Vers la région nordique ou l’Europe du Nord!: le Danemark et la Suède

PART1

 



真夏はどこへ行っても日差しが強くて、暑い。ならばできるだけ北へ、高緯度のところに行こうぜ! 真夏じゃなくても行くけどね。パリを足場にしているのと、ある時期まで鉄道による移動が主だったこともあって狭義の「西欧」から攻めていったわけですが、そろそろバルト海方面、北欧Nordic Region)と呼ばれる地域に踏み込まなくては! 西欧のことを「西ヨーロッパ」、東欧を「東ヨーロッパ」と呼ぶのは普通だけど、北欧を「北ヨーロッパ」と呼び替えるのは何かニュアンスや雰囲気が違う気がする。さわやかさや上品さ、スマートさが感じられますよね「ホクオウ」には。2015年の夏は、8月下旬に本業で大変な作業が入ってくることが確実だったため、前期の成績処理を全力で終わらせて8月上旬に欧州に渡りました。パリからコペンハーゲンにスカンジナビア航空(SAS)機で飛んで、そこから45日をかけてストックホルムまで進もうというプランです。北欧初心者の王道のようなコースだね。

88日(土)の朝9時前に、パリの空の玄関、シャルル・ド・ゴール空港(Aéroport Charles de Gaulle: CDG)第1ターミナルにやってきました。CDGはエールフランスのハブ空港なので、同社ほかスカイチームは新しくて使い勝手のいい第2ターミナルを使用するのに対し、わがスターアライアンス各社は1970年代に建てられた第1ターミナルに押し込められて?います。フランクフルト空港(スターアライアンスのルフトハンザのハブ空港)とか、今回使うコペンハーゲンあるいはストックホルムの空港(同じくスターアライアンスのSASのハブ空港)では見てやがれ! ANAユーザーの私は第1ターミナルの構造はもう熟知していますので、パリの常宿からここまで寸分の迷いもなくやってきたわけです。――そこで私が見たものは・・・

 まさかの・・・


Cancelled / Annulé (欠航) ??

うわー大変だ。この多客期に欠航されると振り替えも利きづらいに違いない。でも、大変だとかいいながら、さほど動揺したり動転したりはしていなくて、まあそういうこともあるんだろうなと妙に冷静でいます。長いこと欧州各地を歩いていると大小さまざまなハプニングやトラブルに遭遇しますし、それを恐れたり懸念していたりしては何もはじまらないので、まあいいかと思っているわけです。それと、昨年8月にここCDGからスイスのバーゼルに飛ぶ予定の航空便が機材トラブルとかで5時間近く遅れたし、12月にロンドンからウェールズのカーディフに向かう鉄道が事故で全面運休となり別の路線で出発することになるなど、このところ初日にちゃんとスタートを切れるかどうかが怪しくなっていました。二度あることは三度あるのです。

通常であればDeparture / Départのリストで搭乗する便を探し、チェックインカウンターのナンバーを確認するところ。しかし欠航なので、航空会社のカウンターに行かなければ。インフォメーションでSASのカウンターを訊ねると、この先のアリジアという場所に行ってくれと。なるほどAlyziaと書かれた大きくないカウンターがあり、すでにかなりの人が列をなしています。何がどうなっているのかわからないながら、ここに並ばないことには問題が解決しません。何が原因で欠航したのか、これからどういう可能性があるのかという案内があるわけでもない。列の先頭に行って係員と直接話すまで「???」という状態がつづくのでしょう。いずれにしても正規の航空券をもっている以上、コペンハーゲンまで輸送してもらう権利はあるので、状況に身をゆだねるほかありません。でも列が長くなるばかりでほとんど進まない。他の乗客はスマホで情報収集を試みたり、どこかに電話して代替の手段をさぐったりしています。近くにいたグループ客の幹事さんらしき女性は、旅行会社の係員らしき人を電話で呼び出し、きつい感じで善処を求めています。45分くらいかかって最前列にたどり着き、野中ともよ風の女性係員に「eチケットお客様控」を示し、当方の名前を入力してもらいます。古賀というパッセンジャーがいる、という情報を認識してもらわねければいけませんからね。で、どうなるのかどうするのかと英語で訊ねても明確なことは何ひとついわず、カウンター周りを指してwait here2回繰り返すだけ。

