Bienvenue à Paris !
<超主観的パリ入門> 実際に渡仏される方、とくに初心者の方は真に受けないでね・・・。

16- Fast food (ファストフード)

何ともパリらしからぬテーマだけど、世界の他の主要都市と同様に、パリジャンはファストフードがけっこう好きですよ。というか、東京人の私も好きで利用するというより、適当な価格でサービスも安定しているから入るのであって、それは世界じゅうで同じだと思うのです。マクドナルド文化はジャンキーさんたちだけで成立しているわけではありません。

マクドナルドは、それこそ街区ごとにあります。サイトで検索したらパリ市内だけで65店舗だそうで、ひょっとすると東京より高密度かもしれません。シャンゼリゼなど、景観に配慮してコーポレートカラーを変更しているところもありますが、基本的には私たちがよく知っているあの姿。また、そうでなければ国際チェーンの意味はありません。ハンバーガー(で、通じますが、フランス訛りでいうとビュルガーっていう感じになります)もあるしフィレオフィッシュもビッグマックもあるよ。フランス語でムニュ(menu)というのはお品書きではなくて「定食」のことですが(41- Restaurant (2)参照)、ムニュなんとかというのが数種類、要するにポテトと飲み物のついたセットメニューですな。たしか、5ユーロ前後からあったように思います。マキシ(Maxi)という名のムニュは、ポテトとドリンクが特大サイズのもので、鼻血が出そうですな。飲み物の選択肢にエヴィアンが入っているのがお国柄。フランス人の大好きなコカCoca コカコーラのこと)は当然ございますです。

パリにまで行ってマックでもないよな、とはいうものの、小腹がすいたときに店内に座って安いものを食べようということになるとファストフードということになり、いきおいどこにでもあるマック、ということに。常宿ちかくのレ・ゴブラン(les Gobelins)に1軒あり、ときどきポテトをお持ち帰りします(ビールのおともだわね)。おっと、フランスでの省略形は関西と同じでマクドやで(ただしにアクセント)。

フランスでマクドナルドと並ぶハンバーガーチェーンといえばクイックQuick)です。もともとベルギーのチェーンで、1980年代以降にフランスへ出店し、後発ゆえにアイデアを次々に繰り出して勝負を挑みます。今ではパリといわず地方といわず、とくに市街地にはことごとく進出しており、「マクドあるところにクイックあり」と思えるほど店舗が近接しているケースが多い。どっちが好きかというのはほとんど趣味の問題でしょう。どうも油っぽい印象があるのだけれど、気のせいかも。サラダやチキンなどのサイドメニューが充実していて、ビールを飲むにはいいかもしれません(マクドにもビールはあります)。かなり以前、日曜のオルレアンでカフェなどがことごとく閉まっており、やむなくクイックを利用したら、超スローペースだわお姉さんは外国人(古賀)を相手に早口トークを緩めないわで、ファストフードといってもサービスの質はいろいろだわいと思ったことです。もっとも、マクドも含めて、サービスは全体にスローモー。パン屋だろうと薬局だろうと行列するのがフランス人で、ファストってどんな意味だよ!というくらい待たされることもありますぞ。カフェでサンドイッチ頼んだほうが早かったりして。

マクドでもクイックでも、ポテトをとると、ケチャップとマヨネーズがついてきます。ついてこないお店でも、頼めばもらえますよ。ケチャップはともかくマヨネーズというのはびっくりですが、オランダやベルギーではこれが定番らしく、フランスでもかなりの頻度でやっている。フライドポテトだけでも肥満の敵なのに、マヨネーズですか。はあ。

パリでお店に入って食事をしようと思ったら、カフェめしでもけっこうな値段がして、「ちょっとうどんを一杯」というあたりが無いんですよね。そこで重宝するのがチェーンのカフェテリア(セルフサービス式のレストラン)。いろいろありますけれど、ブリオッシュ・ドレLa Brioche Dorée)はどこにでもあって便利です。持ち帰りのパン屋だけのところもありますが、イートインを併設しているところが多く、キッシュとカフェオレ(古賀先生はクローネンブール!)で5ユーロくらいとお手軽です。各種セットメニューもあります。パリジャンに聞くと、このチェーンのことをよくいわない人がけっこういるのですけれど、そのわりにはどこでも込んでいます。なお、店名にもなっているブリオッシュですが、私はまだここで食べたことがない。たいていクロワッサンや普通のサンドイッチですね。同社のライバルがポム・ド・パンPomme de Pain)で、これもたいていの街区に進出しています。

