■次回は・・・
17- 視点としてのドイツ:十字架を負い、欧州を牽引する
2024年に入って早々に、日本のGDP(国内総生産)が3位をキープできず4位に転落したという速報が流れてきました。プロ野球ならクライマックス・シリーズに進出できない順位のため監督解任になりそうです。というのはネタであり、国が豊かでも自分たちの生活が楽でなければどうしようもないわけだし、逆は逆なので、そこに一喜一憂することもないでしょう。さて、代わって3位に浮上したのは日本とも因縁浅からぬ欧州の大国ドイツ(Deutschland)でした。振り返ってみれば(といっても私が生まれる前なのですが 笑)、高度経済成長を経た日本が当時のGNP(国民総生産)でアメリカの次の2位に躍進したとなったとき、抜き去ったのが当時の西ドイツだったのです。約半世紀ぶりに日本経済を抜き返したことになります。西ドイツといいましたが、正式国名は当時も現在もBundesrepublik
Deutschland(ドイツ連邦共和国)で変わっていません。私が大学生だったころまで、ドイツは南北朝鮮や中・台と同じような分断国家であり、東西どちらも「うちが正統なドイツ国家」だといっていました。結果的に、東ドイツと通称されたドイツ民主共和国が国家を解散して、ドイツ連邦共和国に「編入」されることになります。五輪もW杯も、西ドイツと東ドイツは別々の国家として扱っていました。東ドイツは、社会主義国の例にもれず、なぜか各種スポーツが驚異的に強く、その国情をのぞき見ることが難しい状況だったがゆえに、いったい中身はどうなっているのだろうと思ったものでした。
前回取り上げたフランスは、19世紀以降の政体の変遷が著しくて、暗記しようと思っても大変だったわけですが、同時期のドイツは、国家の体制はもちろんのことその外枠も大きく変化しました。ナポレオンの侵略を受ける前までは神聖ローマ帝国があり、1806年以降はドイツ連邦がそれに代わりました。その中でもプロイセン(Preußen)が台頭して、同国を中核とするドイツ帝国(第二帝国)が成立したのが1871年。この帝国は第一次世界大戦の敗戦と同時に崩壊し、ほぼ同じ外枠でドイツ共和国(ヴァイマール共和国)ができましたが、ヒトラー率いるナチスの台頭を許し、1934年にはナチス・ドイツと呼ばれる一党支配のファシズム国家が成立します。第二次世界大戦に敗れて、東西冷戦の関係もあってドイツ国家は東西に引き裂かれ、それが1990年に再統一された、ということになります。世界史好きの高校生だった私は、「外国」の中でもドイツに格別の関心を抱き、ドイツに行ってみたいな、でも行き先は「西ドイツ」なんだろうなと思っていました。おとなになって自分の意思で海外に出られるようになったころには、もうとっくに「ドイツ」になっていましたので、ずいぶん短いあいだに情勢が変わったものですね。でも、ヘルムート・コール首相の政権は西ドイツ時代の1982年(古賀は中1 笑)のときに成立して、統一の立役者となり、ユーロ導入直前の1998年(古賀は早大助手)までつづきました。コールの弟子にあたるアンゲラ・メルケル首相も、2005年から2021年まで政権を担いました。国家のあり方は短期間で変わるのに、ひとつの政権の息が(専制や独裁を含めて)やたらに長いのもドイツの特徴です。
ドイツは、近代化の道を歩みはじめた日本が、最もお世話になった国家です。憲法も法律も陸軍も医学も高等教育(大学)も、ことごとくドイツを手本にしました。どこかの植民地になったわけでもないので、英・仏・独のいずれをモデルにしてもよかったし、実際にそういう選択肢もあったようですが、多くの場面でドイツ式を採用しています。2024年の高校生は、「わかる〜」と共感するのか、「いやわからん」となるのか。このところの印象では、フランスよりも地味で、そのぶん堅実という感じなのでしょうかね。経済がすごいというが、名の知れた企業もあまり思いつかないし、イメージがなあ・・・と思う人も多いことでしょう。ドイツもまたフランスと同様に、ある時点からお手本・モデルとしての役割がかなり小さくなり、国名はよく知るメジャー国でありながら、実像や内容に対する理解はもう一つというところです。はなはだ個人的なことを申しますと、高校生時代にドイツに惹かれて関心を抱いた私は、ドイツ語こそ習得しませんでしたけれども、フランスの専門家になった現在でもドイツの社会や文化に対するシンパシーを強く抱きつづけています。訪問した回数はフランスの次に多いですし、2024年はもう2回もドイツに入国しています(居やすいんですよね〜)。前回のフランスと「好対照」に見えるのか、「いや同根じゃないのか」と思うのか。みなさんの受け取り方が楽しみでもあります。
REVIEW (10/4)
■海外の文化を学ぶのが好きなので、今回はフランスの文化や教育についてたくさん学び、日本との違いなどを知ることができてうれしいです。フランスは、パリコレやお菓子など、文化や食べ物のイメージが強かったので、理工系の国家であるということや核保有国であるということを知って驚きました。
■まだ他のヨーロッパの国について学んでいませんが、今回の授業だけでも、フランスの特徴がなんとなくわかったような気がしました。かつての栄光を手放せずにいるのが本当の人間のようで、やはり国や世界は人がつくっていて、人から成るものなのだとあらためて実感できました。
■フランスのイメージがパッとせず、2回の世界大戦では勝つには勝ったが・・・ ルイ14世とかナポレオンあたりが最盛期だろう、というイメージはもともあった。ただ今回の授業を聞いて、日本もフランスのように過去の栄光にすがる危険もあるのではないかと思った(というかすでにそうなっている)。
■フランスが世界の各文化に影響を与えているのに、そのイメージがない。世界は資本主義でつくられていて、そこで強くないフランスは中心になれないのだろう。