 カウンターに列をなす人たち


これは長期戦だぞ。13時前にコペンハーゲンに着いて、日の長い午後を市内見学に充てるつもりだったのですが、今日じゅうに着ければいいかなというくらいの話だと思う。ホテルを予約してはいるものの、他に具体的なプランがあるわけでもなし、修正やアレンジはいくらでも利きます。何しろアリジアのカウンターには野中さんともう一人の女性係員しかおらず、どこかに電話したりコンピュータを操作したりしていても何かが進んでいる感じはしません。彼女たちがいたってマイペースで、乗客に詰問されても「私にもわからないんですよお」とかのんびり答えるので、さすが欧州と思う。1年前にバーゼル行きの出発が遅延したときには、エールフランスが食券を配って「時間までは飲食するなどして自由になさっていてください」ということだったのに、今回はそうしたアナウンスもサービスもなく、ほとんどベンチもない狭い空間にウェイト・ヒアといわれただけで、いつの間にか本来の出発時刻(11時)になっていました。スピルバーグの映画「ターミナル」のモデルになったのはCDGのターミナル内で18年を過ごしたイラン人の実話。あれをちょっとだけ思い出すけど、2時間と18年とでは開きがありすぎるか。せめて自由にさせてくれれば、ワンフロア下にある食堂でごはん食べるとかできるんだけどなあ。


Wait hereといわれたままこのあたりで・・・


この西欧あちらこちらは、旅先での作法やハウツーについて、とくに学生のみなさんに、こうしなさいという直接的なアドバイスではなく、間接的に読み取って私の経験を参考にしてもらえればなという思いを抱きつつ記しています。今回なんかまさにそうだよね。トラブルへの対処なんて決まった答えがあるわけではないから。

カウンターのそばに、段ボール箱を含む大荷物を携えた若い日本人男性がいて、明らかに不安の表情を見せています。旅先で日本人と出会うのもよしあしなので普段は声をかけたりしないのだけど、あまりにヒマだったので「疲れるね」といったら、「日本人の方ですか! どうなっているんですかねえ」と、先方はようやくコミュニケーション可能な人に出会えたという様子。「朝の6時に上海からの飛行機で着いて、欠航っていわれ、どこにも行けず何も食べられずトイレにも行けていません」というから、荷物を見ていてあげるからお手洗いにいっておいでと促しました。時間はたっぷり(笑)あるので少しずつ話を聞くと、春に大学を卒業したばかりのN君は、ハンドボールのプロをめざして本場らしいデンマークに向かう途上とのこと。企業に就職するのではなく、競技をつづけてさらにレベルアップさせたいが、国内にはその環境がないので欧州行きを決意したのだといいます。好きな道とはいえ、未知の外国に渡ってスポーツをしようという決断はそうそうできるものではないので(失礼ながら日本国内でマイナー種目であればなおさら)大したもの。それも、欧州に来たのはまったくはじめてなのだといいます。日本時間の7日午後に那覇空港から上海に飛び、そこから12時間かけてパリCDGに着き、本来ならこのSK566便でコペンハーゲンに向かって、さらにそこから鉄道でオーフス(Århus)へという、まる2日がかりの大移動。それなのにそれなのに、第一歩にしてこのハプニングになってしまいました。


