Bienvenue à Paris !
<超主観的パリ入門> 実際に渡仏される方、とくに初心者の方は真に受けないでね・・・。

1- Aéroport (空港)

日本からパリに行く場合、たいていは飛行機です。ところが私は、初めてパリを訪れた十数年前、ロンドンから南仏へまっすぐ飛び、そこから鉄道で北上するコースをたどって最後に首都へ着きましたので、パリとの出会いはリヨン駅でした。欧州の数ヵ国を訪れようとすると、こういうケースも生じます。でも、普通は空港ですよね。現在使用されているパリの国際空港は、北郊にあるシャルル・ド・ゴール空港Aéroport Charles de Gaulle 1974年開港)と南郊にあるオルリー空港Aéroport d’Orly)の2ヵ所です。ド・ゴールが開港してから主力航路はこちらに移り、成田からの直行便はすべてド・ゴールで引き受けることになりました。そのため私もまだオルリーを利用したことがありません。ド・ゴールの名はいうまでもなくレジスタンスの英雄で第五共和国の創建者でもある大統領にちなみますが、東京国際空港を「羽田」と呼ぶように、所在地の町の名をとってロワッシー(Roissy)ということもあります。

2つのターミナル・ビル
初めてこの空港を利用したとき、茶筒のようなターミナル・ビルを透明のチューブに覆われたエスカレータが突き抜けるという、マンガに出てくる未来都市のような様子に驚いたものです。開港当時も評判になったそうです。しかし、行ってみればわかりますけれど、まったくの円形につくられているため、方向感覚が狂い、いま自分がどこにいるのかわからなくなるという批判が出されることになりました。これが現在、シャルル・ド・ゴール1CDG1)と呼ばれるもので、1990年代に開港した巨大なド・ゴール2CDG2)は、なだらかな曲線で囲まれたきわめて平易なレイアウトを採ることになります。直行便の場合、日本航空とエールフランスはCDG2に、全日空はCDG1に着きます。両ターミナルの間は、成田空港の第1、第2ターミナルよりも離れているような気がします。なお、現在CDG3を建築中(一部供用開始)ですが、どんな姿なのかまだ知りません。CDG1もいま一部を改築中で、免税店や飲食コーナーなどが大幅に削られて不便になっています。とくに、出発ゾーンの免税エリアにトイレがなくなってしまったのは遺憾(サテライトにはある)。そのうち触れますが、フランスという国は(欧州は全般にそうだけど)、公衆トイレをあまり置きたがらないのです(45- Toilettes参照)。

 CDG2のチェックインカウンター

入国はきわめてスムーズ
フランスなどEU圏では、よほどのことがないかぎり、入国に際して怪しまれたり質問されたりすることはありません(英国は伝統的にいちいち「どこへ行く」などと質問されます)。入国カードを提出し、パスポートを見せてボンジュールといえば済むはずです。

パリ市内へのアクセス
ド・ゴール空港からパリ市内までは、成田ほどではないですが、少し距離があります。飛行機が着陸する寸前に地上の様子を見ると、「こんな田舎の田園地帯に降りて、本当にパリなの?」という感じですが、それはそうで、周囲を幾重にも衛星都市が取り囲みどこまでも住宅が途切れないというアジア的な景観に慣れていると、欧州の大都市がかなり小さなサイズであることを忘れてしまいます。ご安心を。パリはもうすぐです。

 オペラ座の裏手で発車を待つロワッシー・バス

タクシーをのぞけば、市内へ向かう方法は3つ。初心者にお薦めなのがロワッシー・バスRoissybus)。パリの地下鉄(メトロ)やバスを運営する交通公団RATPが走らせていて、2006年春現在の運賃は8.40ユーロ。CDG1CDG2の各ビルに横付けして乗客を拾うと、あとはハイウェイをパリ市内まで小一時間ほどノンストップで走り、オペラ(31- Opéra)に着きます。名高いオペラ座の裏手にあたります。市の中心は他にいくつもあり、何でオペラ限定なのかよくわかりませんけれど、そこにはメトロ各線や国鉄なども集まっているので、多くの場合には宿に入るのにも好都合でしょう。メトロや市内バスと同じくライトグリーンと白で塗り分けた車体で、日本ではほとんどお目にかかれない2連接バスを使用しています。ただし、改造型とはいえ市内バスと同種のものですので、イスは固く乗り心地はいまいち。

