Voyage aux pays baltes et plus: Lettonie, Estonie et Finlande

PART6

 


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829日(月)もお天気いまいち。雨が降るかもしれないと天気予報は伝えています。7時半ころ0階に降りてセットになっている朝ごはん。ホテルの朝食はどことも似たようなラインナップになりますが、スモーク・サーモンとかイワシのマリネなんかが置いてあるのがこのへんっぽいですね。この日は1330分にタリン港を出発するフェリーでヘルシンキに移動することにしているので、朝のうちにタリンの新市街を見てこようと考えています。本当は首都以外の場所にも足を延ばすべきなんでしょうけれど、移動距離がけっこうなものになりますし、現状首都だけでも時間がタリンので。


9
時前に外に出ました。正午までにチェックアウトすればよいので、荷物は部屋に置いたままです。旧市街は徒歩だけで簡単に回れてしまうサイズでしたが、新市街はそこそこの広がりがありますし、そのあとフェリー埠頭まで荷物を引いて移動しなければならず、トラムやバスの世話になることが必須です。ていうか乗り物好きとしては世話にならないという選択肢はありません。昨日はバスターミナルからホテルまでトラムを利用し、現金払いだったけれど、今日は何度か利用するはずなので一日乗車券を購入しておこう。ガイドブックによれば市内のキヨスクで購入できるとあります。たしかに町のあちこちでキヨスクを見かけますし、ホテル目の前の自由広場にも黄色い看板を掲げた店があるので、買えますかとレジで聞いたら「シュア」と。ここのICカードはハードタイプです。24時間のチケットが€3チャージされ、他にデポジット(保証金)が€2で合計€5。ウヒスカールト(Ühiskaart)というこのICカードはなかなかすぐれもので、1回乗車は€1.10が引かれるが、1日のあいだに3回以上利用するとシングルのつもりでも自動的に24時間チケットに切り替わり、要するに1€3以上は使わせないというしくみになっているのです。さすが元社会主義国というべきか、さすがIT立国というのか。デポジットはカードを返却すれば戻ってきますが、これはお土産ということに。いつかまたタリンを訪れる日が来ればチャージしましょう。レジの店員さんはレシートの文字を確認して、「いま851分なので明日の851分まで有効です」といってくれました。それはどうも、ありがとう。残念ながら今日のお昼までしかタリンにいられないんですよね〜(心の声)。

 


例によって具体的な目的があるわけではないので、トラムに乗って、これと思ったところで降りればいいかと思ったのですが、最初はトラムではなくトロリーバスに乗ることにしました。トラムの線路とトロリーバスの架線はホテル前の交差点で直交しています。リーガのトロリーバスは単行運転でしたがここタリンでは2連接で来ました。あざやかなブルーの塗色でカッコいい。内部はバスそのものです。走行音こそ違うけれども、電気で走るか軽油で動かすかという違いなんてマニア以外には関係ないわな。時間が止まったような旧市街とはまるで違う現代的なビルの谷間にさしかかったので、Kaubamajaという停留所で下車しました。これは目の前にあるデパートの店名のようです。9時を回ったばかりでどうなのかと思ったら、まさに営業開始したところでした。館内にお客の姿はまだほとんどなく、売り場のあちこちで店員さんが準備作業をしています。欧州でデパートと来れば、私の個人的な習慣で、自分用のネクタイを調達することになります。紳士服のフロアはけっこう広くて、品ぞろえも豊富。資本主義ばんざい! じっくり検討し、エストニアに敬意を表して深いブルー系のを含む2本を購入しました。もうすぐ後期開講だし、気分を高めるためにもいいですやね。


ここと、隣接するViru Keskusというショッピングセンターはかなり大型で、売り場も充実していました。食品スーパーがあるのも欧州スタンダード。エストニアのお土産といってもなかなか思いつかないので、無難にチョコレートとかお茶をいくらか買い込んでおきます。ものは大したことがなくても、メイド・イン・エストニアとあれば「はるばるそんなところから!」と感心してもらえるのではないかな(チョコを食べた私の母は「何だか素朴すぎるわね」とそっけなかった。地理オンチの人に場所の貴重さは伝わらんか 笑)。

