古賀毅の講義サポート 2023-2024

Études sur la société contemporaine

現代社会論


千葉工業大学工学部機械電子創成工学科、応用化学科、社会システム科学部金融・リスク科学科1学部指定科目群1
前期 火曜129 :00-11 :00 新習志野キャンパス 8号館 8209教室


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2023
67月の授業予定
6
27 新たなヒューマン・ビジネス
7
4 産業・労働のグローバル化
7
11 変わりゆく産業社会とキャリア形成

 

 

本年度の授業は終了しました。みなさんのご活躍をお祈りいたします。

 

 

REVIEW 7/11

時代が変わり、産業も移り変わることで、個々に求められるものも大きく変わったことをあらためて知った。そのようなことも踏まえ、自分の専門性(工学)を高めていくためにも、大学の勉強をがんばりたいと思った。

企業にもトレンドがあり、就職時に調子のよい企業に入ったからといって、それでキャリアが安泰するとはかぎらないことを感じた。

将来、世界中の子どもからおとなまでわくわくするような、おもちゃの開発に携わり、人々を笑顔にしたいと考えています。今回の授業で、東南アジアや中国、インドなどの国に向けた企業が増えているというのがわかりました。多国籍の考え方をもつことが大切なんだなと思いました。

政治と産業が結びついていて、時代とともに職業への意識が変わっていくのがわかった。

日本の終身雇用や年功賃金、(非)正規雇用の問題など深く考えたことがなかったが、今回の授業で、現状やそれぞれの利点を知ることができてよかったです。

日本の雇用慣行を知ることはできたけど、他の国の場合はどうなっているのか気になった。
・・・> それだけで13回分の授業になりそうです(笑)。アメリカ、西欧、アジアみな違っていますからね。身近なところで韓国や中国などの事情を調べてみてはどうでしょうか。東南アジアもおもしろいですよ。案外、日本国内にいるよりも自分の適性や能力に合った働き方がそのあたりに見つかるかもしれません。

 
(左)ロッテルダム オランダの工業都市で西欧全体の港湾の役割ももつ 生活化学メーカーのユニリーバはここが本拠(私はDoveを愛用しています 笑)
(右)タリン ロシア国境に近いエストニアの首都で、ソ連からの独立後に電子立国化が進んでいる Skypeはここで誕生した

 

少子高齢化やそれによる新規雇用の減少で、社会はよりAIや機械中心に変わっていくと思った。エンジニアの需要がさらに上がりそう。

正規雇用と非正規雇用の違いは、年収もあるが、社会保障がまったく違っていること、フリーランスは税金や社会保険などをすべて自分でやらなければならないので案外自由がないことなどがわかった。

終身雇用は安定した収入と雇用が得られるが、仕事をしなくなってしまうかもしれない。非正規は正規社員と比べて不平等な立場だと思った。
以前は終身雇用で企業に入ればOKみたいな感じだったというのを、小学校の社会科で習った。そのときは、もしかしたら自分より無能な人が上司になるのは嫌だなと思った。能力のある人が上に行くいまのシステムは、よいと思う。
・・・> そうか、小学校の社会科ですでに「終身雇用はオワコン」と習うのね(汗)。おじさん上司たちも、若いときは自身が無能呼ばわりされるなんて想像もしていなかった、ということだけは想像しておいてください。

終身雇用の時代から雇用流動化の時代に変わり、自分で考えて行動することが大切だと思った。

終身雇用の時代は終わったので、自分の手に職がつくように、資格の勉強をがんばろうと思いました。
・・・> 資格を取って手に職をつけて、それで就職しても、そこから先が終身雇用ではなくなった(なくなっていく)という話でした。そこはわかっておきましょう。

非正規雇用では4年半で辞めることになってしまうことがあると知ったが、正規雇用でもあまり長く働かずに退職する人が多いと思った。
・・・> そのとおりです。非正規と正規ではちょっと事情が異なりますので、整理しておいてください。

非正規雇用の賃金を上げる、というのは、現状の回復にはつながらないのですか。
・・・> 現状の回復というのは、経済成長ということでしょうか? 賃金格差の解消? まず考えなくてはならないのは、賃金を上げるかどうかというのは、基本的には企業(経営)側の個別の判断ということです。A社は上げる、B社は据え置く・・・ といった判断が当然あります。賃金を上げてくれそうなA社に優秀な人材が集まるということになれば、業界全体として賃金を上げる方向になることでしょう(業績次第ではあります)。ただ、その考え方だけだと、経営側の意向が大前提となり、雇われる側の労働者は(正社員を含めて)弱い立場にありますので、ものをいえなくなります。そこで憲法では労働者の権利というのを認めており、法律でも労働者の保護や権利維持のために企業側に負担を求めるようなしくみになっています。不当な扱いがないかどうか、労働基準監督署の目も光ります。こうした社会制度のバックアップがいっそう求められる時代になってきました。総論的には、より多くの人の労働意欲を高め、苦労に見合う賃金を得られるようにすることで、経済全体が活力を取り戻し、経済成長につながっていく、ということができます。しかし、経営側もなかなか苦しいので、そこまで持ち出しはしたくない。だから法律や制度の範囲内で、解雇しやすい非正規雇用の社員を増やしたり、機械やAIに置き換えたりして、低コスト化を図ろうとします。また、グローバルな競争の時代でもありますので、日本政府もそこまで労働者側の保護ばかりいっていられないという事情もあります。この説明でわかっていただけるかどうか心許ないのですが、ご質問の答えは「社会全体をよく知り、考える」という回路を通らないと、なかなか出せないという、もどかしいことになります。

