La tour de l’Allemagne 2012

2012 Winter

 PART8 ニュルンベルク その1


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バイエルン州レーゲンスブルクは「ドナウの貴婦人」という異名があるくらいの町らしいので、1時間の乗り継ぎ時間に多少の散歩でもできるかなと思っていたのですが、残念なことにけっこうな雨降りです。駅構内で待機することにしよう。中央駅はさほどのサイズではなく、いったん跨線橋を渡って階段を下りたところにあるコンコースも手狭でした。そこに、駅サンド屋さんや軽食店などがいくつか出ていて、窓に沿ってイートインのカウンターがしつられられています。さすがバイエルン、ビール専門店があってミュンヘンのヴァイツェンビア(Weizenbier)の、おなじみのでかいグラスを手にした初老のお客が数名。当方はこのところ昼酒を抑制していて、遺憾ながらここも見合わせました。今回も駅サンドを食する気分にどうしてもならなかったため、構内にあるバーガーキングでBIG KINGのセット€6.49。ドイツではマクドナルドよりもバーガーキングのほうが多いのではないかな。

 
(左)レーゲンスブルクの駅前  (右)バーガーキングのセット


ICE26
便はレーゲンスブルクを1429分発。私が乗るのはニュルンベルクまでの約1時間ですが、この列車はフランクフルトを経由してドルトムントまで行きます。ドイツの国土を右下から左上に、斜めに横切るルートですね。当駅での乗り降りを経て車内はほぼ満席になりました。

  ICE26便とその車内
  ニュルンベルク駅前の案内所


列車は森林みたいなところを走り、1525分にニュルンベルク中央駅Nürnberg Hbf)到着。ここはかなり大きな駅らしい。観察は後回しにして、まずは宿さがしをしなければね。ガイドブックによれば駅のすぐ前にツーリスト・インフォメーションがあることがわかっているので、そちらに足を運びます。係の中年女性に今宵の部屋を手配してほしいと頼むと、「ルーム、ルームですね。はい、ちょっとお待ちくださいよ〜」といった感じで、候補の載ったリストをぱらぱらめくりはじめました。€6070くらいでといったのに、「このすぐ近くに1€48のところがありますけどどうです?」と、ずいぶんデフレな候補を提示してきます。「よんじゅうはち? 大丈夫なんですか、シャワーついてます?」と聞くと、「ええ、シャワー、トイレ、テレビ、朝食込みでそのお値段です」。これまでの経験から、いわゆる駅前旅館の類に違いなく、インフォメーションがわざわざ勧めるのならそれはそれでおもしろい。このおばさんがオーナーと懇意で客を回すよう頼まれているというふうでもないし。OKを出すと、おばさん係員は宿に電話をかけ、当方の氏名などを伝えました。紹介手数料は無料とのこと。シティマップももらえたのでいうことがありません。ダンケシェーン。

 
  
ホテル・ガルニ・プロストの簡素な室内  廊下を見るかぎりは往年の下宿屋さんみたいだ(笑)


指定されたホテル・ガルニ・プロストHotel Garni Probst)へ行ってみれば、たしかにインフォメーションから1ブロック先、駅からでも5分かからない町なかの横丁みたいなところに看板が出ています。ぼろいビルの奥に入ると、これまた古びたエレベータがあり、そばのインターフォンを押したら「ミスター・コガですね。エレベータに乗って上がってきてください」と女性の声がしました。鉄製のドアを手動で開いて乗る、欧州でちょいちょい見かけるタイプのエレベータで2階に上がると、狭い廊下で小さな子どもが2人遊んでいて、ずいぶんとファミリアルな雰囲気。廊下の突き当たりに、レセプションというより帳場という風情の、パチンコの景品交換所みたいに窮屈なボックスがあって、若い女性が迎えてくれます。部屋は同じフロアなのだけど、ビルの外周に沿って長い廊下を2度ほど曲がったところにありました。中を見てみれば、なるほど古いし、全体にちんまりしているけれど、ソファ、ライティングデスクもあって何も問題ないじゃないですか。水まわりもまずまず。あらためてエントランスの掲示板を見たら、「このホテルに出会って感激しました」的な世界中のユーザーからのお手紙が何枚も貼ってあり、現地手配派のツーリストたちにハートフルな対応で喜ばれる宿なのでしょう。インフォメーションの女性はこちらの風体を見てその手合いだと判断したのかな?

 
  ニュルンベルク市街地


さてバイエルン州ニュルンベルクNürnberg)ですが、フランクフルトを出発する段階でここに立ち寄る見通しとか予感はまったくありませんでした。プラハに行くことにしてから残り時間を計算したときに、フランクフルトとのちょうど真ん中あたりにあって動きやすいからというだけで滞在することに決めただけで、予備知識はほとんどありません。ニュルンベルクと聞くと、私などは第二次大戦後のニュルンベルク裁判(ナチスの戦争犯罪を裁いた国際法廷)を思い出しますが、本来は神聖ローマ帝国いらいの重要都市でした。マイスタージンガーを思い出すほうがより一般的かもしれません。やはりというか、頭の中を同曲が流れますけれど、モルダウと違ってイントロの部分だけね♪

中央駅を背にしてまっすぐ進むケーニヒ通りKönigstrae)に沿って、中心街らしき方向をめざします。もう日が落ちかけているのであまり見学もできませんが、遅くともあす28日夜までにフランクフルトに入れればよいのだから、あと半日くらいは持ち時間があります。市街地の本格的な散歩は翌日を期すことにしよう。ライトアップされた中心街の雰囲気もなかなかよく、ここもまた大勢の人でにぎわっていました。聖ローレンツ教会(St.Lorenzkirche)付近から先には惣菜やチーズ、野菜などを売る屋台が並んで、観光地でなく日常の世界なのがいい感じです。