 続々と増殖するスターバックス・・・ (カルチェ・ラタン)

最近パリを訪れて驚くのがスターバックスの急速な展開。2004年に初進出だそうなので、その勢いたるや日本の比ではなさそう。で、実際に若者が例の紙コップをもって歩き飲みをする光景がみられるようになってきました。2006年春に行ってみたら、常宿のすぐそばにあってちょっとしたおみやげを買うのに重宝していたエディアールの出店がなくなって、スタバに変わっていた(上の写真)。むー。

ま、いまさら力説することでもないけど、外国に行ってまでファストフードのお世話になるのは本来どうかと思います。何だかんだいってカフェ文化が衰えないところにフランス人のプライドを感じるのだけど、カフェでコカ飲むのだったら似たようなものか。

 

 

17- Gares (1) (国鉄駅 その1

駅を意味するフランス語にはいくつかあり、gareは国鉄駅(ターミナルterminelも用います)、stationはメトロの駅、arrêtはバスやトラム(路面電車)の停留所を意味します。欧州では、国鉄といえば長距離輸送が主で近郊電車がこれに従属し、市内交通はメトロやバスが担当するのが通例です。日本も1987年の国鉄分割・民営化まではそうでしたが、民鉄という存在がありますので、ちょっと日本の常識を外して考えたほうがいいかもしれません。パリでgare(ガールですが、ギャルに近い発音)といえば、比較的遠くへ行く国鉄(SNCFのターミナルということになります。目的地の方向別に6つのターミナルがありますが、いずれも都心の真ん中というよりやや外れた場所にあり、それらのあいだをメトロやバスが結んでいる。日本の主要都市では大阪がこれに近いパターンですね。行き先に対応して、新大阪・大阪・梅田・淀屋橋(京橋)・難波(上本町・鶴橋・新今宮)・天王寺・あべの橋と使い分けています。

オペラ座の裏手に、サン・ラザール駅があります。そこから時計回りに

サン・ラザール駅Gare Saint Lazare):パリ北西、ルアン、ルアーヴル、ノルマンディー方面
北駅Gare du Nord):パリ北東、フランドル、ベルギー北西方面  TGV北ヨーロッパ線、ロンドン行きユーロスター
東駅Gare de l’Est):フランス東部、アルザス、ドイツ方面
リヨン駅Gare de Lyon):フランス南東部、リヨン、マルセイユ、スイス、イタリア方面  TGV南東線・地中海線
オステルリッツ駅Gare d’Austerlitz):オルレアン、ロワール、フランス中部、南部、スペイン方面
モンパルナス駅Gare Montparnasse):ブルターニュ、フランス南西部、ボルドー、スペイン方面  TGV大西洋線

6駅があります(下の路線図参照)。地方の人から見れば「パリへ行く!」ということですから、パリ駅というのはないのだけれど、表示には<Paris>が冠されていますね。「西鉄福岡(天神)」駅みたいなものかな。

 RERも描かれているのでやや複雑!

古賀は生来の鉄道マニアですので、駅に行って出入りする列車を眺めるだけでうっとりしてしまいます。それで、用事がなくても、ときどき国鉄駅を訪れては、スタンドでビールなど飲みながら車両と旅客を見ているのです。

各ターミナルに共通していえるのは、端頭式ホーム(行き止まり式または櫛型ホーム)で線路とホームの数がやたらに多いこと。日本の駅でそうした規模をもつのは上野駅くらいですが、櫛型は階下ホームだけですから、さほどの広がりは感じません。天井が高く、いくつもの編成が同時に入っている欧州の駅は壮観で、圧倒されます。関西出身の人は、阪急梅田駅や南海難波駅を思い出して、あれの倍くらいの規模だと思えばよい。近郊電車の一部をのぞいて改札口はありませんので、誰でもホームにふらりと入れます。櫛型の場合、前のほうの車両に座席が割り当てられたときにかなり歩かされるのと、列車相互の乗り換えが不便な面があります。また、ダイヤが込んでくると支障時間(構内から出る列車によって別の列車が入るのを待たされる時間)が長くなる欠点もあります。ま、このへんはマニアックな話ですが。

