Visiter Cardiff, la capitale du pays de Galles

PART1

 

 

事故トラブルでよもやの振替輸送

1227日の土曜日。日本ではおそらくこの日が帰省ラッシュのピークなのでしょう。ここグレートブリテンにそのような慣習があるのかは存じませんが、年末ならではの流動は当然あって、午前10時前のロンドン・パディントン駅London- Paddington Station)には大きな荷物を手にした人がたくさん集まっています。パディントンは都心を北西に外れたところにあるターミナル駅。私は今回はじめてこの地区を訪れたのですが、ここから列車に乗ることも想定して、徒歩15分くらいのところに前夜の宿をとりました。道順も要領もだいたい心得ているとはいえ、外国では何があるかわからないので、1103分発なのに1時間以上も早くやってきました。前日、この駅を「下見」しています。25日に、いつものようにほとんど予習しないで欧州にやってきて、ロンドン・ヒースロー空港で市内に入るための地下鉄や鉄道がクリスマスはすべて運休になることをうかつにも初めて知りました。仕方なく高価なタクシーでホテルに向かったのです。翌26日もボクシング・デー(Boxing Day)という祝日で鉄道は全休。パディントン駅はがらんとして人影もほとんどありませんでした。当初、26日にロンドン→カーディフの列車を予約しようとしたのに、「その日、その区間の列車はありません」と出るばかりで埒が明かなかったため、1日ずらして27日発にしたのですが、その時点で調べていればよかったなあ。自動発券システムにストが織り込まれていることもあるまいし、変だなあ、と思っただけで探求しなかったのです。日本の鉄道なんて祝日休業どころか大晦日はわざわざ終夜運行するくらいですもんね。それが正解というわけではないけれど。

そんなわけで27日のロンドン→カーディフの列車を₤38.90、翌々日の帰路、カーディフ→ロンドンを₤26.70で購入しました。そのとき自動返信メールでパスワード(Ticket Reference)を伝えられていますので、駅に着いたらまずはチケットを発券してもらいましょう。返信メールの指示に従って、予約購入時に使ったクレジットカードを券売機に挿入し、パスワードを入力すると、名刺大の紙片が4枚出てきました。片道あたり2枚で、1枚は前売り乗車券(advance)でもう1枚が指定券(seat)ということらしい。考えてみるとグレートブリテンでユーロスターと地下鉄以外の列車に乗るのは久しぶりで、12年前にスコットランドのグラスゴー〜エディンバラ間を往復して以来です。「英国」という範囲で申しますと、10ヵ月前にアイルランド共和国のダブリンから連合王国北アイルランドのベルファストまで鉄道に乗ったものの、切符の予約と発券はアイルランド共和国側(ユーロ建て)でしました。ナショナル・レイルウェイ(National Railway かつての英国鉄で、全英の鉄道網を共有する各社の統一ブランド)仕様の切符を見たのはほぼお初。なお、券売機や窓口で予約したチケットを発券してもらうときの動詞はcollectですので、海外の鉄道旅行を志す向きは要チェックね。I would like to collect the ticket.といって予約票を見せれば完璧でしょう。


 
パディントン駅  まずは自動券売機でチケットを引き出す


と、そこまではうまくいったのですが、発車案内板を見ると当該列車のところにdelayedの文字が。表記が-edなのは、過去形ではなく「遅らされた」という意味の過去分詞なのでしょう。発車遅れはめずらしくないので、この時点では深刻に考えず、まあ当初の予定時刻までに戻ればいいかなと思って、構内のスターバックスでコーヒー飲んでひまつぶし。スタバは好きでないのですが、欧州のどこに行っても現れるスタバに辟易して、写真を撮りまくり、それをパワポにたくさん流し込んで授業で見せるという悪趣味なことを最近しており、多少の罪滅ぼしです(笑)。ちなみに学生の感想は、「欧州も日本と同じなのでつまらないかも」というのと「日本と同じなので日本と同じような気分で過ごせるかも」のいずれかで、どちらも消費文化のグローバル化という事象の表現に違いありません(拙稿「グローバル化と消費生活」、宮崎・古賀編『教師のための現代社会論』、教育出版、2014年、所収 も参照)。