  (左)聖母教会  (右)美しの泉


町の真ん中を東西に横切るペグニッツ川(Pegnitz)を渡ると、市の真ん中の中央広場Hauptmarkt)に出ます。実はここ、今回あちこちで見てきたドイツ式クリスマス・マーケット発祥の地で、ニュルンベルクといわれて戦後処理もワーグナーもニュルンベルガー・ソーセージも思い出さない人でも、女性誌の欧州特集などで親しんでいればこのクリマを思い出すかもしれませんね。すでに灯を消して暗くなっています。1週間早く来ればものすごいことになっていたことでしょう。広場には渋すぎる聖母教会(Frauenkirche)や派手すぎる美しの泉(Schöner Brunnen)があり、ライトアップされてきれいでした。「泉」は、金色の輪っかを3回まわして念じれば願いがかなうとのことですが、この夜も、翌朝も先客がいて果たせず。もっとも、私は現世利益祈願が好きでないので、機会があったところで抽象的な安寧祈願になったことでしょう。そのあと広場北側にある聖ゼバルドゥス教会(St.Sebaldus Kirche)へ。11世紀創建だそうで、2本の尖塔が間接的に照らされて、ちと怪しい美しさを見せています。

 聖ゼバルドゥス教会
  フライシュ橋付近
 
(左)日没後のケーニヒ通り  (右)カールシュタットの店内


ほとんど予備知識も期待もないままやってきたのがよかったのかもしれません。市街の真ん中へんにぎゅっとエッセンスが集中したような構造で、思いのほか活気があり、町歩きにはうってつけの都市でした。こういうのがあるから行き当たりばったりの日程をつくっておきたいんですよね。ドイツ各都市のどこでも見かける大手デパート、カールシュタットKarstadt)に入ると、ここのはけっこうな規模。例によって自分用のネクタイを物色し、プラハの安物から一転して今度はそれなりにいいやつを購入しました。そのあと地階のお土産売り場へ。ドイツのチョコが食べたーいと、女子高生たちにストレートなリクエストを受けていたな。40歳を過ぎてから思いがけない縁で「女子校の先生」になって3年、なかなかおもしろい経験でしたがそれも今年度で終わり。旅先で思い出すくらいだからすばらしい生徒たちに違いなく、ささやかながらドイツのチョコを買っていってあげよう。受験の追い込みだけど健康に気をつけてね。18時ころ中央駅に戻り、翌28日のチケットを手配。ニュルンベルク→フランクフルトで指定料金込み€57。まだ切符を買っただけなのだけど、ああぐるっと一周して旅程が終わってしまうなあという感覚。

 レストランのあるこのホテル、ヒトラーの常宿だったらしい
  ディナー


さて晩ごはん。ホテル付近から市街地に伸びるケーニヒ通りにもう一度出て、たぶん横道に入ったほうがそれらしい食堂があるだろうなと思いながら見渡すと、通りに面したホテル・ドイッチャー・カイザー(Deutscher Kaiser)の0階にレストランがありました。入ってみれば、レストランというよりビアホールに近い感じだな。窓際の席に案内され、さっそくドラフト・ビアを発注するとAndechser Spezial Hellというのが出てきました。炭酸ぶんがあまりなくエールっぽい味わいで、ト書きによれば「世界一知られたビール」とのことだけど俺は知らんぞ(笑)。美味しいですけどね。隣席の初老夫婦は、旦那さんが何かの赤いズッペン(スープ)、奥さんがソーセージ盛り合わせを食しており逆じゃないのと、ジェンダー・バイアスを強く含んだ感想。お客の年齢層は全体に高く、みんなビールを飲んでいます。さすがバイエルン州! 昨日のプラハと違って日本人の姿をほとんど見ないのがすばらしい。さて今宵のメインディッシュですが、メニューを眺めてSchweinebraten an herzhafter Dunkelbiersause €8.90)というやつにしました。英語メニューを見たのだけどドイツ語の原語だけメモしていました。いまあらためて独和辞典で調べてみると、豚肉のローストに力強い黒ビールソース、というところでしょうかね。肉の味がしっかりしていて、いやなかなか美味いですよ。赤ワイン、エスプレッソ込みで〆て€18.90。客あしらいがもうちょっと上品だということないんだけどなあ。

ホテルに戻ると、帳場にスマートな男性がいました。この方が感謝の手紙をたくさんもらったオーナーさんなのでしょう。部屋の鍵を渡しながら、いま支払をお願いできますかと。ははあ、本来は前金制なんだけど昼間は出納権限のないおねえさんが留守番していたのでしょうね。予約時には€48と聞いていたのに何と€46VISAを出すほどのことでもなく、財布からめったに使わない€50紙幣を出して一発支払となりました。「ニュルンベルクはすばらしい町で、エキサイティングですねえ。初めて来ましたがとても楽しいです」と感想を述べると、オーナーさんはぱっと明るい表情になり、「それはよかった。今度はぜひもっといい季節、夏にいらしてください。そうですね、1週間くらい滞在なさるといろいろなものを見られますよ!」と力説。可能ならばぜひともそうしたいところですが、夏場に1週間も遠征できるなら別の場所に行くでしょうね(笑)。


PART9 につづく

 

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