前述のように私のほうは「こんなこともあるよ」と、身体的な疲労感をのぞけば気楽に構えていられるので、サンドイッチを差し入れたりしてN君の不安を少しなりとも解消してあげよう。午後になり、アリジアのスタッフは2人ばかり増員されたものの何かが進展している様子はありません。カウンターの近くに座っていた50代くらいの上品な女性と目が合いました。きれいな声で話しかけてくれます。「コペンハーゲンにいらっしゃるのですか? それとも乗り継ぎで?」 ――ジャスト・コペンハーゲン。「夫と私もそうなんです。それじゃあいちばん不利な組になってしまいますね」 ――不利といいますと? 「コネクション(乗り継ぎ)のある人から順番に振り替え便をあてがっているはずですから」。なるほど、そういえばそうだな。ややあってご主人も現れて、ひとしきりおしゃべり。聞けばニュージーランドの大学教授兼獣医師さんだそうで、長い休暇を過ごしているとのこと。「私たちは昨日までマレーシアに滞在していました。とてもすばらしいところでした。で、今度は北欧なんです。あなたはどちらへ?」 ――私は日本人です。パリに何日か滞在していまして、コペンハーゲン、そしてスウェーデン方面に行く予定です。それじゃあ、クアラルンプルからさっき着いて、ここで乗り継ぎの予定でしたか? 「そうです。マレーシア航空でした」 ――あ、例の(苦笑)。「(笑)ええ。マレーシア航空は親切だし、快適でしたよ! スカンディナヴィア・エアラインズは最悪(笑)」 ――ですね!

高等教育の今日的変容などの話題でご主人とも妙に話が合うなと思ううち、野中さんが「何か召し上がるなどしていてください」とかいうから、何時までに戻ればと45回訊ねたものの、それについては言質を取られたくないらしくいっさい答えませんでした(別の人も)。SASのチェックインカウンターに行けば食券を出してくれるかもしれないという話も出たので行ってみたら、まったく話が通じていなくて単なる搭乗手続きだと思われたらしく、他の被害者?ともども「ここに行けといわれましたよ」と。しかしチェックインカウンターは「欠航に伴うチケッティング(発券作業)はすべてアリジアというところでしています。アリジアは向こうにあります。そこに行ってください」と。そのアリジアにいわれて来たんだよといっても埒が明きません。どうなっているのかな?

そのうちANANH206便成田行きのチェックインカウンターが開き、日本人客やスタッフがぱらぱら現れるようになりました。ANAの地上係員の女性に適切な対処を聞いてみました。――他社のことで恐縮なのですが(スターアライアンスメンバーだから話を聞いてよね)、これこれの状況なのです。これは相手のいうままにするしかないのですか? 「ええ。もちろん権利を放棄してチケットを買いなおされるのならばそれでもよいのですが、ご自分持ちになってしまいます。残念ながらよくあることです」。彼女の説明では、アリジアというのはSASはじめ数社の委託を受けて発券業務をおこなっている会社らしい。合理化の一環で、平常時ならそれでもよいが、こんな事態になっても4人しかいないから進展しないわけだ。欠航が生じれば乗り継ぎ便を含めた最終目的地までを航空会社の責任で補償しなければならくなるため、獣医先生の奥さんがいうように、乗り継ぎ予定がないわれわれは処理が後回しになるのだそうです。ANAさんの予想では、おそらくホテルをあてがわれて翌日まわしになるのではと。私もそんな気がしてきました。


シャルル・ド・ゴール空港第1ターミナル(これはパリに着いた日のもの)


北へ!北欧へ!と銘打った作品を書こうとしているのに、まだまだパリ郊外に足止めされたままです。そろそろデンマーククローネのものに交換する予定だったユーロ財布がしばらく生きていそうです。野中さんからN君と私の名が呼ばれたのは16時近くになってから。やはり振り替え便は翌9日で、N君は午前のチューリヒ乗り継ぎ、私は1815分(!)発のルクセンブルク乗り継ぎでコペンハーゲン到着が2210分とのこと。北欧ツアー45日のつもりが正味33日になってしまい、しかもきょう9日は朝から終日を空港内でただ待たされて終わるというロスになってしまいました。ま、そういうこともあるよ人生には。N君と私、あと3人に空港内のイビス・ホテルがあてがわれ、その案内がありました。イビスの場所はよく知っているといったら、ではムッシュ・コガが案内してくれますかと。そう決まったのなら2泊を予約していたコペンハーゲンのホテルにメールしなきゃ。即時決済していたのでキャンセルしても払い戻しはありませんが、No show(予告なく現れないこと)とみられて9日夜の宿泊までカットされては困ります。タブレットをWi-fiにつないでその作業をしていると、野中さんが「あと何分かかりますか」と。そのセリフはわれわれのものだ。