・・・> 世界文化に対するフランスの影響のイメージがないというのは、率直にいってあなたの不勉強。少なくとも文化面での影響は見ておかないとね。後段の推察は興味深いが、これもいまいちですね。以前にも何度か指摘したと思いますが、たとえばGAFAが強くても「アメリカが強い」わけではなく、ユニクロが大儲けしても「日本が儲かった」わけではありません。現在のグローバル資本主義にあっては、世界的な影響をもつ巨大資本というのは、多国籍的であり無国籍的です。ハイブランドに関しては、ルイ・ヴィトンやエルメス、シャネル、カルティエ、ディオールなどのフランス企業がイタリア系とともに世界市場を独占していますし、石油メジャーの一角であるトタルエナジーズもフランスに本拠があって大きな影響力を有します。ただいずれも、いわれてみればフランスっぽくはあるが、無国籍的で、ゆえに世界的な影響力をもっています。別に私がフランスの専門家だから言い訳しているんじゃありませんよ(笑)。なお国民経済の単位で見ても、フランスはGDPランキングで世界7位(アメリカ→中国→ドイツ→日本→インド→英国→フランス)。
■夏のレポートでは、長いこと自分たちの国をもたなかったウクライナを取り上げたが、いちばん古いというレベルで国のかたちをもっていたフランスも、その内政や成り立ちがおもしろそうだと思った。
■夏休みの課題でパリを取り上げましたが、文化・食・移民・ファッションなどの表面的なところにしか触れていなかったので、日本やドイツなどと比較したり、影響を調べたりしてもう少し深めるべきだったなと思います。
■フランスは「フランスとしての色」がとても強い国である(あった)と思いました。具体的には政治や教育、ルールやマナー、宗教などです。実際パリ五輪を見ていても、フランスこそが正しい、周りが合わせろというムードを少し感じましたが、きっと東京五輪のときに周りの国は同じように思っていたと思うので、何もいえません。メディアの切り抜き方の影響もあるかもしれませんし・・・。
■フランスは少し前までは世界の中心のような国で、日本もフランスからいろいろなことを学んだり、強いかかわりをもったりしていたことがわかった。
■日本人から見たフランスのイメージは、オリンピック前後での変化はあるとはいえ、観光・ファッション・食など文化的な面で幅広い。これはインターネットで手軽に表面的な情報が手に入るという現代の特徴があらわれているが、そのような文化の最先端モデルだったという過去から、伝統的保守主義の面が見られることがある。欧州の中でも特異といえるフランスが国際社会においてリーダーシップを発揮する場面はあったが、反移民などの排他的な傾向が強まると、他の国にも大きな影響を与えうると考えた。
■先生がいっていたように、フランスには文化のイメージが強かったので、科学の国というのが意外だった。政教分離の点でイスラームとうまくいかないという話が、何度か出てきましたが、イスラームの人はどんどん増えているのですか?
・・・> 増えています。というか、もう定着して数世代という人が多いので、普通にいらっしゃいます。とくに女性は服装で識別できますので目立ちますね。
■フランスのこんにちの習慣やシステムに関して、どのような歴史が影響を与えていたのかを細かく知ることができた。フランスは食事のマナーが厳しいというイメージもあったが、ルイ14世の時代に確立されはじめたのだと知った。以前の授業でも話題に出てきた国家原理のライシテは、人種・民族・性・信仰などが違っても統合し対等にするためのものであるなど、理解が深まった。
■大統領と首相では、任命の方法や任期、権限など、さまざまな違いがあると思いますが、どのような政治的背景が原因で権力の違いや、大統領のほうがエラいというような体制になったのか疑問に思いました。
・・・> 次回のドイツ編であらためて考えてください。これは非常に重要な問いです。
■世界中の法律のモデルはイギリスを基にしているものが多く、フランスを基にしたものは数としては多くないのではないかと考えていましたが、ナポレオン法典やウェストファリアの考え方などが世界に強く影響していることを知り、よりグローバル的な視点を鍛えられました。
・・・> 民法はともかくウェストファリアはフランス発信ではないですよ。ナポレオン法典(民法)が私的所有権という考え方を定式化したことと、ほかならぬフランス革命やナポレオンの影響力の強さゆえに、主権国家の主権が及ぶ範囲を面的(二次元的)に確定させるという、第2回で確認した内容がかたまったということですね。なお法学を学ぶと最初のほうで整理されると思いますが、欧州で生まれた法は、そのたどった歴史と社会的経験の違いによって、大陸法と英米法に大きく二分されます。大陸というのは、島国のイングランドに対する欧州大陸の意味で、ドイツ・フランス法、とくにドイツ法の影響が強いです。日本はドイツの影響で大陸法の体系を取り入れましたが、英米法的なセンスも一部に含まれていて、そのあたりは専門に進む際にはきちんと学んでおいてください。欧州に関しておもしろいのは、イングランドは当然ながら英米法だがスコットランドは大陸法に属すること。同じ主権国家の中で法・制度がそこまで違うというのも興味深いですね(スコットランドは司法のプロセスもかなり違います)。
パリ リュクサンブール公園 正面の建物は立法府上院の議事堂になっている
フランスではめずらしい英国式庭園で、都心にありながら広々とした憩いの場
このすぐ近くにあった(いまは移転)教育研究所の図書室で学問修行していた30歳の私は
昼休みになるとサンドイッチを買ってここに来て、いろいろなことを考えていました(^^)
■英語の単語がラテン語と関係あるのは学んでいましたが、フランス語から借用したものも多いというのは初めて知り、とても興味が湧きました。また国境を共有するフランスとドイツのあいだに、まったく対称的な政体・文化が存在していることをあらためて学び、今回も歴史を学ぶ意義やおもしろさを実感できました。
■日本語の「サボる」の語源がフランス語から来ているというのは結構びっくりしました。
■渋沢栄一とクローデルは何語で会話をしたのでしょうか?