上野駅と同じように、長距離線(grande ligne)と近郊線(banlieue)はホームが分離されています。櫛型の根元、ホームがつながっているあたりには、屋台ふうのカフェやサンドイッチ屋が出ています。屋根がついていてもパリのハトさんたちはお構いなしに入ってきますから、パンくずなど投げると喜んでつっつきますよ。で、そのあたりにかなりの数のベンチが用意されていて、大荷物を抱えた旅客が出発時刻を待っている。子どもたちが落ち着かずきゃっきゃっと騒ぐのはいずこも同じです。もちろん、置き引きさんたちもスキをねらって活動中ですから、荷物から目を、ではなく手を離さないように心がけましょう。女性のバッグは斜めがけが安全ですよ。

 バーカウンターやサンドイッチショップも(東駅)

少し後ろに、切符売り場や案内所、キヨスク、なぜか薬局などがあります。言葉やルールに慣れない国で切符を買うのはなかなか大変なので、あらかじめカードに行き先と希望列車、等級、人数、禁煙かどうかを記入して手渡すとよい(下記参照)。案内所の周囲に行き先別の時刻表が積んでありますから、それをじっくり検討してください。欧州の鉄道は、曜日や月によって運行パターンが極端に変わりますので、希望日にその便があるかどうかをまず確認してね。

Tickets SVP. (切符をお願いします)
À Lyon-Perrache par TGV (13:00)
 (リヨン・ペラーシュまで13時のTGVで)
2e classe, 2 pers.
 (2等を2人ぶん)
Non fumeurs
 (禁煙席でね)

切符はbilletというのですが、いつのまにか英語のticketが幅を利かせるようになってきました。クレジットカードも使えますが、パスポートをお忘れなく。国際都市のターミナルだから、もちろん英語でもどうにかなるけれど、以前に知人が<For Paris><Four>と聞き違えられて危うく4枚出されそうになった現場を見たことがあるので、そこだけは<à>(英語のto)を使うのが無難でしょう(笑)。

屋台ふうでなくて、きちんとしたレストランもあります。駅構内で営業しているだけに手際がよく、助かります。オステルリッツをのぞけばいずれも駅前がそれなりに発達しているので、時間まで近くのレストランなどでゆっくりするのもいいですね(ただしそのあたりにも置き引きさんはたくさんいます。女性も多いですよ)。駅のトイレは有料ですから、駅前の飲食店で用事を済ませておきましょう。

 駅構内はいつでも人でいっぱい (サン・ラザール駅)

切符を買って、食事して、トイレを済ませて、スナックとビールとルモンドを買って・・・おっと忘れてはいけない。ホームの端に小さな黄色い箱がありますから、ここに切符を押し込んで、ガツンと音がするのを確認。改札口がない欧州の鉄道は、このような改札機が主流です。刻印を怠ると不正とみなされ、あとで法外な料金を請求されるとかです。日本ほど放送での案内がよくないため(あったところでフランス語が聞きとれなければどうしようもない)、早めに行動しましょう。貴重品は必ず手許に。車内はクロスシートですが固定式のため、座席の方向は変わりません。ボックスで相客に対面したときには、軽くボンジュールといって会釈しておくのがマナーですし、「縁あってしばらくご一緒ですが、怪しいものではありません」というアピールにもなります。

 黄色の改札機に切符を通すこと (北駅)

それではみなさん、快適な鉄道の旅をお楽しみください。Bon voyage !

