Découvrir Lisbonne et l’Océan Atlantique

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トラムは平地、じゃなかった低地のバイシャ地区に下ってきました。さきほど歩いたところとつながって、お城の周囲をぐるりと一周したことになります。晩ごはんまで12時間ほどホテルで昼寝しようと思うのですが、その前に晩酌用のワインを買っておこう。バイシャ地区の一隅にけっこう立派な構えのワインショップがあるのをさっき確認していました。30歳くらいの女性店員さんにポルトガル産の赤ワインがほしいと申し出ると、すぐにいくつかの候補を取り上げて特徴を解説してくれました。ポルトガルといえば第一にはポートワイン。港町ポルト付近で産する強化ワイン(ブランデーなどの蒸留酒を加えて発酵をストップさせ、甘みを残したもの)で、フランス料理でよく使う「ポルト酒」というのも同じものです。嫌いではないのだけど、フルボトルを買って2晩で飲みきる自信はなく、普通の赤ワインがいいや。「ポート以外のポルトガル・ワインもなかなかすばらしいですよ。ほら、これとかこれとか」と、おねえさんは淀みない英語でリキを入れてきます。ユーラシアの西端まで来たのだからケチらなくてもいいけど、€50とかいわれると、やっぱりねえ(笑)。「なるほどすばらしい。ただ、これはプレゼントではなく私自身が今夜ホテルで開けて飲むものなので、もう少しカジュアルなやつでいいです」といったら、それはそれで候補が提示されました。ダオン(Dão)はフルボディで美味ですよ、というのでそれにしました。€17.50と、たしかにカジュアルで結構ですが、日本で買ったらたぶん倍くらいにはなるでしょうね。ダオンはポルトよりも少し南の地方で産するワインだそうで、あとで調べるとポルトガルに住んでいたこともある作家の壇一雄が「ダン」つながりだというので愛飲したのだそう。ポルトガル語独特のãoという母音を私は「アオン」と書き取っているのですが実際には「アン」との中間くらいのもので、壇先生には心地よい響きだったんでしょうね。ダンさん大和田さんはダンさん!(ダンと聞くとすぐこのネタを持ち出すのは昭和の人・・・なのですが、NHK「連想ゲーム」で大和田漠のトイメンにいた壇ふみは壇先生の長女です)

青メトロに乗っていったんホテルに戻りました。やー、よく歩いたなあ。カメラと本人の充電(昼寝)を図ろう。でもその前に、買ってきたばかりのダオンをグラス1杯ほど賞味。濃厚な感じがして美味しいねえ。海外旅行するととかくスケジュールが込みすぎて日程後半には疲労がたまってしまいます。少しの時間でもお昼寝しておくといいですよ。18時半ころ、あらためて晩ごはんを食べに出かけることにしました。ガイドブックなどという軟弱なもの?は使わず、見て歩いてテキトーに店選びするつもりです。

飲食店が多いのはバイロ・アルトとバイシャ。バイシャ地区は昨夜の客引きの感じが好ましくなかったため、高台のバイロ・アルトにしようかな。昨夜と同じく青メトロでレスタウラドーレスまで行って、けさ乗ったのと同じケーブルカーのグロリア線で上の駅へ。あらためて展望台からサオン・ジョルジェ城のほうを見ると、ライトアップされたお城もいいですね。リジュボーアは大都会の部類に入るはずですが、町の発光は全体に抑えめで、暗い部分が目立っています。建物の低さと密集具合が関係しているのですかね。

 
 