・・・> 日本語とフランス語です。たぶん。
■ドイツではビールがよく飲まれているが、水よりもビールのほうが高いと聞いたことがあり、そりゃ健康に悪くてもビールを飲んでしまうなと思った。
・・・> しばしばネタとしてこの種のことが取り上げられますが、そんなことはなくもないが、そんなこともないです(なになに?)。欧州では、お水でもビールでも、購入するお店の種類によって相場がまるで違います。いちばん安いのはスーパーマーケット。ミネラル・ウォーター(炭酸なしのものは欧州ではstill waterといいます)は、スーパーでなら1.5Lのものが€0.80〜€1くらいで買えますが、町なかの簡易スーパー(コンビニくらいのサイズで、大手スーパーの系列が多くなっている)だとおなじみの0.5Lのサイズが€1.50かそれ以上しますし、駅や観光地の売店だと余裕で€2.50〜€3.50くらいします。このまえフランクフルト国際空港でスティルを買おうと思ったら、0.5Lなのに€5とかで、襲撃しようかと思ってしまいました(笑)。ビールの相場は、それらより一般的には高いです。当たり前だけど、スーパーの安い缶ビールと飲食店で飲む生ビールの価格を比べるのはナンセンスですよね。ただ、日本に比べるとお水とお酒類の価格差が小さいのは確かです。欧州が安いというよりは、日本では酒税がかなり高くて、飲んじゃう人からはしこたま巻き上げるということになっているせいです。
■ブッシュ大統領がフレンチ・フライズをフリーダムに変えようと主張したけれど、そもそもフランスではフレンチと呼んでいないという話がおもしろかったです。
■なんでフランスの朝食ってオレンジジュースがマストなんですか。
・・・> 知らん。フランス人に聞いて(笑)。日本の朝食に味噌汁がついてくるようなものではないのかな。
■ニューオーリンズという地名があったが、ディズニーの地名?で聞いたことがあるのでそのつながりを知りたい。
・・・> ニューオーリンズはフランスではなく、旧フランス領ではあるがアメリカ合衆国。ディズニーはまったくの専門外(関心外)で行ったこともありません。どこかで調べて。
■フランス近世のころの感性的な国民性(カラス事件など)と比較すると、近代社会では「理性」が重視されるようになったことが如実に読み取れた。しかし統合をめざすことによってイスラームが異質なものとして見られてしまうのなら、それは理性を重視した社会のひとつの失敗なのではないかと考える。人種や身体的形質、宗教などに左右されず統合され、共存するという国家原理を掲げているにもかかわらず、イスラームが圧迫を感じている時点で、矛盾していると思う。
■ドイツや日本などの血統主義ではなく出生地主義をとっているフランスでは、アメリカ国籍の人がフランスで生まれてフランスで育ったら、その人のナショナル・アイデンティティはフランスということになってしまうのだろうか。
・・・> 人によるし、親によるのでは。フランスで日本人の両親から生まれた子どもが、両親の言語や思考の強い影響を受けるか、学校や仲間の影響をより受けるかによって、アイデンティティのありかは変わってくるはずです。
■ナショナル・アイデンティティとナショナリズムの違いを教えてください。
・・・> ナショナル・アイデンティティは、その人が「私はこの国(国民)に属している」ということを疑いなく確信し、自身を国家・国民に重ね投影しているような感覚。ナショナリズムはnation(国家・国民・民族など文脈によって訳し分ける)の一体化・強化を図りそれを社会運営の真ん中にもってこようとする思想の動向。
■中央銀行を確立したのがフランスなのに、最古の中央銀行がイングランド銀行なのはなぜですか。
・・・> いま私たちが知っている、「政府の銀行」「銀行の銀行」あるいは金融政策の主体とか発券権をもつ金融機関としての中央銀行は、ナポレオンのフランス銀行が元祖的存在です(授業でもいったように、正確にはスウェーデンが先行していますが影響力の関係で)。イングランド銀行は、それ自体はもっと前から存在していましたが、国策的ではあったが市中銀行(ふつうの銀行)のひとつでした。フランス銀行の成功を見て、また欧米世界が富国強兵路線に突入するため金融のマネジメントを国家レベルでおこなう必要が高まったと判断して、連合王国の当局がイングランド銀行を中央銀行化したのです。
■ニューヨークの自由の女神はフランスから贈られたものだというのは知っていたが、そのモデルがマリアンヌであることは知らず、そもそも自由の女神にモデルがいたということに驚いた。
■アメリカ=自由のイメージは一般的ですが、自由の基盤の多くはフランスがつくったもので、フランスこそが自由の国なのかもしれないと思いました。
■パリ五輪の開会式で、マリ・アントワネットの首だけ取れた姿と赤い演出が話題となりました。私はフランス国民がマリ・アントワネットに対してどのような印象を抱いているのかわからず、開会式の表現に衝撃を受けたのですが、あの演出にはどのような意図が含まれているのでしょうか。解説と、先生の感想が知りたいです。
■パリ五輪の開会式をライブで見ていましたがとても感動しました。中学生のころからフランス人権宣言あたりの歴史にとても興味があり、思想等も勉強していて、それらすべてが具現化されていたからです。ただ一つ疑問に思ったのは、フランス国民が家屋の中で窓から顔を出して歌っていた場面ですが、フランスが直接民主制なのであれば外に出て行動を示すほうが適切なのではないかと思いました。先生のご見解をお聞きしたいです。
