La tour de l’Allemagne 2012

2012 Winter

 PART10 フランクフルト その2


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時ちょうど発のICE826便はケルン行き。日本なら1228日(金)の午後ともなれば主要幹線の特急はどれも満員でしょうが、これはがらがらで、1両に56人しか乗っていません。指定された座席が例のハメゴロシだったため荷物をもって近くのちゃんとしたところに移動しました。プラハ〜ニュルンベルク〜フランクフルトというルートはドイツ政府が観光誘致のために設定したうちの1つ古城街道(Burgenstraße)にだいたい沿っています。私、一般的な傾向とは違って「お城」にはさほど興味がありません。昔の王侯の暮らしより現代人の消費生活のほうに関心があります。

  ICEの車窓と車内
  フランクフルト中央駅


このICEもすべて「在来線」ルート。途中ヴュルツブルク(Würzburg)に停まります。北部が原っぱなら中南部の車窓は森林にほぼ決まっており、まさに疾走というように緑一色の中を突っ走りました。グリム兄弟の出身地ハーナウを通過し、1604分にフランクフルト中央駅に到着、というか帰還。既視感があるのは当然だけど、あちこち回って戻ってきてみると、この大きな駅にも親しみを感じるなあ。

そんなわけで何ひとつ迷うことなく駅舎を出て、すぐそばのホテル・ハンブルガー・ホフにチェックインしました。渡された部屋番号は前回と同じ611。キーの使い方などはおわかりですかとレセプションの若い女性がいうので、「たびたび来ておりますので」といっておきます。荷物を置いて、6日ぶりにフランクフルトの市街地に繰り出そう。

 
(左)フランクフルト中央駅の外観  (右)中央駅前のトラム乗り場


今回は地下鉄を利用せず徒歩で都心に出てみることにします。駅前からまっすぐに伸びるカイザー通り(Kaiserstraße)を進むと、銀座の繁華街につづく有楽町のビジネス街みたいな雰囲気で、でもかなりの人出があります。有名企業の支社・支店らしきものもちらほら見えました。中央駅前とかカイザー通りといえばドイツでも有名な「治安の悪いところ」らしいけれど、いまのところはその気配なし。

 ついに120円台になってしまったか・・・
 ゲーテ像


ゆっくり歩いて15分ほどで見覚えのある広場に出ました。ゲーテ広場Goetheplatz)です。20102月に来た際には、前述したようによくないことばかりが重なって気分がよくなく、このあたりも駆け足で通り過ぎたのでした。中小都市ばかり歩いてきてとつぜん大都会に入ったので感覚が狂ったのかもしれません。今回は、それぞれ持ち味の異なる都市を数珠つなぎで回ってきて出発点に戻ってきたわけですから、アウェー感がまったくなく、それどころか「帰ってきたよ〜」という気にすらなりますね。だからいったじゃないですか、人間や地域との相性を第一印象で決めつけるべきではないのです。

 
(左)グローセ・ボッケンハイマー通り  (右)ここでも大人気のアップルストア
 お惣菜屋さん


これも3年前に来たグローセ・ボッケンハイマー通り(Große Bockenheimer Straße)あたりを歩いてみました。フランクフルト都心部の構造は過去2回の滞在でばっちりわかりました。今後も欧州旅行の1つの拠点としてしばしば訪れそうな気がします。そういえば、3年前も先週も雨だったので、傘を差さずにこの市内を歩くのは初めてです。

  ハウプトヴァッヘ
 3年前に世話になった電器店


市内ど真ん中のハウプトヴァッヘは今日も不夜城のごとき賑わい。あれほどあったクリマはすっかり撤去され、日常が戻ってきていました。目抜き通りのツァイルZeil)を、寄り道しながらゆっくり歩きます。Uバーンのコンスターブラーヴァッヘ(Konstablerwache)駅ちかくの電器店もなつかしいな。そもそも3年前、予定になかったフランクフルトにやってきたのは、デジカメの充電器につなぐアダプタがドイツの凹穴に合わないのでそれを探しにきたためでした。ここで買った黒いアダプタ、その後もフランス、オランダ、そして今回のドイツ、チェコで活躍しつづけています。その節はどうもありがとう。

 クラッパー・ガッセ


そのあと、よせばいいのに調子に乗ってアルテ橋でマイン川を渡り、左岸(南側)に出ました。前回ケチャップをつけられたせいで未訪に終わったクラッパー・ガッセ(Klapper Gasse)を見ておこうと思ったのです。小さなレストランが集まっていて、アプフェルヴァインを飲めると各種のガイドブックなどで必ず紹介しています。が、左岸側は人の気配がほとんどない上に照明がいまいちで、要はあまり近寄りたくない暗がりでした。ガッセまで行けば違うのかなと歩きつづけたものの、19時前とはいえそこもがらがらで薄気味悪い。ぐんぐん歩いてきたのですが、地図を開けばUバーンまたはSバーンの最寄り駅までけっこう遠く、ありゃ失敗したなと直感的に思いました。若い日本人の男性二人連れが何かしゃべりながら不景気そうな顔でうろうろしています。彼らもガイドブックに煽られて来たはいいが所在なくて困っていたのでしょうね。ここで晩ごはんを食べるつもりは最初からなく、それならばとっとと離れるのがよろしかろう。ガッセの隅っこでヒマそうに客待ちしていたタクシーをとり、中央駅に直行してもらいました。中東系のドライバーさんは「ミスター、駅はどっち側がいいスか?」などと訛りの強い英語で話しかけてきます。€9.60だったので€10紙幣1枚を渡しておつりはチップに。用心しすぎもつまらないけど、自分自身の気分に沿わないときには思い切って撤退、転戦するのも個人旅行の心得です。