被害者仲間のひとりは快活な中年女性で、どこの国の人かは聞き逃しましたが、流暢なフランス語と英語を話しており、「子どものころ日本に住んでいたから少しだけ日本語できるのよ」と。その彼女とおしゃべりしながらホテルにチェックイン。あ〜疲れた。聞けば、彼女の振り替え便はアムステルダム乗り継ぎ、アジア系の女性はブリュッセル、シャイな感じの若い白人男性は何とリヴァプール乗り継ぎだといいます。N君のチューリヒといい、ずいぶんいろいろな可能性を模索してコペンハーゲン行きを仕立てたんですね。私のルクセンブルクなんて相当にましじゃん。そんなことを手作業で全員分していれば時間もかかるはずで、こういうのを自動的に処理するシステムとかプログラムってないものか。

 
本筋とは関係ないはずの、ホテル・イビス このチェーンは本当にどこに泊まっても部屋が同じ仕様で、ある意味すごい


さあどうするかね。まだ17時前。真夏のフランスは21時を過ぎても昼の明るさなので、このまま空港内にとどまっていても退屈するだけです。夕食券はついているけど、自腹でパリに戻って飲み食いするほうがいい。それに、欧州デビュー初日に災難に遭ったN君がこのせいでフランスとかパリを嫌いになってしまったら、日仏教育学会理事としては面目ない(笑)。そもそもフランス当局に非があるわけではなく悪いのはスカンジナビア航空(スウェーデン、ノルウェー、デンマークの合弁企業)なのです。そういや詫びの一言もなかったな! SASを嫌いになっても欧州のことは嫌いにならないでくださいと、嫌いな翼賛アイドル集団のセリフを引き合いに、ごちそうするからパリに行こうよとN君を誘いました。本当は、彼をダシにしてうっぷん晴らしをしたかったのです。空港内にいては変な気分のままだからね。

そんなわけで、今朝の逆ルートでRER(高速郊外鉄道網)B線に乗ってまさかのパリ都心に逆戻り。10年くらい前、NH206の出発が4時間くらい遅れますと聞いて(当時は座席確保のため3時間以上前にチェックインしていたので持ち時間がかなりあって)、パリに戻って晩ごはん食べたことはあるのですが、今回は1泊だからねえ。荷物を置いて身軽になったN君、デンマークへの経由地にすぎなかった空港を脱け出し、欧州の第一歩はまさかの花の都パリ。ノートルダム寺院を見るなり、すげ〜と心からの感嘆でした。サント・シャペルとかコンシェルジュリなどシテ島を少し歩き、ああそうだと思い出してシャンジュ橋(Pont au Change)を右岸側に渡ったところで遠くエッフェル塔を見せてあげました。あの橋の向こうに見える大きな建物がルーヴル美術館だよ。余計なお世話かもしれないけど、欧州ってすごいんだぞ。とくにパリはね。


なじみのブラッスリーのテラス席に落ち着き、ビールやワインをたらふく飲み、肉を食べて、N君も私も予定外の大宴会になりました。あとでメールをくれたところによれば、翌日のチューリヒ便になぜか乗せてもらえず、午後の直行便に振り替えられ、24時近くになってようやく最終目的地のオーフスに着いたのだそうです。沖縄の実家を出てまるまる3日がかりの往路になってしまったけれど、友達もできてハンドボールに打ち込んでいますと報告がありました。欧州第一歩の出来事が「痛快な思い出」になるくらいに成功を収めて、輝かしい復路になりますように。

さて私が翌日どうしたのかというと、やっぱりパリに行くしかないわけね。何とびっくり空港と都心を結ぶRER2日間で5回も乗るというファンキーなことになったわけです。といってもイチゲンの観光客でもビギナーでもないし、さよならまたね〜と立ち去ったカルチェ・ラタンに舞い戻る気もしないしで、なぜかシャンゼリゼへ直行。しばらく前までパリは好きだけどあそこはどうも、といいつづけていたシャンゼリゼに、ここのところは毎度足を運んでいますけれど、他に思いつかなかったとしても何でシャンゼリゼだったんだろ。たぶん内心で、「いまパリに(遺憾ながら)いるよ」ということを体感したいという思いがあったのではないかな。のんびり町を歩き、ほぼ初めての地区で昼ごはん食べて、もう戻らないからねという思いで空港に引き返しました。