・・・> 演出の細かな意図までは知らんよ〜(笑)。よろずテレビ用であったことは明らかで、現地で見て意味がわからなそうな開会式というのもめずらしいですね。マリ・アントワネットに対しては、さすがに200年以上も前の人物なので、感情的な好悪というのはないのではないかと思います。よくも悪くもフランス革命というすさまじい出来事を象徴するアイコンみたいな人なのではないでしょうか。革命当時というかその少し前から、マリ・アントワネットに対する一部のフランス国民の悪感情は募っていました。オーストリアから嫁いできたわがまま王妃がフランスを食いつぶしている、といったナショナルな反応にほかなりません。ただ、現代人が彼女に抱くイメージの多くは、オーストリアの作家シュテファン・ツヴァイクの小説「マリ・アントワネット」によるところが大きく、デフォルメや文学的創意が相当に含まれています(前回の歴史小説の話を思い出してください)。一部の日本人が「悲劇のヒロイン」みたいな受け止め方をするのは、池田理代子の名作マンガ「ベルサイユのばら」やその実写化(宝塚など)の影響によるものでしょう。どちらもおもしろいからぜひ読んでくださいね。
レストランの食事は高いので、お昼はサンドイッチを買って公園で食べましょう これでも€4.50以上はしますけど・・・
英国のサンドイッチは私たちがよく知る三角形の、やわらかいパンを使ったものだが、フランス式は小型バゲットを
切り開いてたっぷり具を詰めたものになる アゴは疲れるがとてもおいしい(右写真は五輪の聖火台があった池)
■二コラ・ド・コンドルセという人が、誰でも学校で学ぶことができる近代公教育を構想したおかげで、現在私たちが教育を受けられている。さらに教育の場を大切にしなければいけないと思った。
■選択科目でフランス語に触れるようになってから、日本で私たちが普段使っている言葉にもフランス語由来のものが多く存在していることを知ったが、学校教育などの面でもフランスが基盤になっていたことを知って驚いた。いままで他国の教育にあまり関心がなかったため、小・中学校で留学生などから教育システムが違うことを聞いても、へ〜そうなんだ〜くらいにしか思っていなかった。しかし今回の授業で、自分がいま受けているこのシステムにも基盤があり、それをつくってくれた人がいるのだと再認識し、学校教育に少し興味が湧いた。
■近代公教育は国民意識の醸成(ナショナル・アイデンティティ形成)を目的としているふしがあると思います。フランスも同じだと思いますが、古典が選択だったことに驚きました。
・・・> 必修ではなく選択なのが意外なのか、選択であったとしても設定されていたことが驚きなのか。いずれにしても、国民意識の醸成にかかわる部分は初等教育(小学校)が中心で、そこに古典はありません。古典語や古典文学を学ぶのはエリート(貴族・富裕層)のみが学んだ中等教育。日本の近代公教育もまったく同じ構造をしています。
■フランス革命前後の教育に関して、どんな学校であれ、中等教育を受けられたのはどのくらいの身分までだったのでしょうか。豪農や貧乏な貴族の子女は学校に行っていたのですか。
・・・> 貴族の世界にかぎっては、学校らしきものはあったのですが、それはいまの学校教育とはまるで違うものでした。足利学校や昌平坂学問所が現在の学校とは相当に違うのと同様です。女子教育はあるにはあったが、規模や対象範囲はかなり小さくて、「なかった」といってもよいくらいでした。男子中等教育の拡大に寄与したのは日本でもおなじみのイエズス会。ただこれはのちに権力側によって閉鎖に追い込まれています。
■日本との教育の違いが印象的でした。漢文や古典の授業を嫌だと思うときもありますが、フランスでラテン語の古典を勉強していることを知り、いまの自分たちの文化のもとになった言語や文化を学ぶことは必要なのだとよく実感できました。
■哲学が必修であり、それもナポレオン時代からの伝統で歴史が影響していて、スライドにもあったようにフランスらしさがあると思った。
■高校を卒業するのに哲学が必修ということに驚いた。日本だと英語や数学なのに、フランスでは哲学のことを暗記しているのだと考えると、文化や教育の違いが大きいと思った。普通科に進学する人が少ないのも日本と大きく違うと思った。大学も、なんとなく行くのではなく学びたいことがあって行く、というのがエリートを生み出しやすくしているのだと思った。
■文系・理系など細かく分けられるカリキュラムの中で、哲学は高卒資格を得る際に全員に課されるというのはおもしろいなと思いました。
■哲学を通して、いままでに学んできたことを集約して自分の意見につなげ、論理的に言葉で表すというのは、日本の高校生にはない機会だし、役立ちそうなスキルだと思いました。
■フランスでは高卒の資格を得る重要な試験で哲学が必修であるのに対して、日本で教育を受けた私は高校1年生のときに公共で軽く哲学を学んだだけなので、国によって重視される分野が全然違うことが興味深いと思った。
■日本において哲学はフランスほど重要視されていない気がします。なぜでしょうか。
・・・> フランスの高等学校で哲学を必修にしているのは、ナポレオン時代にその設定がなされて、そのままになっているからでしたね。日本にはそうした歴史や伝統がないので、重視されなかったといえます。ある時期までの日本の教育で、論語や孟子などの儒学関係が必修だったのと(もともとは)同じようなものだったと考えてください。
■フランスではライシテが徹底されていて、学校でも道徳=公民というのは意外だった。日本の学校も宗教は関係していないのでは?と思っていたけれど、「やさしい心で」といった時点でライシテに反すると聞いて、そこまでやるのかと思った。
・・・> これはちょっと誤解をさせてしまったかもしれません。「やさしい心で」というのは日本の道徳教育の特徴であり、だとすればライシテ(フランス固有の原理)に反するということではなく、日本はそうなのだ、というだけのことです。私は日本の道徳教育にものすごく批判的なのだけど、だからといって憲法や法律に違反しているとは考えていません。違反はしていないが、それでいいのか、という立場です。
■フランスの高校のカリキュラムに「道徳・公民」が並列して書かれていた。フランス国民の共通認識として、「社会のため」の学習が道徳であるというのが徹底して叩き込まれている点を確認できた。先生はやはり日本の道徳はフランス流に変更されるべきだと考えますか?
