Quatres villes à la Bretagne: Quimper, Brest, Vannes et Nantes

PART2

 

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17時近くになっています。旧市街の石畳の道路、多少のアップダウンを通り抜けて、メダール広場(Place Médard)という交差点に出てきました。小さな町なので、市街地とか都心とかいっても「商店街」程度の規模と広がりです。パン屋さんとか肉屋さん、靴屋さんなど、日常生活の色が直接的に感じられます。広場に面して狭い水路がありました。もらったシティ・マップには固有名詞が記されておらず、いまグーグルマップで見たらステール川(Le Steir)というらしい。その川の側面に何かの仕掛けがあって、大量の水が音を立てて放流されています。マップには写真つきでDéversoirと紹介されていて、名所のようですが、これは何なんだろうな。実は昨年8月に訪れたスイスの首都ベルンでも、さらに大きな規模のこうした設備を見ています。フランス語の辞典で調べると余水路と訳すらしく、取水しすぎたぶんの水を放出して調節を図るという排水設備ですね。この前まで進んだとき一瞬、雨脚が強くなりましたが、2分ほどで一転して晴れ上がりました。何ちゅう気まぐれなお天気の地方なんだろう。

 
(左)余水路  (右)旧市街のよさげな景観


ステール川に沿って1ブロック進むと、飲食店などが取り囲む小さな広場でした。固有名詞はケ・デュ・ポール(Quai du Port)で、港の河岸という意味。いまは港の痕跡を見出せませんけれど、欧州の古い町を歩くとしばしばこのような場所に出会います。川舟で運んできた荷物などを荷揚げする地点で、その付近が商業的中心になるわけです。で、やはりというか、そのそばに屋内市場が見えました。入ってみると、夕方なので大半の店はとっくに閉まっていて、若干の惣菜屋さんなどが営業しています。女子高生らしき女の子たちが放課後のおしゃべりに興じていたりします。この手の屋内市場は、最近では2ヵ月前にカーディフ(ウェールズ)で訪れました。ここはサン-フランソワ市場Halles Saint-François / Koc’hu Sant-Frañsez)といって、depuis 1847と玄関先に表示がありましたので江戸後期?からこの地にあったもののようです。

 
 
サン・フランソワ市場付近 建物の屋根や壁の形状が興味深い


市場内のお店だけでなく、この付近では飲食店以外の大半の店舗もすでにクローズ。地方は店じまいが早いよね。空はまたまた黒っぽくなり、いつ降り出してもおかしくないような感じになってきました。フランス人の夕食の標準は2030分くらいなのですが、いくら何でもそんなに後まで町なかをうろうろするつもりもなく、19時前後にはディナータイムにしたい。でもまだまだ時間はあります。聖コランタン大聖堂のあたりまでぐるりと一周してゆっくり戻ることにして、そのあとはどこかのカフェで読書でもしていようかな。今朝まで大都会パリにいたので景観の落差はやっぱり大きいです。市内を移動するのに公共交通機関を使わなくてよいという規模の町は気楽でいいですね。いや、日本国内にもこの手のいいところってたくさんあるんですよ。最近はテレビなどが極端にコテコテしたところか超有名なところばかり取り上げるので、普通の小さな町を歩く楽しさをみんなが忘れかけていないかと心配。

お、パティスリーの店頭に美味しそうなお菓子が並んでいますね。クイニェット(kouignette)って何だろう。普通のフランス語で使わないKが入っているのでブルターニュのものかもしれない。見た目はポルトガルのパステル・デ・ナタ(いわゆるエッグタルト)に似ています。甘いもの苦手なので1つ買ってつまむということはないですけど、「こういうのなら何個でもイケちゃう!」的な人ってけっこういるな。で、その手の知識がほとんど欠落しているため、いまこれを書いていてようやく気づいたのですが、これってクイニーアマン(kouign amann これはブルトン語)ですよね。ブルターニュに行こうかと思っていますといったら、フランス通の人が「クイニーアマンですか」といっていたやつだ。少し前の「モヤモヤさまぁ〜ず2」で、町のパン屋さんにこの謎の名称をもつ品を発見したさまぁ〜ずがやけに食いついていたのも同時に思い出しました。食べておけばよかったかな?