エールフランスが運営するバスもあります。こちらは12.00ユーロで、車体もデラックスです。行き先は、シャルル・ド・ゴール・エトワール(Charles de Gaulle- Étoile 要するに凱旋門前)か、リヨン駅(Gare de Lyon)経由モンパルナス駅(Gare Montparnasse)のいずれかになります。いつも思うのだけど、凱旋門は市の西のはずれだから、あまり便利とはいえないよなあ。リヨン・モンパルナスの両駅へ向かう便は、そのまま国鉄(17,18- Gares参照)に乗り換える場合や、市内の東・南に宿をとったときなどは便利かもしれません。

 RER-B線のAéroport Charles de Gaulle 2- TGV駅コンコース

私が常用しているのが3つ目のコースで、空港からRERRéseau Express Régional 高速郊外鉄道網 39- RER)に乗っていくものです。RERは、国鉄とRATPが共同運営する鉄道路線網で、AからEまでの路線があり、ド・ゴール空港に乗り入れているのはB線です。CDG2に降り立った場合には、そのまま徒歩でRERAéroport Charles de Gaulle 2駅まで行けますが、全日空などでCDG1に着いたときは、出発ロビーに隣接するバス・スポットから空港内を走る無料の連絡バス(フランス語でナヴェット Navette)に乗り、Aéroport Charles de Gaulle 1駅まで行かなければなりません。ナヴェットにも、CDG2に行くものなどいくつかの系統がありますから、初心者は「鉄道でパリへ」(Paris par train)と表示のある系統2を選んで乗りましょう。ロワッシーポール(Roissypole)という名の停留所というかバスターミナルが、RERCDG1駅に併設されています。自信のない人は英語で運転台に訊ねるとよい。空港内は、どこでも英語が通じます(通じることになっています)。RERは、パリ市内のどの駅へも8.00ユーロで運ばれます。CDG1ないし2駅で待っていれば、来る列車はすべてパリ市内へ行きますので安心して利用してください。メトロへの乗り換えも同額でできます。所要時間は3040分程度。私がRERを愛用するのは、鉄道が好きだからというのもありますが、常宿にしているカルチェ・ラタンのホテルに入るのに好都合だからです。電車は郊外の住宅地をたんたんと走りますが、進行右手にスタッド・ド・フランス(Stad de France 1998W杯の決勝がおこなわれたスタジアム)の見えるサン・ドニ(Saint Denis)を過ぎると大都市の景観が現れ、やがて地下にもぐって北駅(Gare du Nord)に着きます。フランス語でGareというと国鉄の駅に決まっており、RERやメトロでは「北駅駅」というべきところなのかもしれません。つづいてシャトレ・レ・アル(Châtelet les Halles)に停まります。パリの中心の一つです(19- Les Halles参照)。このRER-B線はオルリー空港にもつながっているので、旅慣れればかなり便利な路線といえます。

 ロワッシーポールRERCDG1駅)からナヴェットで第1ターミナルへ

供食コーナーなど
シャルル・ド・ゴール空港は、いずれのターミナルとも多くのレストランやカフェをもっていて、飲み食いしたり時間つぶしをしたりするのには苦労しません。CDG2には、建物の輪郭を描く曲線がくびれたあたりに、しっかりとしたレストランからファストフードまでさまざまな種類の飲食店があります。CDG1は一部工事中なのでぱっとしませんが、それでも地下に降りると、ある程度の選択肢があります。このゾーンは目立たないためかアクセスが少なく、いつ行ってもすいているので、全日空組は帰路にでもどうぞ。早めに行ったほうが好みの座席を選べるけれど、間がもたないということもあるでしょうから。どこかの国と違って、「空港特別料金」のようなものがないため、レストランでもカフェでも、ほぼ市内と同額で飲食できます。CDG1にも2にも出店しているステーキチェーンのHippopotamusは、1520ユーロくらい出せば腹いっぱいに食べられるので、肉好きの人はぜひどうぞ(市内にもあちこちにあります)。

出発ゾーンの免税店は、まあまあというところでしょうか。CDG2のほうが整っています。免税店のよさというのは、お土産としてわかりやすい品揃えとそこそこの値段という点につきるのであり、慣れている人は、バリエーションでも価格でも優る市内で用意しますよね。ワインやウィスキーの類は、いまや東京の量販店で買ったほうが安いので、詳しくない人は要注意です。