  
 ラスト・ディナー


このシリーズを愛読してくださっていて察しのよい方なら、ああやっぱりと思うんじゃないかしら。この夜の食事は、カイザー通り中ほどにあるステーキ屋さん、ボナ・メンテBonaMente)に決めていました。再三いうように、前回は不運つづきで嫌いになりかけたフランクフルトでしたが、都心部に出るのがかったるくなって駅ちかくのこの店をたまたま見つけて入り、美味い肉を食べて回復したということがあったのです。お店は健在でますます繁盛しているようだから何より。たまたま個人的にそういうめぐり合わせになっただけのことで、これを読んだ方がこの店で食事したら美味いかといったらわかりませんよ。前回は肉類盛り合わせだったので、今回は看板商品のステーキにしよう。ランプステーキ180g €16.50)に別注のサイドディッシュはやっぱりフレンチフライズ(€4.20)。ドイツではなぜだかフランス語ふうにPommes fritesというところが多数です。生ビールをとったら、これもなつかしいフランクフルトの地ビール、バインディング(Binding 0.3リットルで€2.90)でした。このほかグラスの赤ワイン(€6)とエスプレッソ(€2.10)で、〆て€31.70。最終夜のディナーにふさわしく?ちょっとぜいたくしてみました。この1週間、屋台の焼きそばで済ませたイブの夜をのぞいて、ひたすら肉・ビール・ワインという晩ごはんでしたね。このままこういう生活をつづけていれば間違いなく成人病が悪化することでしょう。それ以前に、胃の中が酸化してきた気がしなくもありません。

お肉の焼き加減はどうしますかと訊ねられ、レアという言葉がとっさに出てこずにフランス語でセニャン(saignant)といったら、トルコ系と見える中年の店員さんが「レアですね。英語でいってくれる?」と一言。通じてるじゃんよ。しかも「ドイツ語で」じゃないんだ(笑)。ドイツ語まったくできない私ですが、ここまでお読みいただいておわかりのとおり、各地でいろいろなやりとりをしています。これ、すべて英語です。フランクフルトだけでなくベルリンも、旧社会主義圏のライプツィヒやプラハも、もちろんニュルンベルクでも、あいさつ、もろもろの手配、買い物、道を訊ねるのもぜーんぶイングリッシュ。普通のドイツ人は(チェコ人も?)普通に英語話しますね。日本の駅員さんとか、大丈夫なんだろうか。


満腹して中央駅に引き返し、ことのついでに駅構内のスタンドでベックス(Beck’s)の生ビール(€2.80)。これはブレーメンの品で、ドイツ以外を含めあちこちで見かけますね。これから列車に乗るらしい大荷物のお客さんたちが席を占めています。部屋に戻ってシャワーを浴びてから、またレセプションに降りていって、ホテルバーでバインディング。ネット予約の人にはウェルカムドリンクのサービスがあるのですが、初日はかったるかったので利用しませんでした。レセプションの真裏、朝食サロンに面してに小さなカウンターがあり、ここのサービスは基本的にレセプションが兼ねます。先ほどの若いホテルウーマンが萌え系アイドル歌手みたいな声で「ご旅行ですか。ああ、ドイツを回ってらっしゃったんですね。ゆっくりおくつろぎください」とか何とか。せっかくなので赤ワイン(€3.50)もいただこうか。1週間セーヴしつづけてきたわりに、最後の夜はよく飲むねえ。

 え?


ついでのことに、部屋のミニバーからバインディングの瓶を取り出してタンブラーに注いでみたら、あれれ、中は水だ。誰かがいたずらして栓をはめなおしたに違いないけれど、ホテル側はチェックよろしくね。翌朝、証拠品だというので水の入ったタンブラーと空き瓶をもってレセプションに行くと、日曜朝と同じ中年女性が「あら〜申し訳ございません」と目をぱちくり。3年前の滞在時のエピソードならこれとても「フランクフルト許さじ」ということになったのでしょうけど、今回は逆に何でも許せるような気分になっていました。朝食後にチェックアウトして精算すると、水だったぶんは当然として、ちゃんと中身が入っていた別の瓶もごちそうになってしまいました。くだんのホテルウーマンが「いいんです今回は」と。いや〜、これで東京に帰るというのは残念です、まだしばらくいたい、とリップサービス込みでいってみたら、「フランクフルトは気に入られましたか?」と問うので「ええもちろん」と。「東京までのフライトは何時間ですか?」「だいたい12時間です」「えー、それはずいぶん遠いですね」「年内に着けばいいんですけどね」「じゃあ、2013年にも来てくださいね」――とか何とかの雑談をして、中央駅地下ホームから空港行きのSバーンに乗りました。そういえば、今回のフランクフルト滞在は2回とも夕方以降なのでその点は残念です。きっとまた、近いうちに。

 
フランクフルト国際空港  ボーイング787ドリームライナーに乗って東京(羽田)へ帰ろう

 


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