Bienvenue à Paris! 2007別冊
西欧三都市 |
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小休止のつもりが、ランチタイムが長引いて14時を過ぎました。腹ごなしにもなるし、少し歩こう。旧市街を北(駅と反対の方向)へ抜けてしばらく進むと、東西に走る広い道路に出ました。けっこう交通量があり、それもけっこうなスピードを出しています。その通りを東へ折れれば、ほどなくシャルロット大公橋(Pont
Grande-Duchesse Charlotte)。女性君主の名前を採ったみたいですね。旧市街をうろうろしていて、ここが崖上の城塞都市であることを忘れていました。この橋、恐ろしく高い!
(左)旧市街側から見たシャルロット大公橋 対岸に欧州関係の建物が見える (右)橋の上から見下ろしてみた・・・
(腰が引けていますね)
たびたび申しますが、同じ都市の中で移動する際に、ものすごく深い谷間を渡るというのはどういうことなの? 私、自慢じゃありませんが、納豆と高いところは親の仇ですので、こういうのは困るんですよね。谷間の底をアルゼット川が流れ、いままで通ってきた市街地のビル群と対照的な、前時代の箱庭のような「下界」が見えます。線路もあるし、何だか鉄道模型のジオラマみたいでもある。ていうか、超おっかないんですけど!! 歩道の幅がそれなりに確保されているので助かりますが、自動車が走るたびに橋が揺れるし、進むほどに谷間は深くなってくるし・・・
200mはあろうかという橋をようやく渡りきると、そこは新・新市街とでもいうべき地区。ルクセンブルクは欧州統合の要のひとつであり、ここに欧州司法裁判所、欧州投資銀行、欧州議会事務局といった機関が集まっています。週末だからなのか、歩行者がほとんどいないのも妙。
欧米か!じゃなくて欧州か
あの橋をもう一度渡るのは嫌だし、せっかくならば「谷底」にも降りてみたいので、降り口を探すことにして、欧州地区からやや下がったところにあるとりでをめざしました。そこにジャン大公現代美術館(Musée d’Art
Moderne Grand-Duc Jean)なる文字どおりモダンな建物が見え、€ 5払って入場。しばらくカフェなどもなさそうなので、お手洗いを借りるための口実でもあります。美術は苦手だし、まして現代美術なんてね(笑)。
「どんぐり」に隣接して造られた現代美術館
芸術って難しい・・・
訳はわからんけど、とにかくゆっくり鑑賞してから表へ出てみれば、そこは「3つのどんぐり」(les Trois Glands)というあだ名で呼ばれる城砦のつづきでした。各方向からの攻撃に備えて矢はざまを円状に配置したそのスタイルが、見ようによってはユーモラスに見え、どんぐりに見えるということか。中は一部だけ無料で公開されていて、大半を占める部分は9月にグランドオープンするのだと係員が教えてくれました。ルクセンブルクの城塞都市としての歴史を学べる場所になりそうですね。駅の案内所で入手した地図を見れば、ここから谷底へ降りられそうだったのですが、どの道も通行禁止のようで、結局はさっきのシャルロット橋を渡って戻らなければならない・・・。
来たとき以上のスピードで対岸に戻り(せっかくの絶景を見ないなんてもったいないと思うかもしれませんが、高所恐怖症の人はわかるよね)、旧市街側から谷に降りる道を探します。崖のふちを走る道路には、ところどころ渓谷を見渡す展望台があります。船越英一郎のサスペンスみたいな気分になるねえ。崖の上は上、下は下で完全に別世界なのですが、歩行者専用の桟道みたいなのがしつらえられており、かなり急坂だけど、そこを歩いて降りました。途中で上りの人とすれ違うと、思わずボンジュールといってしまいます。あちらは、限りなく山登りに近い世界でしょう。
シャルロット大公橋を眺めながら「谷底」へ降りていく
谷底にはアルゼット川が北流しています。思いのほか川幅が狭く、強烈な崖を形成したとは思えぬ優しい表情。対岸(どんぐり側)の、谷底よりやや高いところを鉄道の線路が走っています。崖上の左岸側が近代的な大都会だとは思えぬほどここは静かで、そして人の気配がほとんどしません。川を渡り、ヴォバン通り(Rue Voban)というさほど広くない通りを上流方向へ行くと、鉄道の線路がローマ水道のような石組みの橋梁でこの道路と川を一跨ぎにしている箇所に着きます。
