Bienvenue à Paris! 別冊ドイツ編

ドイツの

 

PART 3

 

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土曜日の7時ころ、ケルンのホテル・ハーモニー(Hotel Harmonie)で目覚め、まずは50ユーロの宿泊料に込みの朝食をとるべく、0階のダイニングへ。フランスの朝食がパンとコーヒーだけのいわゆるコンチネンタル・スタイルであるのに対し、ベネルクスやドイツはヴァイキング形式が主流とのことで、ベルギーでは美味しそうなおかずを目の前にしながら暴飲暴食のツケでほとんど何も受け付けなかったから、今回はしっかりいただいちゃいましょう。生ハム、ボイルドエッグ、各種チーズ、サラダ、フルーツポンチなどが取り放題。よく見ると、テーブルにナイフは備えてあるけれどフォークがなく、この点はコンチネンタル・スタイルと同じです(ドイツだって大陸だし)。たぶん、よろずパンに載せて食べるという発想なのでしょう。実際に、大半のおかずは塩辛く、まさにおかずでした。

 

宿泊料は昨日のインフォメーションで全額前払いしているし、別払いの電話などは使っていないので、居心地のよかったこのホテルには結局1セントも落とさずにチェックアウトしました。ダンケシェーンとお礼をいって、10時過ぎに表へ。

まずは前日に積み残していたケルンのシンボル、大聖堂Dom)へ行かねばね。高さ157mとのことで、ホテルの部屋に置いてあったパンフには「大聖堂から当ホテルまでの距離とほぼ同じ高さ!」と書いてありました。でかすぎて、近くに立つとカメラのフレームにはまず収まりません。この周辺は新しい建物が多いから、黒ずんだ大聖堂の存在感は喩えようのないほどです。世界史の資料集か何かで見たなあ。おおもとは13世紀の建造らしく、ゴシック様式の典型として紹介されることが多いですね。中へ入ってみると、カテドラル独特の空気がひんやりと肌にしみます。正直にいえば、薄暗くてやたらに天井の高い大聖堂はどこでも苦手なんですけど、欧州各都市の見どころというとたいていはこの種の建物になるため、パリのノートルダムをはじめけっこう見てきました。13世紀などと聞くとなおさらそう思うのですが、本当に当時、どうやって建てたんですかね。そして、あの高さを生み出すものとして、技術以外の何かがあるに違いない。信仰心か?

 ケルン大聖堂とその内部

 

午後にはアーヘンに出発するので、もう一度ライン川を見ておこうと、ゆっくりと大聖堂を回ってから河畔に下りました。きょうも水はたっぷんたっぷんとオランダ方面へ流れていきます。そのあと少し市内見物。

昼食をとるほどの感じではなかったので、駅内のカフェでコーヒーだけ飲んだあと、1217分発のRE(地域急行)で昨日来た線路を戻ります。フランスでは乗車前に改札機で刻印することをやかましくいわれるのですが、こちらは口の小さなものしかなくて当方のチケットは入らないし、あまり利用されているふうもなかったため昨日から無視しています。車内検札があるにはあるので、まあ間違いないのでしょう。来たときと同じタイプのダブルデッカーが12分遅れてやって来て、乗客がほとんど入れ替わり、すぐに発車します。1309分にアーヘンHbf着。見覚えのある駅前の道路を5分ほど歩くと、通り沿いの角に、予約していたイビスIbis)がすぐ見つかりました。西欧のたいていの都市にあるチェーンのホテルで(韓国にはあるらしいけど日本には未進出)、ネットで予約したら素泊まり49ユーロとお値打ち。前述したように、アーヘンの規模がわからなかったこと、到着が土曜の午後になることから、インフォで宿を探せないリスクを考えてネットで探したのです。便利な世の中になったものです。回転ドアを押すと、まさにビジネスホテルそのものの造りで、レセプションのお兄さんがここでもていねいな英語で応対してくれました。フランス語は、ケルンのホテルにつづいていっさい通用しない模様。通りに面した側の405号室だったかが割り当てられましたが、まあ広い。12畳ほどはある部屋で採光もよく、バスルームがまたウソみたいに広い。ドアに貼ってあるタリフを見たら、49ユーロというのは週末割引のようで通常は52ユーロとのこと。相場がわからないので何ともいえないけど、このごろは日本のビジネスホテルも高くなってきましたしねえ。それにしては、オプション扱いの朝食が9ユーロと高めなのは妙です。

 ドイツ2泊目はホテル・イビス

 

