古賀毅の講義サポート 2024-2025

Études sur la société contemporaine II: Perspectives à l’ère de la mondialisation 2024

現代社会論IIグローバル時代のパースペクティヴ2024


早稲田大学本庄高等学院3年(選択科目)
金曜34限(11:20-13:10) 教室棟95号館 S207教室

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現代社会論I:探究するシヴィックス5.0

 

20241011月の授業予定
10
18日 争点としての合衆国と世界:2024年大統領選挙をめぐって
11
8日 理系世界のナショナルとグローバル
11
15日 グローバル時代の欧州(1):欧州統合の原理と論理
11
22日 グローバル時代の欧州(2):光と影の交錯

 


次回は・・・
19-
理系世界のナショナルとグローバル

文系希望の人ばかりのクラスなのになぜ理系、と思うでしょうか? 文系の人にこそ考えてもらいたいテーマです。文系とは何かということを間接的に受け取るための有用なプロセスでもあります。これまで当科目では、英語や中国語といった個別の言語(の文法や会話)を学ぶのではなく「言語というもの」について学び、同様に「宗教というもの」「歴史というもの」を取り上げてきました。今回も、生化学とか核物理学とか電子工学とか建築学といった個別の学問を扱うのではなく、「理系(の学問)というもの」を考えます。みなさんのクラスメイトにもきっと理系に進む人はいて、いろいろな話をする機会もあることでしょう。○○学といわれても、まるでわからないよ〜という感じでしょうか。それとも、趣旨はわかるけど具体的に何をするのかは不明、という感じでしょうか。理系と文系では、どちらに進むほうが「おトク」なのか、みたいな話をしたり聞いたりしたことはありますか? 仮に理系がおトクだとしても、自分の得意不得意を考えたら手を出すわけにはいかない、という人もきっとあることでしょう。おトクかどうかは存じませんが、社会のムードとしては理系のほうがカシコいようなイメージですし(カタカナで書いているあたりご賢察ください 笑)、何より「就職に有利」みたいなことをいわれます。本当にそうなのかということよりも、なぜそのようにいわれがちなのか、ということを考えるほうがおトク 有益です。

国文学とか日本史とか日本経済とか、とかくナショナルな外枠を決めてその内側のことだけ考えればいいようなイメージが、文系の学問には強い。それに対して理系は、国境など関係なく地球上どこでも通用する一般性をもっています。と、思ったでしょうか。今回の主題はそこです。たしかに理系はボーダーレスな側面をもっています。重力加速度や動物の細胞の組成が国ごとに違う、なんてことはありません。二進法の表し方が国によって異なる、なんてことも(現在はたぶん)ありません。でも、一方で「他国に負けない科学技術力を」と、たいていの国家が躍起になっています。個別の技術ではなく「科学技術力」という総体でいわれても、何のことだかよくわかりませんし、そもそもそれが向上することでどんないいことがあるのでしょうか? たとえばスポーツや芸術などであれば、自国の人が世界で活躍して評価されればうれしいし、自分自身の愛国心が爆上がりし、ナショナル・アイデンティティが強化されるということがあるかもしれません。しかし理系の分野で日本人や日本企業が世界的な何かを果たした、というニュースで、どこまで同じ効果が起こるでしょうか。ノーベル賞でももらえば違うのかもしれないが、たいていは業界内で「すごいらしいよ」といわれるだけで、一般人の愛国心などとは無関係です。科学技術力のアップを欲しているのは、国民ではなく国家のエラい人なのでしょうか?

理屈やしくみはわからなくても、科学技術のおかげで自分たちの生活が便利になり、快適になり、豊かになっているということはおわかりでしょう。自動車とエアコンとインターネットのない時代に戻るなんてありえない、のではないでしょうか? 便利とか快適とか豊かというのは、明らかにプラス評価の表現です(すべて形容動詞)。本当にプラスなのだろうか。自動車が発達・普及して当たり前になったからこそ交通事故が後を絶たないのだし、インターネットのせいで余計なトラブルやストレスも増えています。リモートワークができるようになったからいいじゃんと思うかもしれないけれど、そのせいで仕事から逃げられなくなりました(先日、英国とドイツに滞在中もオンライン会議に「出席」させられました。現地時間の早朝45時ですよ!)。科学や技術は、それ自体には「よい」も「悪い」もなく、プラスもマイナスもありません。そこをフラットに捉えるのが理系の学問の本来のいいところです。ただ、理系の人のほうが、自分たちが取り組んでいることに夢中になって、その点を忘れてしまいがちです。私は10年以上も理系世界の住民(工業大学の専任教員)をしていますので、自分たちが何かを生み出し、開発することで社会がよくなるのだとシンプルに考える教員や学生にしょっちゅう出会い、なんだかなとそのつど思います。それもあるので、文系のみなさんの役割は大きいのではないかと。

 

REVIEW 10/19

アメリカの大統領選挙に関して、ある程度の知識はあったが、今回の発表者のパワポがとてもわかりやすく、内容が頭に入ってきた。こういったテーマだと重い雰囲気になりがちだと思っていたが、フラットな感じで話を聞くことができてよかったし、いつもより集中力も高まった。

