Á LA CHAMPAGNE!!
BUVONS LA CHAMPAGNE!!!

PART 3 夕方の散歩道と「新ランス」駅


PART 2にもどる

 

TGVの帰便は1817分発なのでまだ2時間半くらいの余裕があります。謎の郊外ステーション、シャンパーニュ-アルデンヌ駅までのアクセスがもう1つ頼りないので早めに行くとして、これからじわじわ移動することにしますかね。SNCF(国鉄)のランス中央駅に戻る必要がなく、市内のどこかで南行きのトラムをつかまえればいいわけです。中央駅を経由しないこういうパターンは西欧では初めてかな。

 
ドゥルーエ・デルロン広場はますます賑やかになってきました

 お、ジャンヌ・ダルク通りだ!

 

市内要図を見ると、SNCFに沿うように幅広のグリーンベルトがあり、長さも2km以上はありそうです。さっきトラムに乗り込んだブーラングラン付近が東端で、トラムの線路はまさにそのグリーンベルトの中を通って中央駅まで来ます。地図によればそのへんは上プロムナード(Hautes Promenades)、中央駅から西側の、いま歩こうとしている付近が下プロムナード(Basses Promenades)となっている。西欧の都市にはたいていこの種のグリーンベルトとか広い公園があって、大いに光合成しています。文字どおりのプロムナード(散歩道)としての機能のほか、公共駐車場とか児童遊園としての役割ももっていることが多い。ここもそんな感じです。町なかと違ってすぐ飽きますけどね(笑)。

 
(左)上プロムナードを走るトラム  (右)下プロムナード

 
(左)円形劇場  (右)児童遊園

 

いま歩いているプロムナードは、市の中心部の北辺をなしている感じです。そのまま西に歩くとCirqueという古びた建物がありました。シルク・ド・何とかという公演が日本でも流行っていましたのでわかると思いますが、シルクというのは英語読みすればサーカスのこと。ローマに由来する円形劇場ですね。Manège(馬場)という名詞も併記され、「ダンス、サーカス、人形劇(marionette)、ノンセクション劇場(てな訳でいいのかな? Théâtre d’objet inclassable)、その他の好奇心をそそるもろもろ」と、対象となるカテゴリーが書かれていました。さまざまな種類の文化発信に寄与する公共の建物なのでしょう。

 会議場

 

その西側、グリーンベルトの終点ちかくはさらに幅広になっていて、そこがパット・ドワ公園(Parc de la Patte d’Oie)。会議場(Centre des Congrès 直訳すると「諸会議センター」)のモダンな建物が見えました。昨年訪れたストラスブールの欧州地区(欧州議会や国際人権裁判所などのある地区)もそうでしたが、町外れにこの手の施設を建てて緑で囲むというのはいいですね。東京だと、未開発の場所がほとんどなくなってきているとはいえ、湾岸の埋立地にこういうのを集めそうです。園内では子どもたちが自転車やキックボード、ローラースケートを乗り回し、若者たちがボール遊びに興じ、ジャグラーらしき兄さんが一生懸命ワザの練習をしていました。若い男性はたいてい上半身裸になっている。西欧人は日光好きですな。

 
(左)ヴェル通り ここから先はトラムと歩行者専用道  (右)ヴェル橋から見た会議場

 

ということで、時間をかけてぐるりと大回りし、トラムの走る東西のメインストリート、ヴェル通りに戻ってきました。スターリングラード広場(Place Stalingrad)というところで、ヴェル通りはここから東側、昼前に買い物したラファイエットの前を通りトラムのオペラ駅付近までが、一般車両の乗り入れ禁止区間になっています。地元住民などの例外をのぞけば、トラムと歩行者専用の道ということになります。カールスルーエがこれを大々的にやっていたわけだけど、トラム・ルネサンスともいわれるいま、日本でも大いに検討すべきではあります。富山ライトレールの実験に注目したいですね。ルネサンスの潮流に乗ってランスもトラム導入を図ったのでしょうけれど、ネットの記事を見るかぎりでは反対論も根強かったとか。自分たちの税金をどこに優先的に振り向けるべきかというのは、たしかに重要な市民的課題ではありますが、ここのトラムがどうか定着しますように。

朝もらってずっと眺めてきたシティ・マップの市内要図では、西端に川が描き込まれていますが固有名詞がない。帰国後に調べたら、同じセーヌ川水系の2つの河川、エーヌ川(l’Aisne)とマルヌ川(la Marne)を結ぶ運河とのことです。ヴェル橋(Pont de Vesle)でこの運河を渡ったところにトラムのコメディ(Comédie)電停がありました。よそごとながら気になるのは、ランスのトラムは電停間の距離がけっこう長いことです。だいたい400500mくらいの間隔で、これだときめ細かく上下車できることで利用者を増やすというトラムのよさを半減させてしまうような気がしますけどね。財政上の問題から費用を節約したのかもしれないが、都心部では電停の数を倍くらいにするほうがいいように思う。これならパリのメトロの駅間のほうが短いかもしれませんよ。

