古賀毅の講義サポート 2021-2022

De Société contemporaine I: Études pour la Publicité à travers les médias

人文社会科学特論(現代社会論 I
:メディアで探究する公共 

早稲田大学本庄高等学院 3 (文系必修選択科目)
金曜 12限(9:10-11:00)  教室棟95号館  S325教室(ゼミ室4)   

 

 

 

 

 

 

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2021910月の授業予定
9
10 日本の選挙制度(国政)
9
17 合衆国・英国の選挙制度
9
24 ドイツの選挙制度
10
1 これからの選挙制度に向けて

上記期間中の授業方法についてはMoodleでお知らせしています。



■■次回は・・・
14-
ドイツの選挙制度

想像ですが、外国の情報にどれだけ触れているかということでいうと、前回扱ったアメリカ合衆国や英国、あとは中国あたりが別格で、ドイツやフランスは「主要国」といいながら高校生はあまり情報をもっていないのではないでしょうか。サッカーとか食べ物とか、そういった断片的なイメージはあるかもしれないが、政治や経済の具体的な場面は、よほど縁や関心がなければ知らないのが当然です。ただ、英米法の国であり完全小選挙区で立法府の議員を選出し、ゆえに二大政党的になる合衆国や英国に対し、同じ大陸法の国であり第二次大戦の敗戦組(いわゆる枢軸陣営)でもあって、戦後の経済成長に「成功」したという点で、ドイツにはもっと注目したほうがよいのではないでしょうか。選挙制度や政党システムも、米英よりははるかに日本に近いので、関心をもちやすいと思います。さらに、近くドイツ連邦議会(下院)の総選挙が予定されていて、16年も国政を牽引したアンゲラ・メルケル首相が選挙での勝敗にかかわらず今回で退くことを表明しています。まさに目の前に、得がたい教材があります。合衆国の大統領選挙が、一国のリーダーを選ぶのにとどまらず世界情勢にストレートに影響を与えるものだというのはおわかりのとおりですが、ドイツのリーダーもまた、欧州全体の実質的な指導者となりますので、思いのほか重要なことでもあります。

ドイツと日本は、先の大戦での同じ「負け組」で共通すると申しました。それに先立つ数十年前、1868年に日本では明治維新が成功して近代国家が生まれ、1871年には廃藩置県をおこなって江戸時代の社会システムを一挙になくして、中央集権化を達成しました(「達成」と書くと「よいこと」のように思えますが、そうなのかどうかはお考えください)。世界史をまともに学んでいない人はきっと意外に思うでしょうが、その1871年に、ドイツ(Deutschland)という国家が誕生しました。1871年=明治4年より前に、ドイツという国家は存在しません。ドイツという概念、ドイツ人という雰囲気、ドイツ語という言語はたしかにあり、ドイツというまとまりは1000年くらい持続したのだけれど、ともかくそういう「国家」はなかったのです。同時期の日本は、要するに江戸幕府が倒れて別の政権(明治政府)に代わったというだけなのに、ドイツはそこで初めて「ドイツ」になったのです。同じ年に訪欧した岩倉遣欧使節団を、ドイツ政府は丁重にもてなしました。このあと明治政府のリーダーとなっていく大久保利通は、ドイツ首相のビスマルクと親しく会見し、同じ後発国(英国やフランスを「追撃」する立場というニュアンス)としてともにがんばろう、日本は英仏型じゃなくてドイツ型の政治をめざすといいですよ、という趣旨のアドバイスを受け、大いに感銘を受けます。その結果かどうかはさておき、近代の日本は、憲法や法律がドイツ式、陸軍もドイツ式、医学もドイツ式、たいていの学問もドイツ流が多かったのです。私たちが昨今の情勢に際しても、ヴァイラスとかヴァクティーンなどと呼ばず、ウィルスとかワクチンとドイツ語式に呼んでいることに気づくでしょうか。エナジーではなくエネルギー、アイデオロジーではなくイデオロギーというのも、ドイツ語から直接概念を輸入したせいです。いろいろな意味で、近代のドイツは日本のお手本であり先生でした。が、選挙制度にかかわる問題として、決定的な相違もあります。そこは大いに想像してください。その想像がおもしろいのです。