ショッピングセンターを出て、また気分のままに歩きます。新市街とはいうけれどグリーンベルトがかなり広くて、全体として緑の中にビルが建っているという印象です。新市街のビルはモダンでハイセンスなものが多く、またまた新旧のコントラストを見せられます。地図を見ないまま歩いているため途中で方向感覚がわからなくなり、やってきたトラムに乗ってみると郊外方面行きでした。それはそれでおもしろいので、適当な電停で降りて引き返しました。ここの路面電車は町の景観によく溶け込んでいるなあと感心して、あらためて路盤を見ると、これは欧州では非常にめずらしい3フィート6インチ規格ではないですか。日本の在来線と同じ1,067mmの狭軌です。リーガは標準軌だったはずで、ここのは見るからに狭い。わが都電荒川線は国内にもほとんど類例がない1,372mmの通称「馬車鉄ゲージ」を採用していますので、これよりは広いです(軌道線の流れをくむ京王電鉄とその相方の都営新宿線は馬車鉄ゲージ)。前述のように、エストニアは一般鉄道への依存が非常に低く、首都の公共交通としてはこのトラムとトロリーバスが郊外への連絡を含めて中心的な役割を担っています。町の規模からしてもトラムが最も機能しやすい都市だといえるでしょう。

 
 新市街にて


小さな電車旅を満喫してホテルに戻り、荷物を請け出して1140分ころチェックアウトしました。ヘルシンキ行きのフェリーが発着するタリン港Dターミナルは、その種の施設にありがちなことに、自動車の積み込みを優先しているせいか電停やバス停からかなり歩かなくてはなりません。グーグルマップなどで検討して、トラムでHobujaama電停まで進み、そこから北に500mくらい歩くことにしました。雨は降っていないし、地形がフラットなので特段に問題はありません。埠頭にさしかかると、倉庫などが目立つ海際ならではの雰囲気になってきます。荷物を引いてフェリー乗り場をめざす人はほかに見当たらず、この道でいいのかなと思いかけたのだけど、海に向かう道はこれしかないのでまっすぐ進む。電停から20分くらいかかってフェリーターミナルにたどり着きました。

エスカレータで1階に上がったところに切符売り場があります。ネットで予約してあるので印刷した紙とパスポートを見せると、名刺大のシンプルなチケットが発券されました。価格は€39で、リーガからタリンまで乗ったバスに比べればかなり高いですが、「国際線」なのでこちらのほうが普通なのでしょう。やたらにStarと書いてあるけれど、私がスターになったわけではなくて(当たり前だ)、乗船する船の名前がStarというらしい。今日も用心して早めに着いてしまいましたが、1330分発のStar1時間前、1230分にBaltic Queenが出るみたいです。水上バスみたいなのではなく大型の船というのは実に久しぶりで、もう20年以上前に泉大津から新門司までの阪九フェリーを使って以来じゃないかな。今回の欧州遠征で私が購入した航空券は、東京(羽田)→パリ、パリ→リーガ、ヘルシンキ→フランクフルト→東京(羽田)という3 ways(トランジットはセットで数える)の周遊チケットですが、リーガとヘルシンキの間はSURFACEと表示されています。自力・自腹での「地上移動」という業界用語ですが、水上は想定されているのかな? 直訳的には「表面」なので水面でももちろんよいですけど、普通は鉄道とか自動車での移動だよね。あ、最近は別に購入したLCCの可能性もあるか。

 
 


鉄道のような自動改札機があり、一応は制限エリアが分離されていますけれども、シェンゲン圏内部での移動ですし、がっちり隔てられているわけではありません。改札の外にあった簡素なスタンドで生ビール(€4.20)を買って、停泊している数隻のフェリーを見ながらごくごく。ああ美味しい。改札を抜けるとすぐにBorder Shopなる酒店がありました。「国際線」とはいえ国内線扱いなので、いわゆる免税店なのかどうかは定かでありません。ただ、のぞいてみたらまずまずの品ぞろえなのでワインを買っていくことに。もてあましてはいけないので赤白ワインのミニボトルと、おや、今回お世話になる船会社タリンクTallink)のラベルを貼ったカヴァ(スペインのスパークリング・ワイン)があるぞ。201415年はスパークリングがマイブームで、カヴァだけで年間80本くらいは飲んでいたはずですが、このところトーンダウンしています。大好物であることには違いないので、乗船記念に買って行って、今宵ヘルシンキで飲もう。

航空機ならば国内線・国際線ともお手の物で、要領を十分に心得ている私ですが、船便というのは初心者同然なのでタイミングがよくわかりません。ワインを買って待合スペースに出ると、そこにたくさんいた乗客たちはすでに移動していました。ゲートが開いて乗船がはじまったらしい。少し小走りで進みましたが、待合スペースから船の乗り口まで何と10分も要しました。搭乗口までやたら歩かせることで知られるロンドン・ヒースロー空港じゃないですが、フェリーの通路って長いものなんですね!