1045分ころ乗車口に戻ったら、様子がおかしい。よく見ると複数の列車にdelayedの文字が並び、共通してdue to engineering works over-runningとその理由が示されています。個々の単語の意味はすべてわかるものの、実はこの手の表現というのがいちばん難しいですね。あとで考えると工事用車両のオーバーランということなのでしょうが、ともかく易しくない原因で列車が動いていないという状況だけはわかりました。鉄道会社の社員が何人か出ていて、乗客への説明にあたっています。私もその列に並び、チケットを見せて、カーディフに行きたいのですがどうすればよいでしょうかと訊ねました。「申し訳ございません。ここからの列車は動きません。地下鉄でウォータールーに行ってください。途中の乗り換えは要りますがカーディフに行くことができます。はい、この切符を見せれば、地下鉄にも、ウォータールーからの列車にもご乗車いただけます。列車の便などはウォータールーでお訊ねください」と、当方の英語があまりうまくないと見てか、かなり丁寧な説明がありました。

 
急きょ、地下鉄でウォータールー駅へ


どうもこれは、ただごとではないらしい。この時点で振替輸送の指示があるということは、パディントンからの列車は本当に発車の見込みがないということです。英国の鉄道網は、かつては国鉄が一体経営していましたが、1990年代に上下分離方式で分割・民営化されました。現在はインフラを管理するネットワーク・レイル(Network Rail)社と、24の列車運行会社があります。日本のネクスコ(高速道路会社)と高速バス事業者の関係と思えばだいたい当たっています(線路に「自家用列車」が乗り入れてくることはないけど)。ここパディントンを拠点とするのは、カーディフまで利用するはずだったファースト・グレート・ウェスタンFirst Great Western)社と、空港アクセスを担うヒースロー・エキスプレス(Heathrow Express)社。テムズ川をはさんで反対側(右岸側)にあるウォータールーWaterloo)駅は別の事業者の拠点だったはずです。お互い様とはいえ、乗客をライバル会社に振り替えればさまざまな面倒があるはずなので、地下鉄(London Underground)も含めて手回しされているということは大規模かつ長時間のトラブルということなのだと、瞬時に判断しました。

たいていの日本人旅行者なら「うわっトラブルだ、どうしよう」と慌てるか狼狽してしまうのではないかと思います。どうしようかという不安は私にもあるけれど、こうなったら意地でもカーディフに行ってやるわいという鉄ちゃんのプライドとか、海外でのおもしろネタが増えるなといった思いが勝っています(笑)。指示に従って地下鉄のメトロポリタン線(Metropolitan Line)に乗り、8つ目のウォータールーに向かいました。1994年にユーロスターが開業して2007年まで仮のターミナルとして使われていたところで、ナポレオンが最後に敗れた戦場の名(フランス語読みでワーテルロー)を冠しているため、フランス人はおもしろくなかったらしい。昨26日にロンドン市内を散策した際にこの付近を歩いていて、そういえばウォータールー界隈は初めてだなあと思ったものの、まさかそこから列車に乗ることになろうとは思ってもみませんでした。ウォータールーはサウス・ウェスト・トレインズSouth West Trains)社の拠点駅のようです。あとから調べると、ファースト・グレート・ウェスタンはイングランド中部、サウス・ウェスト・トレインズは同南部と南西部を縄張りにしている模様。こういうとき「国鉄」が生きているフランスはいいよなあとか、どうでもいいことが頭をよぎります。改札の前に立っていた中年男性の係員に訊ねると、カーディフまでの振替輸送はあるがどの列車でどう乗り継げばよいか自分にはわからないので、構内のインフォメーションでお訊ねくださいと。指示に従ってカウンターにおもむき、手持ちのチケットを見せて、カーディフに行きたいと告げました。係員は時計を見て、「1150分の○○行きに乗って、そこで乗り換えです」と案内。とはいっても、イングランドの地理はほとんど頭に入っていなくて、ロンドンを一歩出てしまうとどういう位置関係なのかちんぷんかんぷんのため、固有名詞はちゃんと聞き取らなければ。――もう一度、乗り換えの駅の名前をいってください。何という駅で? 「レディング、レディングです」と、ゆっくりと二度、発音してくれます。私も復誦しました。発車案内板に11:50 Readingとあるので、これだな。「読書中」とか誤読しそうやな。リュックの中に「イギリス」のガイドブックが入っていたので、イングランド南部の地図でどうにか位置関係を確認します。ああ、レディングがある。ロンドンの西の郊外といってよいところで、そこまで行けば便があるということは、線路トラブルはパディントン〜レディング間のどこかで発生したのでしょう。