今朝は展望台というか上の駅のそばをすぐ南下したのですが、バイロ・アルト地区のコアはもう少し西側なので、適当に入り込んでみました。縦横のいくつかの筋に飲食店の灯りがみられ、同じようにディナー会場を物色している人たちがいるのだけど、にぎやかというほど明るくも人が多くもありません。それでいて物騒な感じがしないのはなぜでしょうかね。せっかくだから当地らしいものを食べたい。でも、いかにもな観光レストランは嫌だなあ。しばらく歩いてこの地区の感じはつかめましたが、要は飲食店を中心に観光化されすぎて、こちらが望むのとは離れてしまっているようです。1軒のレストランをのぞいたら初老の客引きが出てきて、どこから来ましたか? 日本人? コンバンハ。とありがちなアピール。店内にもっといろいろなメニューがあるよといわれたので、まあいいかと入ってみたら客は他にないし、メニューは少ない上に観光相場です。ついにはステージ衣装を着た中年の女性が現れアンプのセッティングなどはじめたので、これはファド(ポルトガル庶民の歌謡)を強制的に聴かされるぞと思う。ファドは別にいいけど、たった一人でまずい食事をとりながらワンステージ終わるまで居つづけて盛大な拍手とチップを強要されるのはかなわんなあ。メニューはお決まりですかと店員が聞きにきたので、Sorry, I don’t like it.と告げて辞去することにしました。店員は、わぁおと肩をすくめるおなじみの欧米ポーズで応えました。すまんね。

バイロ・アルトはどうも手に合わないみたいだぞと思い、カモンイス広場からそのまま南下する道をたどりました。午前中にトラムの登り下りを取材した地点の南側、もう海抜ゼロに近いゾーンに下りてくると、そこは場末の表情。別にヤバそうだというのではなく、うらぶれていて、たまに開いている飲食店もさびれきっています。と、道路の向こう側から女性が声をかけてきました。ハローという声は彼女の風体に似ずずいぶんべたべたの発声。その先の角でも別の声がかかりました。場末の地区とはいえ、首都の繁華街から数百メートルのあたりで立ちんぼさんが出るとはねえ。パリは最近取り締まりがきびしいらしく、都心あたりではほとんど見かけなくなりました。2人とも年齢は私と変わらないくらいと見受けました。商売になんのかね。

 
 バイシャのレストランで、ディナー(パンは食べない 笑)


夜陰に沈みきった官庁街を抜けてバイシャ地区に出ました。歩き回っているうちに20時が近くなっています。フランス人のディナータイムはこれからですが(1820時が割引設定になる妙な国なのです)ポルトガルは普通だと聞いていますので、とっとと店を見つけなくてはね。観光レストランがならぶ道を避け、たしか1筋くらいずれたところに行ってみると、「町の食堂」ふうの小さな店がありました。例のバインダー式メニューが表に掲げてあるし、店内に観光客っぽいグループが2組ほどいるけれど、そもそもそういう地区ですし当方も観光客なのでこれ以上もたもたしないほうがいいですね。カウンターバーが設けてあり、そちらには地元の中高年4人が腰かけてビールを飲んでいる。メニューはたしか7言語くらいで表記してありました。価格は観光相場ではなさそうです。ポルトガルに来たからにはバカリャウ(タラを干したもの)を食べようか。料理の基本語を頭に入れてきています。過去分詞のassadoは「焼かれた」、cozidoは「茹でられた」。干物は焼いたほうが美味いに決まっていますが、ポルトガル人は茹でタラを好むと聞いたことがあり、バカリャウ・コジード(bacalhau cozido)を発注しました。飲み物はグラスの白ワイン。ポルトガルのレストランでは、頼みもしないのに最初にパンと前菜(コロッケなんかが多いみたいですが、ここのはオリーブでした)をもってきます。要らないよといえば下げてもらえると各種の情報は伝えており、私もそうしてもらいました。いくらもしないのだけどパンとオリーブなら別に要らん。不思議なしくみですが、われわれの「お通し」なども強制的に課金するしくみには違いなく、外国の方はとまどうでしょうね。フルーティーといえばいえるが、コンビニで売っているやつみたいな味のワインを舐めて待っていると、アルミの大皿に盛られたバカリャウが運ばれてきました。セリ系のにおいと味がする緑黄色野菜を茹でたものと、ジャガイモのかたまりが2つついています。イモがあればこれが主食ですよね(ドイツあたりをうろついているうちにそういう発想になっちゃった)。バカリャウはけっこう塩気が強く、お酢とオリーブオイルをまぶすとマイルドになりました。どんな味かといえば、私たちが鍋物などでよく知っているあのタラを塩漬けにして塩抜きして湯がいたような味(笑)。想像どおりの味よ。たぶん次はこの料理を頼まないと思いますけど、話のタネに一度は試してみてよかったです。斜め向かいのテーブルはドイツ語を話す家族。そのあと英語のグループとポルトガル語のグループが来店したところでクローズの準備に入りました。21時までなのね。フランス人が自国のペースでディナーしようと思ったら間違えそうです。勘定を頼むと、おおこれはずいぶん安い。バカリャウが€9.10、白ワインが€1.00、食後のエスプレッソが€0.10で計€11.20だって。観光相場だとメインディッシュ単体で€15くらいしますもんね。ごちそうさまでした。バイシャ・シアード駅から青メトロに乗って宿へ帰還。

