Les
deux villes principaux en Irelande: Dublin et Belfast
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PART8 |
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さきほどぐるりと回ってベルファスト中心部の構造はだいたい把握しています。なるべく歩いていない道を歩いてみようかな。飲食店などは、メインの大通りではなく横道にあることが多いですしね。シティ・ホールの北西側にある商業地区に入り込みました。金曜の夕方ということもあってか、かなりの人出があります。
すると、アーケードの中ほどに渋いパブがあるじゃないですか。その名もクイーンズ・カフェ(Queen’s Café)。立地としては福岡の新天町の喫茶店みたいなもので(また 笑)、パブにしてはシックな装いです。これを通り過ぎる勇気はなく、カウンターに直進して1パイントのビールを発注しました。スタウトもエールも飲んだから、ラガーにしてみるかな。供されたのはおなじみデンマークのカールスバーグでした。₤2.50也。安いですね。適当なテーブルにグラスをもっていって座ります。なるほど、仕切りのある6人掛けテーブルあり、普通のテーブルあり、カウンターありで、パブとしてだけでなく、店名どおりカフェとしても使えるわけだ。上の階はレストランのようです。向かいのテーブルには若い夫婦と小さな子ども2人がいて、お父さんは子どもにオレンジジュースか何か飲ませながら新聞を丹念に読んでいますね。右隣の仕切りのあるテーブルは30代の女子会らしき3人連れで、赤ワインをがぶがぶ飲んで、何やら真剣にトークしています(つまみは無し)。そのうち1人のねえさんが立ち上がってカウンターに行き、お代わりのボトルを手に戻ってきました。左隣は中年の夫婦。奥さんは1パイントのドラフト・ビールですが旦那さんは瓶ビールを飲んでいて、ふうんと思ったら、スーパードライの中瓶でした。テーブルに置いてある告知では、「今月のビール」としてスーパードライ(名称は“ASAHI”)が設定されている模様。₤3だそうです。サッポロ黒ラベルなら少し心が動くかもしれないけれど、アサヒは別にいいや。ていうか、美味いビールをあれこれ飲んでいるはずのアイルランドの人は、日本のラガービールを美味いと思うのかね(アサヒにかぎらず全般に標準的な味がして/冒険がなくて、飲みやすいという欧米人の反応はしばしば耳にします)。
道路を渡って上り側(ホテルのあるほう)の停留所前にあるレストランのドアを押します。The Barking Dogという店名で、ワンワンなのかバウバウなのか? 1人ですがよろしいですかと訊ねると、Did you book the table?(予約なさいましたか?)と。――いえ予約していません。「そういうことですと、20時から予約が入っておりますので、それまでなら大丈夫ですが」ということでした。時計を見れば18時40分。ひとりで夕食をとるのに1時間以上もかかるはずはないので、了承して、テーブルに通されました。このへんの間合いはけっこう難しい。欧州の多くの地域において「レストラン」というのは複数名でテーブルを囲み、何やかんやとおしゃべりしながらけっこう長い時間を過ごす場なのであり、カジュアルであっても日本でいうところの「飲み会」に近いニュアンスがあります。
店内はいくつかの区画に分かれていて、ウッディな造りに間接照明でなかなかいい雰囲気です。19時前後になると予約客が次々にやってきてほぼ満席になりました。家族あり、カップルあり、職場の同僚とおぼしき会合ありで、客層は全体にホワイトカラー的。ベルファストの住宅地にあるレストランの情報など事前にもっているはずもなく、私がここに来たのは直感によるものなのだけど、地元ではそれなりに知られていて、日常よりちょっとだけ水準を高めて食事したいときに足を運ぶレストランなのではないですかね。メニューを見ると、各種肉料理に○○風とかいうタイトルがついていて、どうも創作フランス料理のたぐいらしい。背が高く物腰もスマートな若い男性店員さんが、「本日の日替わり料理はこちらですが、カモのソテーはおすすめです」というので、それにしてもらいました。カモと来ればブルゴーニュ。かどうかは知らないけど、ブルゴーニュの品種であるピノ・ノワールをグラスで1杯頼みました。 