さっきのフロントマンは、「アーヘンは初めてですか。観光に行かれるならこの道路をまっすぐ10分ほどで市の中心に出ます」などと懇切に案内してくれました。あまり人の歩いていない大通りを仰せに従って西に進むと、なだらかな下り坂。思ったよりも街の広がりがあるようですが、ビジネス地区らしく土曜日は閑散としています。そのうち、地図に「劇場」と描かれた石造りの建物が見え、その表側に回り込んだら、そこは一転して相当な賑わいでした。華やかなお店が建て込み、大勢の人が往来しています。日本のガイドブックでアーヘンに充てられているのはわずか2ページですが、「まずはインフォメーションをめざせ」とあり、そのインフォが目の前に見えました。ホテルは確保済みなので、その並びにある温泉噴出口に直行します。

そう、アーヘンは温泉の町らしいんです(水を意味するアクアが都市名の語源とか。フランス語エクス・ラ・シャペルのAixは「温泉」)。温泉といっても、大浴場があってみんなでうぃ〜極楽と入浴するわけではないから(クアハウスなどはあります)私たちの感覚とは違いますが、さしずめここは草津の湯畑みたいなものか?

 温泉を汲んで飲もう

 

すぐ前にいた高齢の男性が持参のコップで温泉水を汲み、ゆっくりと飲んでいます。「わしはこれを毎日飲んどるから長生きなんじゃよ」とでもいうところかな。蛇口に手を差し出してみれば、お風呂の湯よりも熱く、飲むにはいいけど手を洗うにはしんどい感じでした。硫黄の臭いがぷんぷんして、まさしく温泉。日本人なら間違いなく大開発して巨大温泉ホテルをつくっちゃうところですなあ。インフォと噴出口の背後が小さな公園になっていて、市街中心のロータリーの役割を果たしていました。インフォの反対側には温泉噴水もあり、こちらは空気に触れているせいか多少ぬるめ。ただ、周囲を見渡すと観光客というより地元の人らしき姿が多く、いわゆる地方都市としての賑わいを保っているのではないでしょうか。公園の裏手が石畳の旧市街で、ブティックやレストランなどいい雰囲気のお店が立ち並びます。

 繁華街はかなりにぎやか

 (左)世界遺産の大聖堂 (右)市庁舎に残るシャルルマーニュ像

 

旧市街の中心に、ケルンよりはかなり控えめな大聖堂と市庁舎があります。立派な市庁舎には2ユーロで見られる見学コースがありました。重厚な階段の両側に、アーヘンを訪れた世界の指導者たちの写真などが展示されています。ジャン・モネ、カレルギー・クーデンホーフ、コンラート・アデナウアーなどの顔が見えたから、趣旨はすぐにわかりました。第二次大戦後の欧州建設の歴史が反映されているのです。ベルギー・オランダ・ドイツの結節点でフランスやルクセンブルクとも近いアーヘンは、以上6ヵ国を母体として構築された欧州統合の象徴的な位置にあるらしい。そしてもう1つ、これが「アーヘン」の地名に惹かれた直接のきっかけなのですが、かのシャルルマーニュ(カール大帝)がフランク王国の都として選定したのがこの地でした。シャルルマーニュのカロリング朝「西ローマ帝国」が843年のヴェルダン条約で分裂し、のちのドイツ・フランス・イタリアが派生したのは周知のとおり。つまり西欧が「1つ」だった時代のシンボルなんですね。階段を上りきると、少し薄汚れていたけれど、シャルルマーニュの肖像画が掲げられていました。ここで(おそらく同業者らしき)日本人とすれ違う。ケルンではほとんど日本人を見なかったし、アーヘンでは皆無だったので意外な感じですが、お互いさまでしょうか。

 ソーセージ屋さん このセットを肩に担いで繁華街を移動しながら売っている

 

市街地は思った以上に奥行きがあり、ぐるりと回ってもまだ新しい通りを発見するという感じで、たっぷり午後まるまる費やしました。小さなパンを1つ食べただけでやや空腹だったところ、目抜きの商店街に「おセンにキャラメル」ふう(いってもわからないかな?)の移動販売員が大きなソーセージを焼きながら売っていたのでたしか1.80ユーロでゲット。アイテムがいちいちドイツっぽくていいですね。そういえば、国境が近く欧州統合うんぬんが関係して・・・というわりにフランスの雰囲気は言語を含めてどこにもありません(ドイツ全体から見れば違った印象なのかもしれませんが)。古本屋や玩具屋、1ユーロショップ(ヒャッキンですね)あたりも冷やかして、予期していたのをはるかに上回る街の規模と活力を堪能しました。どことなく関西を思わせるのは、古都独特の雰囲気だからかしら。