 
 
フィンランド湾を渡る大型フェリー「スター」の船内に入る


船体は想像していたよりも大きく、そばに近づくとそびえ立つビルのようでもあります。ボーディング・ブリッジを渡って船内に入ると、すぐにエレベータ・ホールがあってやっぱりビル。座席指定はないのでどこに行けばよいのかわかりません。係の女性にチケットを見せて、どこに行けばいいですかと質問しました。「1つ上のフロアを自由にお使いください」とのことだったのでそちらに。なかなかすごくて、本式のレストラン、カフェ、フードコートみたいなカフェテリア、ゲーセン、マッサージ椅子のスペースなどがあって、本当にどこかの商業施設に入り込んだみたいです。なるほど、座席とか桟敷があってそこに座るのではなく、船内では飲み食いしたり遊んだり買い物したりするんですね(乗り込んだフロアにはショッピング・ゾーンがある)。私、いまどき運転免許をもっておらず、フェリーに車ごと乗ったこともないのでそのへんの想像力が欠けていました。休みたい人は自分の車の中でゆっくりすればいいわけか。ただ、自動車ごと移動するのではなく単に都市間のシャトル便として利用する船客も多いはずで、そういう人は私と同じようにキャリーバッグやスーツケースを引いているのですぐにわかります。どこかに預けるコーナーはあると思うけど、乗船時間2時間だからいいか。

 

ノルディック・サーモン食べながら優雅に国境の海を渡る


広いカフェテリアのスペースをのぞいてみたら、窓に面したテーブルもあるので、海を見ながら過ごすことにしました。さっそくカウンターに並んで食べ物などをオーダー。船内で何かを食べられるのかわかっていなかったのに、なぜか今日は昼食をとっていませんでしたのでちょうどいいですね。メニューはありふれた、コンビニで売られているようなサンドイッチやサラダのたぐい。土地柄なのかノルディック・サーモンのマリネがあったので迷わずチョイスしました。あ、これは下にパンが敷いてあるオープンサンドですね(€4.70)。これにオレンジジュース(€2.80)とコーヒー(€2.30)で€9.80ですから、船内価格と思えば安いといえます。日本の空港内レストランとかパリのルーヴル美術館内のカフェとか、ショバダイかかるとしてもアホみたいな高値になっていますよね。

よく冷えていて美味しいサーモンを口にするうち、船は動き出していました。思った以上にスピードが出ているようで、窓から見るエストニアの海岸線がどんどん遠ざかっていきます。タリンは小さな湾の奥に位置します。そこを抜けると外洋。ただ、外洋といってもほぼ全方向を陸地に囲まれたバルト海の、さらに奥まったフィンランド湾ですので、巨大な湖のようなものかもしれません。私が座っているのは右舷側、つまりは東、フィンランド湾の奥側を向いていますから、視線のはるか先にはロシアのサンクトペテルブルクがあります。ますます行ってみたいなロシア連邦。タリン→ヘルシンキ間は約85kmで、所要時間は2時間。中間地点あたりまで来ると少しだけ波に揺られます。かすかな揺れなので、付き合っているとむしろ気持ち悪くなりそうだけど、さほどのことではありませんでした。やっぱりこの次に乗る機会があったら、荷物を預けて船内探検するべきでしょうね!


フィンランド語、スウェーデン語、英語、ロシア語


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20分ころにはヘルシンキ西港に着きました。結構な船旅でした。さあヘルシンキHelsinki)。ムーミンとサウナとノキアの地元で、やたらに学力が高いことで世界的に評判の、フィンランド共和国Suomen tasavalta)の首都です。フィンランドというのは他称で、フィンランド語ではスオミーSuomi)と自称。ジャパンとニッポンみたいなものでしょうか。こちらのフェリーターミナルにはいっさいの色っぽさがなく機能一点張りのようです。さっそく言語に目が行きます。フィンランド語の次にスウェーデン語が来ているのは、これもフィンランドの公用語だからです。歴史的な経緯により5%前後の母語話者がおり、かなり以前から産業界などで一定の役割を果たしていたことから採用されています。基本的にこの2言語は表示が必須。それに英語とロシア語がつづきます。このフェリーターミナルに、「相方」であるはずのエストニア語の表示がないのは不思議。フィンランド語と同系列とはいえ、たぶん綴りなんかは違うはずですけどね。

