Bienvenue à Paris! 2007別冊
西欧三都市 |
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まったくもって早いもので、パリから出かけたミニトリップも最終日を迎えました。というより、翌日曜にはシャルル・ド・ゴール空港から東京へ向けて帰らなければならず、いつもながら惜別の寂しさを感じます。今回は本当に暖冬でびっくりしました。歩き回るにはよかったですけどね。
さて土曜の朝、まずは0階へ降りてレセプションならぬ帳場の裏手にある朝食ルームへ。ここもセルフサービスで、ハム、チーズ、ボイルドエッグなどが置かれているし、シリアルもあるけど、全般的にやはりコンチネンタル。ただしクロワッサンがなく食パンとトースターが置かれているあたり英国やベルギーの例に近いかな。コーヒーはともかく、朝っぱらからさほど食えるはずもなく、ほどほどで切り上げます。部屋を整理し、荷物をもって帳場へ降りれば、前日空室を伝えてくれた兄さんがいて、ささっとそのバッグを抱えて奥へ入ってしまいました。何やら犯罪のにおい?? どうするのかと訊ねれば、安心して市内見学しておいで、だと。いや違うのよ、ルクセンブルクは昨日もう見て、いまから鉄道で出発するんだと伝えると、兄さんはびっくりして「すみません! てっきりお預かりするものだと思っていました」だってさ。これで何かがなくなっていたとかいうなら笑えませんが、そんなことはなかったよ。
(左)ベルギー国鉄の車両でブリュッセルへ (右)ゆったりとした2等の車内
9時24分発と、前日のメスと似たような設定の電車で出発。朝から、しとしとという以上の雨が降っています。折りたたみの傘を開いたら、ホテルの兄さんは「ルクセンブルクでは雨が当たり前だから誰も傘なんて差さないですよ」とあきれたような顔をしました。こっちは東京人だしねえ。前の週の金曜にパリへ着いてからずっと好天に恵まれてきましたが、この日はよくない予感がします。ルクセンブルクからパリへ戻るには、メスまたはナンシー経由が一般的なのですが、今回は来たのと逆方向へ進んでベルギー領内へ入り、首都ブリュッセルを見学してからパリに帰ることにしましょう。ぐるっと一周したことになって愉快だものね。
最初のベルギー旅行は2004年3月でした。さる公的な役所の依頼でフランスの学校教育調査にかかわり、2週間ほど滞在したのですが、公式日程(日当が出る)終了後に、打ち上げと称してアントウェルペン(アントワープ)とゲントを訪れています。昨2006年2月、ドイツ・ケルンおよびアーヘンへの旅行の往復に際して、この国の領内を鉄道で通過していますが、地面に足をつけてはいません。2004年のベルギー旅行は災難でした。パリを出発する朝から少しおかしかったのだけど、『フランダースの犬』の舞台となったアントウェルペンに着いたとたんに腹が痛み出し、コントロール不能に近い状態に陥って夜中に何度もトイレに起きる事態。前夜にパリのマレ地区で食べたカモ料理が原因かなとも思いましたが、同席した女性は平気だったと後日聞いたから、おそらくは長めの滞在で疲労が蓄積していたのだと思います。それで、せっかくの初ベルギーだというのに、名産のビールを一滴も飲めないどころか、ほとんど何も食えないで過ごしたのでした。以来、ベルギーと聞くとその悪夢がよみがえり、この朝もなんとな〜く胃が重たい。今回、そのリベンジを果たそう!