 ウォータールー駅


発車10分くらい前にプラットホームが明らかになります。この運用が欧州では当たり前で、なぜなのだかよくわかりません。元の切符を見せて改札を抜けると、その列車にはもうすでにかなりのお客が乗り込んでいます。手近なところから中に入り、1人ぶんのスペースを見つけ、隣客に空席を確認してから着座しました。日本の新幹線と同じ標準軌(レール間が1,435mm)とはいえ車幅がさほど広くないように思うのに、狭い通路をはさんで2席+3席のクロスシートです。私が座ったのは3席側の通路寄り、新幹線でいうところのC席でした。隣は同年代くらいの夫婦、向かいはそれぞれ一人客のようで、真ん中に座ったおじいさんが当方に何か訊ねてきます。英語をよく聞き取れないでいたら、窓側のおばさんが引き取ってくれ、この列車はレディング行きでどうたらこうたらと延々説明していました。発車するころになるとデッキはもちろん座席間の通路にもかなりの立ち客が。土曜昼の近郊列車がこれほど込むのはおそらく平常のことではないはずで、年末だからというのと、ファースト・グレート・ウェスタンの事故の影響もやはりあったでしょうね。周囲の会話からも、この路線はよく知らないので、というような話が洩れてきました。当方と同じようなキャリーバッグとか、もっと大きなスーツケースの人が目立ちます。通常の近郊列車に、大荷物の人はさほど多くないでしょうから。

しばらくロンドンの町のつづきみたいなところを走っていましたが、1206分のリッチモンドを出たあたりで車窓が急に田園風景になります。ほぼ各駅停車。レディングまでどれくらいかかるか知らずに乗り込んだものの、体感としてはかなりの鈍足で、のぞみで名古屋まで行きたいのに熱海あたりまで東海道線の普通列車に乗せられちゃったような感じ。まあこんなことでもないかぎりイングランドのローカル列車に乗ることなんてないし、最近は飛び道具(航空便)に頼りがちでもあるため、話のタネとしてはいいですけどね。JRなどの英語アナウンスは“We will soon arrive at Nishi-funabashi.”という構文が多いですが、この路線では“We are now approaching Feltham Station.”というパターンです。JRや東京メトロが女性の声(名ギタリスト、クロード・チアリの娘のクリステル・チアリさん。この声好きなんだよね)なのに対し、この路線の自動放送はさわやかな男性の声で、発音もこれ以上ないくらい明瞭でした。日本の鉄道も、自動放送に関してはまあいいとして肉声のアナウンスがわがままなほど聞き取りにくい人が多いのはいけません。この旅行から羽田空港に戻って京急線に乗ったら、国際線ターミナルの乗客を飲み込んだとは思えないほどひどい肉声と、トンネル内でさっぱり聞き取れない自動放送でした。この種の設計に携わる人は、自分たちが初めての国で何を経験するのかを思い知るべきでしょう。列車はその先で牧草地とか防風林、さらには新しそうな工業団地などをたらたらと進み、1310分ころレディングに到着しました。途中下車の人もそれなりにいたけれど、最後まで立ち客はあって、レディング到着が告げられると「え、終点?」という会話が方々から聞こえてきたので、やっぱりこの路線のユーザーでない人が多かったのは確かなようです。

 サウス・ウェスト・トレインのレディング駅


着いたホームに降車した客があふれ、行き止まり式の先端にたどり着くのに34分かかります。人の流れを捌いている駅員さんに切符を見せて、カーディフはと訊ねると、「12番線または13番線」とのことでした。いまあらためてネット地図で確認すると、このレディングは基本的に東西に走るファースト・グレート・ウェスタンの幹線上にあり、サウス・ウェストはライバル社の縄張りに支線を延ばしてここが終点になっている模様。東武線が大宮とか船橋に乗り入れたり、近鉄線が河内長野に入っていったりするようなものだね。こういう支線のおかげで振替輸送ができるのだし、そもそもは一体の国鉄線であったのでした。混雑するホームにカフェと売店があったので、売店のほうに入って、クロワッサンを1個購入(₤1.30)。昼ごはんを食べる余裕はなさそうだし、売れ残っているサンドイッチがあまり美味そうじゃなかったのです。お水は事前に買ってリュックに入っています。表示に従って跨線橋に上がってみると、幅広で中間に店舗などもある新宿南口タイプ、いわゆる橋上コンコースで、ここは予想以上に大きな駅でした。おそらくファースト社の拠点駅のひとつなのでしょう。電光掲示の発車案内板はあるものの、どれが正常でどれが遅れているのかさっぱりわかりません。こういうボードはふつう発車予定順だと思うのだけど、なぜか主要目的地のABC順で、実際の要をなしていません。これに幻惑?されているあいだに、先発するブリストル行きを待たないままカーディフ、スウォンジー行きが出て行ってしまったようです。あれがそうかと見送ってから気づいたけど遅し。それこそ超満員でデッキまで人があふれていたから、乗れたとしても非常に不快なまま過ごさなければならなかったことでしょうけどねえ。ダイヤどおりならパディントン→カーディフは2時間20分だけど、こういうダイヤ混乱のときは何時間かかるかわかったものではありません。できれば着座したい。