出国手続
さて、初回にして出国の話になってしまいました。パリまたはフランスを存分に満喫したら、愛する人の待つ日本へ気をつけてお帰りください。CDG2では、到着ロビーと出発ロビーが同一平面にあり、カウンターを見つけられればその勢いで出国できますが、CDG12つが分かれています。もっとも、ロワッシー・バスで来てもRERで着いても、まず地平面の出発ロビーに出ますから、そこで航空会社のカウンターを見つけてください(例によって円形のビルを一周する恐れはある)。旅行会社のツアー扱いだと座席指定を受けられないことがありますが、正規チケットないし格安航空券の場合には、早めに行けば好みの場所を選べます。だいたい3時間前にカウンターが開かれるので、そのころにどうぞ。荷物を預けて、買い物するなり、レストランあたりで飲み食いするなり、残されたユーロをご存分に活用してください。CDG2の場合、免税コーナーと待機場所と売店が1ヵ所にかたまっているのでいいのですが、ド・ゴール1では、免税コーナーからサテライトの待機場所まで「動く歩道」でかなりの距離を移動しなければならず、「さあ行くぞ」という決意が必要です。カプセルのようなサテライトに入ると、もう座っているしかありませんが、せめてもの慰めに小さなドリンクの売店があります。私はここでフランスのビールを飲んで別れを告げることが多かったのですけれど、先日行ったら銘柄がめずらしくもないハイネケン(フランス語ではアイネカン)に変わっていてトーンダウンしました(それでも飲んだけどね)。

 

 

2- Arc de Triomphe 凱旋門

アルク・ド・トリオンフと読みます。エッフェル塔(46,47- Tour Eiffel)やノートルダム寺院(11- Cité参照)と並ぶパリのランドマークで、日本人でも知らない人はほとんどいない名所ですね。20052月にパリを訪れた際、帰国する当日の昼間がヒマだったのであちこちぶらぶら歩いたのですが、思い立って凱旋門へ行ってみました。下を通ったことはありましたが、チケットを買って上るのは5年ぶりでした。

エレベータもあるにはあります。けれども、ここに来たららせん階段を上るというのがパリジャンないしツーリストのたしなみ?で、暗くて狭い空間を果てしなく渦巻くステップを踏んでいきます。壁の模様が変わるでもなし、気の利いた演出もなく、ひたすら同じリズムでぐるぐるぐるぐる。そして、膝やかかとが痛くなってきたころ、ようやく展望台へ通じる平面に達します。上りと下りの階段が分けられているため、一方通行で、途中でギブアップするわけにはいかないのがつらい。「股」の部分に、ちょっとした展示室やみやげ物屋があります。凱旋門が建設された経緯を刻んだレリーフも掲げられています。その横を通って、もうワンフロア上ると、そこが展望台。あ、屋上ですね。

 ご存じ凱旋門を見上げる(シャンゼリゼ通り側から)

パリの都心には、エッフェル塔など背の高いランドマークがいくつかありますが、それ以外のビルはせいぜい67階建てどまりです。だから凱旋門の周囲に、高さで匹敵するような建物はありません。四方を見渡せるので壮観です。凱旋門の建っている広場を、いまではシャルル・ド・ゴール広場Place Charles de Gaulle)と呼びます。かつてはエトワール(Étoile)広場と称し、今でもその名が通じます。エトワールとは星のことで、凱旋門を中心に大小12本の道路が放射状に伸びていて、それが星のように見えることに由来します。メインの道路はもちろん、東のコンコルド広場へとゆるい斜面を降りていくシャンゼリゼ通り10- Champs Élysées)ですね。日本のテレビで「これぞパリ」という感じの映像には、シャンゼリゼ側から凱旋門をあおる構図がよく見られます。メトロ(地下鉄)で来るときには、シャルル・ド・ゴール・エトワール(Charles de Gaulle- Étoile)で下車し、そのまま地下通路を通ってチケット売り場に。RER-A線も通っていますけれど、本数が少ないのと、地下深く走っているので、あんがい不便です。

ところで、ルーヴル美術館の中庭に、ピンク色をした地味で小さな凱旋門があります。カルーゼル凱旋門Arc de Triomphe du Carrousel)といいます。ルーヴルにあるからみんな記念撮影をしていますが、ガイセンモンという名に似つかわしくないほど可愛らしく、他の場所にあったら見向きもされないでしょう。ローマ帝国の皇帝を気取り、自分の凱旋を祝してほしいとして門をつくらせたナポレオン1世でしたが、カルーゼル門のスケールの小ささに困惑し、「もっともっと大きく荘厳な門を」と厳命したのでした。そうして建設がはじまったのが現在の凱旋門です。しかし、工事中のトラブルや財政難などに相次いで見舞われ、ナポちゃんはついにその完成を見ることなく遠島されました。セント・ヘレナで死んでから20年経って、その遺体はパリに帰ってきました。死して凱旋門をくぐったナポちゃん。