こうしてようやく北欧への旅がはじまるわけだけれど、乗り継ぎになった関係でまだまだ入口にすら立てていないのです。ルクス・エアー(ルクセンブルク航空)のLG8020便はCDG2Gから出発します。2Gといえば1年前、バーゼル行きが飛ばずに缶詰めにされた陳腐なターミナル。チェックインしようとしたら、カウンターの係員が同僚に何やら相談した末に、「お客様の乗られるのはエスカーで、第1ターミナルから出発します。ここは2Gです」と。エスカーというのは江ノ島にある怪しい乗り物ではなく、SASの通称。チケットの日付をちゃんと見ろよな&ちゃんと情報をシェアしてくれよなまったく。――SK566 was cancelled yesterday, so my flight modified into this.(といってeチケットお客様控にアリジアの野中さんが手書きした便名を指さす)。係員はあらためてその文字を確認、端末をいじって、今度はすんなりと搭乗券を出してくれました。2Gの制限エリアは(当たり前だけど)1年前とまったく変わらんなあ。こんな場所の「勝手はわかっています」なんていうの嫌だなあ(笑)。軽くうがいしようと買った缶ビールのプルタブが開かなかったり、コペンハーゲンのホテルに出したメールが先方エラーで戻ってきていたので大慌てで再発信したり(おそらくGmailをハネる設定だと思ったのでiPadに搭載されているメールソフト&アカウントから)、やっぱり順調には運びませんでしたが、18時前になって無事に搭乗できました。これも「例の」といってよいのか、例のボンバルディアQ400型プロペラ機です。

 
CDG 2Gとルクス・エアーのボンバルディア機


それにしても欧州というところは、LCC(格安航空会社)を含めて縦横無尽にエアラインが飛んでいるんですね。それぞれに流動があるのがすごい。日本列島は細長いため、国内線のネットワークが「面」というよりも定規か板ガムみたいな形状にとどまっています。欧州は本当に「面」。であればこそ、パリからコペンハーゲンに行くのに信じられないような経由地があるのだということになります。ルクセンブルク大公国は2007年に一度だけ訪れたことがあります。いいところだったなあ(そのときはロレーヌ経由の鉄道で)。このシリーズではたびたび報告しているように、域内自由通行を定めるシェンゲン協定(Schengen Agreement)のため、英国とアイルランドをのぞくEU加盟国と、非加盟のスイス、ノルウェーほか数ヵ国に関して国境審査がなく、国内と同じように自由に行き来できます。いま私は、主権国家の枠組でいうならフランス共和国→ルクセンブルク大公国→デンマーク王国を数時間のうちに移動し、明日にはさらにスウェーデン王国に入ることにしていますが、もちろん出国/入国の手続きはありません。乗り込んだLG8020便は国内線と同じ扱いです。