 こちらファースト・グレート・ウェスタンの乗り場


正常ならカーディフ方面は1時間に1本の設定です。そばを通りかかった女性車掌に訊ねると、「おそらく今日の便はないと思いますよ」などと無慈悲な話。「私は列車の時刻をよく知りません。構内アナウンスがあるのでよくお聞きになってください」と。アナウンスといわれても、固有名詞やこういうときの言い回しを知らないため、どれが自分にとって有益な情報なのかがわからず、耳のすませようがない(笑)。場合によっては今日はこのままロンドンに戻ってどこかに宿を取り、カーディフのホテルには1泊ないし2泊キャンセルの電話を入れることになるか・・・などと思案していると、オレンジのウェアを着た男性の駅員さんが説明に現れました。周囲のお客がたちまち彼を取り囲んで質問というより尋問します。たぶんわからないだろうけど、こっちも話の輪に入らなきゃ。そこにいた20人ほどのうち、5人くらいが尋問、いや難詰だな。詳細ははっきり聞き取れないものの話の筋はわかります。「このあと○○の予定があるのに、どうしてくれるんだ」「行けなかったらお前の会社はどう責任をとるのか?」「こうなるとわかっていたらロンドンを離れなかった」「払い戻しできるのか、いますぐできるのか?」などなど。胸の名札にAl-がついているので中東系とおぼしきハンサムな駅員さんは、私から見ればかなり誠実で、一つ一つ丁寧に答えています。でも、彼が“I’m sorry”というのに、初老のおじさんが“Yes, you are sorry”(そうだ、お前が悪い)と毎度かぶせるので話が進まない! 何をどう説得したのか、5分くらいして輪がいったんほどけた隙に、アルさんに近づき、英語が得意でないので私にもう一度情報をくれますか、カーディフに行くにはどうすればよいですか、と訊ねました。答えはシンプルに「フォーティー・ファイブ・ミニッツ。わかりますか? 45分この場所で待っていてください」。――Forty-five minutes, here.と復誦して確認しました。出発案内板には1437分発のスウォンジー行きがon timeと表示されていますが、45分後といえば15時くらいです。この状況でダイヤどおりの運行というのはありえないし、他の方面もそれぞれ数十分遅れての運行のようなので、1437分(あるいはそれ以前の便)が遅れて15時ころに入線するのだろうと予想。無用にうろちょろしているとまたも取り逃がしてしまうから、近くのベンチに腰かけ、クロワッサンをかじって忍耐強く待ちます。量産型の日本人ならスマホいじる場面だろうな。私、海外には携帯端末を持ち出さないのです。ま、小さな画面に支配されるカワイソウな人たちの多くは、こういう状況で適切に情報を得て行動するということはできないでしょうね。鉄道のしくみの知識とそれなりの英語力がなければダメだし、デジタルな思考回路になってしまっていると、「混乱」「異常」というアナログな場面にどうアプローチすればよいのかわからないだろうから。

 苛立つ乗客に囲まれ、丁寧に説明する駅員さん


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時を回って、遅れていた列車が断続的に、それも順序がめちゃくちゃなまま入線するため、ホームへの立ち入りは制限され、そのつど駅員が階段の上で臨時改札のような作業に入ります。それでも規制線?をくぐって勝手にホームへ飛び出していく人がぱらぱら。13番線のスウォンジー行きも、制限を振り切って多くの乗客がホームに降りていってしまったため、やむなくという感じでロープが解かれました。1445分ころのことです。まだ列車が入っていないホームを見て、おやと思う。架線も第三軌条(線路に並行して集電用のレールを設置し、台車に取りつけられた集電機を接触させるもの。東京メトロの銀座線や丸の内線、大半の大阪市営地下鉄などが該当し、イングランドの電化区間の大半が採用している)も見えないので、ファースト・グレート・ウェスタンの幹線は非電化路線なんですね。1503分ころ、ブルートレインのような深い青色の列車が入線。3列におとなしく並ぶ・・・などということはあるはずもなく、どこがドア位置かもわからないままごちゃっとしているので、こちらも負けてはいられず(?)、人の柱をすり抜けてすばやくドアに駆け寄り、何と2番目に車内に入ることに成功しました。2列+2列の固定クロスシートで、通路側の1席が空いていたので、窓側の兄さんにあいさつして、座らせてもらいます。キャリーバッグは網棚(網じゃないか)の上に。若いころは特急自由席乗り放題のワイド周遊券であちこち乗りまわっていて、途中駅から乗って空席を確保するワザというのをそれなりにもっていたものです。昔とったる杵柄やな〜。やはり通路にも立ち客が出て、肉声の車内放送で「できるだけ多くの方が座れるよう、車内中ほどにお繰り合わせください」と繰り返しています。窓の外を見ると、先ほどのアルさんが窓を叩いて、「通路のお客さん中ほどへ」と手で指示。