天気のよい日には、カルーゼル門の股ぐらから、コンコルド広場の記念柱の向こうに凱旋門が見えます。その間が一直線になるよう設計されているのです。ついでにいえば、フランソワ・ミッテラン大統領(在職1981-95年)のとき、革命200周年に合わせて新凱旋門が企画され、カルーゼル凱旋門〜エトワールの凱旋門の線をさらに西へ延長したラ・デファンス地区(13- La Défense)に建設されたのです。パリジャンというかフランス人は、この手の整合性をやたらに好みます。

しかし、寒かった。四方を見渡せるということは、四方から寒風が吹きつけるということだもんね。ぶるぶる。

 

 

3- Autobus (バス)

カタカナで書けばオトビュス。バスのことです。市内を縦横無尽に走っているメトロ(地下鉄 25,26,27- Métro)は使い勝手がなかなかよろしいが、バスもまた、小回りの利く機動性と、何より街路の景観を楽しめる点ですばらしい乗り物です。でも日本語のガイドブックではいつでも脇役扱い。それはそうで、パリの地理に不案内だと、乗るのに勇気が要ります。馴染みの薄い都市に国内旅行するときもそうですよね。

市内バスの運行は、メトロと同じパリ交通公団RATPが担当しています。RATPのコーポレート・カラーはライトグリーンと白のツートンですので、バスもこれを踏襲しています。パリの街並みはどこも石造りないし石造りふうですので、赤系統の派手なカラーは似合わないでしょうね。私はとても気に入っています。日本中を走っているのと同タイプの路線バスのほかに、幹線系統を中心に2連接バスがかなり走っていて、いつもけっこう乗客があるのに感心。パリの道路は、直角の交差点が少なく、幹線道路(boulevardまたはavenue)以外は極端に狭いのですけれど、内輪差もへっちゃらとばかり、2連接バスがそれはそれは器用に角を曲がっていきます。

バスの運賃は均一(2006年春現在1.40ユーロ)で、メトロと共通のカルネ(10枚つづり回数券。10.70ユーロ)が使えます。入門者は、メトロの駅窓口でカルネを買っておくといいですね。乗るときにバスの運転台で運賃を支払ってもいいのですが、紙幣が使えないことがあるのです。運転台で買ったチケット、カルネとも、運転台のすぐ後ろにある刻印機に差し込み、ぎゅぎゅっと音がして戻ってきたものをもっておけばよい。チケットはそれで用済みだけど、あとで不正を疑われないようにするためです。でも、いつまでもポケットに入れておいたりすると、降車時のチェックが必要なRERを利用するときなどにどの切符を使っているのかこんがらがるので、バスを下車したらすぐに捨てちゃいましょう(この点はメトロも同じです)。東京のバスと同じで運転台横の乗車口から乗ることになっていますが、2連接バスは、カルネや各種パスをもっているなら中間のドアから乗ってもよい。市民の多くはそういうのをもっていますので、ドア付近にある小さな箱にパスをかざし(JR東日本のSuicaの要領)、チェックを受けています。

 27系統は2連接バス(リュクサンブール停留所)
 こちら常宿のそばのモンジュ-クロード・ベルナール停留所

車内アナウンスがあるときと無いときがあります。あってもズレていることがあるので要注意。どうせフランス語がわからんという向きには、車内の壁に、その系統が経由するすべてのバス停と通りの名などとの対応関係をわかりやすく示した路線図が掲げられているので、車窓の景観と見比べながら注意しておきましょう。ま、パリは狭いから、1つや2つ乗り過ごしても大丈夫。思いがけない発見があったりして、かえっておもしろいかもよ。降りるときには、日本と同じようにボタンを押してアピールするのですが、このボタンの数が極端に少ない。窓枠や天井ではなくステンレスの柱にありますから、乗ったときに確かめておくといいですね。