・・・> やはりって何ですか?(笑) フランスの教育を研究していますというのと、フランス式を推しますというのはだいぶ違うのだけど、教育学にかぎらず外国ものの研究者はその種の誤解?をやっつけるのが大変みたいですね。日本の道徳教育を公民に置き換えるのは無理だし、さほど意味はありません。どちらかというと総合的な学習(探究)の時間に接近させるほうが有益です。スピリチュアルな部分を排し、科学と論理に寄せて、自他の関係などもその文脈に載せて議論する、という方向がよいと考えています。
■日本の教育はしばしば心の問題を教育現場に持ち込む。そしてそうした心を「道徳」といいがちである。対してフランスは、公民=道徳という考えのもとでスピリチュアルな宗教的要素はいっさい含めることなく、教育をおこなう。こうした違いは自己を形成する生徒または児童期において考え方や価値観に影響を及ぼしているのではないかと考えた。同じく教育現場に、日本で一般的な学習とはまったく異なり、哲学などの思考力をはぐくむ内容が取り入れられていることに驚いた。その目的を知りたいと思った。哲学という教科の中で、過去の偉人(哲学者・思想家)を挙げることからも、その国に住む者のアイデンティティを形成することにつながっているのだと思った。
■道徳教育は絶対に非宗教で、ライシテも広く定着しているとありましたが、哲学が必修教科であり、バカロレアを取得するために重要なのに、哲学で採点する際に宗教や人の思想をまったく絡ませないなんて可能なのかと思いました。
■道徳の授業で公民を学ぶという、宗教と教育を分離する徹底した姿勢に驚きました。哲学が必修なのもおもしろいと思いましたが、哲学という学問は神話と絡んでいたり、何が真実なのかをめぐる解釈が宗教にもとづいていたりするのではないかと疑問に思いました。
■フランスの哲学の試験について、過去の哲学者などの知識から解答するとありましたが、哲学と宗教は密接にかかわっていると思います。キリスト教などの宗教の影響を受けているものもあると思いますが、ここまで深く哲学を勉強しながらライシテを貫くのは難しいのではないでしょうか。十字架のネックレスが禁止なのであればキリスト教に関する名前を出すのもためらわれるのではと感じたので、どのように哲学やキリスト教にかかわる歴史を教えているのか知りたいです。
・・・> 高等学校で学ぶ哲学(philosophie)の授業や教科書には、当然キリスト教関係の思想家や神学者の言説も書かれていて、学習されており、バカロレアでそれを解答に含むこともまったくさしつかえありません。日本の公立学校において、憲法20条・教育基本法15条の規定により宗教教育が禁止されていても、歴史や地理や公民の授業で「法然と親鸞の思想はこう違う」「イスラームはこんな宗教だ」といった事象を学ぶことに問題がないのと同じで、宗教的事象(faits religiuex)を教えるのはむしろ当然のことだとされています。ご指摘のように、宗教に対する理解がなければ思想・哲学なんてまるで意味をなさなくなるからです。宗教教育の禁止というのは、日仏に共通しますが、A 宗教者(聖職者・僧侶など)が宗教的な内容を教える B 特定の宗派や教義を特別扱いして教える C 宗教の教えや儀礼などを体系的に教える D 価値観(人間観・自然観・社会観など)や道徳観を特定の教義に沿って教える E 当該宗派の信仰を強めたり、信徒を増やしたりする目的で教育する といったことがダメだということですね。ただ、高校の哲学の教員は別にして、公民や歴史などの教員の中には、そのへんの微妙な境目を踏み越えるのがおっかなくなって宗教をまるごとスルーしてしまうとか、教員自身が宗教にまったく関心をもたないためにそもそも教えるだけの材料を持ち合わせないといったことがしばしばあるようで、そうすると生徒の中にはカルトや極端な原理主義に引っかかってしまうというリスクが高まります。冷静に、客観的に宗教を学ぶということ自体はむしろもっとおこなわれるべきだ、というのが21世紀に入ってからのフランス教育界の認識です。日本の学校教育にも似たところがあって、とくに公立学校の先生は、厄介事案にかかわりたくないのと、やはり当人の無知・無教養のケースもあって、OKの範囲であるのに宗教に関する部分を教えない、という傾向があります。多いのは、単語の丸暗記だけさせて、実際には宗教に関する内容を大きく抑制するという傾向ですね。みなさんの中にも、○○宗は誰が開いたとか、総本山はどこにあるといった外形的な知識から一歩も先に進まない授業を受けた人が多いのでは? (第13回の内容をいま一度振り返っておきましょう!)
