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1- 第1日曜はミュゼ見学の日 <1> |
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短いヴァカンスを確保しました。9月に渡仏したのは実に12年ぶりです。日昼は30度を超えることもあり陽射しで暑いですが、朝晩はもう秋の感じ。何といっても空が「天高く」の状態になっています。 さて今回は第1日曜をはさむ滞在日程になりました。この日はパリの主要なミュゼ(musée 英語のmuseumで美術館、博物館を包含する)が入場無料になります。フランスというかパリといえばミュゼという人も多かろうけれど、入館料は意外に高く、ルーヴルで€10もします。同じように世界中からの分捕り品で構成される(失敬)ロンドンの大英博物館(The British Museum)が常時無料なのにパリは高すぎますよね。第1日曜だけ無料というのはその点でさまざまな文物を見る好機です。 そんなわけで9月4日(日)の朝8時40分ころ、ルーヴル美術館(Musée du Louvre)にやってきました。パリ市内をうろうろしているかぎりは目に入るほど大きな建物ですので毎度この敷地は通るのだけど、中に入って展示を見るのは2008年3月以来。このときも第1日曜に重なったので「有名作品限定のスピード見物」を志したのだけど、有料だと見ないという変な習性になりかかっているのでしょうか(笑)。今回はもう少しじっくり見てみたいものです。無料デーは当然ながらものすごい人出になりますから、本命のミュゼがあるならお早めに。午前9時開館なので20分くらい前ならまあ入れるかなと思って、この時間に来ましたが、おお大丈夫のようです。ルーヴルは全体がコの字をなしており、その中庭部にガラスのピラミッドがしつらえられ、そこから地下のエントランスに入って(通常なら)チケットを買うのが普通のコース。でも実は裏口というのもいくつかあり、メトロ1号線パレ・ロワイヤル・ミュゼ・デュ・ルーヴル駅からもそのまま行けるカルーゼル(Carrousel)ゲートもその1つ。私は7号線を降りてリヴォリ通り側の入口からこのゲートに進みました。イチゲンの観光客はメインゲートしか知らないだろうし、この朝はぱらぱら雨が降っていて傘を差しながら列に並ぶのも嫌だったので。このカンは当たり、20分前の時点で列には30人ほどしか並んでいず、これなら開館と同時に入れますね! うち10人くらいは旗もちツアーを含む日本人でしたが。そして、いまやどこに行っても他を圧倒するのが中国人の団体。 パリのミュゼはだいたいどこでも荷物検査があります。これに時間がかかるので列が長くなる傾向があります。繰り返しますが、お目当てのところがあるならお早めに。 |
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さて、第1集団?として入館できたわけなので、あっという間に人だかりができるに違いない有名作品を今回もまずはフォローし、そのあとで館内を順ぐりに回ることにしましょう。コの字の3パートはそれぞれリシュリュー翼(Aile Richelieu)、シュリー翼(Aile Sully)、ドゥノン翼(Aile Denon)と名づけられていて、日本人(というか世界中の「一度は見てみよう」的な観光客)が好みそうな作品はドゥノン翼の一角に集中しています。最初に向かうのは、チケット売り場(ナポレオンホール)から最も近い、シュリー翼とドゥノン翼の境目あたりにあるミロのヴィーナス(Vénus de Milo:古典ギリシア語でヴィーナスはアフロディテ(Aphrodite))。あれ? しばらく行かないうちに展示が少し変わったかな? 一番乗りのおかげで、約5分間、ヴィーナスを独り占め。 |
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つづいてドゥノン翼の1階(日本式でいう2階)に上がる階段の途中に展示されているサモトラケのニケ(Victoire de Samothrace)。フランス語のヴィクトワールでわかるようにニケというのは「勝利の女神」のことですね。ヴィーナスの腕と同じようにニケの頭部がどうなっているのか気になるけど、近代人にとっては初めからこういうものなので見つからないほうがいいか。多くの人が思っているよりもこの像は大きいですよ。スポーツ用品メーカーのナイキ(Nike)はニケの英語読みで、あのマークはルーヴルのニケ像を意匠化したもの。 個人的には、ニケに向かって大きな階段を上っていくときに「ああルーヴルに来たなあ」という気分になれます。建物の重厚さとあいまって歴史の重みみたいなのを実感できるからでしょうね。 |