ブリュッセル中央駅 (左)フランス語表示 (右)オランダ語表示
電車はあっという間にルクセンブルクを抜けてベルギーに入りました。ブリュッセルまでは約3時間です。国境付近はがらがらでしたが、少しずつ乗客が増えていきました。12時20分、ブリュッセル中央駅(Bruxelles-Central)に到着。ブリュッセルの本線上には、ブリュッセル北駅(Bruxelles-Nord)、中央駅、南駅(Bruxelles-Midi)があり、中央駅だけが地下駅。パリとを結ぶ特急タリス(Thalys)やロンドン行きのユーロスターはなぜか南駅を発着するし、特急列車で市街地に最も近いはずの中央駅をスキップする便も多いので、なぜなのか不思議です。この電車は南駅行きだけど、ひとまず中央駅で下車し、荷物をコインロッカーに入れて地上に出ました。コンコースとホームの位置関係が、何となく名鉄名古屋駅に似ている印象です。まずは切符売り場へ向かい、夕方ブリュッセルからパリへ戻るタリスの指定券を購入。3年前の旅行で、パリからアントウェルペンまでがたしか片道€ 79だったと思うので、物価変動なども込みで€ 60くらいかなと思っていたら、€ 78だと! 欧州の鉄道運賃・料金にはどうにもわからないしくみがあり、事前に購入すれば安くなるとか、往復するとめちゃくちゃに割り引くとか、一貫した共通点をなかなか見出せません。季節や発注の仕方によっても変化します。文句をいっても仕方ないので1枚購入し、市内へ。
ユゴーが「世界でいちばん美しい広場」といったらしいグラン・プラス(Grand Place)へ。私はそうは思わなかったな。やっぱり雨がちらほら降っています。
「世界一美しい」グラン・プラス
この広場は長方形です。パリあたりだと、広場は円形と相場が決まっていますが、ベネルクスやドイツでは方形が多いですね。写真のように、「大きな広場」という名のこの広場は、フランス語ではGrand Placeで、オランダ語ではGroote Markt(グルート・マルクト)。欧州情勢に詳しい方ならご承知のように、ベルギーは北海道ほどの国土が大きく二分され、北半分がオランダ語圏(フランデレン)、南半分がフランス語圏です。首都ブリュッセルはオランダ語圏にあるが、例外的に2言語併用の地域ということになっています。街を歩いてみてわかるのは、ルクセンブルクと同じように、まずはフランス語で話しかけ、そのあとで適宜使い分けるみたいですね。オランダ語圏のアントウェルペンとゲントを訪れた折には、市内の諸表示がすべてオランダ語なのにフランス語がほぼ通じてびっくりしました。実質的にはバイリンガルなのかいなと思って、ブリュッセル在住の知人に訊ねてみたら、フランデレンではそうだが、フランス語圏ではオランダ語が通じないのだとか。経済に由来して、階層化が進んでいるみたい。マルクトというのは英語のmarketで、直接的にはもちろん市場を指し、英国やドイツ、オランダなどでは広場をも意味します。フランス語のmarchéにそうした用法はありません。
まずは軽く昼飯でもと、ひと筋裏手の道を歩けば、どうもレストラン街のよう。ガイドブックを真剣には読んでいないので、ぼったくりの気があるということを知らずに歩き、それらしいレストランに入ったら、ぼったくりとはいいがたいものの、想像以上に高値相場でした。表に掲げてあるメニューが「釣り球」なのね。昼間から18ユーロの食事というのは感心しないが、面倒だったのでそのまま通しました。魚のスープとサーモンのポワレはあんがい美味しかったが、店員の態度もよくないし、トイレがきちんとしていないなどやはり不満だらけで、1セントのチップも置かずに出てきました。ま、京都あたりの有名観光地でぱっとしない定食がいずれも2000円以上といった設定に近いかもしれません。この付近は、いくつかの路地に面して観光レストランがかなり多い地区。オイスターやムール貝などを売り物にしているシーフードレストランが多く、テラス席でシーフードをモヤイのてんこ盛りにしてぱくついているグループをけっこう見ました。生ガキを食べてみたいけど、あちらは魚介の衛生状態がいつもよろしくないように見えるし、今シーズンは暖冬なので、回避。
ブリュッセル中心部のレストラン街
