Bienvenue à Paris! 2007別冊

西欧三都市
はやあるき


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II- 古都メスの市街地めぐり

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東京を想定していると花の都パリもかなり狭くてびっくりするものですが、フランスの地方都市となるとさらにスケールが小さくなります。メスMetz)は、九州でいえば久留米市くらいの規模だと考えてください。人口30万人強、市街地の広がりやにぎやかさも、だいたい似たようなものです(ていうか、久留米を知らんよね普通)。

 市の中心に建つサン・テチエンヌ大聖堂

 

川沿いのタンプル・ヌフから右岸側に戻り、坂を少し上ると、こちらはひときわ荘厳で大きく、中世カトリック建築の典型とわかるサン・テチエンヌ大聖堂Cathédrale Saint Étienne)。これが街のシンボルのようです。内側も外観も一部修築中だったのですが、渋くて立派。こういう歴史的な建築物を見て、渋いとか立派とかしかいえないのは芸術的なものに関心が薄い証拠です(涙)。大聖堂の前はダルム広場(Place d’Arme)。ナチスの占領下でレジスタンスに加わったフランス人たちと、これを救援した米軍を賛美するモニュメントがありました。ダルム広場って、要するに軍隊広場です。ひとたび戦争が起きると、こういう地域は本当につらいでしょうね。

市街地を少しでも外れると人気がなくなり、裏通りは物騒な感じもするので、メインストリートに入りましょう。ウール通り(Rue aux Ours)とクレルク通り(Rue des Clercs)のあいだあたりが繁華街で、狭い道路ばかりなのだけど商店が立ち並び、平日午後なのに若者を中心に大勢の人が通りに出てきました。と、どうもこの街の地名は読みにくい。フランス語は一般的に綴りと読み方との関係が非常に明瞭で、いったん覚えてしまえば読むのはラクなんだけど、固有名詞は別。綴りの感じがフランス語っぽくないケースが多く、おそらくは歴史的なものに影響されているのでしょう。人の多いところに出てきてよく耳をすませていると、ときどき(というよりも頻度は高い)ドイツ語らしき言語を話している人に出会います。実際には、ドイツ語なのか、同系統の言語とされるロートリンゲン(ロレーヌ)語、アルザス語なのかわかりませんが。この1世紀半のあいだをとっても、1871-1919年はドイツ、1919-40年はフランス、1940-44年はまたドイツ、1944年以降はまたまたフランスと所属を変えてきました。もちろんバイリンガル(二言語併用)的ではあるのでしょうけど、フランス語以外のことばを母語にしている人はかなりいるみたいです。パリだけ見てフランスと思ってはいかんね。

 やっぱりキッシュな街?
 
(左)メスの中心街 (右)大きなショッピングセンターがあって、いいセンスしていましたよ

 

ぐるっとひと回りしてから、市内のど真ん中にある広めのカフェ。1カフェ(本日の第1カフェ)です。疲労回復と燃料補給しとかんと。フランス人ならば当然、テラス席に出て座るところですが、いくら暖冬でも私は苦手だねえ。窓に面した内側のテーブルに陣取り、ドゥミ・アムステル(demi1/2の意味で、カフェでは25センチリットルの生ビールのこと)。この銘柄はパリのカフェでもおなじみで、安っぽい感じはするけどけっこう好きなんです。

 カフェといえば、ね

 

メスの街を観察してみて、こんな特徴に気づきました。(1)白人の比率が非常に高い。パリだと、現地に行ったことのない日本人が想像するよりもはるかに人種・民族構成が複雑で、白人は相対的にあんがい少ないのですが、ここは違いました。(2)ハンディキャップのある方を短時間にけっこう見かけました。車椅子や白杖と何度も出会ったし、当人も、周囲の振舞いもけっこうスマートです。考えてみれば、パリはめちゃくちゃバリアフルだもんなあ。(3)日本人ひとりも見なかった。ほんとに。