 

 

18- Gares (2) (国鉄駅 その2

パリにある6つのターミナルは、それが所在する地区の雰囲気と、そこを発車する列車がめざす国や地域のカラーを反映してそれぞれに個性的。食事やショッピング、両替もできるので、お店がこぞって閉まってしまう日曜などは駅めぐりをしてみるといいかもね。

サン・ラザール駅Gare Saint Lazare)は、オペラ座、ギャルリー・ラファイエット百貨店、プランタン百貨店とつづく、日本人観光客がたくさんいるゾーンの裏手にあります。バスターミナルとしてもモンパルナス、シャトレと並ぶセンター機能を有していて、私が愛用している27系統(3- Autobus参照)もここが終点。突き当たりにクラシックな駅ビルが建っており、エスカレータを上ると改札階に達します。関西の大手私鉄のターミナルみたいな雰囲気ですね。初めてスタンドでビールを飲んだのも、初めて両替詐欺を目撃したのもこの駅。ジャンヌ・ダルクに惹かれて、彼女の終焉の地であるルアン(Rouen)を訪れた折には、ここから1時間ほど列車に乗り、変化に乏しい田園地帯を淡々と進みました(北部フランスの車窓はおおむね淡々としている)。メトロ各線のほか、RER-E線が乗り入れています。

北駅Gare du Nord)は、市街地の北のはずれにある巨大ターミナル。リールなどフランス北部、ベルギー、オランダ方面への玄関口として古くから重要な役割をもっていましたが、1994年にドーヴァー海峡を抜けてロンドンと直結する特急ユーロスター(Eurostar)が開業するとその拠点駅となり、いっそうの繁栄を見せています。したがって国際空港のような雰囲気がある。フランスの駅には原則的に改札口がありませんが、国際特急であり、行き先が欧州では例外的に入国チェックのしつこい英国ですので、ユーロスターの乗り場だけはホームがアクリル板で覆われて他と分離され、旅行者はいったん階上の通路(税関などがある)を通ってホームに降りる構造になっています。構内アナウンスで英語が聞かれるのも、何となく新鮮な感じ。ベルギーのブリュッセルやアントウェルペン(アントワープ)、オランダのアムステルダム、ドイツのケルンなどへは国際特急タリス(THALYS とくに意味はないそうです)がここから走ります。車体はTGVと同じですがワインレッド一色で印象的です。ブリュッセルまでは何と1時間ちょっと! この特急で、2004年春に『フランダースの犬』で知られるアントウェルペン、2006年春にはドイツのアーヘン(シャルルマーニュのフランク王国の首都)まで旅しました。エールフランスのパリ往復便にワンフライトをつけてブリュッセルへ行こうとすると、いま航空便がないので、タリスの車両を同社が借り切って「エールフランス○○便」として運用することもあります。ユーロトンネルの手前、リール・フランドルまで行くTGVもここから出ていて、アントウェルペンに行ったときのベルギー周遊の帰路に利用しました。

 北駅の正面入口

北駅地下にはRER-BおよびD線も乗り入れていますので、市内からはそれに乗っていくと便利。RER-B線はシャルル・ド・ゴール空港やオルリー空港と市内を結ぶ路線。地下コンコースも広々としていますが、慣れないと迷うかも。

 北駅で発車を待つタリス(前・中)とユーロスター

東駅Gare de l’Est)は北駅のすぐ東側にあります。アルザス、ロレーヌ、ルクセンブルク、ドイツ、東欧方面への玄関口で、夜行列車の発着が多い駅でもある。いまTGVをアルザスのストラスブールまで伸ばす工事を進めていて、これが開通すると東駅もTGVターミナルの仲間入りということになります。

リヨン駅Gare de Lyon)は、1991年に私がパリでの第一歩を踏んだターミナル。ローヌ地方のアヌシーからTGV南東線でパリ入りしたのでした。個人的には1980年度の大河ドラマ『獅子の時代』の冒頭シーンを思い出します。ナポレオン3世が開いたパリ万博に幕府代表の随行員として参加したという設定の菅原文太さんらが、ちょんまげに二本差しでこの駅を闊歩し、パリジャンの注目を浴びるというものだったのです。マルセイユに船で上陸していた時代は、リヨン駅がパリの入口だったのですね。現在では、その名のとおりリヨンと結ぶTGV南東線が頻繁に発着していますし、マルセイユやジュネーヴなどと結ぶ便もここから出ています。オペラ・バスチーユ(4- Bastille参照)の南側に位置しており、地理的にはかなり市街地から外れていますが、駅前はいかにも「駅前」という感じでレストランやホテルが立ち並んでいます。駅構内にあるレストラン、ル・トラン・ブルー(Le Train Bleu)は食通にも知られる高級店で、当然見ただけです(笑)。リヨン駅へは、メトロ1号線・14号線とRER-AD線がアクセス。