表に出ると小雨が降っています。ところで私、旅慣れていて準備をところどころ手抜きするものだから、ミスをおかしていました。フェリーが着くのは市の中心部に面したエテラ港(Eteläsatama)だとなぜか思い込んでおり、予約したホテルはそこからすぐなので位置関係だけ覚えて、北欧編のガイドブックをキャリーバッグに閉じ込めていました。担いでいるリュックのほうにはバルト三国のガイドブック。タリン港までの道が不安だったのと、北欧編は重たいのでそうしたのだけど、着くのは西港(Länsiterminaali)だということを、実際に着いて、目の前の景色を見て初めて知った次第。トラムの電停があるのはいいけれど、折り返しのラケット・ループ(運転台を片方にだけ載せるための線路配置)があるのでおかしいなと思い、掲げられている路線図を見て、しまったと思ったわけです。困ったことに、路線図は市内全域のものではなく当該系統のみ。これはもう、中心部らしきところまで乗っていくしかないな。運転士からチケットを買えるということらしいので、一日乗車券はありますかと聞いたら€8とのこと。タリンの2倍以上ですが、都市の規模が違います。しかも物価が高くて有名な北欧の一角。レシート式のチケットなのでなくさないようにしないとね。

 


今回の旅行ではわりと順調に物事が進んでいたせいか、ちょっとつまずきました。車内で地図を取り出して町の構造を大急ぎで把握しましたが、中心部にさしかかり、そこから歩こうと思った箇所で東西南北の方向を見失ってしまいました。ヘルシンキはあまり地図が掲出されていないので旅行者はがんばらなければいけません。雨が少し強まったので傘を取り出し、どうにか進むべき方向を取り戻して、歩くこと15分ほどかかって予約したホテルにたどり着きました。

ホテルF6Hotel F6)は、エテラ港から2筋内側、日本大使館の裏手あたりにあるシティ・ホテルで、いま気づいたのですがFabianinkatu 6という地番に由来する名前なんですね。1泊朝食つき込み込み€135で、いつもの私の相場からすればかなり高いのですが、北欧諸国は軒並み高物価で、1年前に訪れたデンマークやスウェーデンほどではないもののフィンランドも安くはなく、中心部ならそれくらいになってしまいます。ケチる齢でもないので、変な場所の変な宿に泊まるよりは全然よいです。ずいぶんとエレガントなエントランスとレセプションがあり、傘を折りたたんでいると「せっかくいらしたのに雨で残念ですね」といってくれました。部屋は広くてシック。間接照明が個人的にはあまり好きではないのですが不快なわけではありません。よせばいいのにタブレットをWi-Fiにつないでみたら、こんな時期なのに、いやこんな時期だからなのか教職関係のお仕事がわんさか入っており、大急ぎで処理します。IT化とかユビキタス化って、オンオフをなくすだけなんじゃないのとしばしば思います。スマホ中毒の人は中毒というだけあって、オンオフがなくなることがむしろ快感になっている(身体化している)のかな。今回は全体に社会主義に厳しい文脈ですが、IT依存は資本主義が人間の身体の、末端神経とか毛細血管にまで入り込んだやばい病気だと考えるほうがいい。と、IT経由で発信してみます。

 
 
ホテルF6


小休止していたらもう17時半を過ぎました。雨が降っていて傘をさすのが面倒ですが、町の中心部をひと回りしてこよう。表に出るとうすら寒い。この日の気温は1415度くらいで、われわれが知る8月の陽気ではありません。いつも夏場の遠征でもジャケットをもってきています。宿泊地間の移動のときには着用するので暑くてかなわないけど、欧州というのはそれなりにメリハリを求められる社会でもあり、ノーネクタイはともかくジャケットなしだと立ち入るのをはばかるような場面があったりするからです。しかしヘルシンキのこの気温だとジャケットはむしろ必須で、何だったらもう1枚くらい入れてもいいくらい。ここ数日の動きとして、金曜にパリ、土曜にリーガ、日曜にタリン、そしてきょう月曜にヘルシンキと、4日間で4ヵ国の首都を数珠つなぎにしています。パリはマックス37度くらいの酷暑で、いつものように町を歩いているだけでくらくらしそうになり、あまり気乗りしないのにルーヴル美術館に駆け込んで涼んでいました(幸か不幸かテロ事件このかた入場の際の行列がほとんどなくなりました)。リーガとタリンは日昼20度前後、そしてこのヘルシンキの冷涼さ。欧州といっても広いですねえ。8月とはいえもう月末なので、フィンランドのように夏の短い地方だと早くも季節の変わり目が到来しているのは間違いありません。