前回取り上げた両国については、合衆国は大統領制(国の実質的な政治指導者は大統領)、英国は議院内閣制(国の実質的な政治指導者は首相)でした。日本は議院内閣制です。あるルールというか考え方の原則というのがあって、世襲君主(王は血筋で地位を継承する)のいる国家では、国王独裁とかでなければ大統領制にはならず、議院内閣制になるということです。つまり王と大統領は両立しないのです(マレーシアやUAEのことは忘れてください)。英国やカナダ、オーストラリアには女王がいますので議院内閣制すなわち首相がエラく、日本も天皇がいらっしゃるので議院内閣制で、大統領はいないのです。ドイツ連邦共和国はどうかというと、ややこしいことに、大統領と首相の両方がいます。公民の教科書は米・英を代表格で書いているので混乱しますが、主要な国家だけでも、ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、イスラエル、インド、韓国、台湾に、大統領と首相の両方がいるのです。こちらのほうが普通かもしれません。メルケル首相の存在でわかるように、ドイツでは大統領よりも首相が強いのですが、その意味はわかるでしょうか。それと、選挙制度との関係は?

混乱を承知で、もう一つだけ情報を投げておきます。日本で「ビール」といったら、アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリービールが全国銘柄で、沖縄のオリオンがたまに東京で売られています。これに対して、ビールの本場みたいなドイツでは、訪れる地域や都市ごとに銘柄が違います。札幌にいればたしかにサッポロビールが最も愛されるが、でもキリンやアサヒも普通に買えます。ドイツではそうではなくて、よほど大型のスーパーにでも行かないかぎり、町なかで飲んだり買ったりできる銘柄は、その地域独特のものばかりであり、味もびっくりするくらい多様です。高校生がビールの味なんてわからないでしょうけれど、日本の上記4社の違いが「オレンジジュース」内部の違いだとすれば、ドイツの味の幅は、グレープフルーツジュースはおろかアップルジュースくらいまで広がる感じです。国土面積は日本とほぼ同じ(ドイツが微妙に狭い)。それにしては地域性というのがすごい。ゆえにサッカーのリーグ戦が盛り上がります。知っているかぎりの情報を投入して、ドイツの選挙制度を考えてみてください。

 

REVIEW 9/10
*文意を変えない範囲で表現や用字法を改める場合があります。レビューを統合したり省略したりすることがあります。

917日のレビューは少し遅れて更新します。しばらくお待ちください。

選挙制度は小・中学生のころから学んでいるが、複雑で「おとながやるもの」というイメージが強かった。今回どうしてその選挙制度で代表を選ぶのか、どういう利点があるのかという視点で学んでみると、選挙制度が抱える「一票の格差」から生まれる「意見の重さの違い」が浮き彫りになり、有権者は選挙制度を理解したうえで選挙に臨むことが大切だと思いました。来週からの外国との比較、特色の理解を通して、その国だからこそのしくみなのか、日本の制度は日本にとってベストなのかという点を考えたいです。

選挙について、教科書に書かれていることを学べばなんとなく理解できるのではないかと安易に考えていました。しかし今回の授業で過去の制度の何が問題で現在のしくみにいたっているのかなどの歴史を学ぶことの必要性を感じました。そして選挙結果が制度の変化にもかかわってくるので、選挙の重要性もあらためてわかりました。現在の小選挙区・比例代表並立制は、長所と短所を互いに補うためだけでなく、国民にとって2度チャンスがあることを知り、これからの自分の選挙に対する考えをしっかりともたなければならないと実感しました。有権者が18歳以上になったのは、高校の授業で政経を学ぶから理解しているのだと思われているからなのでしょうが、実際はよくわかっていない人が多くて、あまり意味がないと思います。私は周りに流されないためにももっとしくみを理解し、立候補者の普段の国会での発言などに注目して投票しようと思いました。

今回の授業で、選挙制度の複雑さを実感しました。大選挙区制か小選挙区制かという話題になりましたが、それを考えるうえで「平等」という言葉の定義を考えなければいけないと思いました。人口に比例する枠をつくるとしたら、それは「人口に対して平等」であるし、地域ごとに1枠であればそれは「地域に対して平等」であるからです。そうなると決断が困難であるため、目的意識をもって、どちらの「平等」を採るか決めるべきだと思いました。

地方、階級、あるいは人口で選挙区を分けるという話のとき、私は人口で分けるべきだと思いました。地方の声を無視すれば地方と都市の格差は大きくなってしまうかもしれないけれど、より多くの民意を反映するためには、人口にもとづいて決めるべきだと思います。

いままで小選挙区、大選挙区、比例代表の3つに分けたり、並列させたりする理由を知らなかったので、今回の授業で、人口に比例した民意を聞き入れる方法をとるか、それとも地域ごとに選挙区を定めるか、2つの選択肢に大きく悩まされました。先生のいうように参議院を都道府県ごとに選ぶ方式に完全に変えてしまうというのはよいなと思ったが、憲法を変えるとなるとまだまだ実現は難しいなと考えました。

