2- 1日曜はミュゼ見学の日 <2>

 

西欧 

 



ルーヴル美術館 後編。

こんどはリシュリュー翼に行ってみましょう。どちらかというと「大物」があまりないので、ドゥノン翼に比べるといつでもお客が少なく、そのぶんじっくりと見られます。この翼の0階部分は写真のような吹き抜け式の中庭になっていて、彫刻などを見ることができます。往年の宮殿を何度も改装してつくった建物だけに、機能性はともかく迫力と重厚さは圧倒的です。

中窓からピラミッドのメインゲートを見下ろすと、かなりの行列! この調子だと入館するまでに1時間はかかりそうだね。どうせ来るなら開館前においで。


 

リシュリュー翼の最大の見どころといえば、1階にあるナポレオン3世の部屋。1世に比べるとインチキくささが目立ちますし、どうしても二番煎じの感を拭えませんが、フランスの近代化に大きく寄与した人物・政権であったことは確かです。ナポ3世の評価がかくもひどいのは、彼が失権したあとを受けた第三共和政(ベル・エポックと呼ばれる近代フランスの全盛期を現出)が自らを正統化するために前朝をことさらに悪く描いたこと、マルクスが『ブリュメール18日のルイ・ボナパルト』でナポ3世を「茶番」呼ばわりしたことによるところが大きいのではないかと思います。関心がおありの方は西川長夫や鹿島茂の著作をどうぞ。

「昆虫記」で有名なアンリ・ファーブルは、南仏アビニョンあたりの教師でしたが、狩人バチの研究でようやく注目され、ナポレオン3世の息子の家庭教師にと切願されたのに、パリでは昆虫観察ができないからか断ってしまいます(ために90歳で死ぬまで貧乏でした。「昆虫記」は母国でなくアメリカで最初にヒットしたのです)。家庭教師にとの誘いにうかうか乗ったのが若き歴史家ラヴィス。栄達のチャンスのはずだったのに、普仏戦争で敗れナポレオン3世が退位すると同時にその芽は摘まれかけてしまいました。「怨敵」であるプロイセンに留学し、帰国後に共和政に接近してそれを正統化する歴史教科書を書き、近代フランスのある種の「像」を確定させた、というのが私の博士論文の主題でした。だからナポ3世にはけっこう興味がある。

国内の社会的矛盾を対外進出でカムフラージュする体制をボナパルティスムといいますが、ナポレオン3世はインドシナ侵略を進め、オスマン帝国にちょっかいを出し(クリミア戦争ですね)、イタリア統一に口を挟み、ついにはメキシコに手を出して失敗しました。実はその一環として、徳川慶喜を支援して幕府の再建を助けようとします。結果論ですけど、全般に読みが甘すぎるわね(笑)。でも、幕府の要請を受けて派遣した技術者たちが横須賀造船所で指導し、日本の近代科学技術のルーツをなしたのだから、やっぱり甘く見てはいけません(東大工学部の源流の1つ)。


ガブリエル・デストレとその妹

リシュリュー翼のもう1つの大物といえるのが、オランダやドイツの画を集めた2階にあるガブリエル・デストレとその妹Portrai de Gabrielle d’Estrées et sa sœur 作者不詳)です。右の女性がガブリエルで、フランス絶対王政を確立したアンリ4世の愛妾。妹に乳首をつままれるという微妙なしぐさは、彼女の妊娠を表象したものと解釈されています。モデルと同時代の16世紀の作品ですから写実性は薄いものの、何でしょうね、中世絵画にはない人物の存在感というかナマナマしさが出ているように思えますなあ(美術史の知識まったくないので解釈まちがっていたらすみません)。

昼ころルーヴルを出ました。14時ころ雨が降ってきたよ。こちらは左岸側にあるオルセー美術館。見るつもりはなく、前を通っただけですが、やっぱりものすごい行列でした。マネ、モネ、ドガ、ゴーギャン、ルノワール、ゴッホなど19世紀の絵画を鑑賞しようというならこの美術館はぜひものです。建物はかつての鉄道駅を再利用したもの。

どういうわけかいつでもルーヴルより荷物チェックが厳しく、ために入館まで待たされる時間も長いので、その気があるならこちらへもお早めにね。

そんなわけで、人道橋のソルフェリーノ橋を渡って再び右岸に来ました。チュイルリー庭園の西の端、コンコルド広場に面してあるのがオランジュリー美術館Musée de l’Orangerie)。久しく工事中だったこともあって未見。この際なので見てみようかな。行列が伸びていますが、1時間はかからずに入ることができるでしょう。私のことだから、タダの日でもないかぎり美術館を見るなんてことはなかなかないでしょうから。


 
 

オランジュリーというのはオレンジ温室のこと。かつての温室をミュゼに転用したのですね。このミュゼは何といってもモネの連作、睡蓮Les Nymphéas)につきます。睡蓮を展示するために造った美術館といっていいのです。印象派を代表する画家のモネが、自分の庭の池に咲く睡蓮をモチーフに数年かけて描いたもので、光源との組み合わせで美しく見えるようになっているとか。この作品群を展示している2つの部屋は、天井から自然光が射すようになっています。

オランジュリーの地下1階には近代絵画の巨匠の作品がずらり。

   
左から  ルノワール 2少女像  セザンヌ セザンヌ夫人の肖像  ピカソ 青年  ユトリロ メゾン・ベルノー

3へつづく

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