お父さんの誕生祝いをするらしい家族が隣のテーブルに来て、白ワインをテイスティングしはじめたころ、カモの皿が運ばれました。甘辛いソースがからめてあるほかに、リンゴのペーストが添えられています。カモって甘酸っぱい果物系のソースと合うんだよね。結婚披露宴の肉料理についてくるような付け合わせが皿に乗っています。肉はたっぷり130gくらいありそうで、弾力もあってなかなか美味しい。フランスで「フランス料理」を食べるときには素材まかせのカジュアルなものばかりなので、こういう凝った料理は久しぶりかもしれない。「イギリスは食事がまずい」というのはある意味で定説化していますけれども、美味いものだってたくさんあるし、われわれが「日本料理」ばかり食べないのと同じで、中華もインドもイタリアンもフレンチも食べるので、いまやそういう言説は当たらないと思います(「イギリス料理」も以前よりずっと美味しくなっているそうですよ)。カモ肉で腹いっぱいになり、エスプレッソを飲んで〆てもらいました。勘定を頼んだら、若い女性の店員さんが、○○のために₤1ご提供いただけますかと聞いてきます。そこのところの単語が聞き取れなかったのだけど、問いなおすとドネーション(donation 寄付)と聞こえたので、要するに心づけ(チップ)のぶんを任意でチャリティに提供してもらえないかという趣旨なのでしょう。そういうことなら、まあ喜んで。メインが₤17.50、ワイン₤4.80、エスプレッソ₤1.75に任意の寄付(discretionary donation)₤1で、トータル₤25.05。いまの為替相場に当てはめるとちょっと上等な夕食ですけど、欧州の感覚だと、この値段でこの水準の料理なら安めだと思います。店員さんたちの姿勢がみなさわやかなのには感心しました。ごちそうさま。 ホテルはレストランの4軒くらい先。その途中に、昼間は気づかなかった小さな酒屋さんがありました。各種ビール、ウィスキー、そしてワインが棚に並んでいます。品ぞろえもなかなかよかったので、₤12くらいのフランスワイン(シラー種)を買って帰りましょう。東京で買ったら3000円くらいかな?
部屋に戻って、テレビを見たり風呂に入ったりして、またまたまったり。ここ4、5年ほど自宅の浴槽に浸かったことがなくシャワーばっかりなのですが(だって時間かかるし面倒なんだもん)、外国で風呂つきのホテルに泊まるとどっぷり浸かるという謎の逆転になっています。このホテルのバスは広々としていいですね。2ヶ月前に泊まったバルセロナのホテルといい勝負です。無理して中心市街地の宿を選んでいたら、ちまちましたところになっていたかもしれませんね。せっかくの立体スイートなので、屋根裏?のデスクにワインとピーナツ、タブレットを持ち込んでパブタイムを楽しみましょうか。いつも欧州ではじゃんじゃん読書することにしており、今回も難しいのを中心に6冊くらいもってきましたが、タブレットなんぞを持参するとそればっかりになってしまうね。次回はどうしようかなあ。25時くらいまで各種動画などを見ながらワインを飲んでいました。このスペース、ゆったりしていて実に居心地がいい。
ベルファスト・シティ空港からロンドンに向かう飛行機は13時55分発です。空港までの所要時間がどれくらいなのかよくわからないながら、昨日ちらと見たヨーロッパ・バスセンターから20分くらいらしいので、バス乗り継ぎやチェックインのゆとりなども含めて、10時半くらいに出れば余裕も余裕だと思います。タブレットを持ち込んだついでに、昨夜メトロ(市内バス)の時刻表と料金表を調べてみました。マローン通りを通る3系統のうち土曜は2系統が運休になるようで、便数がかなり少なくなっています。それまで1時間半くらいの余裕があるので、徒歩5分くらいのところにある植物園を再訪して、ゆっくり見てまわろう。
植物園の入口付近にはアルスター博物館(Ulster Museum)があります。現代的な外観のきれいな建物で、アイルランドの歴史にも愛着が湧いてきたので時間があれば見ていきたいところだけど、開館が10時とのことで断念。植物園は、円形や方形に美しくかたどったイギリス式庭園が中心で、冬の今はお花がほとんどないためか広い「公園」という感じです。この時間に散歩しているのは、ジョギングする人か犬を連れている人ですね。中には熱帯性の植物を見せる温室もあって、けっこう充実しています。植物園は隣のクイーンズ大学とつながっているので、大学のほうへも足を伸ばして、キャンパス歩きもちょっとだけしてみました。