選挙について問題点を考えると、最初に思いついたのは投票率の低さでした。政治に対する関心の低さもあると思いますが、自分の意見をもたず、また参加する人が少ないのには、制度に対する理解度の低さも関係しているのではないかと考えました。今回の授業を通して、「一票の格差」をどのように改善すべきか、何を優先して、誰の視点に立つべきなのか、考えなければならないことの多さに、自分の知識不足を痛感しました。来年18歳になり選挙権を得るので、これを機に政治に関する勉強、情報収集に取り組みたいです。

 
(左)国会議事堂 (右)首相官邸 東京タワー特別展望台から見たところ 都心部に無粋なビルが増えましたね!

 

衆議院と参議院の選挙制度の違い、日本の選挙制度などについて学びなおしができたと思います。そのうえで、小選挙区制の投票をしているときも、その人がどの党に所属しているのかを考えて投票するのであれば、小選挙区制を採用する意味が本当にあるのか疑問に思いました。死票をなくす意味はあっても、投票の意図が比例代表制の投票と違わないのであれば、もっと別の選挙制度を考えるほうがよいのではないかと思いました。

一人の議員が立法をする際にもつ影響力が小さく、結局は政党が重要であるということが、どの選挙制度においてもいえるのではないかと思った。
・・・> 当たり前でしょ。と思ったのだけど、みなさんのコメントを読んでいると、それが当たり前というのが共有されていないのが不思議というか、社会科教育の失敗。近代の政治というのはどうやっても政党本位なんです。いまのところ。

連日のニュースで、次期総裁は誰だ!?といったものが放送されていますが、私たちはただ傍観することしかできないと思っていました。選挙制度の話は、どの制度がよいかなど前提知識がないと考えようがありませんでした。自分が望んでいる公約を掲げていても、その人の属する政党の方針が公約を実現させられそうにないものであれば違う候補を選ばなければならないのでしょうか。少しでも実現できる可能性があれば望ましい候補を選んだほうがいいのか、いちばん望ましい公約を掲げていないけれども実現できそうな人を選んだほうがよいのでしょうか。
・・・> 公約といっていますが、それは1つでしょうか。たとえば「教育政策にのみ注目して投票する」とか「安全保障オンリーです」とか、そんなことはあるでしょうか。ふつうは「いろいろ」ですよね。目の前の候補者も、その先にある政党も、あなた(有権者)の希望と完全に一致するということはありえませんし、またご指摘のように実現可能性という面でも「いろいろ」です。間接民主主義のもとでは、政党本位に考えて、「パッケージ」で政策を選ぶというのが最も普通であり妥当です。その際に、公約とかマニフェストとして文字になっているものも大事だけれど、その政党や政治家がこれまでどんなことをしてきたのか、してこなかったのかという経過や実績を見て、「こんなこと公約しているけど無理だろ」「いまこれを公約するならなぜ前の国会でやらなかった?」といった評価も重要になってきます。

衆議院の小選挙区で、その選挙区の候補に投票することが、その候補が所属する政党のトップを総理大臣にしたいかという意思表示につながっているという説明で、投票する際に気をつけるべきことを学べました。沖縄の基地の問題のように、その地域では民意が表れていても国会議員全体で決める問題になるので、選挙制度の複雑さや難しさを感じました。

日本の小選挙区・比例代表並立制の本当の姿を目の当たりにした気がします。自民党員、力はないのに・・・ていうような人が多く残っている現状にも、残念というか衝撃です。総裁選を自民党員のみでおこなっているみたいですけど、見方が変わりました。自民党が与党第一党として駆け抜けていくの、いつまでつづくんでしょうか。
・・・> それはわからないし、次回の授業(9/17)のころにはまた情勢が変わっているかもしれないけれど、たとえばKさんがAさんやAさんの支持を期待したりせず、「森友や桜のことを掘り返します」「学術会議の任命拒否を撤回します」くらいのことをいって、コロナ対策の筋を通すことができるなら、立憲民主党や共産党のブロックがKさんと組んで連立政権、くらいのことはできます(まあ無理だろうけど)。いまの与党は、しばらく敵がいない状態でありつづけたので案外足許が弱すぎて、ちょっとした勢いで●●なことになっちゃうのではないかな。

有権者になったものの、選挙については勉学的にしか知らずにここまで来てしまったので、今回の授業は非常にためになりました。自分の地域はどの選挙区に属するのか、そして小選挙区においても立候補者よりも所属政党の方針について調べようと思います。