あまりにも静か
そのあと若干のアップダウンがあり、けっこう疲れます。箱庭のような谷底の町、というか村をゆっくり歩き、グルント(Grund)という地区にたどり着きました。いま手許にあるドイツ語の辞書で調べると、「低地」くらいの意味でしょう。この付近で、最初に渡り越したペトリュス川がアルゼット川に合流しています。観光ポイントらしいので、それらしい人が少しいますけど、旧市街からエレベータで降りてこられる模様。私みたいに歩いて降りてきたほうが、景色を堪能できて楽しいと思うけどね。
絵に描かれたように美しいグルント地区
静かなカフェ(右から2軒目)で燃料補給
またまたアルゼット川を渡れば、そこに数軒のカフェやレストランが。ボナパルト(Bonaparte)なるナポちゃん的な?カフェのドアを押せば、英国のパブみたいな雰囲気で、ヤンキーくずれみたいな姉さんが迎え入れてくれました。先客は1組だけで、たそがれてきたこともあり、オフタイムに近いのでしょう。生ビールを頼むと、どの銘柄にするかと。ルクセンブルクの銘柄など(ドイツのも)知らないので、「この辺でいちばんポピュラーなやつを」と注文すると、Bofferdingというのが出てきました。味は、普通。しつこいようですが、この城塞都市、崖の上と下とでこうまで違うとは、感心せざるをえませんね! 文字どおり深い!
暗くなる前にと、グルントをあとにして、ペトリュス川の右岸の急坂を上ります。谷間よさようなら。この渓谷を越えて新旧市街を結ぶヴィアデュック(Viaduc 高架橋の意味)を見上げると、これがまたいい感じの橋です。
ヴィアデュック
数時間ぶりに新市街へ戻りました。この付近は現代的なビル街で、コントラストは本当にすごいね。昼間にごっつい定食を食べたことだし、前日につづき軽食で済ませようと、ルクセンブルク中央駅に向かいます。が、サンドイッチなどの軽食類には食指が動かず、駅カフェのバーカウンターで€ 2.00の生ビールを。さっきのと同じ銘柄ですね。よく見れば、これは40センチリットルで、フランスのビールよりかなり量が多くてお得です。18時を回っているためか、カウンターでビールを飲むおじさんがかなりいる。そういえば、ここルクセンブルクでも日本人をほとんど見かけません。国際機関や欧州企業が集中しているので、在住の人がいるにはいるんでしょうが、観光客がそれほど来るとは思えないのでそのぶん少ないのかな。
(左)駅カフェで散策の仕上げ (右)そしてホテルでリースリングだ!
駅のすぐ近くにマクドナルドとクイック(Quick)が並んでいます。クイックはベルギー資本のハンバーガーチェーンでフランスにもたくさんあり、マクドナルドと競っています。ファストフードで済ませることにして、日本にはないクイックを選択、€ 3.00というこちらにしては格安のハンバーガーセットを注文。ドリンクはスプライト(何気になつかしいねえ)、サイドメニューはサラダを注文して野菜不足を補おうとしたのだけど、サラダは売り切れだからフライドポテトにしてくれと。こちらの肉料理の添え物はフライドポテトばかり、それもてんこ盛りなので、この1週間ずっと食べつづけて飽き飽きしていたのに! やむなくポテトつきのセットを引き取ってハンバーガーを食べましたが、ポテトは2口くらい食べたまま包んでバッグに。ホテルの部屋で飲もうと、駅前のスーパーでリースリングを1本買ってきているから、そのアテにしよう。
ルクセンブルクの当局が発行しているパンフレットを読めば、モーゼルワインの本家はわが国であると意気軒昂です。どこが本家なのか確かめようもないし、私にとっては美味ければよいので、ルクセンブルク産の€ 6くらいのを1本購入しました。歩いた経路を地図で整理しながらボトルを開ければ、ほどよい甘さで美味。いいねえ、ルクセンブルク。
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