古賀毅の講義サポート 2021-2022

De Société contemporaine II: Cinq thèmes de perspective et de réflexion

人文社会科学特論(現代社会論 II
:グローバルな視野と思考のための5テーマ 

早稲田大学本庄高等学院 3 (文系必修選択科目)
金曜 34限(11:20-13:10)  教室棟95号館 S325教室(ゼミ室4)   

 

 

 

 

 

 

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20214月の授業予定
4
16 開講にあたって/現代における思考と学び
<テーマ1 国家>
4
23 現代国家のアウトライン(1):主権国家と国際社会
4
30 現代国家のアウトライン(2):ウェストファリア・システムの現在


■■次回は・・・
2- 現代国家のアウトライン(1):主権国家と国際社会

グローバル化する現代社会を扱おうとするとき、国家という対象が何より重要なものになります。国家がその役割・機能をますます強めていくのか、はたまた相対化されて薄らいでいくのかは置いておいて、国家の来し方、行く末というのを動態的に捉えなければ世界は見えてきません。しかし動態も何も、ひとくちに国家と呼んでいるものが地域や時代によって多様であり、いまこの時点で世界に200くらいある国家のありようも多様ですから、静態であっても把握することがきわめて難しいですね。ということで、入口から大物の登場です。気合を入れてかかってください。各自、主権国家とか国家主権というのを自身の言葉で説明できるくらいまでにしておきましょう。

いまG7と括られている国家群を知っているでしょうか。アメリカ合衆国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、日本の7ヵ国です。ロシアがメンバーだったころはG8でした。いずれも国名は誰でも知っているし、それなりのイメージもあるだろうと思うのですが、経済水準がかなり高い先進国というふうにまとめられがちなこの7ヵ国だけとってみても、国家のかたちや成り立ちはどれ一つとして同じものはありません。このうち世襲君主(親子代々、家系で受け継がれた国のトップの地位)がいるのはカナダ、英国、日本。残りの4ヵ国は世襲君主のいない共和国です。議院内閣制を採るのはカナダ、英国、ドイツ、イタリア、日本で、大統領制を採るのはアメリカ、フランスです(フランスは違うんじゃないの?と思うのであればぜひ指摘してください)。地方政府が大きな権限をもつ連邦国家はアメリカ、カナダ、ドイツ。フランスと日本はかなり露骨な中央集権です。イタリアはなんとも中途半端で微妙。英国は、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドには自治政府があるのに、本体ともみなされるイングランドにはそれがない変則的な構成になっています。試験勉強ならこれらを全部暗記しなくてはならず、放り投げたくなってきますが、いまここでは「みんな違っているじゃん」ということだけ共有しておきましょう。で、なぜ違っているのか、なぜ統一しないのか、なぜバラバラなのにそれを「国家」とひとくくりにできるのか、というあたりを考えることになります。

歴史的にみた場合の近代国家は、A 主権国家、B 領域国家、C 国民国家 という要素をもっています。こういう理論的なところを今回はあまり深堀するつもりはないのですが、そういう共通点が世界中の国家にみられるということを知っておきましょう。文系の基本中の基本として、たいていの学問でその話になります。国境(border)というのが現在のような意味で出現するのは1648年のウェストファリア条約以降のことでした。考えてみたら不思議ではないですか? 地上に引かれた線の手前と向こう側とで、適用される法が違います。こっちでは18歳で酒が飲め、あっちだと捕まるかもしれないし、こっちで懲役5年相当の犯罪を国境の向こうでやらかせば10年になるかもしれない。で、地上に引かれた線といいましたが、実際には線なんてあるわけでもなくて、観念的な国境が大半です。そういう「エア」的なボーダーに囲まれているのが近代国家、主権国家であり、それがちゃんと全世界的なお約束として成立しているというのが、すごくないですか?

