Bienvenue à Paris! 別冊ドイツ編
ドイツの |
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PART 1
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憧れのドイツに初入国しました。まあ当方、ナショナリズム批判が本務でありますし、パリとフランスとを日常表現においても厳格に使い分けているので、国名をいうのが妥当かどうかわかりません。まして今回訪れたのは、ベルリンでもフランクフルトでもなく、地域的にはかなり西に偏っているから。ここ4年ほど、パリ滞在に別の1ヵ国をからめるのが通例になっています。今回はそういうわけで、ノルトライン・ヴェストファーレン州(Nordrhein-Westfalen)への・・・いいや面倒だから。ドイツへの小さな旅と相成りました。
金曜午前8時55分、通勤客もまだ多いパリ北駅(Gare du Nord)を国際特急タリス(Thalys)で出発。タリスは世界最速のTGV(新幹線)を成功させたフランスのノウハウを生かして、流動の大きな西欧4ヵ国(ドイツ・フランス・オランダ・ベルギー)をシャトル的に結ぼうという発想で設定された特急です。ワインレッドの車体にはなかなか重厚さが感じられます。TGVと違って「在来線」を行くのですが、路線の中心であるパリ・ブリュッセル間は線路規格がよく、新幹線並みに高速で突っ走ります。日本の新幹線・在来線は線路幅が異なる(1,435/1,067mm)のですが西欧はすべて1,435mmだから都合がよかろう、とまでは思うのだけど、電圧方式が国ごとに違い、4種類に対応するややこしいしくみになっているんですよ(これは英仏特急ユーロスターも同じ)。さらにいうと、日本の新幹線はすべての車両が動力車(モorクモ)なのに対して、タリスやTGVやユーロスターは、いちばん前と後ろに動力車をつけ、あいだに付随車(サ)をはさみ込んだ構造なのです。
北駅は国際色豊かなターミナル
と、鉄道マニアックな話はそのくらいにして、出発進行!
このタリス9417便は、パリ北駅〜ケルンHbf(Köln Hauptbahnhof:中央駅)を3時間50分で結びます。途中ブリュッセル・ミディ(Bruxelles
Midi オランダ語ではBrussel-Zuid:南駅)、リエージュ・ギルマン(Liège Guillemin オランダ語ではLüik)、アーヘンHbf(Aachen Hbf)に停まり、ブリュッセルまでは1時間25分。そこから先の線路は、距離的には同じくらいなのに、やっぱり高速走行に適しないのかもしれません。もっとも、お客さんもブリュッセルでかなり入れ替わります。2年前はアムステルダム行きに乗って、ベルギーの工業都市アントウェルペン(Antwerpen フランス語はアンヴェールAnvers 英名アントワープAntwerp)に行きました。ケルン行きは、ブリュッセルで分かれて東に進みます。同じベルギーでも、アントウェルペンなどはオランダ語圏であるのに対し、この列車が走るリエージュ方面はフランス語圏。で、その先の国境を越えるとドイツなので、どこがどうなっているのか興味津々です・・・。12時03分、アーヘンHbfに停車。きょうの目的地は終点のケルンで、アーヘンには翌日の宿を押さえてあるのですが、ここに下車せねばならなかった事情が。
欧州は鉄道文化が非常に発達しており、儲からない路線・系統が次々にめくられてしまう日本よりもずっと利用しやすいのですが、季節や曜日によってダイヤが変動すること、運賃・料金が単一基準でないことで、どうもわかりにくい面をもっています。後者のことでいえば、往復と片道で相当に違うということが非常に多い(日本のJRは片道600kmを超える場合のみ帰路の運賃が2割引)。まあ、いつどのエージェンシーで買うかによって航空運賃が変動するのにはこのごろ慣れてきたし、そんなものだと思えばいいのだけど、さて困ったのは、パリ→ケルン、アーヘン→パリというパターンを採る今回の旅行で、どういう切符を用意すればいいのか。アーヘンまで2等片道で80.50ユーロ、同じくケルンまで85.50ユーロ、ケルン往復では128ユーロとなっています。これだけ違うと片道ずつ買うのがバカらしくなるのだけれど、問題は帰りに、アーヘンでの「飛び乗り」を認めてもらえるかどうかです。日本の考え方だと、運賃と特急料金は別建てで、100km以上であれば通し切符の途中下車は何度でも認められますし、特急指定席をとっていて「飛び乗り」しても単純な権利(一部)放棄ですから問題ないのですが、あちらは一種のパッケージ料金。現地であれこれトラブルになるのも嫌だし、やりとりするほどの語学力はないし・・・。