今回のディスカッションのために少し情報を調べていたのですが、報告者がとても詳しく、わかりやすく説明してくれて、いまのアメリカの現状について、少し解像度が上がりました。とくに情報統制をしているわけでもないアメリカに、アメリカの白人優位思想や排他的な鎖国風のスタイルを望む国民が半分もいるということが驚きでした。国民はきっともどかしい思いをしているのかなと想像します。また選挙がほぼ7つの州によって左右されえるようなしくみは、選挙としてどうなのか、死票が多くなりすぎるのではないかと疑問に思いました。

今回の授業に向けてアメリカ大統領選挙について調べてはいたのですが、発表者の説明の中で初めて聞くこともたくさんあり、自身のリサーチ不足を感じました。とくに歴史的背景を知れたのがよかったです。

大統領選挙にいままで関心をもったことがあまりなかったが、アメリカの経済政策により日本を含めた世界の経済変動にも大きな影響を与えることを考えると、他人事ではないと実感した。アメリカの中では、いまよりももっと「アメリカNo.1!」だった時代を取り戻したい、アメリカがいちばん偉大であるという精神が根強く残っているのを強く感じたが、トランプ支持派のアメリカ偉大!!っていう思いを抱きつづける人と、あまりそうは考えない人のあいだに結構なすれ違いが生じると思う。それでも一つの国という枠組の中で、大統領ひとりを決めるというのはやはり重要な出来事になるということをあらためて認識した。いっそのこと民主党と共和党で1人ずつトップを出したりとも考えてしまいたいが、国家として一つのまとまりであるためそれは違うと思うし、集団の範囲の難しさを感じた。

トランプの思い切りのある政策は、アメリカにとっては恩恵があるが、他国との関係が悪くなってしまうと思った。ハリスは、意識の高い若者や女性などを味方につけていて、強いと思った。テイラー・スウィフトのような影響力のある人がハリスに投票すると表明することでも、それに流される層が多くなると思った。

事前のリサーチがトランプとハリスの「政策」のみだったので、いまアメリカがどんな状況で何を克服する必要があるのか、ということを経済的な面でしか見ていなかったが、民主党と共和党の歴史を知り、支持層の背景や歴史、なぜそれぞれの候補を支持するのかなどについてもっと学ぶ必要があると思った。私は熱狂的なテイラー・スウィフトのファンで、どうしてもハリスさんへの肯定的な意見ばかりに注目してしまう(SNSのアメリカファンダムがみなハリス支持なので・・・)が、問題点についてももっと調べてみたい。

今回私は主に選挙制度について調べたが、選挙人制度によって、全体の得票数で下回っても勝利することがあるような制度になっていて、日本とは根本的にシステムが異なる点が興味深いと思った。選挙の勝敗を握る7つの州では、現時点では共和党が優勢のため、この支持率を保つことができればトランプ氏が勝つのではないかと思う。人工妊娠中絶という、日本の選挙ではあまり問われない視点で選挙を見るのが興味深い。

自分の発表に関しては、あらかじめいおうと思っていたことが飛んでしまったり、間違えたりすることが何度かあったし、入ってくる情報をすべて知識として入れようとした結果、整理がついていなかった。他の人の発表を聞いて刺激になったところが多い。話すことが整理されていたし、理解したうえで話していると思った。

これまで日本の政治形態すらもあまり理解できていなかったのですが、今回のディスカッションで、アメリカの選挙のしくみから今回の争点まで、とてもよく理解できました。パネリストの方々がすごく根本からアメリカの情勢を調べてきてくれたおかげで、さまざまな疑問も解消されるよい機会でした。私はトランプかハリスのどちらかの立場に立つということははっきりしないのですが、トランプさんの大胆な政策は、世間を引っ張ってくれて、ついていく人は多いけれども不安要素が多く、とにかく独りよがりの政策が多いという点は引っかかるし、ハリスさんのあいまいな主張にはついていきづらいしという感じで、難しいです。日本は直接選挙をおこなって指示した人数がそのまま得票数になるのに対して、アメリカは州ごとに決まって、その州全員がどちらかを支持するという制度。もし州内で半々くらいの得票だった場合、それが積み重なったら支持者数的には当選が逆転するということになりかねないですか?
・・・> そういうことはありますよ。歴史上5回も発生しています。最近では2016年にトランプがヒラリー・クリントンを破った際にそうだったのですが、私は2000年にブッシュ(息子)がアル・ゴアを破った選挙の印象が非常に強いですね。あのときも総得票数では民主党のゴアのほうが上回っていたのに、激戦州を僅差で制したブッシュが獲得選挙人数で逆転しました。ずっとそれでやってきていて、「そういうものだ」とみんな思っているので、大統領選挙人をえらんでWinner takes all(勝者総取り)になるというしくみを変えようという話にはなりません。


トマス・ジェファソン像(パリ セーヌ河岸)
フランス革命直前の178589年に駐フランス公使を務め、のち第3代大統領になった

 

大統領選挙について、トランプ氏とハリス氏がどのような政策を主張しているのかおおまかに把握していたつもりであったが、パネル・ディスカッションを通してその政策が支持される(不支持となる)背景や、大統領がどちらかに決定することで日本企業にも環境などあらゆる面で影響が及ぶということを選挙前に知ることができてよかった。個人的には、片方がよくてもう片方は好ましくないというイメージがあったが、パネリストのみなさんの発表で、どちらにも分野を限定すればヤバい主張があることがわかって、驚きだった。