そのあとオデ川の対岸も少し冷やかしたりして、たそがれて暗くなりかかった聖コランタン広場に戻ってきました。広場に面したわりに大きなカフェ兼レストランに入って、エスプレッソを注文。パリの中心部なら€2.80くらいするところを€1.50で、物価はかなり安い。ずいぶんハイカラな内装です。この時間帯は、買い物帰りの奥さん、学校帰りの若者、夕食前に一杯ひっかけようというおじさんなど、多様な人たちが集まっていて店内は思いのほかにぎやか。リュックの中から新書本を取り出してしばし読書。フランスを訪れるのが常態化したころから、カフェでお茶(またはお酒)しながら読書というのがささやかな幸福を感じる時間になっています。こういうところにタブレットを持参するのは依然として自己規制しています。間違いなくアタマが劣化しちゃいますからね(笑)。

 
 


19
時が近づいて席を立ちました。もうすっかり「夜」になっています。地名以外に何の予備知識もなかった町にやってきて、でも歩いてみたら風情や雰囲気は気に入りました。ブルターニュらしさというのがあるのかは依然として不明。いまのところ「フランスの地方都市」という自分の中の感覚をあまり外れていません。さてディナータイムなのでどこかいいお店ないかな。「地球の歩き方」のカンペールのページに載っていた唯一のレストランはオデ川沿いで、さきほど通り過ぎました。表から店内の雰囲気や掲出してあるメニューをのぞいてみて、悪くはないものの、決め手がないような気もしました。ガイドブックに載っているところは避けたいという妙な心理がはたらいているのも確かです。聖コランタン広場から坂を登って左折したところに、何軒かのレストランやクレープリーがあるのを昼間の散策で確認しています。あそこか、市場周辺の飲食店だな。

クレープもいいけどせっかくブルターニュに来たのなら海鮮フランス料理のほうがいい。サレ通りに34軒集まっているクレープリーの一隅に、石畳の路地みたいなところがあり、そこに面して小さなレストランが見えました。路地側の壁が一面ガラス窓で「ダイナー」といった外観です。店名はル・ジャルダン・デテ(Le Jardin d’Été)、直訳すれば「夏の庭」か。先客は1組でした。ドアを押して声をかけると、「お一人様ですか? ご予約は?」と。いいえ予約していませんと答えたら、ではこちらへどうぞと、窓際に2つばかり設けられた丈の高いお一人様用のテーブルに案内されます。間接照明が優しく、やけに上品なお店ながら、表のメニューで価格がエコノミーなのは確認済み。手渡された冊子のメニューを見ると、やはり魚介類を中心にいろいろな料理が載っています。でも黒板に書かれた€21のムニュ(コース)が気になる。昨日はパリでシーフードを食べようかなと思いかけたものの、それならブルターニュに行ってからと思いなおしたところだったので、ここはがっつり海のものをいただこうではありませんか。前菜は・・・ブルターニュですから、ここはカキ! 実は冬場のフランスに毎年来ていながら生ガキを食したことが一度もありません。好きなのですが、外国でヒットしたら目も当てられないので、あえて避けていたのです。パリでは暴飲暴食気味になるので、胃腸が弱ったところに生ガキなんて危なそうだものね。でも本場のブルターニュまで来て生ガキを食べないのはやっぱりしゃくです。6個入り生ガキ(6 huîtres creuses)をお願いしました。主菜は魚のブランケット、小さな野菜添え(Blanquette de poissons aux petits légumes)。ブランケットというのはホワイトソース煮込みのことだと承知しています。飲み物は小ピシェ(デカンタ)の白ワイン(Vin de Pay d’Oc, Cépage Sauvignon€4を。ずいぶん長いことフランスや欧州を歩き回っていますが白ワインを飲んだ回数って数えるほどしかないんですよね。Ocのヴァン・ド・ペイとあるので南仏のカジュアルなやつでしょう。うん、すっきりして美味い。

  
 


運ばれたバゲットをアテにしてワインでひとり乾杯をはじめたころ、一つ前のお一人様用テーブルに、40代と見えるスキンヘッドの兄さんがやはり予約なしで案内されてきました。メニューを見ながら店員さんとあれこれ相談した末に、「ブルーで頼む」と。ブルー(bleu)というのは肉の焼き加減のひとつで、ビアンキュイ(bien cuit ウェルダン)→ア・プアン(à point ミディアム)→セニャン(saignant レア)→ブルーという具合にナマ度が強まります。フランス人はブルー好きよね。当方のテーブルに、正方形のお皿に載った生ガキがやってきました。45cmくらいの小ぶりのものながら身はけっこう肉厚です。添えられたレモンを絞って、ちゅるり。お〜美味!! カキは大好きなのですが、海辺の居酒屋にふらりと入って日本酒を傾けながらちゅるり、という太田和彦みたいな心得はほとんどなく、せいぜいカキフライを食べるくらいです。ワインで口を湿して、またちゅるりと。海のにおいがむんむんやな。隣席のスキンヘッド兄さんのテーブルに運ばれたのはステーキではなく、大きなハンバーガーでした。魚介にこだわるのは遠来の客で、地元の人だとすれば日常食なので肉がデフォルトなのかもしれません(フランス人はハンバーガーもレアとかブルーで食べるのです)。反対側、私の背中側の低いテーブルには、中年の男女が案内されてきました。男性のほうが地元の人らしく、遠来の女性客をもてなしている場面である模様。女性はヴァン(vin ワイン)を「ヴィン」と発音するなどぎこちないフランス語で店員とやり取りしたあと、連れの男性とは英語で話していました。英国人かな?