そんな古賀も、初めてバスに挑戦したときは、ちょっとどきどきしました。まだ地理がよくわかっていなかったころのことです。前面の表示を見て、発作的に左岸のオステルリッツ駅(Gare d’Austerlitz)からモンパルナス(29- Montparnasse)へ行ってみたのが最初でした。ということは、ポール・ロワイヤル通りを行く系統だなと、いまだからわかります。この系統は、リヨン駅から常宿に入るときに今でも愛用しています。前述したように日本のガイドブックはバスの情報をあまり載せていないので、どうしたものかと思いましたけれど、乗ってみれば街並みを楽しめるし、乗り心地もなかなかよいものでした。何よりも、乗車マナーがとてもよく、座席は譲り合うし、立っている人も互いに場所を譲ることが多いので、そうした振る舞いに感心したものです。

このところ愛用しているのが、左岸のプラス・ディタリー(Place d’Italie イタリア広場)からリュクサンブール公園(24- Luxembourg)、サン・ミッシェル・サン・ジェルマン(Saint Michel-Saint Germain 43- Saint Michel参照)、ルーヴル美術館(23- Louvre)、オペラ座(31- Opéra)を経由してサン・ラザール駅(Gare Saint Lazare)へ行く27系統。左岸・右岸の名所をつらねているし、何よりも常宿のまん前、モンジュ・クロード・ベルナール(Monge-Claude Bernard)に止まるので、使い勝手が非常によいのです。空港からホテルに入るときには、RER-B線をリュクサンブールで降り、このバスに乗っていきます。飛行機とか空港連絡鉄道という非日常から、急にパリの日常世界に飛び込んだような印象があって、とてもいい感じ。27系統はセーヌ川付近では行きと帰りで若干ルートが変わり、サン・ラザールへ行くバスが、左岸からカルーゼル橋を渡ってそのままルーヴルの中庭に突っ込み、石畳をごっつんごっつんいわせながら進む箇所がハイライトですね。

バスの効用は、何といっても景色が楽しめる点につきます。時間が当てにならないとか、どこを通るかわからないという難しさはあるけれど、急ぐのでなければテキトーに乗ってみるといいですよ。かなり楽しい。ターミナル駅やシャトレ(Châtelet 19-Les Halles参照)、コンコルド(12- Concorde)のように終点が有名な場所なら、はぐれる心配もありません。もう1つの利点は、メトロと違って、セーヌ川を渡って左右両岸を結ぶ路線が多いことです。それに、どうせならセーヌを見たいですものね。

 

 

4- Bastille (バスチーユ)

日本でもよく知られるオペラ座(31- Opéra参照)は、ミッテラン前大統領の提唱でその機能の大半を新オペラ座に移しました(その後、いくぶんゆり戻しがあったようです)。新オペラ座、正式にはオペラ・バスチーユ(Opéra Bastille)といいます。フランス革命200周年を機に建造されたモダンな劇場で、その文化的な役割には多大なものがあるそうですが、なにぶん文芸にうとい古賀のこと、ハードはともかくソフトに関しては伝聞を書くしかありません(・・・)。

 新オペラ座(オペラ・バスチーユ)

いうまでもないことですが、この場所は「フランス革命発祥の地」であります。1789714日、この地にあった巨大な牢獄をパリの民衆が襲撃し、それが引き金となって世界史上最大の市民革命が勃発したのでした。

バスチーユは、市内のかなり東側に寄った右岸にあります。3本のメトロが乗り入れていて、交通の要衝でもあります。バスチーユ広場の南側に見えるのがサン・マルタン(Canal Saint Martin)運河で、ここから北郊の計画地区ラ・ヴィレット(48- La Villette)までカノラマCanauxrama)という観光船が走っていて、長いトンネルや閘門式の水路を通り抜けるコースが大人気のようですが、未乗。そのうちぜひ試したいものですね。この付近はまた、庶民的で美味しいレストランが集まる地区としても知られ、有名無名を含めて何度か足を運びました。21時を回ると路地のようなゾーンに人があふれ、なかなか活気づいています。英国あたりでBSEが問題になった時期に、この付近で牛のテット(カシラ肉)のうま〜い煮込みを食べたのですけれど、いまのところ発症していません。ただし献血はできない!