両候補が表明している政策について一つ一つの理由を学べておもしろかった。日本では犯罪をおかすと社会的信用を一度で失うのに、アメリカでは犯罪をおかした人が国のトップに立てるというのが、日本人と考え方が大きく異なる点だと感じた。
・・・> 犯罪とは何のことなのか、という整理が十分についていないかもしれません。歴史上も現在でも、政権を握っている側がライバル陣営を蹴落としたり貶めたりするために、警察や検察を動かして刑事訴訟にもっていく(つまりは「犯罪者」にしていく)ことはしばしばあります。プーチンがナワリヌイをどうやら「やってしまった」ようですが、そのような例はかなり多い。体制が民主化されたり政権交代が起こったりすると、前体制で「犯罪」を認定されて投獄されたり市民権を剥奪されたりした人物が、こんどは体制側に来て権力を握るということもよくあります。その際には「犯歴」が輝かしい抵抗のプロフィールになります。韓国の金大中大統領、南アフリカのマンデラ大統領、ポーランドのワレサ大統領など。ミャンマーのアウンサンスーチーもそのひとりだったのですが、また体制が変わって再度軟禁されていますね。ちょっと傾向は違いますけれど、日本では極東軍事裁判で有罪とされ、しばらく巣鴨プリズンに収監されていた岸信介が、政界復帰後に首相になったという事例もあります。トランプと支持者の立場に立てば、犯罪なるものはトランプをねたみ、貶めようとする敵側の陰謀であり、あるいはディープ・ステート(闇の国家)の仕業であって、そこから不死鳥のごとく何度も立ち上がるトランプはまじ神がかっている、ということになるのではないか。

アメリカ大統領選挙の現状と、そこまでの経緯、争点などがよくわかりました。トランプの移民規制、人工妊娠中絶への見解、経済政策を聞いて、それぞれ支持する人がいる人たちがいる一方で、どのような反対意見や懸念があるのかがわかりました。アメリカにとっては、インフレ・ストップにつながり、よい影響があるとしても、各国や世界への悪影響が上回ることで、最終的にアメリカが損してしまうことがあるというのは考えたことがなく、新たに学ぶことができました。またアメリカは大国なので、世界市場や経済にも大統領が大きな影響を与え、製鉄や自動車産業など日本にもさまざまな影響があることを知って、大統領選への関心が高まりました。激戦区の影響力が大きいことや、ブルー・ステートのうちいまは1州しか民主党支持になっていないことなどを聞き、選挙の制度なども日本とは大きく異なっておもしろかったです。今回、政治は自分の生活や将来に大きな変化を及ぼすものであり、重要であるため、もっと興味をもって調べていきたいと思いました。

さまざまな観点ごとに説明してもらい、とてもわかりやすく、理解が深まった。とくに民主党と共和党の成り立ちや、トランプ氏とハリス氏の方針の比較など理解しやすく、あらためて考えるきっかけとなった。私自身の意見として、今回の討論も踏まえたうえでハリス氏を支持したいと考えた。トランプ氏は基本的に政策などが強硬であり、アメリカ社会の分裂を促してしまうのではないかと思った。とくに移民政策については、移民の国として築いたアメリカの歴史や価値観からの逆行になると思った。また大規模減税は富裕層に恩恵が集中してしまう。ハリス氏は貧困層や中小企業への支援に力を入れている点でよいと思った。今回の討論を踏まえたうえで大統領選挙に注目したいと思う。

トランプは好き嫌いが分かれると思っていたが、アメリカの大統領選挙は7つの州で実質的に決まるので、これ以外の州での不満が多くても、7つの州で好印象をもってもらえれば勝ち抜くことができる制度だと考える。

大統領選挙のしくみがそもそもわかっていなかった。得票が多ければ勝つと思っていた。もともとは共和党が革新派だったというのが意外だったが、党ができてから長い期間が経過したことを考えたら当然である。

共和党と民主党の、南北戦争当時から現在に至るまでの「革新」と「保守」の変遷がわかりやすかった。
現在の民主党と共和党の位置が昔とは逆転しているということを知り、政党のあり方は変わりつづけており、公民の授業で暗記したような民主党・共和党の枠組だけでこの対立を考えるのは危険だということがわかった。
・・・> 公民はだいたい最近、最新の枠組を示すと思うのでいまのところ安全。その記憶をいつまでも引きずると、いつの間にか変わっちゃうことがあるよ、ということです。歴史(近現代史)の学習でこの種のことを扱う場合のほうがより注意すべきかもしれません。現在と同じ名称と、似たような状況があるとすると、歴史的な経緯や背景を学んだうえなので、「ああなるほど、こういう経緯でいまの体制になったのだな」というふうに、成立当時の事情と、それから何世代かを経た現在の状況とのあいだの変化やズレを見なくなってしまうリスクがあります。日本の近現代史における政党の変遷を学ぶ際には、とくにその点の注意が要ります。

民主党・共和党は、意見が完全に偏っていて、逆にしくみや内容、背景を知るにはとてもわかりやすいのだが、一方でもし自分がアメリカ人で、中立的な立場や考え方をもっていたとすると、選挙でどちらに投票すべきか、政策ごと、時代ごとに異なるし、簡単に受け入れるというのは難しくなると思った。