  カイス・ド・ソドレ駅


リジュボーア3日目は月が代わって31日、金曜日です。この日も朝からすっきりと晴れて気持ちがよい。今日のねらいはユーラシア大陸最西端のロカ岬Cabo da Roca)です。アプローチには2通りあり、いずれも鉄道とバスの乗り継ぎになりますので、ガイドブックではぐるり一周することを勧めています。ただ世界遺産のシントラ(Sintra)に入り込むとそこだけで時間を食いそうなのと、山の中のお城には元来あまり興味がないので、海沿いのカスカイスCascais)でバスに乗り継ぐルートを往復することにしました。欧州の大都市ではありがちなことに、リジュボーアの鉄道ターミナルは方面別に市内4ヵ所に分かれています。今回はコメルシオ広場の少し下流側にあるカイス・ド・ソドレ駅Cais do Sodré)からの出発。バイシャ・シアードで緑メトロに乗り換えて1駅でカイス・ド・ソドレに着きました。朝の9時前なので通勤時間帯のつづきらしく、近郊線からメトロに乗り換えるお客がわんさかいます。

地平にある駅は行き止まり式の櫛型ホーム。ここは近郊線専用なので、長距離ターミナルのような旅情は皆無です。上り便から降りてくる通勤客だけでなく、私のようにこれから下りに乗ってどこかへ行こうという人も多く、狭いホームはほぼ人で埋まっていました。切符売り場でカスカイスまでの往復を頼むと€2.15×2€4.30。ただ、「3日乗車券」として使用中のヴィヴァ・ヴィアジェンの重複利用は不可で別に買わなければならないらしく、あらためて€0.50が徴収されます。全自動になっているのはいいとしても、乗るたびに€0.50払うのはどうかなあ。ま、カリス(メトロ・トラム・バス・ケーブルカー・エレベータの運営会社)とポルトガル鉄道(CP)の2種類あればいいということか。仕様が双方向乗り入れになる前のSuicaPASMOみたいなもんだと思えばいいのですね(それよりははるかに安価です)。自動改札を通ってホームに出ても望みの便は来ていません。パタパタ式の出発表示板の情報はあてにならず、といってポルトガル語はわからないのでアナウンスの内容も不明のままです。そのうちホームの両側に列車が到着。地元の人たちも「こっちでいいのか」「いやあっちだ」と発車ぎりぎりまで迷っている。乗った車両の中でカスカイスには行かないみたいな英語を察知したので、反対側の車両のそばにいた中年の車掌に「こっちがカスカイス?」と聞いたらそうだといいます。ただ、周囲がどうにもバタバタしている。向こう側(最初に乗ったほう)の列車が出発間際になるとみんな移っていくので、私も。リジュボーア〜カスカイス線はたぶん支線がない路線なので、誤乗したとしても途中駅どまりということだから実害はないことでしょう。東京の電車と同じようにドアの上に列車種別ごとの停車駅を示した図を掲示してあり、どちらかが急行だったとしても大丈夫だと踏みました。――と思ったら、さきほどの車掌が大声で「カスカイス!」といいながら車内を通り抜けました。何じゃそりゃ。

  カスカイス行きの車内から

どたばたした挙句に915分ころ、カイス・ド・ソドレを出発。線路はすぐテージョ川の右岸に取りついて、対岸のアラビダ半島とを結ぶ425日橋をくぐり、その先で大西洋岸に出ました。実は大西洋を見るのは初めてなんです(前々日に上空から見ているのをのぞけば)。カスカイスまで30分ほど、海岸段丘の上を走る感じとか別荘地らしき車窓風景、左手に海を見て進む雰囲気などが伊豆急で南下する場面に重なります。リゾート地として知られるエストリル(Estoril)には3つほど駅があり、いずれも海に近くて「洗われる」感じ。そのあたりで半分ほどのお客が降りました。エストリルから数分でカスカイス駅に到着しました。行き止まり式のホームがやっぱり下田駅っぽいなあ。