質問なのですが、個人的には自民党以外の議員を支持したい人はいますが、政党としては他のあまり好みではない議員が多く、結局自民党に票を入れがちです。しかし先生は与野党のバランスがある程度あったほうが労働者の賃金は上がるとおっしゃっていました。私も賃金は上げてほしいです。どのようにすればよいと思われますか?
・・・> 問いの中にいくつか異なる次元のことが混じっていますので、少し整理しましょう。(1)いまの選挙制度では、衆議院も参議院も2票行使ということになっていて、1票は候補者個人に、もう1票は政党に投票する比例代表制ということになっています(参議院の比例区は個人名を書くことができますが、それは所属政党の得票として積まれるしくみ)。候補者をえらぶほうは、どの人がいいかなというわけだから、わりとわかりやすい。政党をえらぶ比例区のほうは、自身の支持・不支持ということで決めるべきでしょう。(2)ただ、いずれの選挙についても、たとえば自民党の候補に投票するとか「自民党」に投票するということは、自民党の総裁(いまは岸田さん)を内閣総理大臣にして権力をゆだねますという意思を同時に含みます。立憲民主党でも日本維新の会でも同じことです。(3)自民党の経済政策はわりと幅が広くて、労働者に甘いタイプの人からめっちゃ厳しいタイプの人まで多様。経済界の意向を強く受けるタイプの政治家は、労働者に厳しく、雇用条件は(よほど能力が高い人をのぞけば)よくないまま据え置かれることになります。どの政治家がそうなのかということは、ここでは申しません。(4)野党のうち、昭和期の日本社会党、平成期の民主党は、労働組合を最大の支持基盤にしていましたので、そうした政党に勢いがあると、企業(経営)側がコストカットや賃上げ抑制に走るということになりにくかった。ただ、労働組合自体が弱体化してしまったのと、組合といっても大半が正社員のそれなので、非正規労働者にとっては救いの場がなくなっているというのも現状です。(5)「私も賃金は上げてほしい」とあります。現に所属している企業の問題であれば、労働組合に入って団体交渉するということになりますが、社会全体として賃上げの方向にもっていってほしいとなると、もう少し政治のことを知らなくてはなりません。社会科の勉強ではなく、自身の人生を賭けた学びです。なお1つ上の私のコメントもあらためてお読みください。

産業の高次化が進むにつれ、消費社会となり、必要な知識が増えたせいで、ニート化を惹き起こしやすくなるなど、ふるいにかけられることが増えたと思いました。もし日本から年功序列が消えて成果主義のみになったら、多少なりとも経済は好転するのでしょうか?
・・・> さあ、私は暗転すると思いますけどね。成果なんてそう簡単に出るものではないと、実は多くの労働者は身をもってわかっています。私も。

 
(左)スイス バーゼル ノバルティスも本拠を置く化学工業都市 フランス・ドイツとの3ヵ国国境に面し、ライン川もあって古くから交通の要衝である
(右)ポーランド グダンスク かつてはドイツ領のダンツィヒと呼ばれていた造船工業の町 いまは中欧屈指の重化学工業都市に発展している

 

私は工業高校の中で進学をめざすコースの出身だが、就職する人が多い他学科の先生に、工業高校にいるのに就職したいというのは悪だ、みたいな考えをもっている人がいた。こういう昭和モデルの考えをもつ人が、生徒の進路の幅を狭めているのだろうと思った。
・・・> 工業高校の改革ということに、最近私も少しかかわっていて、このテーマを考えることが多くなりました。工業高校はわりと「閉じた(完結した)世界」で、それが長年の「よさ」でもあったのですが、率直にいって時代の変化についていけていない面が露呈してきています。ご指摘のような工業の先生に、私も出会ったことがあります。いつの時代の話よ、という感じ。おっしゃるように、進路の幅を狭め、生徒をミスリードします。ちゃんとした技術と、ちゃんとした社会や産業の知識を抱き合わせ、生徒が自力で判断できるような教育が望まれます。生徒や保護者の側も、「この学校に入っていろいろなことを教われば大丈夫」みたいな考えはやめて、自分で学ぶという当たり前のところをスタートにしてほしいなと思います。