まったく興味をもっていなかったアメリカ大統領選挙について掘り下げてみて、民主党・共和党のどっちがどっちなんてわからない状況だったが、それぞれの政策やアメリカの情勢を知って、成長できたと思う。もはや日本の選挙よりアメリカの選挙のほうが楽しみである。
アメリカ大統領選挙のしくみについては知らなかったので、知ることができてよかった。トランプ氏の政策、ハリス氏の政策についてさらに興味をもてたので、今後の動向についても詳しく探っていきたい。私はもう選挙権をもっているので、アメリカだけでなく日本の選挙にも興味をもっていきたい。

選挙制度に関して、投票所が少ないということが挙げられていましたが、これほどITが発達しているのにもかかわらず、なぜインターネットを活用しないのかという疑問を抱きました。これは日本の制度にもいえることだと思います。
・・・> インターネット投票は、アレな人がちょろく投票する流れができてしまうと政治家の側がコントロールできなくなるというので、怖がっている感じがします。投票用紙を箱に投じるというアナログな方法だと、「開票」「集計」というプロセスに多くのオペレーションと人員が必要になり、それはそれで雇用につながります。また、2000年の選挙では開票がもたついたのを理由(口実)に、共和党の州知事が開票作業の打ち切りを宣言して、スウィング・ステートの1つを強引に共和党(ブッシュ息子)の勝利にもっていき、それが・・・ てなことがありました。そういうことをする余地を残しておく、なんてことは、まさかないよね?

freedomhouseというサイトのfreedom in the worldでは、アメリカの民主具合、自由具合は56位でした(何位中かは忘れた)。意外と低い順位だと思いました。それを問いたかったのですが、質問がまとまりませんでした。スウィング・ステートがどういう要因で決まるのかも聞いてみたかったです。たぶんそこにいる人種、宗教観、主要な産業によって変わると思うのですが、みんなで話し合ってみたかった。


トランプ・タワー(ニューヨーク五番街)
有名宝飾店のティファニーは、このすぐ隣(写真だと左)にある

 

どちらの候補者にも、期待すべきこと、懸念することなどの両方があり、大きな国で数多くの問題を抱え、かつ世界に大きな影響を与えるアメリカだからこそ、とても難しい選挙なのだと考えた。

トランプ氏が前回大統領だったときに、あまりよくなかったから2020年の選挙で落選したと思うのですが、今回再び当選しそうなのはなぜですか?
・・・> この前後のレビューでいろいろな意見が出ていますので、ぜひお読みください。

激戦州の支持率の動向が結果に大きく影響を与えるものであり、各候補が激戦区に集中したとしても日本のような一票の格差という問題は起きなかったとしても、州ごとの選挙区割りのしくみは、人口の少ない州で一票の価値が相対的に高くなってしまうと思った。
・・・> ちょっとよくわからないのですが、全米で1人をえらぶ大統領選挙と、区割りされた選挙区から1人をえらぶ下院議員選挙の話が混線していませんか?

質疑応答の中であったように、白人至上主義的な傾向をもつトランプは「多様性」を尊重する傾向にある現代社会に逆行しているように思える。もしトランプが大統領になれば、国内における黒人差別の増加、移民の徹底的な排除により、各国への移民の増加、さらなる移民問題が世界に波及していくのではないかと考えた。

環境保全にアンチしたり人工妊娠中絶の権利を奪ったりとか、犯罪をおかしているかもしれないとか、私にはトランプのよさがわからないけど、アメリカはいちばん偉大だ!という象徴のようなものを人々が欲しているのかなと思った。アメリカの動きによって日本企業の動きも大きく変わると思うから、他人事じゃなくてしっかりと自分のこととしてアメリカの動向を追いたいと思った。

SNSに依存している世代にとってトランプ氏のわかりやすい政策――悪者をつくって排除して自分たちがトップを取ろう、みたいな考えが心地よい、という感覚は衝撃的でした。それでも、世界がどんどん複雑になって、国や人や文化や環境問題や歴史が多様性を増しているいま、アメリカという大国がそこに対する思考を止めて、単純で気持ちのよい道だけを進みはじめたらおしまいという気がして、怖いなと思いました。

トランプ氏に関する知識がいままであまりなくて、ただ移民を嫌っている人だと思っていたけれど、そこには雇用を生み出すという目的があるということを初めて知った。しかし過度に移民を強制送還しているのは間違いないと思う。そこまでして古典的な白人に対して雇用を生み出すことが必要なのかということに、疑問を抱いてしまう。アメリカは大国ゆえに反グローバリズムでもやっていけるため、トランプ氏のような政策を掲げられるのだと思うが、トランプ氏が選ばれた場合、世界全体には悪影響が広がると考えられるため、私であれば(日本人視点で)ハリス氏に投票したい。

トランプ氏は犯罪の容疑をかけられているのに支持者が多い。インターネット(SNSなど)の環境を利用、演説のパフォーマンス、そして銃撃事件からの生還で支持者が神聖視する?といった流れがあるのではないか。