 
(左)ダイヤが乱れてホームも混乱(これは乗った列車ではありません)  (右)スウォンジー行きの車内


列車が動き出したのは1515分ころでした。最も昼間の短い時期なのでもうすぐ日も暮れるころでしょう。いずれにしてもカーディフには「夜」の到着になるから、きょう1日は移動だけで終わってしまうのはやむをえません。ロンドンに戻るという可能性も考えていたほどなので、着ければ上々と考えるしかないですね。スウォンジー行きはぐんぐんパワーアップして、トップスピードでの走行に入りました。床下から聞こえるエンジン音はまさしくディーゼルカーで、北海道か山陰地方の特急に乗ったような気分よね。12年前に利用したグラスゴー〜エディンバラ間もディーゼルカーだったのを思い出しました。女性車掌のアナウンスがあり、「ファースト・グレート・ウェスタンをご利用いただきありがとうございます。本日はトラブルの影響で列車の運転がたいへん遅れておりますこと、重ねてお詫び申し上げます」と実にやわらかな物腰。アナウンスがあるたびappologizeといわれるので逆に恐縮です。

しょっちゅう旅行していると、旅先で大小何やらの出来事に遭遇することがなくはありません。予定は狂ったけどどうにかカーディフにたどり着いたことだし、何があったのかその場でよくわからなかったことを、新聞の電子版などで確認してみましょう。フィナンシャル・タイムズ、BBCなども大々的にこのニュースを報じています。ここでは南ウェールズの地元紙を参照。


スウォンジー〜ロンドン間の鉄道で大規模な不通 工事用車両のオーバーランで
Major disruption on Swansea to London Paddington railway as engineering works overrun

きょうスウォンジーとロンドン・パディントンの間で、工事用車両のオーバーランが原因で大規模な不通が生じた。ファースト・グレート・ウェスタン社によれば、ロンドン内外の幹線の列車は運行不能となり、乗客は代わりにレディング経由で、または地下鉄のイーリング・ブロードウェイに向かうこととなった。事故車両がロンドンの駐機場で立ち往生してしまったため、列車は1時間1本程度に減便されることになった。ファースト社のスポークスマンは「これは、ネットワーク上で工事用車両がオーバーランしたことに伴って生じた問題に起因するものだ」と述べた。「私どもはすでに緊急用のタイムテーブルを運用しはじめている。これにより、通常なら2時間かかるであろうスウォンジーやカーディフからの列車が1時間ほどで走れるようになった」。同社は着席できなかった乗客への対処も可能であるとしている。午後3時には通常の運行に戻れる見込みという。乗車券を予約しながら旅行しないことを選択した乗客は、払い戻しを受けられることになりそうなので、同社の最新のサイトをチェックすることをアドバイスしたい。
South Wales Evening Post: 27/12/2014


速報記事なので、JR北海道の一連の問題みたいな背景や構造が見えなくて消化不良ですが、終わったことだし、座れたから、まあいいか。たしかに₤38.90も払って予約したのに立ったまま予定の3倍もの時間を要したなら「対処」してもらわねばなあ(JRの特急は2時間オーバーで特急料金ぶんを払い戻し)。フィナンシャル・タイムズの記事では乗客がカリカリ、いらいらしている写真が掲載され、chaosという表現を使っていました。私が直接体験した状況は別にカオスというほどではなかった。日本の新聞なら「帰省客イライラ 故郷への足を直撃」とかいう見出しになるんでしょうね。