欧州鉄道旅行では定評のある地球の歩き方旅プラザ(新宿)に出向いて相談したら、係りの人も「難問で、わかりません」とのお答え。権利放棄を主張しても、座席が空いていたら他人に転売されることはよくあるし、何より外国では車掌さんによって取扱いがかなり違うんですね。まあそうであれば次善の策をというので、アーヘン往復(121ユーロ)を選択し、アーヘン〜ケルンはローカル列車で移動することにしました。トーマス・クック時刻表によれば同区間は1時間ほどだし、列車も毎時走っているようだから問題ないでしょう。むしろ、タリスに4時間近くも乗っているよりは変化があっていいかもしれません。この際なので新宿の窓口で指定もとってもらいました。手数料2100円込みで2万円ちょっとだったから、慣れない外国語であれこれ説明してどきどきすることを思えば安いものです。
タリスでドイツ初上陸(アーヘンHbf)
そんなわけで、古賀のドイツ初上陸?の地はベルギー国境にほど近いアーヘンということになりました。街の観光は翌日回しにすることにして、まずはケルンまでの乗車券を買わねば。駅はホーム4面くらいと中くらいのサイズですが、ほとんどのホームを工事しており、地下通路もコンクリートむき出しと、まったく無体裁の状態(笑)。小さなコンコースに面して、こちらは相当にきれいなチケットセンターがあります。フランス式だとアクリル板の仕切りがあり「刑務所の面会」状態ですが、ドイツはオープン。ベルギーもそうだったけど、この方式のほうがいいですよね。中年の男性職員が、英語とフランス語をちゃんぽんにした説明を聞き届け、ケルンHbfまでの往復切符(25ユーロ)と、次の便の情報(発・着、番線)をプリントアウトしたものを出してくれました。それによると12時49分発→ケルン13時42分着。おーお手ごろじゃん。持ち時間が30分ほどしかないので、これも工事中の駅前広場を横切り、ホテルや地味な商店の並ぶ通りを上り下りして付近の様子を見ました。アーヘンは歴史の街で、さほどの規模はないはずだと考えていましたが、まあそれほど予想と違っていません。もっとも、欧州の都市は、市の中心と鉄道駅がかなり離れていることがざらなので、目抜きに行ってみなければわからない。この日はそこまで余裕がありませんでした。
そうそう、私は、フランス語だけがどうにか用事を果たせるレベルで(ヒアリングに難)、英語はかなりやばく、ドイツ語はといえば、こんにちは・ありがとう・さようなら、しか知りません。数だって3までしか数えられませんです。大丈夫なのかねそれで。
ケルン経由ハム行きRE(地域急行)はオール2階建ての電車。リエージュあたりからつづく、やや凹凸の多い森林地帯を走ります。おや、ドイツの鉄道は右側走行なのね。タリスはどこかでクロスしたのかな。乗客は各ボックスに1人ずつ程度ですが、元気な子どもや、知り合いらしい車内販売を呼び止めて延々とおしゃべりに興じる兄さんなど、なかなかに賑わっています。何となく盆地っぽいところに出ると、車窓に集合住宅などが目立つようになり、ケルン郊外に入ったのだなとわかりました。定刻どおりケルンHbfに到着。Kölnと綴りましたけれど、ドイツ語のöはオの口形でエと声を出すんだそうで、クールンみたいに聞こえるなあ。フランス語ではコローニュ(Cologne)と呼びますが、なるほど発音的には近いのね。
余談ですが、欧州の諸言語は(アジアだってそうだけど)他国の国名や都市名を勝手に呼び変えることがあり、ときどき原形をとどめないものになることもあります。アーヘンはフランス語ではエクス・ラ・シャペル(Aix la
