡がいったん静まるのを待って上部を完成させる)が要るため、下手なところでは頼みたくないですしね。それと、本業はタイヤ屋さんであるフランスのミシュランと同じような意味で、副業として出していたギネスブック(現在はギネス・ワールド・レコーズ)のほうが日本でははるかに知られています。

  ギネス・ストアハウス


かなりの規模をもつ醸造所の一角に、ギネス・ストアハウスのエントランスがありました。入場券はおとな1枚で€16.50。けっこうしますね。ここはギネスビールの製造過程や歴史、世界での受容などを展示したテーマパークです。3年前にオランダのアムステルダムにあるハイネケン・エクスペリエンスというまったく同趣旨の施設を見学してとても楽しかったので、こちらも期待できそう。

エスカレータで1フロアぶん上がったところに係のお兄さんがいて、チケットを改め、私を含む10人ほどの新規来場者を真ん中に集めてから、マイクで話しはじめました。「みなさん、ギネスへようこそ。私の名前は○○です。あなたは日本からおいででしたね。そちらは・・・カナダですか。あちこちから来てくださってありがとうございます」てな具合なので、これはガイドつきなのかなと思っていたら、館内に何があってどう回るかというインストラクションでした。兄さんはすらすらと話してきて最後にワンポーズ空け、にやりとしてから「・・・で、試飲(tasting)ですが」というと、みんな一斉に笑います。見学コースは前座で、それこそが目当てだもんねと(たぶん当方を含めて)顔に書いてあります。試飲は最上階でどうぞとのこと。チケットの半券が試飲券になっています。

  
  


いますぐ試飲したい気持ちを抑えて、まずは「お勉強」。この建物自体がギネスの、あの太目のグラスを模してあるそうですが、離れてしまうと工場に埋没して見えないのが残念でした。つまりは円筒形に近いかたちをしていて中心が吹き抜けになっており、上のフロアへと順々に登っていくというわけです。ビールづくりに使用する麦芽や水の実物に触れたあと、具体的な醸造過程の説明に入ります。原料の大麦をローストして焦がすのが、あの色を生み出すポイントなんだなきっと。ギネスは、1756年にアーサー・ギネス(Arthur Guiness)が創業、3年後にこの場所でスタウトの醸造をはじめました。ビールを大ざっぱに分類すると、エール(Ale)とラガー(Lagar)に分かれます。酵母が液体の表面に浮かんで膜をつくる上面発酵というプロセスによるのがエール、逆に底のほうに酵母が沈んでじわじわ発酵する下面発酵というプロセスを経るのがラガー。ギネスが属するスタウトはエールの一種です。古代いらい多くの地域で普通につくられていたのはエール系統のほうで、ラガーは冷却技術が発達した近代以降に主流の座を得ました。――とかいう話を、飲みながらすることがあります(あと、蒸留酒の分類の話とかね)。若いころ「酒を飲みながら酒のウンチクを語るようなおとなにはなるまい」と思っていたのに、何でだろう?

 
 


一通りの見学が終わり、最上階(7階)に上がってみると、うわ〜、これはすばらしい。話には聞いていたけれど、天気がいいこともあって予想以上の展望試飲室です。360度のパノラマで、市内の様子はおろか地平線まで見通せます。中央に円形のカウンターがあり、数名の係の人がギネスをサーブしていました。チケットの半券を渡すと、「何をお飲みになりますか?」と訊ねられました。ギネスを見学したからといってギネスを飲まなくてもよく、コーラでもサイダーでもジュースでもいいですよということらしい。ま、でも――ギネスをください。「パイント? それともハーフにします?」――パイントで。「それはそうですよね、ここに来て他の選択肢はないはずです」と兄さんがにこり。「どちらからいらっしゃいましたか?」――アイム・フロム・ジャパン。「おージャパン!」といったトークは、泡を落ち着かせる例の間合いゆえです。2分くらいかけて注いだ1パイントのギネスを、さあいただきましょう。昨今の若者ふうに表現すれば

やべー!!

とかいう感じかな。これまで飲んできたギネスともちろん同じ味ですけれど、総本山で飲むとまた違うような気がします。単純やね。ふだん飲んでいるピルスナーと違って、スタウトはじわじわのどに通すのがいいように思えます。高校生〜大学生くらいの、やや年齢にばらつきのありそうな20名ほどの集団がいて、スマホで写真を撮り合ったりして大騒ぎしている。誰かが誕生日だというので例の歌を合唱したりして始終にぎやかだったけど、どういうグループなのかな? 平日の昼間なので小中学生の姿はありませんが、社会科見学としてはおもしろいでしょうね。ビールでなくジュースを飲ませればいいわけだから(やつらにビールの美味さがわかってたまるか 笑)。メーカーとしても、やがて彼らが消費者になったとき自社の商品を選好してくれることを期待した投資の意味合いがあることでしょう。勤務先の新習志野にはサッポロビールの千葉工場があり、見学(という名の試飲)をしようと思いつつまだ果たせていませんが、近いうちにぜひ。


ギネス・ストアハウス最上階から市街地を望む 

 0階のショップ


有料でさらに飲みたいなら1フロア下と2フロア下にパブとかレストランがあるのですが、今回はこれでいいや。ガラスのそばに立ってじわじわ飲んでいると、近くにいた20代前半くらいの背の高い美人2人に、例の集団にいた年長の兄ちゃんが寄ってきて、一緒に写真を撮りましょうとか何とかいっています。ナンパではありましょうが、集団のリーダーのようでもあるので、どうするつもりなのだろう。お嬢さんたちは上手にあしらっていました。さて、これで見学&試飲を締めるかと下りエレベータに乗ったら、そのお嬢さんたちと一緒でした。ミュージアムショップ(というのかな?)は切符を買ったところのワンフロア上だったので、こちらでいう1階か。ところが正解は0階だったみたいで、変なところで停まってしまいました。エレベータはそのまま7階に逆戻り。お嬢さんたちともどもミスに気づいて大笑い。私とは英語を話しましたが、2人はドイツ語で会話している模様です。そうやって迂回?して0階のショップに下りてきたら、さっきのナンパ兄ちゃんが先回りしていて、一緒に撮った写真の出来栄えを彼女たちに見せながら「つづき」をはじめました。よくやるね。ショップはとても充実していて、お土産関係がけっこう安い。ビールそのものを持ち帰るつもりはなく、周辺のもろもろ(なるべく軽いもの)を購入しました。次から、東京のパブなんかでギネスを飲むときには、ここのことを思い出すことでしょう。

エントランスで切符の買い方を教えてくれたおねえさんに謝意を伝えて、外に出ました。上階がオープンになっている市内観光のダブルデッカーが目の前に停まり、数名が降りてきてストアハウスに入っていきます。さっきは観光馬車も横づけされていました。私がビール好きだからというわけではなくて、ダブリンといえばここを見るというのは間違いないことのようです。

 

PART5へつづく

この作品(文と写真)の著作権は 古賀 毅 に帰属します。