古賀毅の講義サポート 2020-2021

De Société contemporaine II: Perspectives à l’ère de la mondialisation- 2020

人文社会科学特論(現代社会論 II
:グローバル時代のパースペクティヴ2020 

早稲田大学本庄高等学院 3 (文系必修選択科目)
金曜 34限(11:20-13:10)  教室棟95号館 S205教室   

 

 

 

 

 

 

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20207月の授業予定
73 視点としてのブリテン諸島(1):連合王国の動揺 A
7
10 視点としてのブリテン諸島(2):連合王国の動揺 B
7
17 視点としてのブリテン諸島(3):アイルランド和平とEU
7
24 視点としての香港・マカオ:一国両制の希望と絶望
7
31 低まる/高まるボーダー:グローバル化の中間決算


■■次回は・・・
8-
視点としてのブリテン諸島(1)(2):連合王国の動揺

ここからしばらく、エリア・スタディを試みます。これまでみてきたような国家、言語、アイデンティティといった事象は、いわば総論であり一般論です。実際には多くの具体例、個別事例があります。今度は個別事例のほうに注目して、そこにどのような一般的傾向が反映しているのか、他地域と比較してみてどうなのか(共通点は? 相違点は?)というふうに、議論を進めることにします。

まずブリテン諸島British Islands)です。「日本は島国だから〜」と、なんでもそれで説明してしまおうという(単純な、アホな?)傾向には、「島国エクスキューズ」と名づけてディスりたおそうかと思っているのですが(笑)、それならば別の島国を見てみることにしましょうよ。ユーラシア大陸の東に浮かぶ島国がうちのであるなら、西に浮かぶのがブリテン諸島の国々。いま複数形で書いた理由がわかるでしょうか? 東の列島と違って、西のアイランズには複数の国家があるからですね。では地図帳で、その複数の国々の固有名詞を拾ってみましょう。ラグビーの北半球最強決定戦と呼ばれるのがThe Six Nations Championshipです。そのうち欧州大陸に属するのがフランス、イタリアの2ヵ国。残りはブリテン諸島にあります。あれ? 4ヵ国? 計算合わないですか?

高校3年生の一般常識の中にはあるものと思いますけれど、日本人の多くが「イギリス」と呼んでいる国家は、主権国家としてはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)というのが正式の呼称です。直訳的には「連合された王国」ですので、そこに複数の何かが含み込まれている、という予想がつきます。同じunitedを冠するところでは、以前に「いろいろなかたちの国家があるよ」というので紹介したUnited Arab Emirates(アラブ首長国連邦)があります。FederationでなくUnitedなので「アラブ首長国連合」が正しいはずなのに、なぜか外務省は「連邦」といいつづけています。いかんですね。UAE7つの首長国(世襲のアミールがいる「王国」みたいなもの)が結合されて、1つの主権国家になっています。UKすなわちグレブリ北アイ連合王国(略すなよ!)もまた、複数の、正確には4つのCountriesが結合されて1つの王国になっています。法律や制度がそれぞれ異なります。言語(公用語)にもズレがみられます。アイデンティティがいちばん厄介ですが、それもCountryごとにある、と考えられます。昨秋のラグビーW杯では、日本代表がアイルランドとスコットランドを撃破して世界を驚かせました。ウェールズも同じ組だったら、社会科の学習的にはおもしろかったでしょうね。日本が当たることがなかった(当たらずに済んだ)イングランドは、決勝まで勝ち進んで準優勝を果たしています。イングランドとスコットランド、ウェールズ、アイルランドは、少なくともラグビーの世界では「別の国家」であるわけです。なお大会期間中に来日された連合王国のチャールズ皇太子(エリザベス2世の長男)は、ウェールズ代表を激励に訪れ、記念写真に収まりました。なぜ4ヵ国のうちウェールズなのかというと、他のCountriesでは「王位継承者」であるのに対し、ウェールズではそこの元首(世襲のトップ)であるからです。中世後期の13世紀からずっと、イングランド王の王位継承予定者がPrince of Wales(ウェールズ公)としてウェールズの君主になる、と決まっています。