Chapelle)っていうんですよ。ドイツの国名はアルマーニュ(Allemagne)で、フランスの新聞でRFAと出ていたらドイツ連邦共和国(République
fédérale d’Allemagne)のこと。まあお互いさまで、ドイツ語ではフランスのことをフランクライヒ(Frankreich)といいますからね・・・。アルマーニュは(民族移動期のゲルマン系)「アレマンニ人の国」、フランクライヒは「フランク帝国」の意味であります。古賀はいま、アレマンニ人の国へとやって来ました。
ケルンは、中世の大聖堂と大学で知られる古い街ですが、それ以外の予備知識はほとんどない。私の一人旅はいつだってそうで、何となく知っているけど、それほど知っているわけでなく、これといった動機や理由がないのにそこへ行きたくなるのです。幼いころから穴が開くほど地図を眺め、直感的に地名に惹かれることが多かったからかもしれません。ともかく、小雨っぽいし、駅前にそびえる大聖堂(これほどターミナルに近い名所もめずらしい)の横を通り抜け、インフォメーションへ直行。今宵の宿を決めねばならんのです。都市の規模に不安のある(日本のガイドブックには宿の情報がほとんどない)土曜日のアーヘンについては出国前にネットで予約しており、ケルンもやっちゃおうかと一瞬思ったのですが、何もかも日本で手配するのもおもしろくないので、現地での成り行きまかせ。2年前のベルギー旅行でも、街のインフォメーションで希望どおりの宿を確保した経験があるし、どうにかなるでしょう。世界的な観光都市だし。
センターの地下に設けられていたホテル紹介デスクを訪ねると、20代くらいのスマートなお兄さんが1人勤務。さっそく、ホ、ホテル・・・リ、リザヴェーションもごもご〜と英語で話しかけてみましたが、相手の問いについフランス語でウィ(Oui)などと答える。「フランス語のほうがよろしいですか」と思いがけないお訊ねなので、お言葉に甘えましょう。フランス国境に近く、歴史的に因縁浅からぬ場所でもあるし、交流も多いだろうから多少のフランス語は通じるのでないかと思いましたが、こういう場所での仕事には、たぶん数ヵ国語が必要なんでしょうね。お兄さんのフランス語はびっくりするほどきれいなもので、合いの手の入れ方などもフランス人と同じ。こちらも調子が出てきて、街の中心部に近く、高くても60ユーロくらいまでで、と希望を伝えます。宿を予約するときは、(1)場所、(2)料金、(3)部屋の設備(シャワー、室内トイレなど)、をはっきり伝えることです。相手の手持ちでそれらを満足させられないときには優先順位をつける。欧州の旅行に慣れてくると、そういう作法もわかってきます。お兄さんは3件ほどの候補を提示し、いずれも(2)(3)は似たようなものなので、Hbfから5分ほどと中心部に近いところを選択。60ユーロといったのは、ベルギーの地方都市ヘント(Gent 英名ゲント)で街中の小ぶりな宿が55ユーロだったこと、ネット予約したアーヘンのホテルが、有名チェーンだけど49ユーロだったことから類推したのです。紹介されたHotel Harmonie(調和ホテル?)は1泊朝食つき50ユーロちょうどと、ドイツ有数の都市なのに実にリーズナブル! パリの常宿レスペランスが1泊素泊まり70ユーロで、これでもかなり安いほうというくらいパリの宿泊料金は高いんですね(通貨統合のおかげで物価の比較は容易になったね)。インフォの紹介料が別に3ユーロ。
ホテル・ハーモニー(ケルン)
14時ころ、さっそくハーモニーホテルを訪ねると、駅裏の住宅地のようなところにありますが、外観はすっきりしており、レセプションまわりは木目調で非常に清潔。若い男性のホテルマンがていねいな英語で応対してくれ、見たことのないタイプのカードキーだと思っていたら手近なドアで実演してくれました。部屋は小ぶりながら日本の標準的なビジネスホテル並みで、アメニティを含めて充実しています。英国にB&B、フランスにはプチホテルといった独特の宿文化があり、ドイツについては一例目なので何ともいえませんが、私たちがイメージする「ホテル」そのものといった感じですね。
荷物を置いて(といってもリュック1つで入国したのですが)身軽になって、さあケルンの探訪に出かけよう!
と思ったが、紙幅が尽きました。つづく