気分的な意味でのフランスとの出会いは、高校時代の世界史で学んだフランス革命にありましたので、パリを訪れたらぜひバスチーユへ、と考えていました。19999月に半月ほど滞在した折に実現したのですが、感想は「???」というものでした。たしかにオペラ・バスチーユはある、運河のクルーズはある、でも革命の痕跡などどこにもありません。広場の中心に建っているモニュメントは、大革命のそれではなく、1830年の七月革命記念柱なのでした。もちろん、牢獄(もともとは要塞。「バスチーユ」は要塞を意味する普通名詞だった)は影も形もありません。スケボーやインラインスケートで記念柱の周りを突っ走る若者ばかりが目立ちました。拍子抜けだけど、革命への評価は二転三転したし、肝心の牢獄そのものが革命後に解体されたので、やむをえないのかなとも思います。でも、714日(現地ではキャトールズ・ジュイエ Quatorze Juilletといいます)にあれだけこだわり、コンコルド広場などに革命の足跡は残っているのだから、ちょっとあっさりしすぎではないかなあ。あれほどの世界史的な出来事なのだから。

 いま広場に建つのは七月革命のモニュメント

この前、散歩のついでに、久しぶりにバスチーユ広場に立ってみました。相変わらず交通量は多いし、歴史的な雰囲気を感じることもないのですが、200余年前に人々が殺到して怒号が飛び交い、要塞の扉どころか歴史の扉をこじ開けた現場には違いないのだと思い直し、しばし目を閉じてその様子を想像してみたことです。バスチーユ襲撃を描いた絵画は数多く、本務たる研究の関係でそれらをずいぶん見ておりましたので、堅牢な要塞を広場の向こう側にイメージしながら、付近をゆっくりと歩いてみました。

 

 

5- Bière (ビール)

え、ワインじゃなくて? フランスなのに?

意外に知られていませんけれど、フランス人はビール(フランス語の発音はビエール)をよく飲んでいますよ。たいていのカフェには、入口のところに<Nos bières>つまり「当店でお出ししているビール」というメニューを示しています。カフェの項であらためて触れるつもりですが、カフェにはイス席と立ち飲みのバーカウンターがあり、夕方のバーではビールのグラスを片手にもつ男性によく出会います。そういえば、女性のそういう姿はほとんど見かけないなあ。レストランとカフェの中間みたいな設定に、ブラッスリー(brasserie)というのがあって、本来の意味はビール屋さんなのですが、いまではレストランふうのカフェ、あるいはカフェふうのレストランとしかいいようのない内容。でも、当然ながらビエールは確実に置いてあり、そしてまた、たびたびお世話になるのでした。

もちろん、「本場」のドイツや英国、ベルギーなどにはとうてい及びません。それらの国々との大きな違いは、第一に、フランスのビールは銘柄がかなり少ないこと、第二に、フランスでは本格的な「お酒」の仲間とは認識されていないことだと思います。カフェのメニューを見ると、「温かい飲み物」「冷たい飲み物」・・・と分類されていて、ワインはたいてい「ワイン」で独立しています。「アルコール」というところに、リキュール系のお酒が含まれます。ビールは「ビール」。現地の人の飲み方を見ていると、日本の喫茶店でアイスコーヒーやジュース類を頼むような感覚でビールを注文しているか、夕食の前のアペリティフ代わりに引っかけているか、が大半のようです。ですから、あれほどワインに凝る(大のおとながあーでもない、こーでもないと議論する)パリジャンも、ビールの銘柄にはほとんど無頓着。なお余計なことですが、日本は、ビールばっかり飲むわりには「銘柄のかなり少ない市場」なのですよ。欧州へ行けばわかります。

パリのカフェやブラッスリーでビールを飲みたい向きは、店員さんに「ドゥミ」demi)と告げてみてください。これ、英語のhalfにあたります。なぜ半分なのかというと、瓶入りのスタンダード(といってもフランスではほとんど見かけない)が50センチリットルで、カフェで供されるのが25センチリットル入りのタンブラーないしグラスだからです。英国ではパイント(1 Pint=568ml)が基本単位ですが、フランスはメートル法の母国ですから、当然リセイ的な数字になっているわけ。「どんなドゥミにする?」と訊かれたら、複数の銘柄があるということだから、メニューで確認しましょう。バーカウンターですと、日本でもときどき見かけるように、ビールサーバーのレバーにブランドのマークがついていますので、指差してにっこり笑えばいいと思う。ま、8割がたの店では、アムステル(Amstel)かクローネンブール(Kronenbourg)のいずれかを置いていますので、適当にいって大丈夫かも。南仏などの地方都市ではその限りでないと聞きましたので、いちおうパリの話として申しておきます。アムステルにしてもクローネンブールにしても、固有名詞の感じがフランス語っぽくないなあと思ったあなたには語学の才があります(笑)。アムステルはオランダの、クローネンブールはかつてドイツ領になっていたアルザス地方の産なのです。アルザスの言語はドイツ語に近いので、もともとのフランス語には出てこない<K>の文字が現れているのですね。