オステルリッツ駅Gare d’Austerlitz)の名を聞いておや?と思ったあなたは世界史通。180512月、ナポレオン1世がオーストリア、ロシアと決戦して勝利したアウステルリッツ(現在のチェコ)の「三帝会戦」に由来します。6駅の中では最もぱっとしない印象で、どことなくすすぼけていて、乗客も少ないのですが、常宿に近い(徒歩20分くらい)こともあって私は何となくここが好きだな。スペイン方面からの長距離急行が着くと、構内放送がパリにようこそ!と<Bienvenue à Paris>と当コラムのタイトルどおりにいったあと、<Bienvenidos>とスペイン語でもいうのがおもしろい。美味しいクロワッサンをつまみながら、飽きずに列車を眺めていたっけ。この駅にはメトロが2系統来ていますが、うち5号線はこの付近で地上(高架)を走り、国鉄のオステルリッツ駅を串刺しにするように2階へと突っ込んだあと、セーヌ川を鉄橋で渡ります。地下にはRER-C線が走っていて、エッフェル塔やヴェルサイユと結んでいます。

 レンヌ、ボルドーなどへ向かうTGV大西洋線 (モンパルナス駅)
 
現代的なモンパルナス駅の前に、特設のスケートリンク!

モンパルナス駅Gare Montparnasse)は左岸の繁華街にあります。地区の解説はモンパルナスの回(29- Montparnasse)に譲りますが、TGV大西洋線の開通に合わせてモダンな駅ビルに建て替えられたそうで、私たちが抱く「ターミナル」の印象に近いかもしれません。いまはそんなことないですが、ある世代までは上野駅=東北人=訛り、といったイメージがありました。古手のパリジャンがモンパルナス駅に抱くのもそうしたイメージで、ブルターニュ訛りの人がこの駅の周囲にたくさんいるよ、ということだったそう。ブルターニュはケルト系の独立言語を話す地域ですから、余計に目立ったのでしょうね。

 

 

19- Les Halles (レ・アル)

直訳すると「市場」ですが、いまここに市場はありません。かつて食品関係のセンターだった右岸のこの場所は、一大ショッピングセンターであるフォーラム・デ・アルForum des Halles)を中心として大小のお店が立ち並ぶショッピング街。まあ意味を広めにとれば市場といえるかもしれませんね。若者がやたらに多いところを見ると、新宿というより池袋に近いのかな。

そうそう、halle<h>は有音(といっても発音しない)ですから、「レザル」みたいにリエゾンしないでね。フランス語を知らない人にとっては何のこっちゃだろうけど。

シテ島からセーヌを渡って右岸側に出たところがシャトレChâtelet)で、その東側には市庁舎や金融街が広がってオペラ・バスチーユの方面につながっています。シャトレは5線のメトロと数多くのバス路線が集まる右岸の交通の要衝。下手をするとびっくりするくらい乗り換えが大変なので、シャトレ乗り換えは回避したほうが賢明です(何度も行っている私ですら毎回引っかかる。地上を歩いたほうが絶対に早そうですが、そうすると運賃が二重にかかってしまうね)。シャトレ付近にはカフェやレストラン、テイクアウトコーナー、ファストフードなどが林立していて、食べ物には困りません。リヴォリ通りを北に越えたあたりは本当ににぎやかです。そのぶん街は薄汚れていて、ゴミがけっこう落ちていて、ハトさんたちが多数飛来しています。イノサンの泉(Fontaine des Innocents)がこの地区の中心。お昼が近づくといいにおいがしますので、サンドイッチか何かを買って歩き食いし、かけらをちぎってはハトさんたちに投げるのです。