そのあとショッピングセンターを念入りに見学し、その地下で早くも2カフェ(本日の第2カフェ)。今度はハイネケンでした。カフェはロト売り場を兼ねていて、中年以上の男性が次々にカウンターを叩いては、ロトを購入していきます。地下の並びにスーパーがあるのは西欧各都市でよく見るパターンで、当然入店して、ビールとつまみをゲット。駅でもホテルでも売っているが、スーパーの安さにはかなわんですからね。こちらのスーパーは、レジにたどり着いたら客が自分で商品を台の上に並べ、カゴはその時点で放棄します。前の客が並べた商品群とのあいだを仕切る小さなバーも用意されていておもしろいですよ。そのあとの荷詰めもレジ台のつづきでやるため、店員や客の段取りによってはひどく渋滞することがある。西欧、とくにフランスでは、行列することはきわめて日常的なことですから、いらいらしてはいけません。店員が要領よりも自分の誇りを優先するプロ意識も国民性かな。そのあと、この街で最大とみられる書店の明るい店内に入り込み、しばし教材研究。たまーにお仕事が混じります。

繁華街のはずれに、有名デパート、ギャルリー・ラファイエットのかなり大きな店があったのでのぞいてみました。フランスのデパートは、日本とは逆に、メンズがレディースの下の階にあるのが普通です。自分用のネクタイ1本買いました。今度どこかにしていきます。その後、3カフェ(さすがに今度はコーヒー)して間を持たせようとしましたが、20時ころにならないと夕食をとらないフランス人のペースにはとても合わせられそうもなく、市街地を離れることにしました。もう2周くらいしたし、やっぱり久留米程度の規模なので、ひとりで半日を過ごすのはけっこうしんどいです(笑)。前週の金曜に着いてから、パリではごっつい肉ばかり食べていたので、もういいよね。となると、ホテルも目の前だし、メス駅に戻りましょう。駅のカフェあたりは時間帯と無関係に軽食が取れるので、けっこう重宝しますよ。

 夜のメス駅

 

19時すぎになっても駅にはかなりのお客がいます。いわゆる「駅ナカ」が発達しているわけではないので、これから鉄道でどこかへ行こうという人たち、あるいは帰ってきて一息ついている人たちでしょうか。これも西欧の中心駅ではよく見かけるタイプの、明るくて妙に原色っぽい造りのカフェがあったので、サンドイッチを頼むと「売り切れた。クロック・ムッシュならあるよ」と。ハムとチーズをのっけたトーストのことで、カフェの定番軽食ですが、まあいいか(実は水曜朝の永山駅でもよく食べています)。ドゥミ・アムステルをとりましたが、部屋での風呂上がりに用意したのも缶ビールなので、ここはブドウジュースを1杯飲んでおこう。肉は減らしても液体は減らさないのだから何に気をつけているかわからない先生であります。メニューを見ると、さすがロレーヌ、赤ワインよりも白ワインの種類が多く、上に来ている! パリでは白ワインなんて眼中にないもんなあ(肉ばかり食っているからかもしれないが、パリジャンはやはり圧倒的に赤が好きだと見えます)。モーゼル川流域は、同じ川を共有しているルクセンブルク、ドイツを含め、白ワインで有名です。ちなみにロレーヌの西隣りがシャンパーニュで、ここはもちろん発泡白ワインの産地ですね。ドイツワインとして日本でもよく知られたリースリングRiesling)があったから、グラスで注文、冷えていて美味しいねえ。

 駅カフェでリースリング  これで締め、と思ったら
 風呂上がりにこれも飲むのね ベルギーのステラ・アルトワのつもりだったらオランダのアトラスだった でも美味!

 

ただ思いつきだけでエントリーし、何らの事前情報もなかったメスでしたが、上々でした。街をほっつき歩いて酒ばかり飲んで、いつも以上にひどいような気もしますが、欧州に来るととにかくハイペースで歩くためか、健康状態はすこぶるよし。東京では遅寝遅起き不眠気味なのに、なぜか早寝早起き快眠爆睡となります。

 

III へつづく

 

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