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さてドゥノン翼の1階は長大なギャラリーになっています。中近世のイタリア絵画を集めるブロック。向こうが霞んで見える、ような気がします。 お目当ての作品はこの廊下を中庭側に折れた一室にあります。フランス語ではラ・ジョコンド(La Jaconde)、何のこっちゃとお思いでしょうが、モナ・リザ(Mona Lisa)ですね。ルーヴルにはどの国にもっていっても国宝になりそうな作品が何万点もあるのですが、ダ・ヴィンチ作のこの絵画の扱いだけは別格で、湿度管理されたガラスで覆われ、見物客が近づけないよう半円状のサークルで囲われて、さらに数名の警備員が常時待機しています。 まだ9時20分ですが、私と同じように一番乗りで入館したお客がまっすぐにここへ来ているに違いなく、すでに結構な数。ただ本当に多くなるとサークルとのあいだに20列くらい入って身動きをとれなくなることもあります。早い時間なので第1日曜にしては余裕で見られました。モナちゃんのモデルが確定したとか何とかいうニュースがちょっと前にありましたけど、1枚の絵があれこれ想像力を喚起させるのは、やはり作者のセンスや気合によるものなんでしょうね。 |
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モナ・リザの部屋から中庭側に進むと、18〜19世紀あたりのフランス絵画を集めた一隅に出ます。19世紀半ば以降のいわゆる近代美術は、対岸のオルセー美術館(Museé d’Orsay)にあるのですが今回はパス。私は本当に芸術オンチなんだけど、好きな人にとってはタマランあたりですよねえええ。 さて、革命画家ダヴィッドの名画、ナポレオンの戴冠(Sacre de l'empereur Napoléon Ier et couronnement de l'impératrice Joséphine)です。人物をほぼ等身大に描く大作ですけど、ナポちゃんが若くハンサムに、皇后ジョゼフィーヌも異様に若く描かれています。ダヴィッドの芸術家としての値打ちが下がる一因にもなっているとか。ナポレオンの背後にいるのはローマ教皇ピウス7世。戴冠式のためパリのノートルダム寺院に呼ばれながら、教会の権威を相対化しようとするナポちゃんは自ら帝冠を皇后に授けましたので、いってみれば「立場ねーじゃん」というところなのです。左の部分抽出にはありませんが、画板のいちばん右端に外交家タレーランが嫌味たらしくこの様子を客観視している様子が描かれていて、どうもダヴィッドの良心がそういう構図を採らせたらしい。 その近くには、ドラクロワ作、民衆を導く自由の女神(La Liberté
guidant le peuple)があります。フランス革命とか二月革命といった派手な革命をイメージする人が多いのですが、実際には1830年の七月革命を題材にした画。ユーロになる前のフランス・フランでは、最も主要な100フラン紙幣にこの画が描かれていました。邦題に「女神」とあるけれど、フランス語の原題ではla Libertéつまり「自由」だけです。この半裸の女性は、フランス国家を抽象化したマリアンヌ(Marianne)。キリスト教のマリア信仰に由来しながら、革命以降に脱宗教化され、欧州文化の嫡流を自称するフランスそのものを表象するものへと発展していきました(M.アギュロン『フランス共和国の肖像 闘うマリアンヌ』)。 |
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デラロシュ アルプスを越えるボナパルト アングル シャルル7世戴冠式でのジャンヌ・ダルク |
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彫刻コーナーから印象的な作品をいくつか |
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ルーヴルは古代美術、とくにエジプト、ギリシア、エトルリア、ローマが得意分野で、その文物の数たるやものすごいものがあります。 大スフィンクス(Grand sphinx) パピルス石棺文書の一部 ラムセス2世の座像 色鮮やかな女性の石棺(前6世紀) |
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この作品(文と写真)の著作権は 古賀 毅 に帰属します。