本当は、中心部からやや離れたところにある欧州委員会本部などの地区にもいってみたいのだけど、雨がまだ降っているし、ビールも飲みたいしで、今回は中心部を歩くにとどめておきましょう。グラン・プラスからすこし離れたところには、ご存じ小便小僧(Manneken
Pis)がある。この周辺には、いかにも系のお土産屋さんとかショコラチエが並んでいます。
小便小僧は世界各地から寄贈された衣装を着るとか
雨がまた強まってきたので、ギャルリー(galerie)と呼ばれるアーケードの商店街などに移り、ゆっくりとお店を眺めました。ギャルリーがあちこちにあるのがブリュッセルの特徴のようです。ベルギーのお土産といえば何といってもショコラ(チョコレート)。いくつかお店をのぞいたものの、センスが感じられなかったり、高かったりで、なかなかピンと来るものがない。グラン・プラスにあるゴディヴァ(Godiva)はその点で堅実だけれど、東京でもどこでも買えるし、福岡におけるふくやの明太子と同じで、あまりにど真ん中でこっ恥ずかしい。あちこち歩いてみて、横丁の小さなお店でようやくゲットしました。実際に味がどうなのかわからんし、そもそもチョコの味なんてよくわかりません(笑)。
ブリュッセルの旧市街 土曜午後ということもあり多くの人でにぎわっていました
そのあと、新市街に少しだけ足を踏み入れたりしながら、街の概要を体感。ルクセンブルクでは大公殿下の宮殿を訪れたことでもあるし、ベルギー王国の宮殿も見ておこう。実際には、アルベール2世一家は少し遠いところにある離宮にお住まいとのことですが、中央駅の裏手に王宮(Palais royal)という建物があり、シンボル的な位置づけになっています。そのものずばりのブリュッセル公園(Parc de
Bruxelles)なる広いスペースが前庭になっていて、雨でなければゆっくり散策するところでした。王宮は、どっしりとして落ち着いた雰囲気。国王が国内におられるときには国旗が掲げられるそうで、様子からみてベルギーでお過ごしなのでしょう。ところで、私たちは「ベルギー」と表現していますが、オランダ語ではベルヒエ(België)、フランス語ではベルジック(Belgique)、英語ではベルジャン(Belgium)で、ベルギーというのはラテン語とかドイツ語の発音に近いですね。この首都の名も、オランダ語だとブルッセル(Brussel)、フランス語ではブリュクセル(Bruxelles)、英語はブラッセルズ(Brussels)で微妙。
ベルギー王宮
さて、持ち時間も残り少なくなってきました。3年前のリベンジを果たせたかどうか定かではないが、まあいいでしょう。この際、ベルギービールを存分にいただいてパリへ戻るとしよう。ワッフルには興味なし(笑)。
雨は小止みになりました。じゃんじゃん降っている時間帯に、どこぞのカフェかブラッスリーでビールを飲もうと思ったら、どことも満員でした。考えることは同じなのね。パリに慣れていると、角を曲がればカフェがあるという安直な状況を当然視してしまい、まずいね。フランスの地方都市を含めて、そんなカフェ都市は他にありません。中央駅近くのカフェに入り、カウンターのスツールによじのぼって、パリでもよく飲まれているレフ・ブロンド(Leffe blonde)を注文。6.5度くらいの、やや濃い目のビールで、じっくり味わえば非常に美味です。これで€ 3.00で、パリより安いんじゃない。間がもたないのと、他の店にも行きたいのとで、アゴラ広場(Place Agora)にあるウッディな広めのブラッスリーに入り、こんどはメニューのトップにあったプリミュス(primus)を頼んでみました。どんなのかわからんけど、いろいろ試してみたいじゃん。それはいいのだけど、フランスの感覚で「ドゥミ・プリミュス」と発注したら、出てきたのは50センチリットルのグラス、日本でいう「中ジョッキ」です。あらためてメニューを見れば、1リットルというカテゴリーがあるので、当地でドゥミ(demi 英語のhalf)といえば1リットルの半分なのかと思う。フランス語が当たり前に通じるので、ついついフランスと同じようなつもりでいました。まあ、25が50になったところでどうということはないし、ビールの神様が「しっかり飲んで帰りなさい」とおっしゃっているのだと思う(何と都合のいい神様だろうか)。どっちが「半分」かといわれれば、たしかに50のほうですよね。