 若者の街! にぎわう午後のシャトレ

泉の北側に大きな温室ふうの建物が見えますが、それがフォーラム・デ・アル。何とびっくり、地上1階、地下4階というアンダーグラウンドな構造になっている。エントランスには下りエスカレータがありますから、そこを下りていってください。採光のための吹き抜けが上手につくってあるので、B4以外は地下にいるという感じがせず、ふつうのショッピングビルみたいです。

 
(左)フォーラム・デ・アルの中庭 ここは地下3階です! (右)地下1階から中庭を見下ろすと・・・

 

ガイドブックには載っているけれど、日本人によく知られたスポットではないため、あんがいジャポネ(ズ)が少なく、その点でなかなかよろしい(笑)。ヤングカジュアルが中心ですが男女向けの各種ブティックや、小物類・生活雑貨などを売る店(無印良品もあるよ)、ドラッグストア、シューズショップ、スポーツショップなどがたくさん。地下3階の半分は地下要塞みたいな雰囲気で、ファストフードやカフェがある(パリジェンヌの好きなハーゲンダッツが以前からあったけど、最近スタバが進出!)ほか、気取らない小規模のブティックがたくさん出店しているので、私などでも気軽に立ち寄って洋服やネクタイを買っています。このフロアはRER-ABD線の拠点駅シャトレ・レ・アルに直結しています(RERは地下5階を走っていることになるのね)。駅への通路には郵便局やキヨスクもあるので便利ですよ。

 
(左)フォーラムのヤングカジュアルゾーン (右)フナックで本を買おう

 

私がレ・アルに行く目的はほぼ1つで、フォーラムの過半近くを占める書籍&CDショップのフナックfnac)を利用するためなのです。ゲームソフトや家電類なども扱っているので、何というのかな、各種ソフトと関連するハードを売る店、とでもいうのか。フランス全土のほかベルギー、スイス、イタリアなど西欧各国に進出しており、主要都市に行くとここのビニール手提げをもった人によく会いますよ。フォーラムのフナックは最大級で、ついつい趣味の立ち読み・・・。もちろん読んでもわからん本ばかりだけど、フランスの書籍は装丁やレイアウトがきれいなので、見出しだけ読むかというくらいのつもりで、いつもかなり購入。教育関連はsciences humaines(人文科学)の一角にペダゴジー(pédagogie)としてまとめられており、教育学の理論書から教職のテキスト、先生向けの指導書など、充実しています。これでも一応プロの研究者なので(ほんと?)、そこに並べられた本の背表紙をばーっと見てタイトルに注目し、いまあちらでどんなテーマが関心をもたれているのかを探ります。モノになったという話を聞いたことがないって?

やはりというべきか、フナックでもマンガ(Manga)のスペースが年々増大しています。少なくとも20代以下のフランス人にとっては、日本といえばマンガなのであります。私は国内でもほとんどマンガを読まないのでよく知らないのですが、あらゆる種類のものが輸出され、翻訳されている。書棚の前に張りついて何時間も動かない少年たちを見ると、子どものころ通い詰めた書店の光景を思い出します。いまはラッピングして読めないようになっているものね。マンガの表現を見ていると、日本語の話し言葉がどう訳されているのか、けっこう興味が湧くものですよ。かつて来日した高名な学者に「息子がマンガの原本をほしがっているので書店に案内してくれ」と求められたのを思い出します。子ども向けの読み物や絵本もなかなかいい。料理本や地図類など、フランス語がわからなくてもそれなりにおもしろいものがあふれているので、一度行ってみてくださいな。

 フォーラムの北にあるエチエンヌ・マルセル通り 一転して、おとなのブランド店が多いところです

フォーラムの北側はブティックが軒をつらねるショッピングゾーンで、ジャポネズに人気のアニエスbなんかもあるよ。パリに来て何だという気もするけど、英国好きの人はリナズ・サンドイッチもありますから、固めのバゲットに飽きた人はどうぞ。ルーヴルにも近く、半日くらいぷらぷらするのも楽しいですね。ただし、意外なほどトイレが少ないのでカフェを適宜織り交ぜて。

 

 

20- Invalides (アンヴァリッド)