いまの英語では、United Kingdomは単数形、つまりisで受けてよい固有名詞になっています。でも、文法の話と実態とは微妙に違うかもしれない。2014年にスコットランドで、連合王国からの離脱を問う民投票が実施されています。意外な僅差で残留が決まりましたが、その2年後にはUKのほうがEUを離脱することになりました。その折の投票で、スコットランドでは残留支持派が多数だったので、「あのときUKから独立していれば、EUから独立しないで済んだのに」という思いもあることでしょう。そうした手続きの話だけでなく、そこにひそむ人々の思いとか、歴史・文化・伝統のことなどにも視野を広げてみたいですね。「日本の高校生には複雑すぎて理解できません」と嘆いても無駄です。ブリテン諸島は、そうだからそうなっているのです。自分の頭をあちら側に寄せること。

いよいよ分散登校で通学再開ということになります。健康と安全に注意して、元気に登校してください!

 

地図帳を常時用意してください。地理の授業で使った『新詳高等地図』(帝国書院)を標準としますが、他のものをお持ちであればそれでもかまいません。
授業回ごとにフォーラムを設定します。事前・事後に、自由にスレッドを立てて議論してみてください。

 



開講にあたって

当科目は公民科に属します。公民や地理歴史、いわゆる社会科は知識を暗記するものだと信じている人が多いのではないかと思いますが、断じて、絶対にそうではありません。その証拠に、当科目では何ひとつ暗記を求めません。自分の意思や主体性のないところで暗記しても、試験が終わればすぐ剥がれ落ちてしまうだけですし、そうした苦行?を通じて社会科を嫌いになってしまうのが残念でならないのです。嫌いになるのは勝手だと思うかもしれませんが、社会を知らずに社会で生きていくというのは「むやみやたら」「でたらめ」と同じ意味ですから、相当に危険なことだと心得てください。そう、社会科の「社会」はみなさんが一生付き合っていくこの「社会」にほかなりません。同時に、これまで身につけてきた(暗記してきた?)はずの知識をあれこれ活用することも試みましょう。一般入試で大学にやってくる学生の中には、「僕は日本史選択だったので外国のことをいわれても困ります」「私は地理なので歴史はさっぱり」といったエクスキューズを連発する人がけっこういます。附属高校の出身者はそうした制約(でもないのですが)から本来フリーでいられるはずですので、私としては、公民科に属する政治・経済、倫理、地理歴史科に属する世界史、日本史、地理、それから国語、数学、理科、保健体育、家庭、芸術、外国語(英語)といった教科、もちろん小学校以来の学びの成果をどんどん引っ張り出して思考していただきたいと考えています。教科の学びは思考し、生活し、自身の将来を展望するためにあります。決して目の前の試験や入試のために存在するのではありません。そうした知的経験をすると、いい意味でのクセになります。そこをねらってみたいと思います。

本年度はグローバル時代のパースペクティヴ2020という副題のもとで学びを進めます。現代社会=グローバル化の進む社会 と捉えるならば、グローバル化(globalization)というスケールの大きな、しかし捉えどころのない対象と格闘しなければなりません。なんらかの辞書的な定義をもってきたところで実感をもって受け取るのは難しいのではないでしょうか。そこで、1学期は主に地域研究に取り組んで、地域ごとの個性や独自性、しかしそれらに通じる共通性や相似性などをすくい取っていくことにします(いや、すくい取るのはみなさん自身です)。2学期は、地球規模の動向と各国・各地域のつながりについて考察する予定です。全体として、(1)グローバル化とはどういうことか、(2)グローバル化の進む時代における見方・考え方・学び方とはどのようなものか、という問いに対して自分なりの答えを出していく、その際に授業内容を事例として噛ませる、という、なかなか高度な(しかし文系ならばぜひ身につけておきたい)思考を促していきます。  *オンライン化に伴い、方針や順序を多少変更しました。


 

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