ルクセンブルクには正味1時間もかからずに着陸。首都ではあるけれど日本ならローカル空港というべき規模で、階段を登ったらそこがもう制限エリアの出発待合室でした。インフォメーション・カウンターみたいなところにパスポートと例の手書きを示して乗り継ぎ便の搭乗券を発券してもらいます。SK2584便は2005分発ながら20分遅れると表示されました。もうその程度の遅れは勘定しなくてもいいよね。ただコペンハーゲン着が定刻でも2210分なので市内に入るのが23時を回るに違いなく、食事とか買い出しはできないかもしれない。それなりの品揃えがあった免税店で、寝酒としてスパークリング・ワインのハーフボトルを€4.20で求めました。ルクセンブルク産とあり、たまたま経由のご縁で結構じゃないですか。ルクセンブルクはリースリング系の白ワインの産地なのでスパークリングもいいはず(地理的にはシャンパーニュにも近い)。それと、何か食べるならいまのうちなのですが、空は明るくてももう20時近くなので、カフェテリアの食べ物はほぼなくなっていました。ケースの中にかろうじて残っていたのは寿司。にぎりと巻き寿司があったので後者をチョイス。€6でした。欧州らしくサーモンばっかり(笑)。フランスでも寿司はポピュラーで、巻き寿司のことをmaki(たいてい複数形なのでles makis)というので、フランス語圏であるルクセンブルクの空港でもマキを1つといったら速攻通じました。欧米人は海苔が苦手というか黒くて不気味だというので、半数は逆巻き(ネタのサーモンが外側になっている)になっていますね。コペンハーゲンで美味いものを食べられるかどうかの知識はないながら、安物の巻き寿司でまさかの夕食だよ。しかも「遅れる」っていっていたはずなのに定刻にゲートが開いたので、機内持ち込みになってしまいました。

 

デンマークの「本土」 シェラン島が見えてきました


今度もプロペラ機で、ATR-72型。1年前にバーゼルへ飛んだときと同じ機種だな。狭いながら2席×4列。充てられたのは通路側だったけど、赤ちゃんがいるので代わってもらえますかというので窓側に移りました。エミちゃんという赤ちゃんは飛行中まったく眠らず、ハイテンションで手足をばたばた。私はいいけど背中を蹴られつづけた前の席の紳士は大変だったろうな。「今日初めて飛行機に乗せたんです。大丈夫かしら」という若いママさん、大丈夫じゃありません。でもこの人が超美人だったので許す! いつものコーヒーではなく紅茶をオーダーしたのはもちろんお寿司を食べるためです。エスカーさん(SAS)にはあれこれ申したいことがあるけれど、いま乗っているのもそうだし、東京への帰路にもう1回利用するので文句はいうまい。北欧ではSASに逆らっては生きていけそうにありません(笑)。

地平線の向こうに太陽が沈んだころ飛行機は高度を下げました。陸と海とが入り組んでいる様子が見て取れます。デンマークは凸凹のない国で、最も標高の高い地点でも170mしかありません。海岸まで山が迫っているようなわが列島の景観とは、したがってまったく違いますね。定刻どおり2210分にコペンハーゲン・カストラップ空港Københavns Lufthavn, Kastrup)に着陸しました。入国審査は当然ないし、とっととバッゲージ・クレーム(預け入れ手荷物の請け出し)を済ませて非制限エリアに出てみれば、そこがすぐ鉄道やバス、タクシーの乗り場に直結していて非常に使い勝手のよい空港でした。さっそくøみたいな知らない文字とか、見慣れない綴りなどがたくさん。これまでデンマーク語やスウェーデン語などの北欧諸語に触れたことはなく、苦手なくせに言語マニアである私としては気分が盛り上がります。そうした言語のアウェイ感とともに、フィンランド以外の北欧諸国はユーロを導入していないため、見慣れない、そして何より相場感覚がわかりにくい通貨を使わなければなりません。東京で500デンマーククローネ(DKK)だけ両替してきました。「1万円くらい」といったらその近似値が出てきたのですが、滞在時間がかなり短くなってしまったので大半を使い残すことでしょう。さっそく100 DKK紙幣を券売機に差し込んで中央駅までの鉄道の切符を購入(36 DKK)。穴の開いたコインのおつりがじゃらじゃらと出てきました。