ブルターニュ地方の小都市ヴァンヌの屋外市場
■フランスの教育は、日本とは全然違う教育システムの上に成り立っているのだと勝手に思っていたので、似ている点があるのは驚きです。共通テストを必ず受けて合格しなければいけないというのは、大学受験するのと一緒で、最終学年の最後までがんばりつづけていなければいけないのだから大変そうで、私は嫌だと思いました。これは学力低くても耐えられるものなんですか? またフランスには本校のような大学附属高校はあるのですか? 高校のカリキュラムの専門性とかはある程度わかったので、大学に行ったらさらにそこからどのように学んでいくのかなど興味が湧きました。
・・・> 日本の大学受験よりもハードかもしれません。紹介したように、日本の高卒認定は各高校が(当該学校のレベルに合わせて)おこない、大学にも入試合格ラインというのが歴然とありますので、自分の学力に見合った高校を出て、見合った大学に進むということが普通におこなわれます。いま少子化と大学定員の増加によって、大学に入ること自体は相当に易しくなっています。「私は嫌」というのは、附属生だからよね(笑)。ご指摘のように、ある程度の学力があったほうがバカロレアまで進めるでしょうが、それ以上に、家庭の経済力というのが大きいと思います。フランスの大学はすべて国立で、附属高校はありません(たぶん)。
■フランスの高校のカリキュラムで、共通教科の中にフランス語と現代言語という2つの教科があった。どのような違いがあるのでしょうか。
・・・> 教科名にあるフランス語(français)は、おわかりと思いますが日本でいう「国語」です。現代言語(langues vivantes)というのは、古典語(ラテン語・ギリシア語)に対する現代語という意味です(vivanteは英語でいえばlivingで、「生きている」の現在分詞)。英語・ドイツ語・スペイン語などのいわゆる外国語のことで、おわかりでしょうか、要するに「英語」のことです。
■バカロレアを取れば大学に行けるということに驚いたけど、共通試験なのだと聞いて納得した。哲学が必修なのも独特でおもしろいし、主観的ではなく客観的に考えて自分と重ね合わせるというのがおもしろそうだと思った。公共で洞窟の話を読んだとき、自分が見えている世界は少しなんだと気づけておもしろかったから、日本でもぜひ取り入れてほしいと思った。
■国際バカロレアというのは、フランスのバカロレアと関係ありますか?
・・・> 制度的な関係はありません。フランスのバカロレアをモデルにして、各国で学校制度の異なる状況において「中等教育を修了した」ことを質的に保障するしくみとしてつくられました。
■高校のカリキュラムの提案として、1年次に現代社会論(的な授業)→2年次に歴史→3年次に現代社会論(的な授業)とするほうが歴史の重要性に気づくという点でよいのではないかなと思いました。どう思われますか?
・・・> そんな時間的な余裕があるかな。英語とか数学を学んだほうが先々で使えそうです(笑)。附属高校の生徒でも、半数くらいの人はついていけなくなるかもしれませんよ。なぜフランスの高校最終学年で哲学を必修化するのかという私の問いに対して、クロード・テロ―教授(シラク政権の教育顧問で、ゼロ年代の教育課程に大きな影響を与えた方)は、小・中・高で学んだ内容をレフレシール(réfléchir 英語のreflectだが「反射」「反芻」のニュアンスがより強い)するのだと答えてくださいました。レフレシールって、よい考え方だなと腑に落ちて、ちょうどそのころにこの現代社会論という選択科目を担当することになったので(開講は2006年度)、附属の最終学年は社会科だけでなく諸教科や各自の経験などを知的にレフレシールさせるのがいいだろうと考え、以来そのように努めているつもりです。そうなっていないというご批判は甘受いたします。はい。
■フランスに対して抱いていたイメージは文化的なものが大きかったので、教育などについて知ることができたのはよかったです。とくに哲学の試験には驚きました。日本では、偉人の名言は知っているが、考え方などについて詳しく知っている人はそう多くはないと思います(とくに高3レベルでは)。国民としての意識を高める、考え方を身につけるためには有効だと思いますが、私は4時間も考え、書きつづけるなんてできないと思います(笑)。
(左)アルザス地方の中心都市ストラスブール (右)地中海岸のリゾート都市カンヌ
■フランスにおける非常に難しい入試や、飛び級や留年が普通にあるというような教育システムを知り、どちらがよいとは一概にはいえないが、比較的簡単に入学・卒業できてしまう日本の大学について考えなおす必要があるのではないかと思う。
■小・中・高が5-4-3だということでしたが、大学は何年ですか? 日本と同じように短期大学や大学院はありますか?
・・・> 大学の学士課程(いうところの学部教育)は3年。技術系の短期大学は2年です。大学院は日本と同じで、修士課程(master)は2年、博士課程(doctor)は3年です。以前は、修士をメトリーズ(maîtrise)、博士をドクトゥール(docteur)といういかにもフランス語っぽい呼び方をしていましたが、2000年代以降にEU全体でアメリカ式にそろえる流れになり、マスター、ドクターといった無個性な?ものに代えられました。
■大学は学ぶための場所で就職にはつながらないとのことでした。学びたい、かつ就職もしたいという人は、大学→グランゼコールと進むのだと思うのですが、年齢や学費を考えると、飛び級ができるほど頭のいい人や富裕層など、一部の人しか大学に進めないということなのでしょうか?
