3- マニアックな運河クルーズ <1>

 

西欧 


カノラマ・アリアンス号

天気のよい、というかけっこう暑かった92日、かねて興味のあったパリ市の東側を行く運河クルーズ「カノラマ」Canauxrama)にトライ。いつも渡欧するのが冬で、寒いときのクルーズはかなわんと思っていたためようやく実現したのですが、パンフを見ると103月は要予約とあり、いまは飛び込みで大丈夫だと。一般には秋冬のほうがクルーズ向きなのか、あるいは閑散期なので客の見込みがなければ運休するのか。

カノラマの出発点は上り便がバスチーユ、下り便がメトロ2号線ジョレス(Jaurès)駅ちかくの貯水池です。何となくジョレスのほうへ向かいました。船着場の前に切符売り場があります。おとなは€16なのですが、ホテルのレセプションに積んであった観光パンフには、これを見せれば€4割り引くよと豪快なお知らせが。実際に見せてみれば、意味があるのかどうかパンフの表紙だけを切り取って、本当に€12にしてくれました。学生割引並みでありがたし。あのホテルとの付き合いも12年になるけれど、観光パンフを持ち出したのはたぶん初めてじゃないかしら。使えるんですねえ。


午後の陽射しを浴びるラ・ヴィレット貯水池

まだフランス・フランだった時代から毎年やってきていますが、不覚にもこんな広い貯水池(ラ・ヴィレット貯水池 Bassin de la Villette)があるなんて知りませんでした。金曜の午後、たぶん気温は30度くらいになっていることでしょう。冬場ばかりだと晴れの日がどうしても少なくなりますので、暑いけどこんなにいい天気なのはうれしいかぎり。

 

このあと上りの舟とすれ違ったらそちらは屋根の上にも座席のある大型。わが方は1層のわりに小さなアリアンス(Alliance)号でした。切符をあらためていたムッシュが「お国はどちらですか」と訊ねるのでジャポンと答えると、A4判裏表に印刷された手作り感まるだしの日本語の解説パンフをくれました。日本語のできるフランス人が原文をそのまま訳したに違いなく、これならフランス語版のほうがわかりそうだけど、これはこれで。奥のほうへ進むと無蓋部分に何列かイスが据えられています。この手の舟ではテラス席にかぎるので最前列に陣取りました。でも操縦席が見えないのでこれは「最後部」に違いなく、後ずさりする景色を見るパターンですね。このところ、横浜港山下埠頭→横浜駅とか隅田川の水上バスとかでそういうパターンを立て続けに経験しています。

   
ラ・ヴィレット貯水池を抜けるとクリメ可動橋に 舟が近づくと自動車用の橋げたが上昇・・・

 名調子のガイドさん

サン・ドニ運河の合流地点

 

ところが、舟が動き出してみると私の座っているところが本当に最前部だと気づきました。おそらく最後部の操縦席から遠隔操作、というかカメラ越しに操っているに違いなく、それにしても死角とかないのかなあ。遮るものが何もないので眺望は申し分ありません。陽射しと照り返しが強いが、ときおり風が吹いて心地よい(ま、しかし、ホテルに戻ってみたら顔がすっかり焼けていた・・・)。30代くらいのムッシュがその最前部に立ってガイドをはじめました。フランス語と英語のバイリンガルですが、まあよくしゃべること。気候風土や歴史文化にいたるまで知っていることをよろず突っ込んでいる模様(笑)。リスニング苦手なので受け流すことにして、当方は展望に専念します。

ラ・ヴィレット貯水池は、例の日本語解説によれば、「パリの非飲料水を蓄えるために1808年完成、全長700M、幅700 セーヌ川の水位25Mに位置します」(原文ママ)。どう見ても縦横でいえば縦長なんだけどなあ。水位25mというのは、標高がセーヌ川の水面よりそれだけ高いということでしょう。この便の終点バスチーユはセーヌに面しているので、それだけの落差を降り下るということですね。非飲料水というのも聞き慣れないが、要するに飲み水以外の用途にということで、公園の緑を潤したり街の噴水に給水されたりするわけです。そうであれば標高の高いところに貯水池が造られるのは当然か。貯水池の北の出口にあるクリメ可動橋(Pont levant de Crimée)は、アリアンス号が接近すると橋げたがずいずいと上昇していきました。日本にもこの手の可動橋はなくはないけど、燃料食いそうだし、まあ観光用だよね。2月にロッテルダム港で見たのは本物っぽかったけど。

吹き出し: 角を丸めた四角形: ハイハイ
どうぞ・・・
    
前方は行き止まり・・・ と思ったらモーターで動く「舟橋」だったのか   (右)ラ・ヴィレットの科学産業シティとジェオード

 この先はウルク運河
 
舳先をぐるりと回転させ、今度は南下


出発地点に戻ってきた(上から2枚目の写真の場所を逆から見たところ)

 

舟はけっこうなスピードで北に進みます。進行左手に見えるのがサン・ドニ運河(Canal Saint Denis)で、パリが近代工業都市になっていく際にはここの水路も大いに活用されたことでしょう(ムッシュの解説をつまみ聴きしたらそんな感じだった)。その先は両岸が緑に囲まれたきれいな公園。多くの人が出てごろごろしていました。西欧の夏っていう感じがものすごくしますね! この付近がラ・ヴィレット地区で、屠殺場だったところを1970年代に緑地化したよくある再開発地区。博覧会のパビリオンみたいな建物がいくつかあります。科学産業シティ(Cité des sciences et de l’industrie)や球体型映像館ジェオード(Géode)、音楽博物館など。5年前に1度だけ来たことがあります。

舟溜まりというにはかなり狭い一隅だけど、この先はここへ導水しているウルク運河(Canal de l’Ourcq)がつづくだけ。日本人の感覚だとこのへんを出発地にしてただ南下させると思うのですが、カノラマは真ん中へんを出発して北東へ向かい、ここラ・ヴィレットで折り返していま来た水路を南西に戻ります。最前部でなく左右いずれかの席に座っている人へのサービスかもしれないけど、さてどうだろう。舟はウルク運河に入るぎりぎりのところでぐるりと一回転。といえば軽快に聞こえるでしょうけど、何しろ水路の幅がそんなにないので、自動車が狭い駐車場を何度も切り返すみたいにじわじわ回します。2回くらいごっつんと舳先を岸にぶつけましたが折り込み済みの模様(笑)。うわー今度は太陽を真正面に見る感じでまぶしいよ。

当然ながら見たような景色を見ながら水路を逆戻り。両岸の建物はけっこうボロく、くすんだ下町の印象。これからこのカノラマが通るサン・マルタン運河Canal Saint Martin)付近は治安がよろしくないので近寄らないほうがよいよ、と日本のガイドブックにはしばしば記されています。必要以上に怖がることもないと思いますが、水路を進むぶんにはまったく問題ないでしょう。ラ・ヴィレット貯水池を走って出発地点の船着場をスルーし、ここからサン・マルタン運河に入ります。写真に写っている円形の建物(Rotonde de la Villette)はかつての税関とのこと。ここがパリ市の北門だったんですね。

ま、実はここまでは「前座」。カノラマの真の見どころはここから先の運河にあるのだ。

 
いよいよサン・マルタン運河に入ります(奥のほうにメトロ2号線が少しだけ見えます) 人が歩いている橋から見ると、右の写真のようになる

4へつづく

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