いろいろ調べてみて、これは国家なのか? 違うのか? といった思考をめぐらせ、わかりやすいものやわかりにくいもの、実例をたくさん持ち寄ってください。十数人で考えれば答えが出るかもしれないし、逆に混乱するかもしれませんが、そういうのがおもしろいはずです。

 


REVIEW 4/16
*文意を変えない範囲で表現や用字法を改める場合があります。レビューを統合したり、省略したりすることがあります。


初回である416日のレビューシートは、みなさんの自己紹介的な内容が多く、いくら匿名化しても特定がきわめて容易になってしまうので、掲出は見送りました。(楽しく読ませていただきました)
次回からレビューを掲出します。

 



開講にあたって

2020年、世界はその前提を大きく変えることになりました(なってしまいました)。これが大きな転機となるのか、コロナ禍が明けたのちは元のように戻るのかはまだわかりませんが、2019年までひたすら進展してきたグローバル化(globalization)とその影響ということを軸に、現代社会・現代世界を考えてみたいと思います。思えば特定の感染症が世界規模で「共有」され、同種の負の問題を同期させるというのも、グローバル化のゆえといえます。おそらく2020年以前よりも、グローバル化という事象の重みをリアルにわかるのではないでしょうか。――ただ、これは2019年以前のことですが、各種の授業で「グローバル化はよい変化だと思っていました(のに、違うみたいです)」という趣旨のコメントが非常に多く聞かれました。私にいわせると、誰がそんなことをみなさんに吹き込んだのかと、あきれや怒りすら感じるところです(これについては「グローバル化と教育」、古賀毅編著『教育原理』、学文社、2020年、p.10に書きました)。IT化などと違って、スケールが大きく、自分たちの生活場面から直接的に捉えることが難しいという事情もあるのでしょう。それにしても、世間的には高学力とか高学歴といわれるような層までそんなことをいうようでは、本当に困ったものです。世界に興味があってもなくても、グローバル・サイズで物事を思考していかなくてはならない世代ですので、いまはそのための基礎体力をつけておきたいですね。

さて当科目では、そうしたグローバル化する世界、グローバル化する現代社会を分析するために、5つのテーマを設定し、それぞれの視点から世界・社会を捉え、考察します。用意したテーマは、国家・言語・宗教・産業・移動の5つ。これらが定番であるというわけではなくて、古賀が自分の関心に沿って設定したものです。思考のフィールドは、公民のみならず歴史・地理あるいは英語その他の教科・科目にまたがりますし、これまでのみなさんの学習経験を大きくはみ出す部分になるでしょうから、大半は「初めて知ること」であるはずです。しかし当科目は、「知識」の獲得を目的とするものではありません。授業で取り上げる情報は、極論すればダミーであり、他の要素であってもかまわないかもしれないものです。それを手がかり、足がかりにして、現代社会を思考してみるというところに主眼があります。社会科=知識の暗記だと考えている人、信じ込んでいる人は、もうそういうふうに考えるのはやめましょう。歴史はともかく公民の知識など、数年経って自分がリアルな社会人になるころには変わっているかもしれないものです。覚えるのはAIがやってくれます。イイ頭をもった人間は、得られた情報を手がかりに思考するのが本務です。

世界ということでいえば、海外経験の有無・多少など個人差のあることが予想されます。それはあまり気にしなくて結構です。経験がないからといって海外情報にアクセスできないわけではありません。時代が違いますけれど、私が初めて海外に出たのは大学3年生のときのことで、生まれ育った家庭は非常にドメスティック?でしたが、とにかく世界地図が好きで、子どものころから親しんでいました。インターネット世代の住人であるのに情報弱者になるのはもったいないです。また、ご家庭の事情などで海外経験があるという場合にも、それがプラスにはたらくだけでなく、しばしば洞窟のイドラの弊を起こすことにもなります。要は、いろいろなバックグラウンド、いろいろな考え方やライフ・プランをもった生徒が教室に集まり、わいわいとコミュニケーションして互いに深める、ということが重要になるということです。したがって沈黙は厳禁です。高校最後の1年を、悔いのない学びとともに送りましょう。

<用意するもの>
地図帳(地理の授業で使用したものがあればよいが、別のものでもよい)
ノートPC、タブレット(あれば)


 

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