Fragments
historiques dans les régions marginales franco-espagnoles
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PART9 夜の港町でブイヤベースを |
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アヴィニョン中央駅
14時04分ころアルル(Arles)に停車。この車両には物憂げな美人がひとりだけ乗ってきました。あれは「アルルの女」だわな。などと、しょーもないことを考えております。在来線急行とはいえけっこう本気の走りで、100km/hくらいは出ている模様。そのうち進行右手にベール湖が見えてきて、しばらくその湖岸を往きました。湖の切れたところに、明日来る予定のマルセイユ・プロヴァンス空港が見えます。空港駅でかなりの乗客が下車しましたが、滑走路やターミナルビルはずいぶん向こうに見えるので、アクセスは鉄道ではなくバスにしようかな。アヴィニョン発車時点で2分ほどの遅れでしたが、マルセイユ-サン-シャルル駅(Gare de Marseille-Saint-Charles)には定刻14時54分に到着しました。この駅は3回目。というか、マルセイユ自体が3回目ですので、町の構造はだいたい心得ています。前回は2009年2月、TGVの乗り換えを待つ1時間ちょっとの滞在時間ながら、最大の見どころである旧港(Vieux Port)へ歩いて往復しています。今宵の宿は旧港から少し東に進んだところを予約していますが、徒歩だと20分以上かかりそうなので、メトロを利用することにします。前々回も前回もメトロには乗っていないのでこれは初物。国鉄駅のコンコースからそのまま地下にもぐります。エスカレータに乗るときにはやっぱり緊張してしまうなあ。部屋に荷物を置いてしまえば、あとは徒歩圏内であることは明白なので、1日乗車券のたぐいは必要ありません。シングル・チケット(€2)を1枚購入して、エストランジャン(プレフェクチュール)駅(Estrangin / Préfecture)まで3駅。この路線はサン・シャルル駅からいったん旧港は逆側にふくらんで向きを180度ちかく変え、旧港の真下を通ってエストランジャンに向かいます。歩いていくならふくらみの部分をショートカットできるわけですね。 マルセイユ地下鉄 ここのメトロは島式ホームばかりなんですね。東京っぽくてうれしいかも(車両やトンネルの感じは名古屋っぽいけど)。エストランジャン駅はかなり深いところにあるようで、長いエスカレータで地上に出てきました。このさきエスカレータに乗らないということもできないので、今後はくれぐれも用心しましょうというところですね。出てきたところは住宅(アパート)街の一角。駅構内にあった地図でホテルの住所(道路名)と方向を確認していますので迷わず進みます。こういうとき欧州の住居表示はわかりやすくていいですよね。どんな小さな路地にも必ず固有名詞がついていて、片側が奇数番地、もう一方が偶数番地で徐々に数字が大きく(小さく)なります。予約したホテル・デュ・パレ(Hôtel du Palais 「宮殿ホテル」というすごい名前!)はブルトゥイユ通り(Rue Breteuil)26番地。ほら、すぐに見つかりました。かわいらしいレセプションには若い男性スタッフが2人います。ネットで予約した古賀ですがと名乗ると、名前を聞き返されます。西欧にはいない特徴的な名前なのだし、この規模のホテルなら当日チェックイン予定の名前はだいたい把握しているんじゃないの? 「どのように予約されましたか?」と妙な質問だったので、用心のためプリントアウトしておいた確認メールの文面を示しました。これでようやく、なるほどと思ってもらえたらしいけれど、どうもエントリーされていなかった様子。自動返信の確認メールが証拠としてあるわけだから当方に非はありません。「このメールの紙はいただいていいですか」というので、どうぞどうぞご存分に。てなことで、ようやく31号室のカギをもらって部屋に入りました。1人乗りの小さなエレベータ(ドアを手動で開くタイプ)は1年ぶりだなあ。この手のやつに初めて出会ったのは、23年前のマルセイユの宿だったような気がします。
16時半過ぎにようやく起動します。レセプションでさきほどのスタッフに「旧港はどちらの方向に歩けば」と訊ねたら、「左にまっすぐです。30分もかかりませんよ」と英語で。左なのはだいたいわかっていたものの、万全を期して訊いてみたのですが、いくら何でも30分なんてかかるわけないじゃん。ブルトゥイユ通りを直進すると、旧港へ向かう下り坂になっていました。道路標識を見れば、逆方向に進むとノートルダム・ド・ラ・ギャルド寺院(Basilica Notre Dame de la Garde)方面に行ける模様。マルセイユのシンボルで、1991年に初めて来たときにはそこまで行きましたので、もしかするとこの道を登ったのかもしれません。ものの7、8分で見覚えのある旧港に出てきました。兄さんはマイカーばかりで歩いていないんでしょうね。 旧港へ向かうブルトゥイユ通り