ディスカッション内で発言がありましたが、トランプ氏はいくつも犯罪を起こしているにもかかわらず大統領職に就くことができただけでなく、再び選挙に出ています。なぜトランプ氏の支持が途絶えないのかを考えたとき、ひとことフレーズのインパクトの強さや言葉選びの過激さが聴衆の気を引くとおっしゃっていました。私は、それに加えて、アメリカに住む白人を優先する意図が強い政策が講じられることで大きな利益を受けるマジョリティと、そうではないマイノリティが生まれるという点も大きく影響するのだと思いました。アメリカという国自体は、もともと白人の土地ではありません。その中で白人主義的な政治をおこなうことはいかがなものかと、国外にいる、そして白人ではない私は思います。
・・・> 合衆国は、ある面では「派生元」である欧州よりもキリスト教の信仰や教義が社会に浸透した国家といえます。欧州にいた人たちが北米大陸をめざしたのも神のお導きだし、だからこそそこに豊かで反映した国家を営むことができた、と考えることがしばしばあります。先住民たちを駆逐しながら国土を西へと拡大していった、いわゆる開拓時代には、明白なる天命(Manifest Destiny)という理念が共有されました。そう考えると「もともと白人に与えられるべきと神が予定した土地」なのでしょう。


2020年大統領選挙に向けた抗議運動

 

前回のヒトラーの話もそうですが、やはりパワーや覇気のある人というのは強いのかなと思いました。

何よりもトランプが当選した場合の不安というのが、調べていて印象的だった。過激すぎる政策はアメリカのためだったとしても結局この国際的な社会を経て帰ってくると思う。報告者は、トランプのねらう支持層はアレな層だといっていたが、それだけで勝っているとしたら恐ろしいと思った。
トランプさんが大統領になって、彼が思う「理想的なアメリカ」がつくられたとして、そのアメリカは内に閉ざされていて他国とは関係が断たれると想像するのですが、そうなった際に、アメリカが「偉大」だったとしても、世界の中心、世界のリーダーになったとはいえないのではないか、と思いました。

SDGs+地球環境を守る動きが世界的。トランプ氏の主張は逆だ。他国からの措置がおこなわれる可能性があり、信頼関係はどうなるのか?

報告を聞いて、トランプ氏は積極的に国境の壁をつくろうとしたり、貧困層の拡大を懸念して不法移民を徹底的に取り締まったりするなどしていることがわかりました。閉鎖的な政策はアメリカ国民の雇用や根本的な自由を守ることにはつながると思いますが、グローバル化が進む現在、いくらアメリカが大国であるとはいえ他国の排斥は将来的に悪影響を及ぼすのではないかと思います。白人=優れている という価値観をかたくなにもっていることや、具体的な政策を明言せずにただアメリカ・ファーストを掲げているという点が、怖いと思いました。

アメリカの大統領制を理解して、現在のアメリカの様子を知るよい機会だった。MAGAMake America Great Again)に関する質問に、なるほどと思った。アメリカ一強の国際情勢ではなくなっている現在において、「偉大な国」を自負しつづけるのはかなり困難なことなのだろうと、トランプ、ハリス双方が掲げる政策を知って不安に思った。世界のレジームなどから乖離した政策を実行しても、国際社会で成功できるのでしょうか?
・・・> 成功だって言い張るんじゃない?

民主党=富裕層(ITで成功した移民など)、共和党=労働者となっていたのが、民主党が「大きな政府」を強めていくほど富の再分配が進んで富裕層の流出が進んでいるといえる。ただ個人的には、共和党は先を見据えておらず、トランプ氏はポピュリズムを煽りすぎだと思った。いくらUSAといっても国際協調せずに今後の世界でやっていくのは無理だ。とくにトランプの反知性主義、白人至上主義はあらゆる面で危険である。アメリカ国民ではない立場からすると、国際的に火種となりかねない言動を繰り返すトランプが大統領になるのは避けたいが、共和党としてはMAGAを掲げ、アメリカ国民にとって「よい」政策を打ち出していること、またトランプのカリスマ性ゆえに、民主党と拮抗しているのだと思った。
・・・> 民主党に富裕層のイメージを見て取るのは最近(2000年代以降)の傾向。歴史上のあらゆる産業にいえるのですが、出はじめとか上り調子のときには政治による保護や擁護を欲しますので、再分配的な政治との相性がよく、また新しい層が担い手となる場合には属性の優劣を批判するようなリベラルな態度を好みます。インターネットとその関連産業がこんにちのような隆盛を築いた背景には、1990年代のクリントン政権(民主党)による産業政策がありましたし、アジア・アフリカ系の人材が多く登用されたこともあって、IT業界は民主党寄りでした。ただ、主流産業に成長したあとでは政治による規制や介入がかえって邪魔になります。こんどは共和党的なものに軸足を移していくことになるわけですね。民主党がIT業界と近かったといっても、同党の主たる支持層は労働者やマイノリティですので、そちらを袖にするわけにもいかないのだと思います。


ニューヨーク タイムズ・スクエア付近のいわゆる「ブロードウェイ」地区

 

いままでアメリカ大統領選挙を他人事のように見ていましたが、経済をはじめさまざまな面で日本にも影響が及んでいるので、自身の未来にもかかわるのだという当事者意識をきちんともって見なければならないと思いました。また直接的な影響を受けなくても、アメリカは世界のトップだから、お手本になるなど間接的な影響を受けることもあると思うので、そういった面でも注目しなければならないと思いました。