カーディフ 夜の情景

たくさんのお客を乗せてレディングに現れたこの列車がどこから来たかといえば、ロンドン・パディントンに違いなく、あのまま3時間以上待機していたほうがよかったかどうかは不明。11時前の時点で運行の見込みがまったく立っていなかったですからね。結果がよければよかったことにしよう。この列車に乗ってしまえばあとは疾走に近くて、1546分ころスウィンドン(Swindon)着。地図を見るかぎりロンドン〜レディングとレディング〜スウィンドンが同じくらいの距離です。アラブ風の音楽をスマホで(イヤホンなしで 笑)聞いていた隣席の兄さんを含めて下車する人が多く、でもまだ立ち客がありました。隣席には代わって白人の兄さんが座り、さっそくLINEに夢中。女性車掌のappologizeに切なそうなため息が混じってきて、いい感じになってきました(へ?)。1616分ころブリストル・パークウェイ(Bristol Parkway)着。ブリストルはかなり大きな都市と承知しており、地図を見るとここは都心から離れた本線上の「新ブリストル駅」の模様です。ブリストル行きの列車はかなり運休になっていたようだから、これに乗ってきた人が多いらしく、ここでだいたい立ち客がなくなりました。1630分ころ、列車はトンネルに入ります。ブリストル海峡を越える海底トンネルでしょう。トンネルを出てほどなくニューポートに到着。駅名票のNewportの上にCasnewyddと、何をどこからどう読んでよいのかわからない単語が表記され、ウェールズに入ったことが視覚的にわかりました。おそらく地名の意訳があるのでしょう。1645分ころ、無事に、というかどうにかカーディフ中央駅Cardiff Central / Caerdydd Canolog)に到着。本来なら1326分に着いているはずで、3時間遅れなら被害最小かなとか思ってしまいました。

 
カーディフ中央駅 構内の案内表記はすべてウェールズ語/英語


ここでようやく本題のスタートです。ここカーディフCardiff / Caerdydd)はウェールズWales / Cymru)の首都です。周知のように、私たちがイギリスとか英国と呼びならわしている主権国家は、正式にはグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(The United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)と呼称し、イングランド、スコットランド、北アイルランド、そしてこのウェールズの4つのCountryにより構成されています。私はといえば、24年前にイングランド、12年前にスコットランド、10ヵ月前に北アイルランドを訪問しており、これでUKをコンプリート。しかもロンドン、エディンバラ、ベルファスト、カーディフと「首都」をそろえており、それ以外にはほとんど足を伸ばしていないので(スコットランドでは前述のようにグラスゴーに行った)、コンプリートとはいってもかなりキセルの疑いが濃厚です。ウェールズに行ったよといいたいために、ロンドンから見ていちばん手前のカーディフを手っ取り早くねらったみたいでお恥ずかしい(そのとおりだけど 笑)。本当はウェールズ北部の、それも田舎のほうに行って、ウェールズ語を第一言語にしている人たちに出会えばいいんでしょうけどね。せめてカーディフの先にあるスウォンジー(Swansea)には日帰りで足を伸ばそうと考えていたけれど、この日のトラブルでどうやら難しくなりました。カーディフだけ見てウェールズを語る気にはとてもならず、テーマを「地方都市散策」に切り替えて(ダウンスケールして)、せいぜい楽しく回ることにしよう。

 
 
スリーパーズ・ホテル(外観は28日朝のもの)


駅舎を背に、右方向に30秒だけ歩けば、予約したスリーパーズ・ホテル・カーディフSleeperz Hotel Cardiff)。住所が“Station Approach”なので駅前広場の一隅に立つ、最高の立地です。カーディフへの旅程がなかなか決まらなかったこともあってホテルの手配を失念しており、羽田を出発する前日の24日夜に大手サイトで探してブック(予約)しました。ビジネスホテルのチェーンと見受けますが、2泊で込み込み₤101.30(朝食は別途、1回あたり₤8.95)と、駅前にしてはかなり安い。もう暗くなっているので、地図も見ないでささっとチェックインできるのは結果的によかったです。レセプションでは30代くらいの女性が対応してくれました。「カーディフは初めてですか?」――ええ、ウェールズに来ること自体が初めてです。ロンドンから列車で来たのですが長い道のりでした。「列車で? それはそれは」と、ニュースを知っていない様子。朝食をご希望ならいま予約してくださいといわれ、2食ぶんを頼み、宿泊料ともどもVISAで事前決済となります。カードキーを渡され、最上階の5階へ。これはまた、絵に描いたようなビジネスホテルで、台形の部屋に無駄なくベッドと水まわりを配置している。なぜか2段ベッドですね。水まわりはとても清潔で好感がもてます。8月末にスイスのルガーノで、大手チェーン、イビスの廉価版(ibis Budget)に宿泊しましたが、設備とクラスは似たようなものでしょう。予約サイトではイビス(英語圏ではアイビス)も推奨されたけど、駅前を選んじゃった。