(類例複数)
・・・> 指摘したのは、パリ大学などの名門大学を卒業したからといって「いい就職」があるわけではなく、そもそも就職を有利にするために大学に進学するわけではない、という趣旨です。大学を卒業すれば、そりゃ就職するでしょというところ。ただ、日本と違って最終学年の夏前に一斉に企業の内定を得る、といった謎のことはなく、就職のタイミングもばらばらで、インターバルがあることも普通です。大学からグランゼコールに進む人は、いなくはないが、あまりいません。グランゼコールは高度な職業や特定の技術系に進む際に有利なので、そちらはバカロレアを取ったらすぐに受験して進学します。なお文系グランゼコールの最高峰である国立行政学院(ENA)は学部ではなく大学院レベルなので、大学を卒業してから受験し進学する人がかなり多いです。大統領・首相クラスにはENAの出身者が目立ちますね。
■日本ではガクチカなど学生時代は就活のためのことに力を入れるイメージがあり、フランスでは企業側が学生を探すというのを聞いて、驚きました。アジアは学歴社会のイメージがありますが、フランスの受験はどのようなのか気になりました。
・・・> 企業側が学生を探すのは一部のグランゼコール。あとは普通の就職活動(ただし一斉ではない)です。フランスの大学に入学試験はありません。
■グランゼコールは高専のような感じだと聞いて、じゃあ文系が就職する先はどうするんだと思って、少し悲しくなった。
・・・> 文系のグランゼコールもあります。最高峰は高等師範学校(École normale
supérieure)。
■フランスにはバカロレアがあり、これはどの学校・コースでも共通であるため、高校を卒業した人の能力が日本より比較的高いのではないかと考える。また、グランゼコールに進学しないと就職できないことや、フランスが理性主義の国であることから、理系の人の割合が多く、論理的・数学的に考える人が多いと考える。
■生まれてくる国が違うと、英語の完成度も違ってくるということを聞き、グローバル化していることを考えると、英語を習得できそうなカリキュラムがうらやましくなってしまった・・・。
■「なんのために勉強するんだよ」「意味ないだろ」とかいっているやつが、「修学旅行直後だし、その週に教場試験あるから衆院選行かなくていいかな」といっていて、とても理解できません。どう反応するのが正解ですか。
・・・> 学校で勉強する意味も選挙に行く意味もないというのであれば、もうその人はそういう人なので、放っておきましょう。改心することはあまり期待できません。人生の優先順位が違うだけのことです。
■フランスの教育は、日本と違って、優秀な人をどんどん引き上げていくエリート型だと聞いて、自分だったら落ちこぼれてしまいそうなので、日本でよかったと思いました。
■フランスの公教育について知って恐ろしくなりました・・・。ただ、これほど各国で教育の中心に据えられているものや内容が異なっていることは、グローバル社会で支障をきたさないのか疑問に思います。本庄高等学院では受験生のような知識が身につかず、大学で格差に驚かされるといわれることがありますが、同じように単純な暗記の多い日本から国際社会へ飛び込んだら大変なことになるのではないか・・・。だから勉強します(汗)。
・・・> 公教育(学校教育)というのは、おそらく最後までボーダーレス化せず、国家の枠内に収まるものではないかと思います。「外国の教育」を研究するのが本業の私からすると、違っていて当然なのだけど、物心ついたころから?ずっと学校の中にいる児童・生徒・学生にとっては、「え? 国によってしくみが違うんですか。やば!」となることが多いようです。うっすら気づいておられるように、グローバル社会で支障をきたすのは「各国の教育」ではなく「日本の教育」です。附属高校の出身者は、一般受験生のように無用な暗記を強いられないぶん思考力や判断力を鍛える機会に恵まれていますが、それすら放棄して学びから遠ざかり、学部進学できればいいやというので、それこそ大学入試以上に使えそうにない知識を暗記して目先の定期試験を乗り切るようなタイプは、グローバル以前にナショナルなところで「大変なことになるのではないか」。
(左)セーヌ河畔に展開する簡易店舗 古書を扱う店が多い (右)店内よりも価格が高いのにみんなテラス席で飲み食いする 冬でも!
■どこも景気が悪いと不寛容になるのは、そういう法則だし、改めなければいけないものだとして、ライシテがあるフランスで、イスラームはどうしたらいいのだろう。郷に入っては郷に従え(行くほうの視点)ということがあるが、全世界の人がそうすれば不寛容はなくなるのでは?
■パリ五輪では、審判のフランスびいきだ! 東洋人差別だ!という批判の声を多く聞きました。あの怪しい審判はフランス人の愛国心、こじれたプライドに起因するものですか、たまたまですか? はたまた日本のネットが騒いでいるだけですか。
・・・> それ観ていないのでわかりません。どうでもいいんじゃない?
■フランスでは反移民の動きが高まっているという話があったが、グローバル化が進む現在、他国と深くかかわっているため、それを遮断するのは現実的ではないと思う。
■私は英語の筆記体を学んだことがほとんどありません。親に聞くと、習ったから当然のように書けるし読めるといいます。なぜ筆記体教育は廃れたのでしょうか。グローバル化を騒ぐなら、必要な知識のように思います。
・・・> 筆記体の学習を復活させることに、私はほとんど意義を感じません(私は習ったので書けるし読めます)。ICT時代になって久しく、筆記体の重要度はますます低下しています。それに、かつての教科書のような、読みやすくてすぐに判読できるような字体なんて実際にはないですからね。ぐちゃぐちゃで読めないものが多く、また国や民族によっても「くずし方」にバリエーションがあって、よくわからないのです。限られた時間で英語を学ぶということであれば、別のことを優先すべきでしょう。
■フランスではなぜ原子力発電が主流なのか? 私の知識では、オイルショックがあってOPECが結成されたことにより石油の値段が上がったことが原因なのか? 日本の原子力の廃棄物を、地球を周ってまでフランスにもっていくというのは、いくら捨て場がないとしても疑問に思ってしまう。
■日本は原子力発電で出た核のゴミの再処理をフランスに頼っているが、ゴミを船で輸送することはリスクが高いため、処分地として誘致してもらえる自治体を増やすか、原子力発電の割合を減らすなどして、日本国内でゴミの処理まで終わらせるようにするべきだと思った。
・・・> 理性と科学の国ですから、人智でエネルギーをつくり出せるのならばそうしよう、ということでしょうかね。1つ下のレビューもお読みください。
■フランスは脱酸素をめざして原子力発電に注力しているが、フランスが他国から電力を輸入するかぎり、その輸入電力には火力発電など炭素を生むものでつくられたものがあるため、脱酸素を実現させることはできないというジレンマが存在する。
・・・> 福島原発の事故後に脱原発を主張するドイツなどは、そのぶんロシアからの石油・天然ガスの輸入→火力発電に頼っていました。ロシアがあんなふうになりましたので、いま欧州各国はエネルギーの確保に腐心しています。原発王国のフランスはその点で余裕をかましているのかな? でも、そのフランスでも最終処分場の問題で、こじれそうな様子がみられます。
■先進国は基本的にどこも中国と緊張関係にあるのだと思っていたので、フランスは中国との関係が悪くないというのが意外だった。
■アフリカの民族問題、中東問題の動向や現状を見ていると、かつての西欧諸国のつくり出した論理や制度が根源となっていると思います。いまの西欧諸国の人たちを憎むことはないけど、昔のしたことに対して落胆してしまいます。過去は変えられないから、ここからどうするかというのがこれからの課題ですね。
■先生はとてもフランスに詳しいように見受けるのですが、フランスに触れるきっかけは何でしたか? 教育はもちろん文化から政治まで、先生の知識量、写真の量まで脱帽です。まるで推し活みたいです。
・・・> 親分(指導教授)がフランスの専門家だったため、専攻すれば引きがあるかなと思ったことです。とくに引きはありませんでした(笑)。商売・・・いや専門ですからフランスについての情報は一般人の何倍もたしかにもっていますが、いうほどフランス推しでもありません。パリは大好き。年の半分くらいパリに住みたい。でもフランスはちょっと。(日本の田舎はやっぱりだめで、東京都心が好きなのです)
■フランスは美術とか食べ物のイメージしかなかったけど、理系が強くて哲学が必修で非宗教的なのは知らなかったから、ためになりました。フランスはおしゃれで、洗練されたイメージだけど、田舎も写真のようなキラキラした感じなんですか? いちばんおいしい食事はなんですか?