ホテルでもらった地図はポケットに押し込んだまま、ほとんど当てのないままカンで歩いていたら、そのうち日が暮れてきたこともあって方向感覚を失い、微調整。最初のインフォ付近に舞い戻り、きれいなパサージュに入り込むと、その真ん中にいい雰囲気のレストランと、そこに併設されたバーが見えました。よし、昨夜はビール3杯でぐったりという情けない状態だったけど、今夜もまずはビの字でも飲むか。カウンターの空いているスツールに腰掛け、若い店員に「ビア」というと、銘柄はわからないけどピルス系のビールを出してくれました。淡白な味わいで、これもなかなか美味。それはいいのですが、いざ会計をという段になり、ツヴァイというので2ユーロ硬貨を出したら鼻先でふふんと笑う。

USダラーはないのか。ここは“アメリカン・バー”だからドルしか使えないんだ」

などと英語でいうわけさ。バカこくでねえ、横須賀の路地裏あたりならいざしらず、ここは市街地のど真ん中、一般市民があふれているカウンターで、だいたい何のために通貨統合したのかっっ。外人だと思ってからかっているのに違いなく、「もってるわけないだろ」とにらんだら、んじゃ2ユーロでいいよ、だと! 不愉快なやつめ、だいたいユーロのほうがドルより高いだろうが。

ムカついていても仕方ないのでとっととパサージュを離れ、これもインフォの近くにあったウッディな外観のレストラン(ドイツ語もRestaurant)に入ってみました。日本だと、国道沿いのステーキハウスみたいなカジュアルな雰囲気で、18時過ぎだけどかなりお客が入って盛り上がっている。20時を回らないと晩飯を食べないフランス人とはかなり違うみたいで、日本人はやりやすいかもね。おねえさんがもってきたメニュー(ドイツ語では「カルテ」)の文字は当然読めないんだが、英語とフランス語が小さく添えてあるので助かります。やっぱねえ、ドイツにいるからにはこういうものを食おうやと、フランクフルト&ザワークラフト&マッシュポテトの皿(8.10ユーロ)に、0.4リットルのビール(3.20ユーロ)を注文。ソーセージをドイツ語でWurstというのだそうで、いちおうメニューを指でなぞりながら「ヴュルストもごもご」といってみました。ビールはウォルシュタイナー(Warsteiner)なる銘柄で、クセがなく実に美味しい。1年前なら3杯くらい飲んでいたかもね。それにしても、

でかい。食えるかこんなに!

 ふえ〜 でかいよ〜

 

ザワークラフトなんて、ビアホールの「ソーセージ盛り合わせ」にちょこっと添えられるやつしか食べたことがなく、本場はてんこ盛りにしちゃうんだとびっくりしました。酢漬けではなく、塩漬けにしてキャベツ自身を発酵させるんだそうです。フランクフルトは美味しいが、ザワークラフトともども塩がきつい。ビールのあてだからというのもあるし、そもそもソーセージは肉に塩を混ぜて粘り気を出すのだから塩っぽくないとおかしいのですよね(日本のソーセージは化学的な結着剤を使用していることが多い)。マッシュポテトをまぶして食べると中和されていい感じでした。

と、たかだか2杯程度のビールで熱くなってきたし、お腹も満杯なので、会計して外に出ました。

20時前にホテルへ戻り、2時間くらい眠ってから、広々としたバスルームを存分に使ってリフレッシュしました。アーヘンはことのほか楽しかったので、もう少し余韻を楽しむかと思い、レセプション横のホテルバーに下りてカウンターに腰掛けました。前夜のホテルにもバーがあり、24時間サービスと書いてあったけど、ここも同じ。そういう習慣なのかな? このホテルのバーはカウンターとテーブルが並んだ本格的なもので、帰ってきたときには誰もいなかったのに、23時過ぎになると満席に近い状態で大賑わいでした。ホテル内だし、酔っ払っても実害はないはずなので、ピルスを注文。何がどうということはないが、「ドイツのバーでビールを飲む」という設定にわくわく(笑)。調子に乗って、今度はケルシュを注文し、かつてほどの勢いはなくなったけれども、飲み干しました。ケルシュのほうが好きかなあ。計4.70ユーロ。

日付が変わってから部屋に戻りました。また来るかもしれないと思うほどアーヘンが気に入ったけど、それでも市内の要所は見てしまったし、日曜日のタリスは16時前の発で半日近い時間があります。ガイドブックを見ても、ケルン以外に手近な都市は見当たらないし・・・。

よし、行けるかどうかわからんが、オランダに行っちゃおう! オランダの国土を数字の4に見立てたとき、下のでっぱりの部分がアーヘン付近のドイツ、ベルギーに食い込むかたちになっているのです。いちばん近い国境まで10kmあるかないかだし、電車かバスか、何らかの手段で国境を越えられるはずじゃん。オランダも未訪で、われながらいい思いつきだなあ。で、オランダ編は次回に。

 

PART4へつづく