ことしで18歳になって、今回の衆議院選挙で初めて投票することになる。親から新聞を見ておけといわれたが、何に注目して見るべきなのかわからなかった。今回の授業で、どのようなところに注目して投票するべきかがわかった。自分の地域の候補、党のトップの意向について調べて、投票先について考えようと思う。

 


開講にあたって

現代社会論という科目名は、実はさほど中身のない、ジョーカー的なタイトルです。文系の学問であればたいていの内容を「現代社会論」と称することができそうだからです。したがって、科目名そのものにはプラスもマイナスも感じないという人が多いのではないでしょうか。しかし留意すべきことが2つあります。(1)現代社会の「現代」には、時間的・空間的な幅があるということです。例年、当科目を受講する人の中には「歴史は好きではないが公民(現代社会)に興味がある」という人が含まれていますが、歴史や地理とかかわらない現代社会などありえないし、常識的には、少なくとも過去50年くらいは視野に入れておかないと「いま」の理解に進めません。歴史が不得意だという人は要注意。(2)仮に「現代」というものの時間幅を最小化し、「いま、まさにこの一瞬」というふうに捉えたとしましょう。その「いま」を十分に理解したとなれば、現代社会論という高3の科目の成績は確保できるでしょうが、その内容は数年も経てば劣化し、陳腐化します。これだけ変化・変動の激しい時代です。真に心得るべきは「いま」の事象ではなく、そのつどの現代社会というものを認識し、思考するための「構え」のほうであるはずです。
公民(現代社会論)を学ぶのは自分が生きていて、これからも生きていく社会のことを知るためではなく、そんなことには関心がなくて、それよりも高校卒業に必要な単位を得るために当科目を受講したというのであれば、「構え」のことは考えなくても結構です。ただ、もったいないですし、学院生がこだわりがちな「学歴」ってたいていは神話のたぐいですし、当科目の成績(点数)は大いに目減りするのでそのつもりで。

さて2021年度は、メディアで学ぶ公共という副題を掲げました。公民の学びで一般的なメディアmediumの複数形mediaで、日本語では「媒体」)といえば、教科書、資料集、参考書、新聞やテレビなどのマス・メディア、そしてインターネット上の種々の記事というところでしょう。この現代社会論などで社会の実相に深く入り込んだことを扱うと、「教科書に書いてあることが絶対に正しいと思っていました」「教科書も正しくないことがあるのだとわかりました」といった反応がしばしばみられます。しかしそれらは誤解や誤認を含みます。教科書の内容は、「絶対に」正しいということはないが、種々のメディアの中ではまあまあ高精度で、正しさの度合いが高いものです。問題は、教科書にも余白や行間があるということを知らずにいることだろうし、そもそも教科書自体をちゃんと読んでいるのか、読み取れているのかが怪しいと私は思います。各教科の中でも、社会・地理歴史・公民はとくに「用語の暗記」=学習という誤った考えになりやすいものであるため、そもそも用語やそれに付随する1行程度の意味というところから一歩も出ないという人が多いのです。それでも点数は取れてしまいますから、社会科が得意だという人ほどこの罠にはまりやすいという問題があります。そして、メディアによって読み方、読み取り方、考え方も異なってきます。「マスコミ(マスゴミ)は適切に伝えない。偏っている」などと信じている人は即刻修正しましょう。そんなふうに信じている人がアクセスするインターネットの情報のほうが、はるかに不正確で不適切、そして偏っているからです。

社会科で扱う「社会」というのは、この、リアルな社会のことです。高校生の学習素材として別の社会が存在するわけではありません。受講生全員が、種々のメディアを持ち寄り、思考や解釈を持ち寄って、この、リアルな社会を捉える切り口のようなものを確認してみようと思います。そしてそのほとんどすべてが、中学校・高等学校の社会科や公民科の内容の「実写版」です。ここで「現代の社会を学ぶ」という見方・考え方そのものを心得ておけば、社会が変わろうと、時代が変わろうと、それなりの構えでそのつどの「社会」に向き合うことができるのではないかと考えます。

もう暗記は不要です。お願いですから絶対に暗記なんてしないでください。もちろん1点にもなりません。当科目では、授業に「参加」することが大前提です。脊髄反射的に発言し、積極的にコミュニケーションするばかりが能ではないし、沈思黙考し熟考してこそ文系の学問ではありますが、さりながら、当科目では「しゃべらない人」には成績がつきませんので、そのつもりで臨んでください。

 


 

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