・・・> 一瞬、フランスの核心部分に進んだと思ったら、おしゃれでキラキラな話に戻っちゃった(笑)。いちばんおいしいのはキッシュ・ロレーヌ(ググれ!)。
開講にあたって
現代社会論は、附属高校ならではの多彩な選択科目のひとつであり、高大接続を意識して、高等学校段階での学びを一歩先に進め、大学でのより深い学びへとつなげることをめざす教育活動の一環として設定されています。この現代社会論(2016年度以降は2クラス編成)は、教科としては公民に属しますが、実際にはより広く、文系(人文・社会系)のほぼ全体を視野に入れつつ、小・中・高これまでの学びの成果をある対象へと焦点化するという、おそらくみなさんがあまり経験したことのない趣旨の科目です。したがって、公共、倫理、政治・経済はもちろんのこと、地理歴史科に属する各科目、そして国語、英語、芸術、家庭、保健体育、情報、理科あたりも視野に入れています。1年弱で到達できる範囲やレベルは限られていますけれども、担当者としては、一生学びつづけるうえでのスタート台くらいは提供したいなという気持ちでいます。教科や科目というのはあくまで学ぶ側や教える側の都合で設定した、暫定的かつ仮の区分にすぎません。つながりや広がりを面倒くさがらずに探究することで、文系の学びのおもしろさを体験してみてください。
選択第7群の現代社会論IIでは、設定いらいずっと「グローバル」なものを副題に掲げてきました。グローバル化(英語でglobalization=地球化、フランス語でmondialisation=世界化)という用語や概念は、1990年代あたりに一般化したものであり、2000(ゼロ)年代にはそれがすべてかのように猛威をふるい、2010年代には逆風にさらされ、グローバルに関する言説は総じて批判的なものになりました。2020年代ももう半ばですし、高校3年生のみなさんが実社会で活躍するのはさらに先の2030年代でしょうから、そのころグローバルという表現自体がもう陳腐化している可能性は、なくはないと思われます。ただ、いったんグローバル化してしまった以上、もとの世界に戻ることはありません。私たちは知らず知らずグローバルの恩恵を受けています(もちろん、ダメージも食らっています)。グローバル時代だから外国語を話せるようになりましょう、といった単純すぎる(アホみたいな)発想が陳腐化するのは間違いない。では、これからの時代に社会で活躍する人として、いかなる思考、どのような構えを心得るべきなのか。その答えを出すには、週2時間、1年弱の授業ではとても足りませんが、そのヒントや土台くらいは提供できればなという思いでいます。とくに、これまでの社会系(公民・地理歴史)の授業では、どうしても日本のことが中心であることが多かったと思いますので、当科目ではあえて焦点や対象を日本の外側に設定して、「世界」「国際社会」を展望するための見方を共有していくことをめざします。「展望するための見方」を端的に表現しようとしたのが、副題にあるパースペクティヴです。実はこれまでに「グローバル時代のパースペクティヴ」の副題を2度、使ったことがあります。最初は2016年、2度目は2020年です。偶然ではなく、意識的に合衆国大統領選挙の年に当てています(夏季五輪開催年、うるう年であることは承知していますよね)。2016年には、英国のEU離脱投票がおこなわれ、その開票速報をこの授業内で、みんなで見つめました。トランプがよもやの大統領当選を果たしたのもその年です。2020年はコロナ禍で、1学期の途中までオンライン授業を余儀なくされ、ただでさえ社会・世界がイレギュラーな状況になる中で、合衆国ではまたしても政権交代が起こっています。「パースペクティヴ」を掲げる年には、世界で何かが起きるのかもしれません。2024年は、どうでしょうか。
話題の大半が、なじみの薄い外国ないし世界のことになります。これまでの知識や考え方では思考が及ばないだろうと思います。少しずつでよいので、「見方」(「知識」ではない)を心得て、それを介して世界を見渡すようにしてみましょう。新聞やニュースで、これまであまり注目しなかった分野にも目を向けることを習慣化し、意識的に視野を広げるようにしましょう。18歳の視野はやっぱり限られています。いま広げてみると、それは間違いなく自身の成長につながり、将来の可能性を広げることにもつながります。本物のグローバル思考に向けて、歩みをはじめましょう!
*地理の授業で使用した地図帳を毎回、持参してください。別種類のものを買い足してもよいと思います(違った視点を得られるかもしれない)。
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