「夜」になっているとはいえ、まだ18時前です。昼はクロワッサン1個でしのいだこともあって、夕食はきちんととりたいですね。カーディフの本格的な探検は翌日まわしにして、まずは目抜きあたりを歩いて感覚をつかみ、どこか適当な飲食店を見つけよう。

 
夜のカーディフ (左)目抜きのザ・ヘイズ  (右)ロイヤル・アーケード


駅前のホテルを出てすぐのところで、市街地のメインストリートとガイドブックに紹介されていたセント・メアリー通り(St. Mary Street)を渡ります。道路を覆うように大きな星型のものを含めたクリスマス・イルミネーションが光っていて、華やか。とくに目を凝らさなくてもパブがあちこちに見えますので、滞在中に行ってみよう。通りを渡ったところはミル・レーン(Mill Lane)という遊歩道になっていて、レストラン、パブ、クラブなどの飲食店関係が軒を連ねています。若者が目立ちますね。道なりに進むとザ・ヘイズThe Hayes)という歩行者専用の通りになります。ジョン・ルイスなどのデパート、おなじみスターバックスやH&Mなどのファスト関係、貴金属店、ブティックなどが立ち並ぶ、どうやらカーディフの商業的中心らしい。人通りもかなりあります。土曜の夜ですし、2526日を家庭でゆっくり過ごすのだとすれば、27日は外に出て発散したくなるよね。この通りに面してアーケードの入口が何ヵ所かあるので、入り込んでみたら、セント・メアリー通りとのあいだを縦横にむすぶ回路になっているようで、大半はクローズしているものの商店のウィンドウが並んでいて楽しい。パリのパサージュとはまた全然違う雰囲気です。

ヘイズ東側は、どうなっているのか外側からは十分に判断できないほど大きな商業施設。ショッピングセンターと呼ぶべきなのでしょうが、道路をはさんでいくつものブロックに分かれていて、やはり縦横のアーケードのように造られています。ここにも若い人の姿が非常に多い。方向感覚を失いながらもテキトーに進むと、有名デパートのディベンハムズ(Debenhams)、それからデパートというよりファストファッション的なスーパーというべきマークス&スペンサー(Marks & Spencer)もあるな。前の日はロンドンのM&Sで晩酌用の酒類を買ったし、ここでもそのようにしよう。ホテル0階にラウンジがあって24時間飲めるみたいだけど、部屋着になってのんびり動画見ながら飲むほうが自分のペースとしてはよいです。M&Sの食品売り場には、2月のダブリンでも世話になりました。このチェーンはPB商品の開発に力を入れており、安くて安定感があるので、旅行者にはいいかもしれません。2014年下半期は奥歯の痛みとの戦いで明け暮れ、固形物を満足に食べられない時期もけっこう長かったため(ここを順接にしてよいのか?)、アルコールの量が増えています。このところの主力はスパークリング・ワイン。たいていはシャンパーニュではなくスペインあたりの物産です。充実したリカー売り場をのぞくと、200mLのスパークリング(₤3.75)があったので即決し、チェコのビール、ピルスナー・ウルケルの小瓶(₤1.50)、PBのナチュラル・ミネラル・ウォーター(英国ではstill waterと呼ぶことが多い ₤0.65)、それからつまみとしてPB商品のソルトピーナツ(₤1.00)。ピーは200gもあったので大半を日本に持ち帰り、三が日のあいだつまんでいました(笑)。なおレジ袋に₤0.05課金されています。

 中心部の巨大商業施設
 M&Sのソルトピーナツ Produce of China, packed in the UKとあります やっぱりね


それにしても、都心部を見るかぎり思った以上ににぎやかで華やかな町だな〜。大方のところはロンドンと、というより世界中の都市と同じようなラインナップで個性のない消費の世界ですが、それでも地方都市の崩落する現場というのを国内外でずいぶん見ていますので、見たところはそうしたことにはなっていない模様。地図や住居表示など公共の掲示物がバイリンガル(二言語併記)でなかったら、どの地域だか判別しにくいかもしれません。個性、特徴のあるところは、明日あらためて探索することにしましょう。市街地北側の、飲食店が立ち並ぶ地区を歩いてみましたが気になるところがないので、セント・メアリー通りを出入りしながら南、つまりスタート地点の方向に戻ってきました。