(左)レフ・ブロンド (右)プリミュス いずれもおつまみつき
土産物屋で見かけたビール型のキャンドル
さあ、名残惜しいけれども、2泊3日の小さな旅を終えて、パリに帰りましょう。メスやルクセンブルクはどうだかわからないが、ブリュッセルにはきっとまた来るに違いない。数時間歩いただけで断定するわけにはいかないものの、ある意味で標準型の西欧の大都市という印象で、パリに慣れている私にはもう1つ物足りなかったです。でもきっと、この街ならではの深みがあるのでしょうね。次回を楽しみにしておきます。
ブリュッセル中央駅に戻ってコンコースを注視すると、「北駅・南駅連結の国営オフィス」と直訳できるレリーフが壁に掲出されていました。なぜ3つの駅が分立し、中央駅をスキップする列車があるのかわからんと前述しましたが、これで何となくわかります。もともとオランダ方面へのターミナルとして北駅が、フランス方面向けに南駅が存在し、パリやロンドンのようにそれぞれで機能していたのでしょう。それをつなげて利便性を向上させようと考え、地下で結ぶ路線を建設したものと察せられます。名鉄名古屋駅に似ている気がすると前に申しましたけれど、あそこも、名古屋市の南北に孤立していたターミナルを都心部の地下で直結するものとして建設され、ゆえに手狭なスルー構造で、発着駅としての機能をもっていません。ブリュッセルも、ターミナル駅としては北駅ないし南駅が依然として機能しているのだと思う。
ブリュッセルの南北両駅をつないだ功労者らしい
コインロッカーの荷物を請け出し、電車で1駅、ブルッセル・ツィッド(Brussel Zuid)またはブリュクセル・ミディ(Bruxelles
Midi)駅へ移動し、東京駅に匹敵するほどの規模だった南駅を一回り。カフェを1杯飲んでプラットホームに上がれば、17時43分発パリ北駅ゆきタリスがすでに入線していました。考えてみると、この便は、1年前にアーヘンからパリへ戻る際に利用したのと同じ列車ですね。
タリスに乗ってパリへ帰ろう2007 (ブリュッセル南駅)
ブリュッセルからパリまでは1時間半を切る近さで、西欧というのは本当に狭い範囲にさまざまな個性があるのだなとあらためて思う。東京〜名古屋間よりも近いわけだからね。19時05分、定刻にパリ北駅へ着けば、そこはもうすっかりおなじみになったパリのターミナルでした。もうずいぶん長いことパリに通っているので、ここへ戻ってくるとほっとします。飛行機と違って、鉄道の旅にはある種の連続性があるから、なおさら「ただいま〜」という感じですね。前年と同じように、北駅前のステーキチェーン、イポポタムス(Hippopotamus)でごってり肉を食べてカルチェ・ラタンの常宿に戻るとしよう。カバがトレードマークになっているこのチェーンは、パリやフランスのいたるところにあり、まあファミレスの類なのですが、肉は間違いなく美味いし、いろいろなメニューがあって気に入っています。日本ではほとんど知られていないので、そのうち支援サイトでも立ち上げようかな。
さて、パリ→メス→ルクセンブルク→ブリュッセル→パリと、三角形をたどるように一周してきました。それぞれの運賃・料金を振り返れば、
パリ→メス €
38.80
メス→ルクセンブルク € 12.90
ルクセンブルク→ブリュッセル € 29.00
ブリュッセル→パリ € 78.00
で、トータル€
158.70。このときのレート€ 1=¥160で換算すれば25,000円強です。フランス&ベネルクス鉄道パスの日本国内発売価格が40,500円ですから、現地で単純に片道切符を買っていくほうがかなり安いことがわかる。窓口でのやりとりが面倒なのと、どこをどう回るか事前に確定しにくいのとで、欧州の鉄道旅行といえばついパス類を準備していきがちなのですけど(パス類はフランス国内では購入できない)、元を取れるほど乗るのはけっこう大変ですよ。
さ、ホテルの部屋で、ペットボトルに入れて持ち帰ったリースリングの残りを飲んで、反省会をしよう!
おわり
この作品(文と写真)の著作権は 古賀 毅 に帰属します。