アメリカの大統領選挙が、アメリカ国内だけではなく日本の企業や世界の経済にも関係しており、とても重要なものであることを認識した。トランプはアメリカ経済を発展させることを第一として、移民を排除したり、感情に訴えて演説したりと、大胆なことをしていると思った。

アメリカは世界一の大国で、アメリカの大統領選挙によって生じる影響はアメリカ国内にとどまりませんが、そうであるならばアメリカ以外の人あるいは団体にも投票する権利、理由があるのではないかと思いました。将来的にアメリカの大統領選挙に直接的に干渉できるようになる可能性はないですかね?
ディール志向ということに着目してみると、トランプの政策はアメリカ本位にすぎるように思えた。アメリカという大国と一対一で貿易することを促す時点で、自国が貿易において優位に立とうとする魂胆が見えている。これからのアメリカをつくる大統領という立場であるかぎり自国本位の政策になることは仕方ないように思えるが、それによって世界市場に負担を強いるのであれば、合衆国民以外の者からしたら理不尽に感じるだろう。このため世界市場に多大な影響を及ぼすアメリカのような大国の大統領選挙には、世界各国からの投票も反映するようなしくみが必要だと考えた。
・・・> あんな超大国でも一つの主権国家だからね。(2回にもどる)

トランプの政策を調査したが、自分がアメリカ国民だったら支持、それ以外なら不支持になると思います。しかし「アメリカを偉大に!!」というのは、まさにアメリカのトップにふさわしい政策だ。トランプが大統領になったときには米中関係に注目したい。彼の政策によって米中関係は冷え込む。そうなると、経済面では、中国はアメリカの国際や企業の株を保有し、また中国にアメリカ企業も進出しているから、それを利用して制裁策をとってくる可能性もある。世界トップの両国には注目だ。
・・・> トランプはいうことがしばしば変わるので、途中で変なことを言い出されると日本人も迷惑をこうむりますね。東アジア情勢はただでさえ複雑でおっかないのに、思いつきであれこれされては本当に困る。前回のトランプ政権では、習近平はトランプの足許を見て、香港を完全に掌中に収めることに成功しました。まさか台湾が・・・。

日本のメディアでは、トランプ氏はマイナスの表現をされることが多く、「もしトラ」という言葉も否定的な意味で使われますが、なぜそのように表現されるのかとか、アメリカ人からトランプ氏がどのように見えるのかなどがよくわかりました。推し活の話がありましたが、政治に興味がないような若者や、貧困で質の高い教育を受けられていない白人の人たちからすれば、自国がすばらしいというトランプ氏の主張は魅力的で、世界的な影響力を深く理解せずに推し活感覚で、まるでアイドルを推すように支持している人も多いのかなと思いました。
・・・> 多いですよ。文字どおりの「救世主」だと信じているファンがとても多い。私、20代だったころに、当時ローティーンだったガールズ・ダンス&ボーカル・グループの熱烈なファンで、中でもツイン・ボーカルの片方の子にめちゃくちゃ入れ込んで推していました。実はいまも自室に4人組のポスター貼ったままにしてあるくらいです。いまでも冬場にはWhite Loveを、3月にはMy Graduationを聴きたくなります。そんな彼女が某与党から参議院議員選挙に出て、もう2度も当選していますけれど、こんな私でも投票したことはありません。推し活と政治は別だよ〜。でもでも、大ファンの子が好きではない政党から立候補して、妙な政策めいたことを口にするのを見るのは、たぶんみなさんが思っているよりツラいことです(涙)。

 
ニューヨーク マディソン・スクエア  合衆国憲法の主要起草者のひとり、第4代大統領マディソンを記念した命名
園内には初代大統領ジョージ・ワシントンの像もある

 

「トランプ支持者」と「共和党支持者」の違いを質問したのだが、あまり納得のゆく答えは出なかった。この違いは重視してもよいのではないかと思う。私は、共和党としての政策は理解できても、ポピュリズム的で、あまりにも保守的なトランプには賛同できないと思うことが多い。一方で私の父は「ウクライナとガザが本当に片づくならトランプでもよい」という。中間的な意見をもった人間の取り込みは、どの国のどの種類の選挙でも(ちゃんとしたものなら)共通することだと思うが、二大政党制という極端な政治体制で、簡単には相手側の党の支持者をひっくり返すことができないからこそ、おもしろいのではないかと思う。
・・・> 12- 現代世界の左派と右派 の20枚目以降をもう一度確認してください。既存の(ある意味まともだった)共和党は、いつの間にかどこかへ・・・