思いがけず下見していましたので、バスセンターの勝手はわかっています。切符売り場の窓口に並んで、シティ空港まで1枚というと、「空港行きはバス内で運転士に支払ってください」とのこと。もしかすると窓口は長距離便専門で会計(運行会社)が別なのかもしれません。
バスは中心市街地を抜け出すとすぐ海のそばに出ました。やっぱり博多湾の風情に似ている(笑)。ベルファストは造船の町として発展しました。バスの車窓から大小のドックが見えておもしろいです。そのうち妙な形状の建物が見えてきました。万博のパビリオンみたいだなと思っていたら、タイタニック・ベルファストというテーマパークだそうです。当時最高水準の豪華客船と注目されながら、1912年4月の処女航海の途上、大西洋のニューファンドランド沖で氷山と衝突して沈没したタイタニック号は、ここベルファストのドックで建造されました。こういう世界史クラスの話題があるのなら観光の目玉にしようという発想は当然のことでしょうね。それ以上に世界史クラスの話題であった北アイルランド問題は、ネタにしてしまうにはまだホットすぎます。客船沈没を扱った大ヒット映画「タイタニック」(1997年)は観ていないので、私がこのテーマパークを訪れてもピンと来ない可能性が大。
それにしてもずいぶんと小さなターミナルで、非制限エリアはこだましか停まらない新幹線駅くらいのものです。アイルランド(北だけではない)やベルファストの観光案内のパンフ類を並べたコーナーがあり、地図などもなかなか充実していました。本当はまずここに到着してパンフや地図を手に取るのでしょう。順序は逆になりましたがいくつかいただいていきます。1つ上のフロアの制限エリアらしきところに飲食店が透けて見えているので、早めに入って飲み食いしながら時間をつぶそうかな。ブリティッシュ・エアのカウンターでチェックインを申し出て、キャリーバッグを預けました。成田までのバッゲージ・タグが発行されパスポートの裏に貼りつけられます。地続きのアイルランド共和国から何のチェックもなくベルファストにやってきたため感覚が狂っているのですが、これから乗ろうというベルファスト→ロンドン便は純然たる「国内線」。したがってパスポート・コントロールはなく、セキュリティチェックだけです。ところがリュックの何かが反応したらしく、中年女性の係官が「中身を全部出しますので、ご一緒に確認していただけますか」と。最近はチェックの精度がよくなっていて、何かと引っかけられますが、一般論としては安心できてよいのではないですかね。中には本とガイドブックといくらかのお土産と日本円の財布くらいしか入っておらず、とくにやましいこともありません。もちろんセーフです。女性係官は表紙にDublinとあるミシュランのガイドブックを手にしたとき、うれしそうな表情で「ダブリンにいらっしゃいましたか。いかがでしたか?」と。――はい、初めて行きましたけれど、見るところもたくさんあってすばらしい経験でした。もちろんベルファストもよかったです。「そうですか、またぜひ来てください」と、無用に引っかけてしまったバツの悪さもあるでしょうが、アイルランド(共和国でも北でもなくて)に関心をもってくれる日本人がいるのがうれしいというような様子でした。
ちょっとした関門を経て、これまたちっちゃな制限エリアに出たのは正午前。まだ2時間くらいあります。国内線の空港ですから免税ショップなどがあるはずもなく、いくつかの売店があるだけです。おお、さすが(北)アイルランド、ちゃんとしたパブがあります。あなうれしとギネスの1/2パイント(₤2.15)を発注。イングランドどころかパリでも東京でもギネスなら飲めますが、アイルランド「出国」記念ということにしておきましょうか。ロンドンまでは1時間20分。そのあと19時発のANAで成田まで約12時間。ロングランに時差もあって通常のタイムテーブルはどうせぐじゃぐじゃになってしまいますから、ランチとかディナーといった区分は明日までは無意味ですね。少量ずつテキトーに飲み食いしましょう。パブの隣には、福岡空港と同じような(こればっか 苦笑)カフェテリアがありました。さほど空腹でもないので、連合王国ではおなじみの「本日のスープ」(パンつき)と瓶ビールでライトな食事を。ヒースロー空港の制限エリアはおそらく世界一充実したショップ&飲食店街で、ちゃあんとパブもあるから、あとでまたビールを飲むことにしましょうかね。で、ANA機に乗ったら即サッポロ!
愛の島の2つの窓 おわり |
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