 
クリスマス・マーケットも出て明るい夜のカーディフ


キャロライン通り(Caroline Street)という細い道は、飲食店街といってもケバブ、ギリシア風パンなどの軽食のゾーン。これはこれでおもしろいので、機会があれば寄ることにしますが、今回はもうちょっときっちりした食事にしたいんですよね。パブめしでもいいけど、前夜はロンドンのパブでコッテージ・パイを食しているので重ならないほうがいいかな。それにしても、ロンドンといいカーディフといい、英国で「レストラン」の種類としていちばん多いのはイタリア料理なのではないかしら、というほどにイタめしばかりです。


結局、最初に歩いたミル・レーンまで戻ってきました。1軒の上品そうなブラッスリーが見え、掲出されているメニューを見てもほどよい値段なので、入ってみました。Côteというそのお店は、かなり大規模なチェーンなのだとあとで知りました。ウッディな内装と間接照明でいい感じじゃないですか。接客もなかなかスマートで感心します。Brasserieという設定とかメニュー構成を見ればフランス料理であることは明らか。何となくだけど、イタリア料理よりもフランス料理の気分なんだよね。とくに張り切った料理名があるわけでもなく、一品ものも思いつくようなところはだいたいフォローしていますが、Plats Rapidesという囲み記事が見えます。説明は英語だけどタイトル部分は全部フランス語で、いいのかな? Plats Rapidesは「速い料理」、まあクイック・メニューといったところで、ステック・フリット(ビフテキとフライドポテト)、カモのコンフィ、コッド(タラ)のパン粉焼き、鶏のグリル(poulet grillé)の4種類で、いずれも₤1012あたりとお手ごろ。よっしゃ、チキンにするかな。英語の説明ではChargrilled butterfield chicken breast with wild mashroom, crême fraîche and thyme sauce, served with gratin potato(バター風味の炭焼きチキン、天然マッシュルームおよび生クリームとタイムのソース、ポテトグラタン添え)となっています。う〜んよくあるフランス料理(笑)。クリスマス当日は東京からの移動日で、乗り継ぎのフランクフルト国際空港でフランクフルター・ソーセージとビールというイカニモ系だったから、あらためてのメリクリ・ディナーにしよう(1年前の1225日はバルセロナで鶏モモのローストを食べていました)。

 
27日夜のディナー


先客は2組だけでしたが、私の着席した直後に23組入ってきました。店員さんがみな若い女性で、しかもそろって美人なのはなぜかな? 飲み物はグラスの赤ワイン。ほどなく料理が運ばれてきました。クイック・メニューだけあって、おそらくはソースや付け合わせは事前にセットされていて、注文が入ったら肉を焼いて盛りつければいいようになっているのでしょうね。本来はぱさぱさの胸肉に生クリームのソースがしっとりからんで、普通に美味い。実はまだステーキ系統を噛む自信がありません。症状を訴えても首をひねるばかりの近所の歯医者さんを見切って、大学の保健室に紹介してもらった津田沼の歯医者さんに切り替え、かなり本式に治療(というより工事)してきて、ようやく最大の病因を取り除き、仮のフタをしているところです。工事はあと2ヵ月くらいかかりそうです。とはいえ、この程度の鶏肉なら難なく食べられるようになったのは本当にうれしい。8月の旅行中にフランスとスイスとイタリアの3ヵ国にまたがって発症したときには、痛さのあまり涙を流しましたけれど、いまは普通のことのありがたさに涙が出そうです(ウソ)。勘定を頼むと、メインが₤10.95、ワイン₤4.50、食後のエスプレッソが₤1.95で、他にoptional service chargeとして₤2.18がカウントされていました。英国ではめずらしくなく、フランスでもたま〜に見るサービス料、日本でもないことはないですが高級なところに限られますかね。サービス業なのだからサービスするのが当然で、12.5%も自動的に加算するのはどうかと思うものの、まあそういうものだから仕方ない。いわばチップの強制なので、それ以上のチップは不要ともいえるけれど、気持ちよく食事できたので42ペンスだけ心づけということにして、エリザベス女王の肖像が描かれた₤20紙幣1枚を渡して精算完了。ごちそうさまでした! 財布の中には、2月の北アイルランドでATMから引き出したアイルランド銀行券の₤20があと4枚入っていて、別にイングランドやウェールズで使っても何ら問題はないはずですが、どうも気分的に遠慮してしまいます。帰りのヒースロー空港で全部使っちゃおうかな。

 

PART2 につづく


*この旅行当時の為替相場はだいたい1ポンド=187円くらいでした


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