トランプ氏を支持しつづける層がなぜいるのかということに疑問をもっており、今回の授業で知ることができるのではないかと期待していたが、もとから共和党を支持していたからというような単純な理由なのかなと思った。アメリカに留学していた友人が、それぞれの家庭の中で民主党を支持するか共和党を支持するかは決まっている、といっていたこととつながっていると思う。
・・・> スウィング・ステートが数州しかなく、あとは赤(共和党)・青(民主党)のいずれかでほぼ決まっているということからもわかるように、基本的な構造は長きにわたって不動です。業界や宗派、そして家庭というか家系においてもほぼ決まっています。ただ、1つ上で指摘してくださっているように、伝統的な共和党の支持層が、そこから大きく逸脱している(ように見える)トランプをそれでも支持するという現状に、世界中の人が首をかしげています。そうなんだからそうなのだということではあります。私は、(1)伝統的な共和党の支持層が拠って立つ基盤が、産業構造や人口構成の変化によって掘り崩され、彼ら自身の考え方がトランプ化した、(2)トランプやその政策に不満があったとしても、民主党やハリスを支持するよりマシと考える人が多い、(3)そもそも2020年の大統領選挙の結果は民主党側の悪辣な策謀とディープ・ステイト(闇の国家)の連中の仕業であり本当はトランプが当選していた、という陰謀論がそれなりにインパクトをもっていた(人は目に見えるものではなく見たいものを見るからね)、といったあたりを想定しています。

アメリカでは「自由」ということばがとても重要視されるが、民主党は再分配的な自由、共和党は自助的な自由を主に重視していて、自由といっても各々が望む自由を選ぶのだとわかった。経済の不景気(物価上昇など)を解決する共和党の政策が魅力的だと思ったが、その経済政策は逆に物価の上昇をさらにもたらすという意見を聞いて、ただ政策を知ってもその内容についてもじっくり考えるべきなのだと学べた。
・・・> 経済のところをもう少し整理しましょう。不景気というのは経済活動が停滞しますので、雇用が減り、在庫が増え、物価は下落します。逆に経済活動が過熱しすぎた場合には、雇用が増えるのですがしばしば賃金上昇を物価上昇が上回り、財やサービスを購入しにくくなるというインフレーションが発生します。トランプというか共和党の基本方針は、規制や過剰な課税をなるべく抑えて取引しやすくし、そこから生み出される利潤をやがて全国民でシェアしていくという感じ。一方の民主党の政策は、適度な規制や介入によって雇用やマネーを最適配分して、とくに中間層の利益を最大化しようとする傾向があります。ただ、原油価格の高騰とウクライナ情勢の悪化、そして円安ドル高があって2022年あたりから急に物価上昇がはじまった日本の事例のように、不景気・好景気や物価の動向というのは国際情勢など外部要因によっても大きく変わります。バイデン政権は物価抑制に成功しませんでした(あまりやる気がなかったのではないかと見ています)。本来的な民主党支持層のうち、どれくらいの割合が「じゃあ今回はトランプに投票する」となるか、という点が重要なのでしょう。パネリストの報告にもあったように、トランプ政権が復活したとしても経済の不安要因は別に発生するので、トータルでみてどうなのか、ということですね。それと、「やっぱりトランプは絶対に嫌」という感覚が上回るのかどうなのか。

今回、終始気になっていたのは「大きな政府」「小さな政府」の是非でしたが、それにかかわる考察などが発表者からあればよかったなと思いました。しかしさまざまな観点(歴史や両候補の主張、エネルギーや貿易など)からアメリカ大統領選挙を見つめなおすことができ、とても充実していました。先生からいただいたコメントがとても勉強になりました。私自身いままで「小さな政府」「大きな政府」の加減は、何かサンプルがあり、おおよそ一律であるという考えを抱いてしまっていたので、今後ニュース等を読む際に注目してみます。
・・・> 授業でもいったように、公民の教科書や資料集が単純化しているのがそもそもの間違いだと思う。関心をもっておられるように、現在でも非常に重要な争点であり政策の方向を示すキーワードなのに、設定が甘すぎますね。今回の報告にもあったように、共和党のフーヴァー大統領までは誰がどう見ても「小さな政府」でした。もう少し丁寧に見ると、それに先立つハーディング、クーリッジの両共和党政権もまったく同様です。ただ、共和党の連続3人目のフーヴァーが不運で、後世から無能扱いされてしまうのは、彼の在任中に世界恐慌が起こったからです。恐慌(depression)というのはパニックを伴う不況のものすごいやつ、ということです。直接的には、失業が連鎖的に起こり、社会不安が一気に高まります。それなのに、フーヴァー政権は手を打ちませんでした。神の見えざる手(市場原理、価格メカニズムのこと)を信頼して政府は景気に手出ししないというアダム・スミス流の「小さな政府」観に、あまりに忠実だったためです。失業者たちがテント村をつくり、皮肉を込めて「フーヴァー村」と名づけたくらいです。次のフランクリン・ルーズヴェルト大統領(民主党)が、ケインズ政策を容れて、政府が景気に直接介入するというニューディール政策を採り、それがその後のスタンダードとなったため(「マクロ経済政策」と総称されます)、「前の時代」の最後となったフーヴァーはいっそう低評価になってしまうのですね。同時期の日本でもまったく同じことが起こりました。立憲民政党の浜口雄幸・若槻礼次郎の両内閣で大蔵大臣(現在の財務大臣)を務めた井上準之助は、見えざる手の自動調節機能を信じて、政府による介入を手控えました。金輸出解禁のタイミングを誤ったことなども重なって世界恐慌を国内に引き込んでしまう結果となり、大パニックになります(1930年、昭和恐慌)。代わった立憲政友会・犬養毅内閣の高橋是清蔵相は、赤字国債をばんばん発行して民間銀行のマネー・ストック(つまりお金の量)を大胆に増やすという手法で景気に介入しました。これが当たって、日本は主要国で最初に世界恐慌から脱出できたのです。一般に、井上までが「小さな政府」、高橋からが「大きな政府」とされます。しかしこの時期の「大」というのは、それまでに比べればというくらいの話。バブル崩壊後の日本の財政なんて、高橋是清もびっくりするほどの赤字国債垂れ流しで、途中何度か「もうやめようよ」という声が出てくるのですが、何かあるたびに(リーマン・ショックとか、大震災とか、コロナとか)赤字国債依存がアクセルべた踏み状態になり、「大きな政府」どころか「超特大」みたいになっています。アメリカのエコノミストや議員の中には、「日本があれだけ赤字国債に依存して財政が破綻しないのだから、アメリカもそうして大丈夫だよ」と言い出すやつが出てくる始末。なお「夜警国家」と「福祉国家」の対比を「小さな政府」「大きな政府」に直結させるのも、少し慎重になったほうがよいですね。ルーズヴェルトやケインズ、高橋是清の活躍した1930年代を境にして二分するならば、より結びつけるべきなのは自由権重視→社会権重視という人権観のほうです。(公民の先生っぽいコメント!)