 コメディ劇場裏の公園

 

コメディ電停からシャンパーニュ-アルデンヌ行きに乗ることにします。電停に表示されている時刻表は案の定95日改正ぶんで、現状がわかりません。当方の常識でトラムなんだからしてフリークエントだろうと決め込むわけにもいきませんね。電停に据えつけられた次便情報の電光掲示を見ると、AB2系統あるはずなのにAしか出ていません。下の写真のように、ligne(線)とdéstination(行先)が表示されない謎の電車?があり、普通に考えればこれがB系統なのでしょう。これまでの知識からあれこれ想像するに、B系統のシャンパーニュ-アルデンヌへの接続は最近になって開通したものであり、まだこのような部分の整備が間に合っていないのかな。95日のダイヤ改正に合わせていろいろなコンテンツを整えている最中と思います。日本だとありえないけど、私も西欧のペースに慣れてきていますので、まあそんなものかと。数分待ってやってきた「謎の電車」が万一B系統でなかったら、そのときはタクシーでもつかまえればいいだけの話。

 

 A系統は表示されるものの、ligne表示のないほうがBなのかどうか・・・

 

で、ちゃんと来ましたよB系統。時間つぶしにコメディ劇場裏手の小さな公園を散歩したりしましたが、電停のベンチでも10分以上待ったかな。「あと○分」もまったく当てにならないのでもろもろ改善の余地がありそうです。土曜のこの時間に郊外へ向かう人の流れが小さいのか、そもそもランス市民がまだトラムになじんでいないのか、乗客はぱらぱら程度。電車は郊外の広い道路上をすいすい進みます。まだ開発されていないような殺風景な土地も見えたりして、それはそれでなかなかおもしろい。日本だったら自動車のショールームとか靴の流通センターが立地しそうな道沿いの景観です。

 トラムの車内 乗車時にICチップ入りのチケットを青い部分にタッチする

 
シャンパーニュTGV駅電停 (右)スロープの上がSNCFシャンパーニュ・アルデンヌ駅

 

本線とおぼしきA系統を左に分け、B系統は本当に何もない原野みたいなところに敷かれた単線のレールを疾走しはじめました。うわ、これはすごいところやなと思ってほどなく、減速してここが終点(terminus)だとアナウンス。電停の前に、最近造ったと思われる小さなビジネスホテルが1軒だけあり、あとは本当に何もないところでした。SNCFのシャンパーニュ-アルデンヌTGV駅は目の前のスロープを登ったところにすぐ見えています。これも小さな駅舎だけが孤立して建っていました。金曜日に使っている本庄早稲田駅(上越新幹線)もできて8年でまだ殺風景ですが、あそこから生やした毛を抜いたくらいのもの。ランスもそれなりの都市なのでストラスブールへ向かうTGVの本線筋に「新ランス」みたいな駅を設けたことが明らかなのだけど、これはしかしアクセスが悪すぎて大丈夫かなと思ってしまいます。日に2往復くらい中央駅とパリを結ぶ直行便があるのでそれで基本的にはまかなえるほどの流動なのかもね。トラムを降りた客が数人だったのでTGV利用者はどうするのかなと思っていたら、18時ころになって自家用車で送られてくる人が目立つようになりました。構内は待合スペースに売店が1つあるだけといたってシンプルで、地方空港だってもう少し何かあるよ(本庄早稲田はこんなものだけどね)。

 

 シャンパーニュ-アルデンヌ駅

  TGVに乗ってパリへ帰ろう

 

ときに20両編成くらいになるTGVに対応してか、ウソみたいに長いプラットホームに降りて列車を待ちます。今回もなかなか楽しいエクスカーションでしたよ。1817分発のTGV2784便は定刻どおりの運行。往復を手配した関係か、12号車41番と同じ席が指定されています。ということは窓枠に面した進行逆向きであるわけで、もちろん空いている席を見つけて移りました。パリまではノンストップです。毎度のように西欧の鉄道は当てにならんと悪口を書いているのであちらが警戒したのか(そんなわけはないか)、日ごろの信心深さが報いられたか(そんなわけもないか)、列車は定刻の19時ちょうどに東駅に着きました。穏やかな地方都市を歩いたあとだと、どちらかといえば地味な東駅ていどでも、パリの喧騒が別格に感じられます。

パリのホテルで、買ってきたシャンパーニュを飲んで1日の締めといたしましょう。香り、味わいとも申し分なく、身体に染みわたる感じがするねえ。とはいえ、シャンパーニュが真に美味しいのは最初の1杯なのかもしれない。ハーフボトルとはいえ、こちらも酔っ払ってきてだんだん「美味いねえ〜ぐびぐび」みたいになってきましたので。たぶんこれでハマったりはせず、いつもの安い赤ワイン三昧に落ち着くような気がします。

 ポール・バラ(Paul Bara あとで調べたらけっこう著名な銘柄らしい

<恋してシャンパ〜ニュ おわり>

西欧あちらこちら にもどる

この作品(文と写真)の著作権は 古賀 に帰属します。