日本人の平均寿命がどんどん上がっていき、高齢者が増えていく中で、定年の年齢が今後どこまで上がっていくのか怖くなりました。

大学まで行く人が増えて、それだけ能力の高い人が増えたが、大学まで行くことで社会に出たくなくなる人が増えるというジレンマを感じた。
かつては中学校を卒業すれば働きに出るみたいな感じで、いまは大学もしくは大学院卒業まで働かなくてよいのを見ると、大学まで学びを深められるというよい面もあるけど、早くから社会を知ることができないというマイナスの面もあるんだなと思った。どちらにしても社会に早く出たいし、学びもちゃんと深めたいのはジレンマですね。

グローバル化に加えてキャリアの流動化が進むことで、労働力の一極集中化が進むのではないかと考えた。
・・・> 一極集中というより、二極分化ということではないかな。おっしゃりたいことはよくわかります。よほどできる人に、仕事も富も集中するというイメージですよね。

どこが就職に有利というデータよりも、自分に合った専門の勉強をすることが大事だということがとくに印象に残りました。自分に合った勉強をがんばっていきたいです。

私は大学院に進む気はあまりないが、大学院に入ったら就職した際に有利になることがあるかもしれないと思っていたけれど、それは必ずしもそうではなくて、個人の能力次第なのだと気づいた。

産業に関してはいままでも多くの変化があり、今後もさまざまな変化が起こるだろう。そういう変化に順応していきたいと考えた。

授業で紹介されたカモノハシ理論にとても興味を抱いた。いまある正解を求めすぎるのはよくない、という言葉は、これからの変わりゆく社会において重要なことだと考えるので、その言葉を念頭に学んでいきたい。
私も数学が好きな理由は、しっかりとした答えを出せるからだと面接のときにいっていたのを思い出して、少し心が痛くなった。今後は答えが出ないことも楽しもうと思った。

 

 

 

 

開講にあたって

この現代社会論は、学部指定科目群1に属し、「人間・社会の理解」にかかわる分野として設定されています。現代社会というのは「世の中すべて」のように広い範囲を指しますので、なかなか捉えどころが難しいのですが、当クラスは産業industry)に注目して、社会の成り立ちや近年の変化、そして近未来の可能性や課題などを考察していきます。みなさんは小・中・高の社会科や公民科で、第○次産業といった話を何度も扱ってきたことでしょう。また地理の授業では「この地域の産業の特色は」といった切り口で学ぶことがしばしばあります。大学の教養科目では、もう「試験のためにおぼえる」などという(ほとんど無意味な)ことはありませんので、授業で扱われている内容を常に自身に引きつけて、「自分たちの問題」なのだという視点で考えましょう。最もわかりやすい話としては、「数年後、大学を卒業してどこかに就職する」人が大半であるはずで、その「どこか」の話だということです。冷静に考えればわかるように、世の中は常に動いていて停まることがありません。「いま」の様態がずっとつづくはずがない。ですから「いま、いちばんイケてる産業はどこですか? 僕そこに就職します」という発想は、10年後、20年後になると話の前提自体が変わっていて、当人が損するということになるわけです。私(古賀)は、長年にわたって高校・大学で社会系の授業をもっていますが、そこで学んでいる「社会」が、自身の立っている足場であり、これから生きていく舞台なのだという感覚をもたないままでいる生徒・学生がずいぶん多いな、もったいないなと思うことがあります。せっかく学ぶのであれば、「社会の有意義な見方」を身につけたいですよね。

現代社会論という科目名ではありますが、現代といって取り扱う時間的範囲は、だいたい5080年くらい、テーマによっては100年くらいにもなります。これから何十年か先を見通すには、それくらいの幅をもって、社会を捉える必要があります。受講生の中には、進みたい産業分野がすでに固まっているという人もあるだろうし、まるで見当がつかないという人もあることでしょう。いずれにしても、「この分野には興味がないから、今回はパス」などと安易に考えずに、いったん自分の頭で考えて、問題をかみしめるようにしてみましょう。どんな分野に進むにしても、商売する相手は別の分野の人ですし、市場のニーズを知ろうとするなら狭い範囲に閉じこもっていてはどうにもなりません。商品開発に携わろうとすればなおさらです。たとえば、農業(第一次産業)のことは視野の外だという人が多いことでしょう。でも、農業で用いられる機械は製造業のうち機械工業(第二次産業)でつくられるものですし、農作物が流通するしくみはサービス業(第三次産業)に属します。どの分野でもそれ単体で成り立つということはありません。これから先の時代は、さらにそうした相互関係が重要になります。

 

<評価>
2回の提出物(レポート)の内容により評定します。
出欠は評価対象に含みません。

 

 


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