開講にあたって

現代社会論は、附属高校ならではの多彩な選択科目のひとつであり、高大接続を意識して、高等学校段階での学びを一歩先に進め、大学でのより深い学びへとつなげることをめざす教育活動の一環として設定されています。この現代社会論(2016年度以降は2クラス編成)は、教科としては公民に属しますが、実際にはより広く、文系(人文・社会系)のほぼ全体を視野に入れつつ、小・中・高これまでの学びの成果をある対象へと焦点化するという、おそらくみなさんがあまり経験したことのない趣旨の科目です。したがって、公共、倫理、政治・経済はもちろんのこと、地理歴史科に属する各科目、そして国語、英語、芸術、家庭、保健体育、情報、理科あたりも視野に入れています。1年弱で到達できる範囲やレベルは限られていますけれども、担当者としては、一生学びつづけるうえでのスタート台くらいは提供したいなという気持ちでいます。教科や科目というのはあくまで学ぶ側や教える側の都合で設定した、暫定的かつ仮の区分にすぎません。つながりや広がりを面倒くさがらずに探究することで、文系の学びのおもしろさを体験してみてください。

選択第7群の現代社会論IIでは、設定いらいずっと「グローバル」なものを副題に掲げてきました。グローバル化(英語でglobalization=地球化、フランス語でmondialisation=世界化)という用語や概念は、1990年代あたりに一般化したものであり、2000(ゼロ)年代にはそれがすべてかのように猛威をふるい、2010年代には逆風にさらされ、グローバルに関する言説は総じて批判的なものになりました。2020年代ももう半ばですし、高校3年生のみなさんが実社会で活躍するのはさらに先の2030年代でしょうから、そのころグローバルという表現自体がもう陳腐化している可能性は、なくはないと思われます。ただ、いったんグローバル化してしまった以上、もとの世界に戻ることはありません。私たちは知らず知らずグローバルの恩恵を受けています(もちろん、ダメージも食らっています)。グローバル時代だから外国語を話せるようになりましょう、といった単純すぎる(アホみたいな)発想が陳腐化するのは間違いない。では、これからの時代に社会で活躍する人として、いかなる思考、どのような構えを心得るべきなのか。その答えを出すには、週2時間、1年弱の授業ではとても足りませんが、そのヒントや土台くらいは提供できればなという思いでいます。とくに、これまでの社会系(公民・地理歴史)の授業では、どうしても日本のことが中心であることが多かったと思いますので、当科目ではあえて焦点や対象を日本の外側に設定して、「世界」「国際社会」を展望するための見方を共有していくことをめざします。「展望するための見方」を端的に表現しようとしたのが、副題にあるパースペクティヴです。実はこれまでに「グローバル時代のパースペクティヴ」の副題を2度、使ったことがあります。最初は2016年、2度目は2020年です。偶然ではなく、意識的に合衆国大統領選挙の年に当てています(夏季五輪開催年、うるう年であることは承知していますよね)。2016年には、英国のEU離脱投票がおこなわれ、その開票速報をこの授業内で、みんなで見つめました。トランプがよもやの大統領当選を果たしたのもその年です。2020年はコロナ禍で、1学期の途中までオンライン授業を余儀なくされ、ただでさえ社会・世界がイレギュラーな状況になる中で、合衆国ではまたしても政権交代が起こっています。「パースペクティヴ」を掲げる年には、世界で何かが起きるのかもしれません。2024年は、どうでしょうか。

話題の大半が、なじみの薄い外国ないし世界のことになります。これまでの知識や考え方では思考が及ばないだろうと思います。少しずつでよいので、「見方」(「知識」ではない)を心得て、それを介して世界を見渡すようにしてみましょう。新聞やニュースで、これまであまり注目しなかった分野にも目を向けることを習慣化し、意識的に視野を広げるようにしましょう。18歳の視野はやっぱり限られています。いま広げてみると、それは間違いなく自身の成長につながり、将来の可能性を広げることにもつながります。本物のグローバル思考に向けて、歩みをはじめましょう!

*地理の授業で使用した地図帳を毎回、持参してください。別種類のものを買い足してもよいと思います(違った視点を得られるかもしれない)。

 

 

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