つづいてメインのブランケット。深めの耐熱皿に一口大の具があれこれ入っていますね。魚介はタラとサーモン、それにホタテ。それにニンジン、セロリ、パプリカが入っています。バターの風味が利いていてなかなか美味しい。パリでは何度か仔牛のブランケット(blanquette de veau)を食べており、その料理にはセルクルでまとめたバターライスを添え、まぶして食べるのだということを心得ていました。この魚介のブランケットにも同様にお米がついていますので、スプーンですくってごはんにかけるという、何とも日本人的な作法にいたりました(たぶん間違っていないと思う)。素材や料理法を考えれば当たり前のことに、「シーフードドリア」と同系列の味がします。いやもうお腹いっぱいだよ〜

 不思議な構造のホテルについて、さっそくFacebookで報告(友達限定)


どこかにスーパーとか何でも屋さんが開いていれば寝酒を仕入れたいなと思ったのですが、カンペールの町はひっそりとしていて、少なくとも表通りにはそのようなものが見えません。15分くらいかけて駅前まで戻ってきたものの、スーパーは閉店したあと。ホテルバーというか、朝食コーナーが夜にはスナックコーナーになるようなのでそこでもいいかなと思いかけたところ、ホテルの何軒か手前のバーの店内に、飲み物の冷蔵庫が見えました。本来はそこで飲む人のものでしょうが、ビールを1本買って帰ろう。これ持って帰りますと告げて€2だったかをカウンターのマスターに手渡し、中庭に面した不思議な部屋に戻りました。この宿にはもう1泊します。でも予想どおりながらカンペールはおおかた見てしまいました。明日はどこに行こうかな。タブレットで鉄道やバスの時刻表をあれこれ調べてみて、時間・距離がころあいのブレストBrest)へのエクスカーションを決定。カンペール駅を1003分発の列車に乗るとブレストには1120分です。おおむね1時間に1本程度の列車があります。フランス本土最西端のラ岬(Pointe du Raz 正確には最西端はもうちょっと北にある)も考えてみたのですが、バスの具合がよくない上にアプローチに時間をとりすぎるので回避しました。ついでのことに、明後日とその次の日の宿も手配してしまいましょう。27日午後にナント(Nantes)からパリまでのTGVのチケットをとってあり、となると26日夜はナントに泊まって町歩きするのがよろしかろう。カンペールとナントの中間でどこにしようかな? このゾーンは「地球の歩き方」にも大した記事はなく、それなら昼間にTGVで通ったヴァンヌにしてみましょうか。予約サイトでヴァンヌとナントのホテルを探して、ブッキング完了。

224日(火)の9時半ころ、駅前ホテルの目の前にある(当たり前だ)駅にやってきました。いや〜前夜は少しばかり苦しかったのです。生ガキなんて食べて大丈夫かねと思ったら、やっぱり大丈夫じゃなかった(笑)。ヒットしてしまいました。ま、ただ、カキのせいなのかその他の原因があったのかは不明です。朝になったら別にどうということもなかったので一息つきました。11年前にベルギーのアントウェルペンのホテルで一晩中悶絶した記憶がちょっとだけよみがえりました。この日は朝食抜き。チェックインのとき朝食をどうしますかと訊ねられ、明後日すなわち出発する日の朝だけというふうに頼んであったのです。結果的によかったです。駅はよくある地方都市のサイズで必要最小限の設備しかありません。まずはチケットカウンターに行ってブレストまでの往復を求めました。往復運賃は€20ちょうど。とすると、前夜SNCF(フランス国鉄)のサイトで表示された片道€18.10というのは何だったのだろう。勘違いだったかもしれません。この往復切符は有効期間が7日間と、1時間ちょっとの旅程なのにずいぶん寛大ですね。

 