 アムステル(ドゥミ=25cl入り)

 クローネンブール(通称<Kro>

私は、どちらかというとアムステルのほうが好きで、多くの日本人にも親しみやすいかもしれません。国内シェアの4割をもつというクローネンブールには、安くてアルコール度数の低い(4.2%)ノーマルのものと、やや高くて度数6%超の<Kronenbourg 1664>があります。両方置いているお店も多い。ノーマルタイプは「クロ」(Kro)というあだ名で呼ばれ、都心などに増えているセルフサービスのレストランにもたいてい置いています。1664はビール史にまつわる年号、数字の64をフランス語読みして「スワサント・キャトル」と呼ぶみたい。クロのほうは俗っぽい味ですが、ああ、フランスだなという感じがするので嫌いではない。1664は上品。でも、日本の淡白なビールを飲みつけている人には、少し濃いと感じられるかも。ヱビスビールが好きな人なら大丈夫でしょう。このほか、日本でもおなじみのカールズバーグ(デンマーク)、ハイネケン(オランダ)、ギネス(アイルランド)なども、かなりの頻度で見かけます。ときどき読書しに訪れるモンパルナスのカフェは、ただビールと頼めばベルギーのステラ・アルトワ(Stella Artois)を出します。エールフランスでもステラが多かったような。

 ノートルダム寺院を望むカフェの「特等席」で、クローネンブール1664

カフェやブラッスリーのバーカウンターでドゥミを立ち飲みすると、だいたい1.802.50ユーロくらいかな(1ユーロは140円くらい)。着席すると3.504.50ユーロほどです。ユーロ高の関係で割安感は薄れましたが、それでも安いですよね。比較するのも何ですが、池袋駅構内の「ロンドン・パブ」だとスーパードライが380円ですから。フランスにはいわゆるコンビニがなく飲み物の自販機も街中にはないから(駅や公共施設にはある。けど高い)、のどが渇けば、パン屋などで飲み物を購入するか、カフェに入るかしかありません。また、あちらはお手洗いに不自由するので、その方便としてカフェに飛び込むことがあります。そこで思ったわけですよ。もちろんエヴィアンだっていいのだけれど、ドゥミのほうが安いケースも多く、そりゃ飲むでしょ。古賀先生がやたらにビールを飲むようになったのは、ひとえにパリのせいです(きっぱり。自律心の欠落を自覚していませんね)。30歳まではほとんど飲まなかったのですよ! さて、「いま日本でも発泡酒などを缶入りで買えばかなり安い」という人もいることでしょう。あちらも、さらに安く上げようとするなら、スーパーなどで(酒屋ではない)6缶パックを買うといいですよ、このまえクロのパックをスーパーで買ったら3.40ユーロでした。180円かあ。町の何でも屋さんみたいなところでバラのを買うと、11ユーロ前後。

 カウンターに並ぶビアサーバー ちなみにこのお店のメインはステラ・アルトワです

バーでドゥミを頼んでみましょう。カウンターの中のギャルソンが、手慣れた様子でタンブラーを取り、サーバーを押します。たいていのタンブラーには、上のほうに「25」と書いた短い線が描き込まれていて、黄色い部分と白い泡の境目がその線を越えなければいけないと法律で決まっています。こぼれた泡は、へらみたいな道具を使ってさっととりのけることもあります。そのしぐさがかっこいい、というのは玉村豊男さんの受け売りだけど、ほんとにかっこいい。カウンターにもたれながらビール飲んでいて、地元のおっちゃんと話が弾んだという経験もけっこうあります。そのへんは英国のパブと似たようなムードですね。このところ東京にも立ち飲みが増えてきたのはうれしいのですが、軽く一杯、お通しなしでという気楽さでは、まだまだあちらにかないません。あー、行きたいなあ。

ただしご注意を。ビールはお酒ではないといっても、成分は日本のと変わらないわけで、飲めば同じように酔っ払います。私たちはふつう白人ほど分解能力がないそうなので、ふらふら歩くようなみっともない(そして危険な)行為は控えましょうね。と自戒。

 

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