さて、ヘルシンキはフィンランドの国土のいちばん南の海岸に面しています。バルト海のフィンランド湾に向かって陸地が少しくびれて伸びた半島部分に市街地があり、ほとんどの方向を海に囲まれた地形だと考えてさしつかえありません。島みたいになったその市街地部分のちょうど真ん中あたりにエスプラナーディ通りEsplanadi)が東西に伸びています。そこがヘルシンキのメインストリート。きれいに整えられたグリーンベルトの両側に車道があり、全体として広い道路になっています。宿泊しているのはそこからほんの少しだけ南に折れた地点。ヘルシンキが首都になったのは1812年と新しいため、リーガやタリンで見てきたような旧市街はなく、町の真ん中までタテヨコのすっきりした条里的な都市として建設されています。最近訪れたところだと、スペインのバルセロナやドイツのマンハイムなどがこの手の計画都市で、座標のどこにいるかを心得れば歩きやすい。そう考えると、そもそもが古代の条里制に立った京都は別格としても、17世紀に町づくりがおこなわれた東京の中央区は近代的な都市計画の走りということになるのですかね(徳川家康が埋め立てを開始するまで現在の銀座中央通りを軸とした小半島になっていたことが関係します)。

 
(左)乙女の像  (右)イリオピストン通り


せっかくのグリーンベルトも雨模様だと魅力が半減するので、その北側に広がる商業地をしばらく歩いてみました。名門ヘルシンキ大学(Helsingin Yliopisto)とその関連施設があります。ずいぶん町なかに大学があるものです。道路が直線なので景観がすっきりしています。機能的で美しいと見るか、もうちょっと人間のにおいがしてもよいと捉えるかは主観の問題。もう夜の時間帯ですし、小雨まじりでうすら寒いのもあって、無用に歩きつづけてもなあと思い、やってきたトラムに乗ってみました。けっこうな乗り具合で立ち客もいます。電車はヘルシンキ中心部をなす「島」の部分を抜けて、対岸の地区に渡りました。とくに何もなさそうなので、適当なところで下車して同じ路線を折り返します。まだヘルシンキの町の構造とかトラムの路線網が頭に入っていないので、ぐるりと回ろうなどと考えているとたぶん失敗します。ヘルシンキには地下鉄もありますが、ここのトラムはわりに有名で、この町の景観としてしばしば紹介されます。

 トラムに乗り試し
 
ヘルシンキ中央駅


トラムで引き返して、町の中心にあるフィンランド鉄道(VR)のヘルシンキ中央駅Helsingin rautatieasema)にやってきました。ここでも郊外鉄道に乗る機会がなさそうなのは残念。改札がないので構内に入り、線路や車両の様子を観察しておこう。タリンのトラムが欧州ではめずらしい狭軌だと申しましたが、フィンランドの鉄道はもともとロシア帝国によって敷設された関係で、ロシア規格である1,524mmの広軌になっています。欧州の首都の鉄道ターミナルには、ロンドンやパリのように中央駅をもたず方面別に分かれているところと、ベルリンやウィーンのように中央駅を設けて集約を図っているところがあります。ヘルシンキはすべてがこの中央駅に集まります。それにしては規模が小さく、おなじみの行き止まり式櫛型ホームですが、58線しかありません(あとで知ったのですが先のほうに別棟があるようです)。コンコースのサイズも、店舗の数もほどほどで、私が知るかぎりドイツの州都レベルの中央駅ならもっと大きい。ただ、地下鉄や周囲のショッピングビルなどと直結しているので、機能的には優れており、多くの人が行ったり来たりしています。バルト三国の首都よりはずっと大きな都市ですしね。