ALLER/RETOUR は往復のこと


駅カフェでカフェ・クレム(カフェオレ)1杯飲んでしばし待機。10分前くらいになってホームに出ました。日本のような改札はないのですが、SNCFではチケットを刻印機に押し込んで日付などのスタンプを押すこと(この動作にコンポステcomposterという動詞があります)を義務づけていますので、Eチケット以外ならこれを怠ってはいけません。罰金取られるそうですよ。ホームで待っていたら、東(パリ側)から青い流線型の車両が入線してきました。あれあれ、これは単行のディーゼルカーじゃないですか。つまりは車両の両側に運転台のついた1両編成です。ブルターニュ半島の先端に近い2都市を結ぶ列車なのに1両で足りるほどの流動しかないんですね。本来の国語的な意味からすると、車というのは車両を列(つら)ねるということなので単行運転は当てはまらないのですが、鉄道業界の用語ではこれも列車でよいということになっています。だから都電荒川線なんかも列車。それよりも、近ごろは若い人だけでなく中年の人でも、鉄道車両を見ればことごとく電車と呼ぶのが普通になってきています。一般人はともかく、この3月で定期運行を終えたブルートレインを電車と表現するアナウンサーが何人かいたのは実にけしからん。機関車の引く客車編成を電車と呼ぶ感覚なら、この青い車両に対しては間違いなく電車というんだろうね。車内に入ると、これまで欧州各地でしばしば利用したことのあるタイプでした。車両の両端つまり台車の上は高床、中間部分は低床になっています。欧州のホームは低位なので、車両側が高ければドアのところにステップを設けなければならないので、ローカル列車にはこのようなタイプが多いのではないかな。旧型客車はステップをもつものが多いですが、最近はどの地区でも車体更新車や新車が目立つようになりました。何となく鉄道を大事にしている感じがしてうれしい。

1003分の定刻に発車しました。1両のディーゼルカーは、旧市街の北をかすめて軽快に走ります。カンペールは小さな都市だと思っていたのに、郊外の住宅地みたいなところが意外に広がりをもっているようでした。それでも10分とかからないうちに車窓は田園に変わります。台車の真上に座っているため、ディーゼルカー独特の振動がお尻に直接きますな。ややあって大柄でチャーミングな女性車掌が現れて、端の乗客から順に検札をはじめました。私の往復切符に鋏を入れたあと、ドア横の座席にいた中年の女性客が何かをいわれている様子。どうやら無札だったらしく、車掌は「乗る前に絶対に切符が要るの。OK?」と語気を強めて注意しています。ちょっととぼけた感じのおばさんだったので、意図的な薩摩守(さつまのかみ 清盛の弟 平忠度のシャレで、無賃乗車=ただのりのことをそのようにいいます)だったのか、ルールをよく知らなかったのかはわかりませんでした。車掌がJRでもよく見る発券機を取り出してレシート状の切符を発行して、現金と交換でおばさんに手渡していました。この間78分。たぶん3倍くらいの額を取られたのだと思います。日本の鉄道では近郊区間の切符や定期券だけで来た列車に飛び乗り、車内で特急券などを買うということが普通におこなわれますけれど、欧州では乗車区間の切符をあらかじめもっていないと大変なことになりますよ。

 
 


車窓はいつしか森林になり、1両編成は分水嶺めざしてひたすら登っているのが感覚的にわかります。前夜グーグルマップでブレストまでの線路をトレースしてみたところ、やけに線形がぐねぐねしていて変だなと思ったのですが、ブルターニュ半島を東西に貫く高み(「山脈」というほどでもない)が海岸近くまで達していて、それを横切るために高低差を稼ぐべくぐねぐね走っているということですね。1030分ころシャトーラン(Châteulin / Kastellin)という峠の上の小さな駅に停車し、ここを出てから今度はずんずん下りました。平坦な地形ばかりのフランスの車窓がおもしろくないという話はたびたびしていますが、この区間に関してはアップダウンに加えて土地利用の推移なども見られ、とてもおもしろい。今日は朝からお天気で、空が晴れ渡っているのがまたいいですね。11時を回ったころ、けっこう大きめの町が左手に広がりました。高度を下げつつ、市街地をぐるりと大回りするようにして、07分にランデルノー(Landerneau / Landerne)に到着。いま地図で確認したら、ここでサン・マロ方面からの本線に合流したようです。そのあと左手にエロルン川(L’Elorn)が並行。この川はいつの間にかブレスト湾(Rade de Brest)に変わっています。この湾はリアス式海岸がさらに侵食を受けて広がったもので、ブレストを天然の良港たらしめている大事な水面です。1120分、ブレスト着。半島の先端部に近いこの地名は、町の特色やイメージをまったく欠いたまま、地図大好きだった小学生時代から頭にありました。

 
ブレスト着 向かい側はパリ行きTGV

 

PART3 につづく


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