 
 


小さな駅舎を出て駅前の信号を渡ったところに、欧州でしばしば見かけるタイプのショッピングセンターがあります。ここの0階がバスターミナルだということでした。行ってみると、プラットフォームに排ガスよけのガラスがはめ込んである感じが、北部九州で非常によく見る西鉄バスの「バスセンター」にそっくり。天神のバスセンターは大音量と妙ちくりんなイントネーションのアナウンスが代々受け継がれていますが、こちらは無音。そりゃそうですね。時刻表を見るとロカ岬を経由する便は1025分発とのことです。いま10時ちょっと前なのでちょうどいいではないですか。上階のSCに戻ってお手洗いを借り、いくつかのお店を外から眺めているうちに時間となりました。

前ドアから乗り込み、運転士さんに「カーボ・ダ・ロカ(ロカ岬)に行きたいのですが」と告げると、「カーボ・ダ・ロカ」と復誦して、€3.25の運賃前払いを請求しました。ここまでの鉄道といい、思ったより安いなー。外国でバスに乗る際には、こういうふうに行き先を伝えておくと誤乗を防げるほか、その停留所で「ここだよ」と教えてくれる恩恵を受けられます。鉄道と違ってどこで降りたものかわかりにくいですからね。バスは前半分が低床、後ろが高床の東京でもよく見るタイプの新型で、私はもちろん運転席横の最前列かぶりつき。カスカイス駅周辺はよくある郊外の景観でしたが、10分も走らないうちに田舎の国道みたいなところになり、乗車も下車もほとんどありません。車内には私と23人になってしまいました。ユーラシアの最西端はどうやら結構な標高のあるところらしく、バスはぐんぐん登っていきます。日本だったら沿道にゴルフ場の1つや2つはあるところだなきっと。そのうちシントラに向かう本線筋から左に折れ、見晴らしのよい「丘の道」に突入します。向こうに海が見えているものの高原の風情で、伊勢志摩あたりで見たことがあるような景色ではあるけれど、ここには建物ひとつありません。そして、次々に現れるカーブをさほど減速しないで通過するため、崖下や対向車がちらついて非常におっかない! 運ちゃんは毎日のことで熟練しているのでしょうけどね。

 
 

カスカイス駅から25分くらいでロカ岬に着きました。本線筋から折れてから5分くらい走ったと思います。停留所はラケット状の折り返し場になっており、そこに隣接して案内所が建っていました。灯台と、少し離れてレストランらしきものがある他には何もなく、要は最西端の観光のためだけに取りつけ道路が造られたということですね。先客が15人ほど。うち10人くらいは自転車に乗ってきたらしい学生グループで、大声を上げて写真を撮り合っています。

 
  西経930分、北緯3847


十字架を載せた最西端記念碑には、リジュボーアの広場に名を残す詩人カモンイスの句「ここに陸尽き、海はじまる」Aqui… Onde a terra se acaba e o mar começa…)が記されています。40年以上島国で暮らしてきたので、ユーラシア大陸の西の端ですよといわれても何だかよくわかりませんが、この先は何もないよというのはやっぱり「最果て感」があっていいですね(何のこっちゃ)。いやしかし地球は広いし海も広い。用心でマフラー巻いてきていますが風はまずまず生ぬるくて、寒くも何ともありません。西欧あちらこちらも、このところワンパターンの町歩きばかりでヒネリがないねと自分で思っていたところだったので、都心を離れて海を見に行くなんていいじゃないですか。リジュボーア行きの航空券を手配した当初は、中1日はイベリア半島を鉄道で南下してスペイン国境をめざそうかと考えていたのですが、鉄道が高速化されていないポルトガルでは距離のわりに時間がかかりすぎるので断念しています。その代わりゆっくりとロカ岬を訪れることにしました。いや、よき判断でした。ここまで来た記念に動画も撮ってみたので、視聴可能な方はこちらをどうぞ。

 大西洋(Oceano Atlântico


PART 6へつづく

この作品(文と写真)の著作権は 古賀 毅 に帰属します。