カヌビエール通りのお菓子屋さんで
あとで考えてみると、マルセイユ歴史博物館(Musée d’histoire de Marseille)があるのはこのショッピングセンターの中だったな。大学生で初めて来たときに、おそらくガイドブックでこの博物館のことを知って見学しました。主に紀元前関係の展示なので、現代的なショッピングセンターとのアンバランスさが個人的にウケた記憶があります。マルセイユは、アヴィニョンのところで触れたイオニア(エーゲ海東岸)のフォカイア人が紀元前6世紀ころに建設した植民市マッサリアがその起源。ある意味でフランス最古の都市といってもよいのですが、そもそも「フランス」といってよいのかどうかは本稿の主旨にかかわるので慎重になりましょう。地中海すなわち中東方面に開けた港町ですので、どこかアラビアンな雰囲気が感じられます。 まだ行ったことのないカヌビエール通りの南側の区画に入ってみたら、とたんに建物が薄汚れて看板などに独特のセンスがある地区でした。どことなく関西のにぎやかな商店街のようでもあります。近づいてみると、ああ、エスニック地区ですね。明らかに「白人」ではない、しかし多様な人種・民族の人たちがたくさんいて、買い物をしています。スパイス屋さんとか茶葉屋さんとか肉屋さんなんかも、品揃えやディスプレイがちょっと独特です。もちろん中国系、インド系のお店もありますよ。なかなか活力がありそうでおもしろいですが、多くの日本人がイメージする「フランス」とは遠いでしょうねきっと。そういえば、ホテルのミニバーがひどく高値だったので寝酒を買っておくんだった。巨大な洗剤の箱などが並んだエスニックな何でも屋さんに入り込み、コールドドリンクのケースに近寄ってみましたが、あらら、ビールがないぞ。コーラやジュースやエビアンは普通にあるんだけどなあ。ふと、ここはムスリム系のお店で、だからアルコール関係は置いていないのかなと思いました。マクドナルドにすらビールを置いている国ですから、その推測が当たっている可能性は大。すこし前に、高校の後輩がイランを旅行して超おもしろかったと報告してくれました。案外安全ですよとのことだったし、歴史好きにはたまらん場所なので行ってみたいけれど、不信心者の自分も酒を飲めないというのは、それだけで萎えます(笑)。 エスニック商店街をぐるりと一周して旧港ちかくまで戻ってきたところに、モノプリさまがありました。ここは洋服や雑貨なども売っている総合店のようです。ワインは前夜の飲み残しがあるので(ペットボトルに入れてきているのだ)、缶ビールだけでいいや。クローネンブールの500ml缶が€0.91。物価の高いフランスでも、ビールはなぜか安いんですよね。それからするとホテルのレギュラー缶の€4というのはバカ高いということが明白です。
今回は、ホテルに戻る道すがらということもあるので、旧港の南側の区画に行ってみましょう。予備知識はなかったのですが、信じる方向に歩いてみれば、そこはどうやら市内最大のレストラン密集地区のようです。もうほとんど新宿思い出横丁のような密度とレイアウトで飲食店が並んでいる。19時ちょっと前で、フランスのディナーには早いのですが、観光地なのでアヴィニョン以上にそこは大丈夫でしょう。どこともプロヴァンス料理をうたっており、2、3軒のぞいてみて、その中では上等そうな店に声をかけました。
ややあって運ばれたブイヤベースはかなり大きな皿で、白身魚が3枚、何かのエビが2匹入っています。後刻調べたところによると、「憲章」というのは自治体だか協会だかで設定したもので、その原則にのっとった正式のメニューではあるようです(8種の魚介類のうち4種以上を含むなど)。法定バゲットとは別に、それを焦がしたようなクルトンとアイオリソース(ニンニク風味の強いマヨネーズみたいなやつ)が運ばれ、これらをスープに浮かべて召し上がってくださいと。――うん、美味い。€35の味かどうかは別にして、美味いことは美味いので、いいことにしよう。そもそも腹だまりのする汁物だし、かなりの量があるので、最後のほうはあっぷあっぷになってきました。ワインがあと3センチくらい残っているけど、もったいなさに目をつぶってここでやめておこう。こちらが食べ終わるころ隣席に中年の夫婦が案内されてきました。奥さんのほうと目が合ったのでボンソワールといったらBuona seraと返してきたのでイタリア人ですね。例の店員さんが英語でメニューの説明をするのだけど、旦那さんはともかく奥さんは英語もフランス語も話さないらしく、珍妙なやりとりがつづいています。こちらは勘定にしてもらいました。ワインが€16で、〆て€51。ひとりの食事でそんなに払うのはいつ以来かな。いかがでしたかと例のムッシュが聞くので、味の感想はそこそこに、Too much fish, too much wine, too much rain! と不可算名詞でそろえてみました。ムッシュは「雨ばかりはどうすることもできないですよ」とか何とか。 夜のレストラン街
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