 
中央駅付近は商業地区になっている


駅に直結しているシティ・センター(Citycenter)なるショッピングビルをのぞいたりしてみますが、雨の中をあまりうろうろしたくないので、中心部をさくっと回りながら夕食会場を探そう。東京でも欧州でも、商業地のよい飲食店というのは往来の多いタテ筋ではなくそれと直交する狭い道路か、並行する道沿いにあることが多いので、勘をはたらかせてそういうあたりを歩きました。が、どうも調子がよろしくない。これはと思った店はことごとく本日休業です。30分かそこら歩きまわって、エスプラナーディ通り沿いのわりに大きなレストランに入りました。探索中に見つけたものの、外からのぞいたところ一人で地味に飲み食いするには場違いな感じだったので、一応の「抑え」としてキープしておいたところになったわけです。BRONDAというこのレストランは、表通りに面してはいるが雰囲気からして観光客というよりは地元向けのように見えます。店内は天井が高くてビアホールみたいな感じ。英語のメニューをもらってあれこれ見てみますが、店員さんが「当店は料理をシェアすることを前提にお出ししているので、一皿がけっこう大きいです」というように、何だかラージサイズっぽいものばかりで、相応に値段も高い。牛肉なら食べられるかなと思って、Veal cheeks à la Pedroという品をオーダーしました。後半がフランス語っぽいのだけどペドロが固有名詞なので意味は不明です。お一人ならこちらのサイドメニューから必ず1つお選びくださいといわれてメニューを見ると、フレンチ・フライ、テンプラ・オニオン、ブロッコリーのソテーといったところで€78ほど。フレンチ・フライ(いうところのフライドポテトで、これは米語の表現)を勧められたけれど、パリ以来その手のものばかり食べてきているので食傷気味。いちばん安いHouse bread(€5)にしてみました。フランスでは何か料理を一品とれば無料でパン(バゲット)がついてくるのですが、欧州のたいていの国にそうしたルールはなく、基本的に夜はメイン料理(おかず)だけ食べているので、私もそちらに慣れてしまっています。「パン」を別払いで食べようと思ったことはありません。ま、そういうしくみなのだから仕方ない。

 
 


生ビールを頼んだらKarhu III0.4Lグラスが運ばれました。バーとしての機能もあるらしく、私の座っているところの横にはボトルをたくさん並べたカウンターがあります。ワインも飲もうと思えば飲めますが、かなり値が張りそうなのでさすがにヒヨりました。ややあって運ばれたハウス・ブレッドは思いがけず食パンで、極厚切りをサイコロ状に切ってグリルで焼き目をつけてあります。オリーブオイルとオリーブが添えられて、このあたりはイタリアっぽいですね。これがなかなか上等なパンで美味しい。朝ごはんならこれだけで十分でしょう。仔牛のペドロ風というのは、どうやら赤ワイン煮込みのたぐいのようです。本当にシェアしたいくらいたっぷりある。そういえばホテルのビュッフェ式パーティーなどで、この種の料理が並べられることがあるねえ。仔牛肉はそれだけだと淡白なので、しっかりと味をつけるのが通例です。フランス料理っぽいのかと思ったら、ニンニクとバターの風味が強く、ちょっと他では食べたことのない味でした。やわらかくて美味しい。小タマネギかと思って口に入れた小さな粒はラッキョウ(ないしその親戚)でした。料理+サイド+ビール+食後のエスプレッソで€44.50とかなりの額になりました。3夜つづけて肉料理を食べて、値段は倍々になっていき、なぜか初日がいちばん美味しかったという結果ですが、旅行とはそういうものでございます。

 
タリンクのブランドが入ったカヴァ いいホテルなので備えつけのグラスもカッコいいです


飲食店を探して歩きまわるあいだに、23軒のAlkoを見かけました。話に聞いた国営酒店で、外食は別として酒類を買えるのはAlkoに限られます。スウェーデン、ノルウェー、フィンランドの北欧3ヵ国は歴史的な経緯により飲酒が厳しく規制されており、そう簡単には買わせないぞという専売制が採られています。飲食店では問題なく飲めるのでテイクアウトを規制してどうなるのかとも思うのだけど、これもお国柄ということにしておきましょう。同じ北欧でもデンマークはゆるゆるで、1年前にデンマークからスウェーデンに鉄道で移動した際には、コペンハーゲンの駅内売店でフルボトルのワインを買って隣国に持ち込んでいます。タリンのフェリーターミナルの酒店でワインを買ったのにはそういう意図もありました。ゆったりした部屋でくつろぎながら、船会社のロゴが入ったスパークリング・ワインをいただきましょう。おお、すっきりした辛口で美味しい。これならもう1本買ってくればよかったな。といいつつ、赤ワインもあるので燃料補給はかなり長時間つづくことに。

 

PART7につづく

 


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