形容詞ヴァリッド(valide)は「身体が元気で動ける」「有効な」、否定形の<invalide>はその逆で「老病で動けない」「無効な」です。複数名詞化して「動けない人たち」、要するに戦争で傷ついた廃兵のことで、それを収容する建物がHôtel des Invalidesですから「廃兵院」と訳すべきところなのですが、そのネガティヴな表現に反して金色に輝くドームが美しい威容。ガイドブックにも「アンヴァリッド」とありますね。1670年に太陽王ルイ14世が創建。

アンヴァリッドはセーヌ左岸、サンジェルマン・デ・プレとエッフェル塔の中間あたりにあります。周辺はブルボン宮(国民議会議事堂)付近からつながる官庁街で、昼間はさほど人通りがなく静か。メトロのアンヴァリッド駅で降りると、そこはセーヌ川に架かるアレクサンドル3世橋のそばで、アンヴァリッドのドームまでグリーンベルトをかなり歩くことになります。周囲に高い建物がないため、ドームはかなり遠くからも見え、左岸の景観を彩っています。金色がちょっときついので、これを輝かしいととるか悪趣味と見るかは人それぞれかな。私はどうも後者に傾いていて近寄らないままだったのですが、今春はじめて行ってみました。現在でも廃兵院としての機能を一部に残しているので、その部分には入れませんが、ドーム教会とサン・ルイ教会、軍事博物館Musée de l’Armée)になっている建物は見学できます。

 前庭側から見たアンヴァリッド

芸術にうといのでミュゼ(美術館・博物館)は苦手なのだけれど、もともと歴史屋さんだったし、男の子の一般的な傾向にたがわず戦車や軍艦で白いごはんが食べられるクチでもあるので、軍事博物館はおもしろかったなあ。欧州の戦争史と社会的背景、そこにおける武器・武具などがわかりやすく展示されています。靖国神社の遊就館もがんばって古代以来の戦争史を展示しているけれど、いかんせん規模が違う(ねらいは似ているかもね)。ナポちゃん関係の資料が豊富で、彼が最期を迎えたセント・ヘレナ島の部屋が再現されているほか、当人のデスマスクもディスプレイされていました。

で、ナポちゃんといえば、黄金のドーム教会にその遺体が埋葬されています。墓所はドームの真下にあたる地下部分ですが、吹き抜け式になっているので、大きな棺を上からのぞき込むことも可能です(そばに行って見ることもできます)。配流されて6年、1821年にセント・ヘレナで病死ないし変死したナポレオンの遺体は、七月王政の末期になってパリに帰還、市民の盛大な出迎えを受けてこの場所に葬られました。毀誉褒貶あるわけだけれど、あれほどの「ヒーロー」もいないわけで、社会が混乱した19世紀半ばになるとフランスの栄光を背負った英雄としてむしろなつかしく思われたのかもしれませんね。墓所の設計はヴィスコンティとのこと。アンヴァリッドは派手でいかんなあなどと思って敬遠していた私でしたが、逆にシンプルすぎるドームの内部に感心し、あまりに有名な人物の棺を前にして歴史のあれこれを静かに考えたことでした。何ごとも行ってみないと話にならんね。

もともと軍関係の建物で、太陽王の時代からフランスの軍事的成功を称えるねらいをもって維持・管理されてきたわけですから、全般に誇りが感じられる造りです。敵から奪った軍旗がたくさん飾ってあるのが(他国のことゆえに)いじらしい・・・。で、前庭にはこれも戦利品たる大砲が並べてありますが、そのうちの1つは下関戦争(1864年)で長州藩から奪取したもの。当時の支配者はナポさん(ナポレオン3世)。対外的な軍事的業績を重ねて国内の矛盾をごまかす権威体制ないし政治傾向をボナパルティスムといいますが、初代ともどもその種の見栄を現在に伝えているということになりますか。

アンヴァリッドから南(セーヌの逆方向)に歩くと、陸軍士官学校(École militaire)やユネスコ本部のあるゆったりとした地区です。この付近はカフェもどことなく上品ですから、散歩のついでにどうぞ。

 

Bienvenue à Paris INDEX