 
コペンハーゲン・カストラップ空港とデンマーククローネ


初対面の言語にときめいたのもつかの間、2面あるホームのどちらがコペンハーゲン中央駅に行くやつなのかがわかりません。窓口で切符を買っていれば教えてくれたはずなのに券売機を使ってしまったし、声をかけた職員は無礼にもスマホで話しはじめてガン無視。券売機の画面はユニオンジャックを押せば英語で表示されるためCopenhagen Central Stationというのをすぐに選べたのだけど、ホームの降り口やホーム上の路線地図はデンマーク語ばかりなのでわからん。正確にいうと、英語のCopenhagen(ちなみにフランス語だとコパンナーグCopenhague)を現地語ではKøbenhavns(発音はクヴンハウン)と綴るのだというのはわかるのですが、中央駅に相当するものが読み取れないのです。Københavns H.という略記がたぶんそうかな? ホームに列車が入線してきたタイミングでトランクをもって現れた中年の紳士に、これはセントラル・ステーションに行きますかと英語で訊ねたら、「はい、これに乗ってください。約20分、2つ目の駅です」と明快に。どうもありがとう。もう23時を回っているのでがらんとしていますが、それでも1車両に3人ずつくらい乗っています。教えてもらったとおり約20分で、ただし3つ目の停車駅がコペンハーゲン中央駅Københavns Hovedbanegård)でした。そうか、北欧諸語もゲルマン語だからドイツ語から類推できるわけね。ドイツ語の中央駅はhauptbahnhofhbfと略記)で、これまでさんざん世話になってきました。ハウプトが真ん中の、バーンが鉄道、ホフはお庭とか農園。Hovedbanegårdというのは字面がよく似ているわ〜。いまグーグルの言語間翻訳を試してみたらgårdは農場だそうなので、もしかすると鉄道の概念がドイツから入ってきたのかもしれません。ひるがえって日本には(鹿児島などをのぞいて)中央駅という考え方がなく、普通は都市名をそのまま用いていますけれど、東京とか大阪のような巨大都市の場合、海外の旅行者が迷ったりしないのかな?

 
デンマーク国鉄の空港アクセス列車


中央駅は23時半になってもけっこうにぎやかで、いくつかの売店も営業しています。ともかく宿に急がなければ。中央駅の裏口がホテル密集地帯になっていて、交通の便を考えればこの界隈がよいよと各種ガイドブックが勧めています。本当は10日にスウェーデンに向けて出発する際の便宜を考えて駅裏ホテルをとったのだけど、こういうハプニングに見舞われたため、結果的に駅のそばでよかった。ただ、メールの返信を確認していないので大丈夫かな。不達エラーは先方の責任だからねえ。

この駅はホームが地平にあり、コンコースはそれを覆うように上階部分に造られたいわゆる橋上駅舎になっています。そのためコンコースから駅裏に向かうためには階段を1フロアぶん下がる必要があります。コペンハーゲン・スター・ホテルCopenhagen Star Hotel)はすぐにわかりました。レセプションの若い兄さんに名乗ると、「ああ古賀様、ついさっきあなたのメールを拝見しました。申し訳ありません」だと。あとで返信を確認したらGmail2通はやはり不達のままなので困ったものです。ITだのみになってはいかんね。「航空便が欠航になったのですね。よくあります、そういうことは」と。当然ながら1泊ぶんを払い戻しますとかいう話にはならず、No showでキャンセルされなかっただけましと考えておきましょう。

 
 
コペンハーゲン・スター・ホテル


まあ率直にいってこの宿はダメだな。1つ星とはいえ、ホテルのサイトや予約サイトで謳っている内容と差がありすぎる。何より空調がついていないのは非常に困ります。いくら北欧の夜とて夏場はけっこう暑く、シャワーを浴びたあとは汗が引きません。これで21978.81 DKK(カード決済の段階で36,460円)なので物価が高いとしてもこれは駅前価格を載せすぎのぼったくりでしょう。どうも昨日来うまくいかないことが多いですがそういうときもあるね。ここに2泊しないで1泊ぶんをけっこう快適なイビスで過ごせたことをよしと考えよう。あす10日は中央駅を1136分に発車する列車を予約しているので、コペンハーゲンでの持ち時間はほとんどありません。1都市というか1ヵ国に滞在半日というのもネタとしてはおもしろいけどさ。ルクセンブルク空港で購入したスパークリング・ワインをがぶ飲みして就寝。

 

PART2につづく

*この旅行当時の為替相場はだいたい1ユーロ=136円くらい、1デンマーククローネ=18円くらい、1スウェーデンクローナ=14円くらいでした。
*地図出典 http://www.sekaichizu.jp/


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